人類愛のほか   作:中島何某

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素質

 

「自分の魔術特性?」

 

 技術部のトップにして特別顧問、 地下工房カルデア(他人の工房)に自分の工房を堂々と展開しているレオナルド・ダ・ヴィンチは、その工房に尋ねてきた2015年に唯一生き残った量子ダイブ適正のあるマスターの言葉を鸚鵡返しした。

 

「うん、何かの役に立つかもしれないと思って。ここに来る前にやった献血のときに調べたって聞いたんだけど」

 

「うーん、なるほど」

 

 誰だ教えたのは、という表情を包み隠しながらレオナルドは彼に相槌を打つ。レイシフト適正などの測定は、集められた適正者48人の内、一般枠の10人は半ば詐欺のような形でデータを採取されて集められている。現状ではロマニくらいしかそんなこと知っている人間はいないと思ったんだけどな、と考えつつも、十三しか枠のない時計塔のロードたる擬似サーヴァント、聖杯戦争を中心に生前隠蔽工作の渦中に居た抑止の守護者、カルデアの事情ばかりか森羅万象を識る後世の救世主、などと推測立てられそうな魔術協会の動向に詳しい人物は幾らか思い当たる。

 

「とは言っても、キミの属性は(ノーマル)だし、特性は帰す家系もないしなあ」

 

「起源とかってのは?」

 

「んー……」

 

 彼の書類上のデータを思い返しながらレオナルドは少し物憂げに、窘めるように言った。

 

「確かに起源っていうのはあらゆる物に与えられる本質であり、絶対的なものだ。しかし起源が表出するような魔術師はすさまじく五大元素なんかの一般属性の魔術と相性が悪いんだよ。キミは強化を教えて貰った際、起源に特性の方向性を奪われた、なんてこともないだろう?」

 

「つまり平々凡々って感じかあ」

 

「扱いやすいってことだよ。特異ってのはまあ、他よりすこぉしばかり根源に近付きやすいってことでもあるけどね」

 

 少し、の部分をたっぷり溜めた物言いを聞きながら、なるほど、とリツカは頷いた。けれど次にまた、質問を続ける。

 

「でも起源ってみんなにあるものなんだよね。自分のがなにか、ちょっと興味あるなー」

 

「ふむ。勉強熱心なのはいいことだ」

 

 レオナルドは一瞬脳裏に思想を及ばせる。そういえば彼の起源は――

 

「キミの起源は鏡面、が近いけど多面的というか。うん、そうだね。多くのサーヴァントを従えるのに非常に相性のよいものだよ」

 

「…なるほど?」

 

 いまいちピンときていない顔で頷いた少年にレオナルドはうんうんと頷く。

 

「誰に対しても平等ってワケさ、鏡ってのは。写り込む人物の思想、来歴、在り方を問わないからね。キミはある側面を切り取って顕現するはずのサーヴァントを沢山の角度で映すのさ」

 

「なんか褒め殺しだなあ」

 

「なんだい貶してほしいのかい? よし、いいとも、任せたまえ! 半面、今を生きる人間には一方的だが壊滅的に相性の悪いパターンの人間が居るね。特に迷いのある者、後ろめたい者、自分の人生に向き合えない者」

 

 ぎょっと、少年が驚いた顔をする。今を生きるためにサーヴァントと相性が良いのは好都合この上ないが、今後を生きる上では生きた人間に嫌われてばかりでは痛恨の極みだ。加えて彼には弱き者を揶揄する精神性もない。そんな少年の顔を見てレオナルドはしかたなさそうにまなじりを下げて笑う。

 

「彼らはキミと居ると欠点を指摘された気になる。立っているだけで落ち度を挙げ連ねられた気になる」

 

「どこの戯言遣いですか」

 

「アハハ、だいじょうぶ。全然似てないから。なに、他にもキミと同じ起源を持つ者は居るものさ。それのみか、なんと稀有なマスター候補生の中に、ね」

 

 うっすら、穏やかに、剣呑な様子でレオナルドは言った。少年はひっそりと眉を顰めた。

 

「眠っている人たちの中に?」

 

「そうとも。見に行くかい?」

 

 一瞬悩んで、彼は首を振った。それでも少し迷っている様子だった。

 

「やめとく。でも……無事日常を取り戻せたら、一回会ってみたいかも」

 

 接近に見せかけて逃避に近い言葉なのか、それとも希望を強くのぞむために発した言葉なのか、少年は自分で図りかねて訥々と吐いたその言葉を飴玉のように口の中で転がした。そうして、色々教えてくれてありがとう、とレオナルドに礼を言って工房を去っていった。

 

「すぐ会えるんだけどなあ」

 

 手を振りながら、もう遠い少年の背中に、レオナルドは惜しくもなさそうに呟いた。

 

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