人類愛のほか   作:中島何某

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本日の夜食2

 

「ドクター、AM3時を回りました。マスターの明日のスケジュールを考えるとアナタの起床時間はAM6時だと推測します。仮眠をとっては如何でしょう」

 

 ぼう、と光を極限まで絞ったLEDのランタンを片手に現れた女性に、ドクター・ロマニ・アーキマンはびくっと肩を震わせた。

 皆寝静まってから久しい薄暗い中央管制室の中、常時記録と検索、監視を続けるシステムの他、稼働しているのは一台のみ、操者も一人のみである。夜勤の局員が働いている日もあるが、人員がごく限られてからは週に数回深夜に中央管制室がもぬけの殻になるタイミングがある。局員の健康状態維持のため致し方ないことであるが、そういう日を見計らって、この男は夜なべに勤しむのだ。

 

「あ、や、やあセイヴァー。毎日夜警お疲れ様」

 

「はい、ドクターも毎日お疲れ様です」

 

「いやあ、ボクはさすがに夜中毎日なんてことはないよ」

 

 でも今日はもうちょっと続けたいなー、と顔に書いてあるロマニにセイヴァー・スーは特に咎めることもなく、ちら、とだけマグに入った真っ黒なコーヒーを一瞥した。

 

「小グループで有能なのも困りものですね。統率者が部下に仕事を配分出来ないとは」

 

 嫌味半分、称賛半分。冷淡でも、憤怒でも、真顔でも、ましてや笑顔でもない表情で彼女は伝えた。

 

「まあボクが有能なのは努力の成果でもあるし、今は非常事態だから、しようがないよ」

 

 ここ最近ベッドでゆっくり寛ぐこともままならない様子のロマニは、眉根を下げて苦笑した。

 

「真相が掴めるにつれ、アナタの仕事量と熱意は増えますから、今の内に体調を整えておいたほうが良いかと思いますが」

 

「……ボクの、予想は当たっているのかなあ」

 

 気弱そうに、それを誤魔化すように呟いて、ロマニは背筋を弓なりにして肩をバキバキ鳴らした。

 

「“サーヴァントであれば誰もが第一印象で『理由は分からないがコイツが悪い』と感じてしまう為、文句を言ってしまう”」

 

「えっ?」

 

 彼女の発言にきょとん、としてロマニは慌てて上体を起こした。発言した様子からは慈悲もなければ憂き目もない。憐憫も、熱意も、嘲りも、なにもない。実によく感情を統制されていた。

 

「サーヴァントではないもの、ひねくれ者、悪を悪と感じないバーサーカーなどはそう思わないらしいですが、なるほど確かに、サーヴァントになってみるとアナタの第一印象は最悪です」

 

「だからボクちょくちょくダメ出しされてたのか!?」

 

 反射のように叫んで、それからあっ、という顔をロマニはした。サーヴァントになってみると、という言葉を掴まえて。

 

「……セイヴァー、やっぱりキミは“彼女”だったんだね」

 

「現代に生きていたとはいえ、抑止の守護者や依代となった擬似サーヴァントとも異なり、一側面を切り出した存在ですから別物、とも言えますが」

 

救世主(セイヴァー)として、縁深い英霊召喚システム・フェイトに導かれてここに顕現した、というワケか」

 

 深く頷いて考えを巡らせるロマニに、なんの感慨もなく「いいえ」と彼女は否定した。

 

「システム・フェイトを介して召喚されたのは事実です。ですが、私がセイヴァーとして呼ばれるのは、人理が焼却され、彼がマスターであるこの時だけです。縁深い、というのであればシステムよりこの状況下と言えるでしょう」

 

「いずれかの空間で、未曾有の大災害に際しておそらくキミは人理の救世主となり、人生を終えた。あっているかい」

 

「ええ」

 

「なら、おかしいじゃないか。矛盾しているよ」

 

「この星で行われる聖杯戦争には望みがないので召喚されません。抑止の守護者たる私ならいざ知らず、セイヴァーの私が此度の未曾有の災害にのみ姿を現すのは道理。彼のみに呼ばれ、“彼女”に呼ばれないのは同一存在たるが故です」

 

「救われた世界を証明する存在が、救われていない世界にしか呼ばれないっていうのか」

 

「ええ、まちがいなく私は矛盾した英霊です。ですから神霊が別のステージに繰り上がって数千年経った現代で英霊になったにも関わらず、ガイア寄り、などと自らを評せるのです」

 

 すら、と抜き身の刀のように彼女は笑った。西暦となってニ千年、今や星の殆どが人の領域となっている。彼女が示す“ガイア寄り”などという言葉に、ロマニはあまりいい予感がしなかった。

 

「すみません、時間を取りましたね。それではドクター、お体に気を付けて」

 

 ランタンを持って去っていく彼女に、ロマニは何とも言えない顔をした。それから、おもむろに手を伸ばしたマグの横に、ころんとチョコレートが幾つかおいてあることに気付いて、コーヒーばかりが通過する空っぽの胃で、ひたすらに重い溜息を、ひとつ吐いた。

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