『第三話 チーム戦、始めます』
次の日の昼休み、俺と愛は1階にある2階まで吹き抜けの広間で、数名が腰かけるスペースに隣同士で座りあいながら弁当を食べていた。周囲には俺たちと同じく食事をとっている人が散見される。
俺はの弁当はシンプルに日の丸弁当と冷凍のおかずだ。
さて互いにいろんな内容で話していた時、ふと俺はBPSでの試合である疑問が浮かんだ。
「なぁ、愛。ビルドストライクなんだけど、もっと手数を増やすことはできないか? ビルドストライクもそれなりに手数はあるけど決定打に乏しいし」
俺がそう言うと愛は食べる手を止めた。
ちなみに愛の弁当は海苔玉を振ったご飯にカラフルなおかずの数々と俺よりも豪華な印象を受ける。どうやらどれも愛の手作りらしい。愛は少し間を置くと、
「そうだね。手数自体を増やすならいろんなオプションパーツが各メーカーから出ているからそれを使うのが良いんだけど……。下手に増やすと今度は機体重量が増えて機動性が悪くなったり、戦闘中にパーツが外れたりと大変だからね」
「となるとまずは本体自体を手直しする必要があるか。そうだ。帰りに富良野によっていろいろ道具を買ってくるよ。いつまでも愛に道具を借りているわけにはいかないからな」
「じゃあ、私もついていくよ。道具もいろいろお勧めなのがあるし、説明してあげたいからね」
と、こんな感じで昼休みに話し、時間は流れ放課後。
俺は一人、模型店富良野の前にいた。なぜ愛はいないのか? 実は放課後の前、こんなことがあった。HRが終わって帰りのしたくをしていると、愛があわてた様子でおれの前にきた。愛は申し訳なさそうに手を合わせると、
「ごめん、アキちゃん! 女の子同士で集まって話をしないかって誘われたの! 断るといろいろまずいし! 今日は一人でお願い! あとこれ、私のお勧めの道具をリストアップしたからお店の人に聞いて探してみて!!」
そう言ってすぐに女子たちのもとへと向かっていったのだ。どうやら女子には女子にしかわからない大変なことがあるらしい。
そんな感じで手ぶらとなった俺は、家に直接帰るのもつまらないと思い、予定通り富良野へと行くことにした。
(まぁ仕方ないか。とりあえず今日は一人で探してみるか。わからないことは美羽さんに聞けばいいだろ)
そう考え俺は富良野へと入っていった。店内には入ると、そこには昨日と同じように棚を掃除している美羽さんのほかに一人、同じエプロンを来て作業している一人の男性の姿があった。やや赤毛に近い髪を乱雑に纏め、ややするどい目つきをしたその眼は俺と同じくらいか少し年上か。そんな感じに見受けられた。
(バイトかな)
そう思っていると彼が俺のほうに振り向き、軽い感じで声をかけてきた。
「おう、いらっしゃい。何かほしいものでもあるか? もしくはBPSでもやりに来たか?」
そう言う彼に俺はちょうどいいと思い、質問をすることにした。
「あ、すみません。少しほしい道具があって来たんですけど……」
そう言っていると作業を行っていた美羽さんも俺に気づき、俺のほうに歩いてくる。
「あれ、アキ君じゃない。昨日の今日で一体どうしたの?」
「ああ、こいつがほしい道具があるってさ」
そう聞いてきた美羽さんの言葉に彼が答えた。その言葉に美羽さんはふーん、と考えるように言うと、俺に尋ねてきた。
「それでどんな道具がほしいのかな」
「えーと、これなんですけど」
俺はそう言って懐に入れていた、愛から渡されたリストを彼女に見せた。そのメモを美羽さんは受け取るとしげしげと眺め、
「……へぇ、なかなかいい選択しているわね。初心者用としてはいい感じだし。これって昨日の彼女が?」
美羽さんはそう言って俺にリストを返した。少しにやりとした笑みを浮かべているが俺は気にせずに、
「ええ。それでありますか?」
「ええ。大丈夫よ。ちょっと待っててね」
そう言って美羽さんは道具が置いてあるスペースへと向かった。その間、俺と彼は二人きりになった。
「そう言えばお前さん。どうやらプラモは最近に始めたようだな。どうだった。初めてのバトルは」
「とても楽しかったです。目標もできたので。ところであなたはここのバイトですか? 昨日はいなかったみたいですが……」
俺の言葉に彼はああ、と思い出したかのように頷き、腕を組んで自己紹介を始めた。
「ああ、自己紹介がまだだったな。俺は富良野 真。ここの従業員で美羽の夫だ。普段は店内に飾るプラモを作ったり、BPSのメンテおよび調整をしている。昨日は出張で別の場所にいたからな。いないのも無理はない。ちなみに年は43だ」
どうだ、驚いただろとそう続づける彼。確かにその見た目でその年は驚くだ道。だが俺は特に気にせずに答えた。
「そうだったんですか。よろしくお願いします」
俺がそう言うと真さんは少し驚いた表情で聞いてきた。
「驚いたな。俺の年を言うとたいていは驚くのに。見た目的な意味で」
「年齢と見た目のギャップが違いすぎる例を自分は見ているんで」
そう、同じように見た目と年のギャップがある人を俺は知っているからな。
そんな感じで俺は愛に言われた道具類一式を購入、愛にそれを連絡すると家路につくのだった。
家に着き、玄関を開けると何やらリビングから複数の笑い声が聞こえてきた。一人は母さんだが、もう一人は……愛? どうしたんだろう。
俺は家に入ると笑い声が聞こえてくるその場所へと向かった。リビングは玄関を開けてからすぐのところにある。俺が扉を開けるとそこには四角いテーブルを挟んで椅子に座り、お菓子を置いて話をする二人の姿があった。
ふと俺に気づいたのか、母が声をかけてきた。
「あ、アキちゃん、お帰りなさい!」
これが先にも話したギャップになれている理由だ。
本当にこの体から俺が生まれたのか? そう疑問を持つほどのロリータボディは顔も相まって10代前半かそれ以下に見えるほどだ。まるで座敷童かと思うようなおかっぱ頭がそれに拍車をかけている。愛と話している姿はまるで姉妹のようだ。母が妹として。ちなみに年は40代後半、父も同じくらいだ。
「アキちゃん、お帰り! お邪魔しているよ」
愛も俺に気づいて声をかけてきた。それに俺はただいまと返すと話を続けた。
「そう言えば女子会はもう終わったのか。それにどうして母とお茶をしているんだ?」
俺がそう言うと愛はお茶を一口飲んで話を続けた。
「女子会が終わってね。すぐにアキちゃんのところに向かおうとしたら、アキちゃんのメールが届いてね。それで家に戻ろうとしたら、ばったりとおばさんと出会って」
そして母が話を引き継いだ。
「私もこんなに愛ちゃんが大きくなってるなんて思わなくて。久々にいろいろ聞きたくてお茶をさそったのよ」
その説明に俺はなるほどな、と納得する。よく愛はお母さんに可愛がられていたっけ。母さん、かわいいものには目がないからな。
「そういえば愛。これが買ってきた道具だ。見てくれないか?」
そう言って俺はテーブルの上に買ってきた道具類の入ったビニール袋を乗せた。愛はそれを取ると中身を確認する。
「うん。これなら問題なく次のステップに行けるね」
愛がそう言うと母もその中身を確認した。
「ふぅん。アキちゃん、プラモづくり始めたんだ」
「そうだよ。一昨日から。それで愛、すぐに初めても大丈夫か?」
「うん。大丈夫だよ。そうだ、先に部屋行ってて。準備するものがあるから」
そう言って愛はリビングから出て行った。何を用意するんだろう。俺は疑問に思いながらも部屋へと向かうのだった。
10分後、愛は片手に小さなビニール袋を持って部屋へとやってきた。
「お待たせ。それじゃ早速やろうか。まずはこれを使ってね」
そう言って愛は俺が勝ってきた道具から何やら四角い小瓶のようなものを取り出した。
「まずは接着剤でしっかりと挟んでパーツの強度を上げてみよう」
そう言う愛に俺は、
「接着剤か。それってすごく匂いがひどくなるし、下手すると中毒になるって聞いたぞ」
「大丈夫だよ。これって普通の接着剤と違うリモネン系接着剤なんだ。普通のシンナーを使う接着剤と違って柑橘系の成分を利用してプラモを接着させるんだ。だから匂いもオレンジの香りがするんだ。毒性もほとんどないし。ほら、嗅いでみて」
そう言って愛はビンの蓋を開けて俺に近づける。俺は近寄ってにおいを嗅いでみた。確かにオレンジの香りがする。
「どれ……。本当だ、これなら部屋でやっても問題ないな」
「でしょ。ただ、シンナー系と違って接着強度は少し劣るから気をつけてね。それじゃビルドストライクのパーツを外してみようか。前に教えたとおりに外していけば大丈夫だよ」
「どれ、やってみるか。パーツを外してっと」
そうやってパーツをいくつか外していく。簡単に外せないのはとりあえず置いておいた。パーツはそれぞれ部品個所ごとに分けておいていった。
「次はどうするんだ?」
「次はそれぞれ合わせるパーツの両面に接着剤を塗って、それをはめ合わせていくんだ。気を付けてほしいのははめ合わせるときに、接着面を直接手で触れないようにすること。もし触れたらパーツの表面がすごく汚れるんだ。念のためにざらつきのない薄手のゴム手袋なんかで保護するのもあるよ」
「了解だ。それじゃ気を付けて組み立てるとするか」
そうしておおよそ1時間程。俺は一通りのパーツを接着していく。
「外せなかったり、外すと良くないパーツは流し込みタイプの接着剤を使うよ。これははめ合わせたパーツの隙間に流し込む感じで塗ってからきちんとはめ合わせる。これで接着できるよ」
「了解だ。本当に流し込めるんだな。スーッと入っていく」
そんな感じで全部のパーツを接着し終えた。接着したパーツは種類ごとに小さな箱に入れて保管している。
「ようやく付け終ったな。それでこれからどうすればいい」
「とりあえず接着面が完全に固まるまで最低でも3日ほど待ちかな」
「そんなに待つのか。それまでどうしようか。ビルドストライクは出撃できないし」
「完成までは私のプラモを貸すからそれで練習しよう。もっとBPSにも慣れていかないと]
時間は2時間ほど、明人と愛が部屋へと行った直後へとさかのぼる。彼らが2階へ上がるのを確認した明人の母、零ははぁ、とため息をつきながら言った。
「まさかアキちゃんもプラモデルを作り始めるなんて……。血は争えないのかしらね」
そう言って零は夕食の準備をするため台所へと向かうのだった。
3日後、放課後、俺たちは俺の部屋へと集まり残っていた作業を終わらせることにした。俺の前にはしっかりと接着されたビルドストライクのパーツが並べられている。
「さて、接着剤もきちんと乾燥したみたいだし、今日は仕上げまで行こうか」
愛の言葉に俺は頷いて返事をした。
「ああ、よろしく頼む。それでまずは何をすればいい」
「まずは接着面を軽く削って表面の合わせ目を消していこう。使うのはこれ。ペーパーやすりに2センチほどの厚さの木の板。なければかまぼこ板でもいいかな。これにペーパーやすりを巻いて、それを接着面と合わせて削っていく。ほら、こんな風に」
そう言って愛はパーツの一部を取り出すと接着して少し凸凹としたところにやすりをかけていく。すると先ほどよりも凸凹が消えてすっきりとした印象になった。
「へぇ、これはいいな。きちんとパーツが一体化されている」
「そうでしょ。この後はより細かい目でやすりをかけていくんだ。そうすることでより接着面を目立ちにくくするんだ」
「なるほど。それじゃやっていくか」
そうして俺はパーツにやすりをかけていく。そして30分後には全部のパーツにやすりをかけ終わった。
「そうだね、次は部分塗装をやってみようか。これを使ってね」
そう言って愛は持ってきたビニール袋から何やら細長いマーカーのようなものを取り出した。
「それはなんだ?」
「これはガンダムマーカーって言ってペンのように簡単にプラモに塗装できる優れものなんだ。と言っても今回やるのは塗装というよりも修正って感じかな。ほらこのパーツを見て」
そう言って愛は足のパーツをとってこちらに見せた。
「ところどころ、ゲートを切った跡が残っているのが見えるでしょ」
確かによく見るとほかの部分よりもそこだけ色が変色して白くなっているのが確認できた。
「たしかに。ゲートを切った部分だけほかのより白くなっているな」
「これを修正するのにガンダムマーカーを使うんだ。足の色は黒だからこっちも色に近いガンダムマーカーを用意するんだ。そしてそれをゲート後にちょんちょんと塗る」
そう言って愛はペン先でゲート後を塗っていく。すると先ほどよりもゲート後が目立たなくなった。
「これが部分塗装の一つなんだ。ほかにもゲート後が見えるところがあるからそれも修正してみようか。気を付けるのは塗りすぎないこと。あくまでゲート後を目立たなくするためのものだから、やりすぎると逆に見た目が悪くなるから気を付けてね」
「了解だ。それじゃ、やっていくか」
そうして俺は言われた通りにやって見せた。するとそこには最初の時よりもきれいな印象を受けるビルドストライクの姿があった。
「へぇ、ちょっとしたことでここまで違うんだ」
「そうだよ。それとこれがBPSでも重要な要素になっていくんだ。さて、次にスミ入れをやろうか」
そして愛は道具からガンダムマーカーより細いペンを取り出した。
「これはガンダムマーカースミ入れ用。私はスミ入れペンって言っているんだけど。これがあれば手軽にスミ入れが入れられるんだ。ちょっとビルドストライクを貸してね」
「ああ、いいぞ。どうするんだ?」
そう言うと愛はスミ入れペンのキャップを開ける。そのペン先はシャーペンの様に先細っていた。それを愛はビルドストライクのところどころにある溝みたいなところに当ててなぞっていく。すると黒いインクが溝を染めていった。
「この溝はモールドって言うんだ。ここに色を付けることでモールド部分を強調してプラモデルにメリハリをつけるんだ。ほら、こう見ればわかると思うけど、よりプラモが立体的に見えるでしょ」
愛はそう言ってモールドを塗ったところと塗らないところを見比べるように見せてきた。確かにモールドを塗ったほうが塗らないのに比べて立体的に見える。だが……。
「モールドから結構色がはみ出ているんだが……。それで大丈夫なのか?」
そう俺が言うと愛は大丈夫、っと言って近くにあったティッシュ箱からティッシュを取り出した。
「これでさっとモールドの上を拭いていくんだ」
そう言って愛はモールドの上をティッシュで優しく拭き取っていく。するとはみ出ていた色がすっきりと無くなり、溝だけに色がついている状態になった。
「ほらね。こうすると輪郭がはっきりしてよりかっこよくなるんだ」
たしかにそこには先ほどよりも陰影がしっかりとしており、よりリアルでかっこよい姿がそこにあった。
さて、俺がビルドストライクを眺めていると、愛は何やら缶スプレーを袋から取り出した。
「なんだ、それは?」
「これはトップコートって言って、プラモデルの最後の仕上げに使うものなんだ。これを行うことで表面を光や紫外線から保護したり、汚れを付きにくくしたり、いろんな効果があるんだ。もちろんBPSでも評価にかかわってくるからね。さて、アキちゃん。ビルドストライクと新聞紙を持って外に出ようか」
そう言って愛は窓を開けると外のベランダへと移動した。俺もビルドストライクと新聞紙を持ってベランダへと出る。そして愛は懐から何やら大きなクリップと割り箸を組み合わせたものを取り出し、それをビルドストライクの股に挟んだ。
「これでよし。それじゃ塗装に入るね。少し離れてみてね。塗料が目に入ると危険だから」
そう言って愛は缶スプレーのふたを開けると噴射面をビルドストライクから少し放した。
「塗装するときはおおむね30センチから50センチほど放して塗るといいよ。あと塗り始めの塗料は絶対にプラモに付かないように気を付けてね。出始めの塗料はムラが多いから。塗装は薄く塗っていくよ、これで塗装ムラを抑えることができるんだ」
そう言って愛はスプレーを噴射させる。そして言った通りビルドストライクを塗っていく。30秒ほどで全体を塗り終った愛は、どこから取り出したのか、空き缶を取り出しそこに割り箸を入れた。
「これで良し。今回塗ったのはつや消し塗装って言ってプラモ自体の表面のつやを消してより機械らしい印象を与えるものなんだ。あと、これを塗ることでBPSでの耐衝撃性能もアップするからすごいお勧めだよ。ちなみにこれのほかに艶出しのほうもあるよ。これはBPSでエネルギー系の威力を抑えることができるんだ」
「へぇ、トップコートってそういう役割もあるんだ。それで、この作業でおしまいなのか」
「ううん、後2,3回塗らないとしっかりできないから。薄く塗る分、何回かに分けて塗らないといけないからね。後30分ほど待ってから2回目、3回目って塗っていくといいよ」
「ところで乾かすのは夜でも大丈夫なのか? もうすぐ暗くなってしまうんだが?」
「うん、基本的に塗装を乾かすのに必要なのは、風なんかの空気の流れが重要だから。逆に直射日光で乾かすと変に乾いたりするから気を付けてね。後、雨なんかの日もダメだよ。湿気で塗装ムラがひどくなったりするからね」
「わかった。それじゃ、今日も空いた時間で宿題をやるか。今日は博子先生から宿題が出ていたからな」
そうして空いた時間を利用して宿題を終わらせながら、塗装を進めていく。そして2時間後……。
「やっと完成したな。本当に素組とは全然違うな」
そこには素組で作った時とは違う出来栄えのビルドストライクがあった。プラモ特有のつやは無くなりよりリアルさを増したそれは自分の中でもいい出来だと感じていた。
「そうだね。私も初めて接着したりして完成度を高めた時はうれしかったな」
「それにしても、これだけ弄ったならBPSでも性能が上がったんじゃないか?」
俺がそう言うと愛は頷く。
「そうだね。おそらくは前よりも3~4倍ぐらい強くなったかも」
「そうか。よし、明日はこれでバトルをするか。愛、またよろしくな」