主な登場艦娘
五月雨 白露型駆逐艦6番艦 不思議な青色の長い髪、がんばり屋で少しドジな艦娘
初霜 初春型駆逐艦4番艦 小柄で長い黒髪に桃色の瞳、紺のブレザーを着た艦娘
初雪 吹雪型駆逐艦3番艦 切り揃えられた前髪、白いセーラー服の眠たげな艦娘
この小説での解釈
主缶 メインボイラー 艦娘のエネルギーの源
九三式水中聴音機 パッシブソナー 音を聞き取る
三式水中探信儀 アクティブソナー音を出して反射を聞き取る
平戸瀬戸 ひらどせと 海峡の名称
夕日が西の海面に沈んでいく、貨物船は北西へ遠ざかりつつある。太陽が沈めば一気に暗くなり暗くなれば潜水艦のほうが有利だ。
初霜は初雪を背負い船団に追いつき、初雪を貨物船に乗せてもらい、そのまま北北西の壱岐島へ退避しようと考えた、もし追いつく前に攻撃されれば初雪を残して船団を護衛する、決断をして立ち上がろうとした。
「初霜、どこ、着たわよ」 五月雨の声が隊内通信から聞こえてきた。
☀ ☁ ☂
五月雨が追いついたとき、貨物船は壱岐島のほうへ向いて進んでおり、初霜と初雪の姿が見えなかった。通信から船団が雷撃を受けたことは想像できた。
「五月雨さん、こちらです」
通信とともに発光信号が左舷前方で点滅した。点滅したところへ全速力で近づく、
「初霜、初雪」
「五月雨さん、初雪は艤装がボロボロで大破です、意識がありません、船団左舷から雷撃を受けました。船団はこのまま壱岐島へ退避させ、初雪は私が船団とともに壱岐島へ連れて行きます、、五月雨さんは深海凄艦を」 初霜は五月雨を見て泣きつきたい気持ちを必死で抑えて話す。
「了解、初雪をお願い」
五月雨は初霜が初雪を背負い船団を追いかけるのを見送った後、海面を見つめて
「どこかで見てるんでしょ、今度はこっちの番よ」 暗い水面に宣言する、五月雨の頭の上では妖精が耳を澄ます。
☁ ☂ ☀
アルバコアは魚雷を発射したあと一旦深く潜ると時間を待つ、爆発音が一つあった。発射した場所から少し離れたところに浮き上がり潜望鏡を上げた。遠ざかる船影が見える、戦果を確認しようと潜望鏡を回すと1人の艦娘が船影を追うように動き出し、残った1人がこっちの方を見ている。アルバコアはすぐに、再装填した魚雷を残った1人のほうへ発射して潜る。
☁ ☂ ☀
九三式水中聴音機の妖精は発射音に続いて小さなスクリュー音が近づいてくるのを聴くと五月雨の頭を叩いて方角を知らせ警告する。五月雨は水面を探すが暗くてよく判らない、しかし主機を全開にしてその場を離れ回り込みながら発射した方角に針路を向ける。
「対潜戦闘、爆雷用意~」 魚雷をやり過ごすと速度を落としゆっくり近づく。
九三式水中聴音機の妖精は耳を澄ますが何も聞こえない、こんなとき三式水中探信儀妖精が居たならと悔しがる。五月雨は発射音のした辺りに来ると爆雷を落とすか迷った。ここで落としても被害を与える可能性は低く、爆雷が爆発している間に逃げられる可能性が高い。
☂ ☁ ☀
推進音が上方をゆっくり近づいてくる、爆雷が落ちてくるのに備えて身構えながら、爆発した瞬間に逃げるように準備する。しかし、何事も無く通り過ぎて行く、そのまま通り過ぎてくれるのを待つが、期待に反して推進器の音が戻ってくる。アルバコアは相手が手ごわいことを覚悟した。
身動きが取れず、じっとして1時間が過ぎた、相手もあきらめることなく上方を不規則に行ったり来たりしている。
さらに1時間が過ぎて、アルバコアは動くことにする、静かに魚雷を準備し推進音が自分から遠ざかるのを待つ、そして推進音に向かって魚雷を発射。
魚雷は海底に向かって進んでいく。推進音が向きを変え回避しようと動く、しかし魚雷は双方の中間の海底で爆発した。そのときを待っていたアルバコアは爆発と反対側に進んだ。
☀ ☁ ☂
九三式水中聴音機妖精は真後ろで魚雷発射の音のあと、小さなスクリュー音を再び聴いた。五月雨に警告して発射音のした方角を教える。それは、目印を浮かせた場所よりも北西にずれた場所だった。五月雨は前と同じように回避運動をしてそこを目指しながら、
「潜水艦の推進音は?」 妖精は首を横に振る。
「すぐにレシーバを外してください」
水中で爆発が起こる。
五月雨はすぐに潜水艦が退避運動をしなかったので攻撃の為の魚雷ではないと直感し、さらに海底で爆発が起こったので、ここが潮時だと判断した、今度は相手から離れ壱岐島へ向かう北に針路を取り全速力で離れる。十分に船団が壱岐島に到着する時間は稼いだ、悔しいがこの暗闇の中で潜水艦と戦うのは不利だ。
真っ暗な印通寺港に五月雨は入ってきた。よく目を凝らすと妻ケ島の島影に隠れるように戦時標準貨物船が4隻停泊している。隊内通信で初霜を呼ぶ、貨物船の影から初霜が現れた。
「五月雨さん、無事でよかった、船団は無事です、初雪は港湾事務所にいます」
「残念だけど深海凄艦は取り逃がしました」
初霜の話だと港湾事務所に運び、横にして主缶が生きているのを確認し、しばらくすると初雪の目が開き妖精も出てきたので司令官に報告し襲撃を警戒することにしたということだ。初霜に引き続き警戒を頼んで初雪のいる事務所へ急ぐ。
事務所ではソファーの上に初雪が横たわっていた、周りを妖精たちが動き回っている。
「初雪」
初雪はゆっくり目を開けるが、横を向いたままだ。床に座り顔を見る。
「初雪、五月雨よわかる」 初雪は瞼を動かす、話せないのかも知れない。
「私の言う事が解かるなら瞼を1回動かして」 瞼が動く、意識は大丈夫そうなので、後ろ側に回って艤装の主缶を見る、損傷はしているが死んではいない。艦娘は艤装を装着していて主缶が全壊しなければ沈没することはないので大破なら入渠して直せる。
司令官とはここに来る途中で連絡を取り合った。心配そうな声で、初霜たちが印通寺港にいること、初雪は主缶以外はダメージが大きく動かせないこと、明日の朝、佐世保から船団護衛の為の艦娘と佐世保の明石さんが来ること、こちらからは、深海凄艦に逃げられたことを報告した。司令官からは、輸送船は無事だから と言われたが、もう少し早く合流していれば と後悔が頭の中をグルグル回る。
「初雪、明日の朝、佐世保の明石さんが来るから安心してください」
初雪の手を握り体をゆっくり擦る、五月雨の目に、見る間に涙が浮かんできて初雪の顔が滲む。しばらくそうしたあと
「初霜、交替するから休息して、そのあと初雪に付いてあげてください」 暗闇の海できっと同じ思いでいる初霜に隊内通信をする。
翌日、すでに日は高くなっていた、港の沖合いを警戒しつつ
「そろそろ見える頃です」 五月雨はつぶやいて時間を確認する。
もう一度沖を見る、すると遠くに船影が見えてくる、佐世保から来た明石、由良、択捉、国後の4隻だ。
☀ ☁ ☂
輸送船団護衛司令部から船団が雷撃に遭い壱岐島で足止めになっている、直ちに輸送船を速やかに佐世保へ到着させるように命令があり、佐世保の提督は思案していた、艦隊は作戦を遂行中なので出せるのは由良、択捉、国後あたり、そこへ呉の提督から電話があり、損傷艦がいるので明石を派遣するように要請を受けた。
今は明石を鎮守府から出したくない、しかも横須賀の提督から呉の提督達には気をつけるように言われている、しかし断れば逆に自分に所属の艦娘に艦娘を見捨てたと反感を持たれる。海軍主流派に目を付けられず、艦娘の反感をうけないように考えないといけない。
☁ ☂ ☀
「ありがとうございます、助かります」
「申し訳ないけど日没までに佐世保に輸送船と一緒に戻らないといけないの」 佐世保の明石が申し訳なさそうに言う。
「私達がここは交代するから五月雨たちは休息を取って」 由良さんに言われて交替し、明石を初雪のところへ案内する。
日没までに佐世保に着くには4時間後にはここを出港しないといけない。4時間でどこまで出来るのだろうか、ソファーで横になっている初雪の足元には初霜が床に座りソファーに頭を持たせてうつ伏せに眠っていた。明石は初雪を見るなり、
「かなりやられちゃったな・・・やるしかないか」 そう言って仕事に掛かり出した。
☀ ☁ ☂
主缶は無事だっったのは良かったが、エネルギーの伝達系が壊れてしまっていた。4時間の応急処置で何とか仮に繋いだが本来の運動性の10パーセントも動けない、当然、急な動作も出来ない。
「とりあえずここから動かせることができるようにしたわ」 明石が疲れた顔で五月雨に話す。
「ありがとうございます、初雪、どう話せる」
「ありがとう...次は...本気出すから」
初雪を動かすことができるようになったので由良さんと相談し、初雪を貨物船に乗せ全員で佐世保に行くことを司令官に意見具申する。司令官からは、深海凄艦の同時攻撃で佐世保の主力艦は出払っているらしいので対潜哨戒が十分できていないかもしれないから気をつけるように、言われた。
佐世保と柱島の艦娘は貨物船に初雪を乗せ印通寺港を昼頃に出港する。隊列は、貨物船4隻と明石が単縦陣を組み、その前方4Kmに由良、左側3Kmの前後に国後、択捉、右側3Kmの前後に初霜、五月雨。
ルートは、壱岐島から南南西へ的山大島を目指し、そこから南に転針して平戸瀬戸を抜け佐世保湾に向かう最短ルート、貨物船のスピードで5時間ほど、ただし平戸瀬戸は潮流が早く幅が狭い海の難所だ。
五月雨が間に合って良かったですね。
艦娘と妖精は武器や装置のもともとの性能以上のものを引き出せるようです。