継ぐ者~提督物語   作:お気楽Y

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 嵐の中救助した男の子
誰なんでしょう?
叢雲にも怖いことがあるようです。


別れ

 小さな窓から見える外はすべて灰色で、窓には雨が打ちつける。

だんだん下がっていくにつれ、突然、地面に激突しないか不安になる。

 

「少し揺れます、掴まって下さい」

 

 通信士はそう言って、操縦室に戻っていった。

 

「なんで、私まで来なきゃいけないのよ」

 

 叢雲は2段ベッドの支柱に掴まりながら大淀に文句を言った。

 

「だって、そこの僕があなたが居ないと泣くから、提督が叢雲に世話係を

 命じたんじゃない」

 

「それは鎮守府での話でしょ」

 

 叢雲の隣にちょこんと座った男の子は、叢雲の片手を握って二人のやり取りを

面白そうに眺めていた。

 

「恵児、怖くないからね」

 

 叢雲は恵児の手をぎゅっと握りながら、窓の外を見るのを止めた。

 

 

 小雨の降る中、根岸湾に97式大艇が降りてくる。

翼の付いたかつお節にも見える機体、操縦席の窓の下には叢雲と書かれていた。

元は日航所属(旧大日本航空)の民間輸送機で横須賀鎮守府に徴用されたものだ。

磯子を低空で通過しきれいに着水した。

 

 大淀は接岸を待ちながら2週間前を思い返していた。

 

「貨客船の乗客名簿に該当する男の子は居ません」

 

「何か身元の判るものを身に着けてなかったのか?」

 

「はい、下着に恵児と書いてありました」

 

「恵児・・・大淀、乗組員名簿を見せろ」

 

 

 男の子の名前は榎本恵児、親は貨客船三池丸のコックだった。

提督の旧知の人だったらしく恵児という名前だけでピンとくるものがあったらしい。

シンガポールから船員家族で乗船記録があり、両親2人と妹の記載がある。

三池丸の生存者は彼一人であった。

身元を海上護衛総司令部へ照会したところ、東京に親戚が居るとのことで、

横須賀鎮守府に提督が手を廻して、97式大艇を途中で宿毛に立ち寄らせた。

 

 

「私は横須賀の司令部に報告書を持っていくから、横浜駅に、いちさんまるまる

 に迎えが来るから恵児君を送っていって」

 

 大淀に言われて、二人は大きな格納庫から出て根岸駅に行き、電車で横浜駅まで移動した

この子は意識が戻ってから、まだ一言も喋っていなかった。叢雲には恵児が

自分の境遇が解かっているのかわからなかった。

 

「恵児、あんたの伯父さんが、迎えに来るからね、お辞儀しなきゃだめよ」

 

 恵児は、ただ叢雲の顔を見ているだけだった。でも、しっかり手を握っていた。

やがて電車は横浜駅に着いた、約束した改札口の横で座って待つことにした。

 

「お腹すいてない恵児?明石さんが作ってくれた、おにぎり食べよ」

 

 明石さんは今朝は大変だった、おにぎりを作りながら泣いてるし、飛行艇に乗るときも

操縦士に無事飛行するようにお願いしたり、飛行艇が岸から離れるときは泣きながら一番手を振ってた。

 

「おにぎり美味しいね」

 

 話しかけると、嬉しそうに頷いてまたおにぎりを頬張った。

食べ終えて、恵児のほっぺたについたご飯粒をつまんで食べてやる。

 

「さあ、しゃきっとしましょ」

 

 叢雲は自分に言い聞かせるように言うと立って前を向いた。

行き交う雑踏の前から厳つい紳士が歩いてきて、二人の前に止まった。

 

「君は艦娘かね」

 

「宿毛鎮守府所属、吹雪型5番艦、叢雲です」

 

 紳士は叢雲を見て、横の恵児に目を移した。

 

「彼が武志の子かね?」

 

「はい、でもまだショックが大きかったのか、話すことができません、恵児ご挨拶」

 

 恵児は小さくお辞儀をしたあと、叢雲の後ろに隠れてしまった。

 

「私は武志の兄の大志だ、弟の子を助けてくれてありがとう、海軍省には礼を言っておいたので

 直ぐに褒賞があるはずだ、この子は私が預かる、ご苦労様だった」

 

 そう言って、恵児の手を取ろうとしたが、恵児は手を振って握らせない

 

「恵児、この人はパパのお兄さんだよ、いい子だから聞き分けてね」

 

 叢雲がしゃがんで恵児の目を見て言うと、恵児は大人しくなった。叢雲は立ち上がり

 

「書類を確認させていただきます」

 

 書類を受け取り確認する、まるで間違いを見つけようとしているみたいに

 

「間違いありせん、では、こちらの書類にサインをお願いします」

 

 書類を受け取り、再びしゃがみ込んで

 

「恵児、叢雲はここでお別れだよ、パパのお兄さんのところで元気にね」

 

 恵児を抱き上げ紳士に渡す。

 

「これ、荷物です」 そして小さな袋を渡す。

 

袋は紺色の布で上が紐で結ばれている、恵児とピンクの糸で刺繍がしてある。

不知火が作ったものだ。

 

 紳士は荷物を片手に受け取ると、「ありがとう」そう言って、後ろを向いて歩きだした。

叢雲はじっと後姿を睨みつけていた。

 

「・・・ムラクモ」

 

 叢雲の耳は、あの嵐の時に聞いた声を聴いた。そして、人ごみに見えなくなるまで見送りながら、昨晩の提督の言葉を思い出していた。

 

 

 恵児のお別れ会は食堂で行われていた。艦娘たちが恵児そっちのけで騒いでいたとき

提督が近づいてきて恵児を抱き上げた。

 

「恵児、名前に負けるなよ、恵まれなかったと恨むな、周りを見ろ、おまえは周りに

恵みを与える子だ、運命に負けるな」

 

 提督はそう言って、恵児に食堂にいる艦娘を見させた。

 

 

「恵みを失った私はどうするのよ!」

 

叢雲はつぶやいてから歩き出した。

 

 

 




 1話が終わって、叢雲なら、どうするか、何を話すか、なんて考えているうちに
すぐに2話目が書けてしまいました。
 97式大艇のことを調べていたら、民家に供与した5機に名前が付けられたことを知り
その中に、叢雲 の名前がありすぐ使わせていただきました。
 これで連載と言う形になったので一安心、これで終わりだったりしてw
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