漁船の上に屋根を乗せたような汽船は、のんびり安芸灘を進んでいく、船べりに座った若い少尉の白い軍装が水面に映える、水面を眺める幼そうな横顔は、のんびりした風景とは似合わず緊張しているように見える。
柱島泊地、瀬戸内海にある新しくできた鎮守府、そこに提督見習いとして赴任するため、渡船に乗り込んだのは、深海凄艦に対して従来の採用、教育方式を改革して提督見習いになった1期性の1人。やがて柱島水道に汽船は入った。
「海軍さん、もう着くよ」 一緒に乗り合わせた行商人から声がかかると、汽船は柱島の埠頭に着いた。
パラパラと降りる乗客に混じって少尉も桟橋に降りる。歩いて行く途中で立ち止まり側の人に尋ねた。
「あの~柱島の鎮守府はどっちですか」
「ここから右の方に歩いていくと、左側にあるよ海軍さん」 お礼を言ってテクテク歩いて行く。
すぐに右に小さな港があり、左に門がある場所まで来た、門には柱島鎮守府と書かれている、門の前から中を見ると、正面と右手に小さな小屋、左手に工廠らしきもの、新しい鎮守府なので覚悟はしていたがそれ以外は何も無い、とりあえず、中央にある小屋を尋ねてみる。小屋の中は2部屋で、手前は誰もいない、奥の部屋の扉をノックするが何も反応がない。仕方がないので、扉に手をかけて開いた。
「榎本恵児、入ります」
部屋は入り口と中央の奥に机があるだけで人気は無かった、入り口の机の上に札が立ててある、「御用の方はこの札を持ち上げて少しお待ちください」そう書いてあるので、札を持ち上げてみる、
すると、挟んであったのか、糸が窓に向かって伸びて、見ると窓が少し開いていて外へ糸が出ていく、窓を開けて糸の先を見ると、屋根の高さと同じくらいで黄色い風船が浮かんでいた。
今日は、よく晴れて風が気持ちいい、このまま後ろに倒れて防波堤で寝てしまいたい気分だ。釣竿から伸びた糸の先にある浮きも波に揺られて気持ちよさそうに浮いている。そのとき、頭の上で双眼鏡を眺めていた妖精が頭を叩いた。
「もう来てしまいましたか」 長く青い髪の少女は残念そうに、つぶやくと釣竿を引き上げようとした、そのとき、浮きがグーン、と水面から水中に引き込まれる。慌てて両手で釣竿をしっかり握り引き上げる。
「申し訳ありません、お待たせしました」 入り口から声がするので表に出る。
白いセーラー服に長く青い髪、健康的な顔に大きな目、右手に釣竿、左手にバケツを持った艦娘が立っていた。
「今日、新しい司令官が着任する連絡をもらったので、お祝いを捕獲しようと出ていました」
とバケツを前に置く、思わず中を覗くと、25センチくらいの黒鯛が1匹が泳いでいる。顔を上げ彼女を見ると嬉しそうに笑顔で返す、すると急に真顔になり、
「白露型6番艦 五月雨です、一生懸命がんばりますので、よろしくお願いします」 そして笑顔に戻った
「海軍少尉、榎本恵児です、柱島鎮守府に配属となり着任しました、こちらこそ、よろしくお願いします」 彼女が初期艦になる艦娘なのだろう、
「あなたが初期艦でしょうか?」
「そうです、司令官のことは叢雲から聞いています、それと、私のことは五月雨と呼んでください」
「え~と、では五月雨さん、他の艦娘はどこにいるんですか?」
「五月雨と呼び捨てにしてください、それと敬語も不要です、他に艦娘は居ません、私だけです」
着任報告をどうするか考えようとしたとき、
「提督室の机の上に電話がありますので、呉の鎮守府提督に報告してください」
恵児は、五月雨に言われて奥の部屋に行き電話をする、呉の提督には、すぐに繋がった、分からない事は五月雨に聞くように言われ、これからの活躍を期待しているみたいなことを言われ電話を終えた。さて、これからどうしょう、まずは現状を把握することから始めよう。
「五月雨、来てくだ・・・」 呼びかけて言い直そうとする間も無く、
「はーい、なんでしょう」 五月雨がドアを開けて返事する。
「鎮守府内を案内して欲しいんだ」
鎮守府の正面の小屋に提督室と事務室、右の小屋は学校のような作りで長い廊下が東西に走り、南側に小部屋がいくつかあり、奥から炊事部屋、食堂、それと小部屋が3つ、左には工廠設備とお風呂。とりあえず、正面の小屋を事務棟、右の小屋を住居棟と呼ぶことにした、すぐに案内は終わってしまった。
「どうしようか・・・」 提督室で想いを巡らせ五月雨を見る。
「まずは神様に挨拶しましょ」 五月雨が言ったので、渡船の着いた港まで戻り、そこからさらに賀茂神社まで歩いて行き、二人で神社にお参りして鎮守府へ並んで歩いて帰る途中、
「提督は何をお願いしました?」
「え~と、まだ見習い提督なので、少尉でいいよ」
「少尉?、ん~何か言い難いです、じゃ司令官のほうがいいですね、で何をお願いしたのですか」
「挨拶とこれからお守りください、鎮守府が賑やかになりますように、で五月雨は」
「秘密です」 そういうと走りだして振り向く、
「先に行ってますね~司令官」 手を振って行ってしまった。
鎮守府に戻り提督室に入るが五月雨の姿は無い、次に何をするか相談しようと思い探すことにするが、残りは住居棟と工廠しかない、まず住居棟に行くことにする、一番奥の炊事部屋で、まな板に載った黒鯛を包丁を持ち仁王立ちで睨む五月雨が居た。
「どうしたんだ五月雨」
「あっ、これどうしたら食べられますか、指示をお願いします、司令官」
「これ今日、五月雨が釣った魚だよね」
「はい、釣るのも、釣ったのも、料理するのも初めてです」
最初の仕事は黒鯛のさばき方になるみたいだ。
この先も不定期連載となります。生ぬるい目でお願いいたします。
批判、感想お待ちしております。