主な登場艦娘
五月雨 白露型駆逐艦6番艦 不思議な青色の長い髪、がんばり屋で少しドジな艦娘
この小説での解説
レーション 海軍から配給される糧食
開いている窓の向こうの港では、青い空に白い海鳥が何羽も舞い、海面には光が反射して、キラキラいくつも輝いている。
のどかな風景だが、眺めている司令官は悩んでいた。艦娘が絶対的に不足だ。現在、柱島鎮守府には艦娘は1人しか居ない。建造すればいいのだが、国家は資源切迫の状況で、建造には上官の許可が必要で、さらに鎮守府ごとに投入できる資源も制約があり、大型艦建造まで許されているのは横須賀のみ、資源600までが呉、佐世保、資源400までが舞鶴、資源250までがその他鎮守府となっている。海軍が建造を鎮守府任せにしない理由はもうひとつあるが、それは後述とする。
机に座り書類を書き始める、出来たばかりの柱島鎮守府が建造の上申を出すには勇気が居る状況だ。しかし、1人では遠征で資源を得ることも、経験値を上げることも無理だ。せめて警備任務ができる3人は欲しい。悩んだ末に上申書を書き上げ呉への連絡文書と一緒に送ることにした。
数日後に返信が来た、上申された案件はすぐには返答できない、という回答だった。がっかりして提督室の椅子から立ち上がり窓から港を眺める、ラジオからはニュースが流れていた。
「・・・昨日、本土に向かう深海凄艦の艦隊を警戒中の艦隊が発見したとのことです」
港の防波堤を見ると数人の子供達が海に向かって釣りをしている、その中に麦藁帽子にセーラー服姿の少女。彼女は初めて釣りをして、いきなり釣果を上げて面白くなったらしい、あれから時間があると釣りをしている。
少女は当鎮守府唯一の艦娘 五月雨 だ。当人によると味気ないレーションばかり司令官に食べさせられないということらしい。でも、釣った魚を料理をするのは司令官だった、神様は五月雨に料理の才能は与えなかったらしい。五月雨がこちらに気づいたのか立ち上がってこちらに向かって大きく手を振ってくる、それに控え目に手を上げながら答えた後、もう一度上申書を書こうと机に座りなおした。
夜、提督室から出ようとしたとき、黒電話が鳴った。
「ニュースは聞いていると思うが、今回は複数の深海凄艦の艦隊が活動している、呉にも迎撃艦隊の要請があり明朝出撃させる。他の鎮守府からも出撃する予定だ、今までにない深海凄艦の大規模な侵攻のようだ、一応柱島鎮守府も警戒しておくように」 呉の提督からだった。
近海の制海権は,最近の5~6年は人類が確保している。艦娘が登場してから、瀬戸内海まで進入されたことは無い、だが胸騒を覚えた。
翌朝、太陽が水平線に見える前から埠頭では、司令官と五月雨が沖合いの柱島水道を眺めていた。すると、まだ薄暗い北から隊列が近づいてくる、出撃する呉の艦隊だ、司令官には点にしか見えないが、五月雨には2列縦隊で整然と進んでくるのが判る。片方が、名取を先頭に皐月、文月、水無月、長月、もう片方が衣笠を先頭に、古鷹、青葉、球磨、千歳。
☀ ☁ ☂
「新しくできた柱島鎮守府に、江田島の恵君が配属されてるのよ、初期艦は五月雨だって」 右手の柱島を見ながら青葉が後ろから衣笠に声をかける。
「青葉、提督に恵君は止めな」 同じく右手を見ながら衣笠が答える。
「埠頭に人がいるクマよ」
☀ ☁ ☂
二つの隊列が目の前の沖合いを通り過ぎ南へ遠ざかるまで二人は帽振れをして見送った。
「任務を無事達成して戻りますよ、司令官」 五月雨が自分に言い聞かせるように言う。
「一応、今日は五月雨も出撃待機でお願いします」
「了解、・・・ですが司令官、お願いは余分です」
損傷した艦娘が帰投中に救援要請や、柱島に寄ることがあるかもしれないので応急修理要員とおにぎりを用意したが、何事も無く夕方になった。提督室のラジオから夕方のニュースが聞こえてきた。
「・・・深海凄艦の艦隊はいくつかの方面から本土への接近を試みましたが、わが海軍の艦隊に駆逐されたとの政府発表です」 思わず肩から力が抜ける、知らないうちに緊張していたみたいだ。
島の夜は静かだ、島の人々が眠りに着くと波の音しか聞こえない。何か耳障りな音が聞こえてきて目が覚める、どうも外から聞こえてくるようだ、部屋から出て外を見に行こうと廊下に出る、すると五月雨も廊下に出ていた。窓から入る月明かりに浮かぶ五月雨を見ると艤装を装着して、いつもの笑顔は無く緊張した表情だ。
「五月雨、あの音は?」
「深海凄艦の出す音に似ています、司令官」
二人は廊下から外に走り出て、海のある方角を見る。暗闇の中に遠くで小さな光が沖合いを南から北に移動している、音はそちらから聞こえてくる。
「五月雨、確認できるか?」
「深海凄艦です、損傷して火災が発生しているものと思われます」
「単艦?クラスは」
「ここで見る限り単艦です、クラスは中、小型艦、迎撃させてください」
「え~と、まずは呉へ連絡を・・・」
「そんなことやってる間に港を襲われたらどうします」 五月雨が見つめる。
「・・・五月雨、深海凄艦を迎撃せよ、ただし、複数艦、中型艦以上の戦力だったら時間を稼いで、僕は今から呉へ連絡を入れる」
「了解、ドジっ子なんて言わせません」 五月雨は返事をしてからニコっと笑い走って行ってしまった。
☀ ☁ ☂
暗闇の海面を髪をなびかせながら白いセーラー服の五月雨が滑るように炎を目指して進む、こちらにまだ気づいていないようだ。
シルエットがはっきりしてくると軽巡ホ級だと判った、左の砲塔に火災が発生して、機関も損傷しているのかスピードも出ていない。手負いの軽巡なら十分勝機はあるが、長引いて一発貰ったら、こっちも大きな損害受ける。五月雨は一瞬で判断して相手の後ろに回り込むように針路を変えた、相手の左舷後方から近づくことにした。
☀ ☁ ☂
ホ級は、戦闘中に被弾して走り回っているうちに艦隊とはぐれてここまで来た。左手の砲塔の火が鎮火せず、機関も時々咳き込んでイライラする、怒りで何かに復讐しなくては気がすまない。左の方に明かりが見えた、あそこに行って暴れよう。そのとき、後ろに何か気配を感じ振り向こうとした。
「やぁ~」 声とともに左後ろから体当たりされてバランスを崩す。体勢を立て直しながら、右手の砲塔を体当たりされた方に構える、しかし構えたところには何も無かった。そして突然背後で砲撃音がして後頭部を撃たれ、ホ級にはそこから先のことはもう永久に知ることはできなかった。
☀ ☁ ☂
五月雨は体当たりしてホ級を減速させた後、体勢を崩している間に背後に回り込み、後ろからホ級を砲撃したあと、魚雷を発射して止めを刺した、そのあと周りを警戒したが他に艦は居なかったので帰投する、埠頭に近づくと司令官が立っているのが見えた。
「任務完了しました、司令官」 言った後、笑顔になる五月雨。
「お疲れ様、いきなり初めての実戦でなにがなんだか・・・、でもありがとう 五月雨」 同じく笑顔で答える。
握手の手をを差し出すと五月雨もテレながら握手を返してくれた。
五月雨は提督室で、司令官の電話が終わるのを待っていた。
「・・・はい、ありがとうございます。今後も努力します」 電話が終わった司令官を見る。
「褒められたよ五月雨、それと近海の警備の強化が見直され、建造の許可が降りたよ」
「本当ですか、よかったですね司令官」 嬉しそうに五月雨が答える。
先日のホ級は迎撃艦隊が撃ち漏らした艦で瀬戸内海まで入り込んだとのことだ。
今回、深海凄艦が今までの個々の艦隊が勝手に行動していたのとは違い、複数の艦隊が同時に侵攻する攻撃をしたことで、深海凄艦が近海に入り込む可能性が出たことを受け、海軍は防御体制の見直しが行われた。
「これで艦隊が組める」 うれしそうに司令官が五月雨に言う。
笑顔で返す五月雨、しかし、その表情には少し寂しさも浮かんでいた、それに気付かず司令官は建造可能な一覧表を確認しだした。
どうやら艦隊が組めるようです。
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*7月26日 お天気マーク追加