ずいぶん間隔が空いてしまいましたが、14話投稿いたします。お楽しみください。
横浜グランドホテルの最上階の一室、無頭竜の東日本総支部にて、初老の男性たちが引っ越し、というより夜逃げに近い準備を行なっている。
「おのれ…このままでは済まさんぞ」
1人が歯軋りしながら呪詛を漏らす。
「それにしても、ジェネレーターが戦果なしとはな…」
「日本の特殊部隊はともかく、一介の高校生に負けるなど、ありえないだろう」
「日帝軍への報復はいずれ必ず果たすとして、今優先すべきはあの餓鬼2人の始末だ
「司波達也と八田黎か、八田の方は‘’あの忌み子‘’だろうが、司波の方は何者なんだ…」
その時、新しい声が室内に響いた。
「忌み子の登場だ。復讐の機会がやってきたぜ」
「「「!?!?!?!?」」」
振り向くと、黎の姿がそこにあった。
「な!?貴様は!!」
「お前らのいうところの忌み子だ。さあ復讐のチャンスだぜ?」
「……や、やれ!!」
1人の合図で、黎に向かってジェネレーターが3体同時に襲いかかる。1人は足元から、1人は側面から、1人は少し遅らせて正面からの波状攻撃。多数対1の戦いは、1人の方が圧倒的に不利だ。
常識的には
「3体で足りると思ってんのか?」
黎は自分の周囲に障壁を展開。全員を接近不可能にする。障壁を破ろうとジェネレーターが体当たりを繰り返すが、障壁はびくともしない。
「なに!?」
「この、餓鬼が!!」
驚いた男たちが黎に向かって銃を発砲。しかしこれも黎には届かない。弾倉の弾を全て使い切り、新しい弾倉に取り替えようとしたところで、男の1人が呻き声を上げてその場から消えた。
「な…!?!?」
その頃黎も反撃に出る。身の回りの障壁をジェネレーターたちにぶつけ、壁に叩きつける。その後、3体にかかる重力を急激に増幅。耐えかねたジェネレーターの体は何箇所も陥没し、動きを完全に止めた。その光景を驚愕と恐怖の目で見ていた男たちが声を発する前に、室内の電話から声が響く。
『ハロー、無頭竜東日本総支部の諸君。富士では世話になったな、ついてはその返礼に来た。』
そこから達也の、返礼という名の虐殺が始まった。
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九校戦も最終日を迎えた。今日行われる競技はモノリス・コードのみ。出場するのは十文字、辰巳、服部の3人。3人はエンジニアを含め最終確認をしており、真由美たちはブースに集まっている。が、その中に達也と黎はいなかった。
「応援に行かなくていいの?」
「開始までまだ余裕がありますから」
「てか、呼び出したのはそちらじゃないですか」
藤林の問いかけに、達也が真面目に、黎が冗談まじりに答える。
黎と達也は風間に呼び出されていたが、風間はまだ来ていなかった。5分ほどたった後、風間が真田と柳を連れてやってきた。
「昨夜はご苦労だったな」
挨拶もそこそこに風間は切り出した。
「こちらこそ、ご協力ありがとうございました」
「私事にお手を煩わせてしまい、申し訳ございませんでした」
「私事ではないさ、貴重な戦闘データが取れたんだ。上も満足しているよ」
達也の謝罪に真田が応える。
「ただの犯罪シンジケートではないのですか?」
「達也くん、それに黎くん、『ソーサリー・ブースター』というものを知っているかな?」
黎の疑問に真田が質問で返す。
「名前だけなら」
「自分もです。犯罪集団に広がっている魔法増幅装置だとか。眉唾物だと思っていましたが。」
黎と達也の返答を聞き、真田が続ける
「実在するよ、そして無頭竜はその供給源なんだ。あれはこの世界に存在していいものではない。」
「というと?」
「ソーサリー・ブースターの中枢が何でできているか知っているかい?」
「いえ」
「人間の脳だよ」
「な!?」
達也は絶句し、黎は神妙な面持ちになる。
「より正確には、魔法師の大脳だ」
「なるほど、俺と同類ってわけか」
「「「………」」」
黎の呟きに一同は沈黙する。
「黎、ブースターの作りは君とは全く違う。自分をそこまで卑下することはない」
沈黙を破って風間が黎の呟きを否定する。
「また、そのような感情面を抜きにしても、魔法を増幅するブースターは軍事的にも脅威だ。そういうわけで、上も満足しているということだ」
そう付け加えて、この話は終わりとなった。
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黎と達也は、モノリス・コードの開始前には観客席についていた。深雪やエリカたちと並んで開始を待つ。
程なくして、克人たちが入場してくる。
「…なんか、俺らとは安心感というか、風格が違うっつうか」
「そんなことないですよ!黎さんたちも堂々としていて、不安はありませんでした!」
「お、おう、ありがとうほのか」
黎の苦笑まじりの呟きにすかさず反応が返ってきたことで少し面食らってしまう。そうこうしている間に試合が開始された。
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圧倒的というほかない。一校チーム、というより克人に誰も敵わない。他を寄せ付けない圧倒的な実力を見せ、モノリス・コードは一校が優勝した。
「達也が一条に勝ったからってのもあるだろうな。十師族のものがそうでないものに負けたとあっては、メンツが潰れかねない。十師族の実力を示せ、とでも言われたんだろ」
「ああ、そうだな」
達也が四葉であることを周りに伏せての雑談、黎の知っていることを周りに漏らすことはないという先日の言葉の実践。そんな2人を、克人がフィールドから見ていた。自分の力を誇示しているようにも見えた。その時の克人には、王者の風格があった。
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九校戦の全試合が終了。ダンスパーティーを兼ねた後夜祭合同パーティーが始まった。緊張状態から解放され、会場内はフレンドリーな雰囲気が漂っている。この後夜祭で、毎年遠距離カップルが誕生するほどらしい。深雪や将輝は引っ張りだこであった。黎もある程度知らない人からダンスを申し込まれたが、2人ほどではない。
「あ、あの、れ、黎さ「黎!次は私と!」」
「お、おい姉さん」
ほのかが黎に話しかけようとしたのだが、なかなか黎と踊れずにストレスがたまっていたのか、ほのかに気づかなかった沙織が黎を引っ張っていってしまった。
「あ…」
「大丈夫、まだ時間はあるよ」
しょんぼりしたほのかを雫が慰める。しかし黎は人混みで見えなくなってしまった。パーティー終了までにもう一度見つけるのは難しいかもしれない。
しかしその15分後
「あ、ほのか見つけた」
「え、黎さん!?」
「いやー探したよ、さっきは悪かったな」
「え?」
「話しかけようとしてくれてただろ?姉さんに引っ張られて有耶無耶になっちまったからな」
説明をした後、ひと呼吸おいて腰を折って手を差し出しながらほのかに言う。
「俺と踊ってくれませんか?」
ほのかの顔がパッと明るくなった。
「喜んで!!」
ほのかと踊った後、雫や真由美とも連続で踊り、少し疲れてしまった黎は会場の隅で少し休むことにした。そこに
「八田、少し付き合え」
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「会頭、どうしましたか?まさかダンスのお誘いでもないでしょうし」
人気のない場所に移動し、黎の冗談もスルーして克人が口を開く。
「八田、お前は十師族になる気はあるか」
唐突に予想外の問いを投げかけられる。
「十師族、ですか。まず俺がなれるわけないと思いますが、それを抜きにしてもなる気はないですね」
「なぜだ?」
「八田の人間は、それだけで負い目があるのと同じです。十師族同士でもある程度力関係などがある中で、目に見えたアキレス腱のある八田がそこに入っていけば食い物にされるのがオチでしょう。あの事件以降、八田は日陰で生きていくしかなくなったんです」
「八田としてならな」
「……」
「例えば、七草はどうだ」
このどうだというのは、結婚相手にどうだという意味だ。克人は、八田として十師族入りが難しいなら、ほかの家に婿入りする形でならどうだと言いたいのだろう。
「自分はもう二十八家でもありませんから、今の段階で結婚とか婿入りとかはまだ考えもしていません。それに、それこそ難しいのでは?八田の血を引くものを、わざわざ自分の家に迎えたいと思う家の方が少ないと思いますが」
「そうでもないかもしれんぞ。お前は完全に巻き込まれた身、そして魔法力も突出している。八田家としてのリスクより、八田黎としてのリターンの方が大きければ、可能性は十分にあるだろう。お前も、あまりうかうかはしていられないぞ」
あまり遅くなるなよと続け、克人はその場を後にした。
「…………十師族、うかうかしてられない…か。でも…もううんざりなんだ、家のゴタゴタも、それで人が離れていくのも…」
1人になった黎の呟きは、夏の夜風に消えた。
今回短かったですがこれにて九校戦編終了になります!次はまた短めになると思いますが夏休み編を挟み、横浜騒乱編へと進む予定です。黎の過去も少しづつ明らかにしていくつもりですので、そちらもお楽しみに。ではまたいつか、皆さん体にはお気をつけくださいね、それでは!