第15話
「海に行かない?」
そう雫に誘われ、黎は達也、深雪、雫、ほのか、レオ、エリカ、美月、幹比古と一緒に、雫の家が保有するプライベートビーチに行くことになった。ビーチへ向かうクルーザーにて
「おお、八田くん、久しぶりだね。九校戦での活躍は聞いているよ。」
陽気な声で黎に声をかけたのは北山潮。雫の父で、大物実業家だ。
「ええ、お久しぶりです。今回はお世話になります。」
「ああ、自分の家だと思ってくつろいで行ってくれ」
そう言って差し出された右手に、黎も右手を差し出して応える。
「…うん、やはり見込んだ通りだ。少しいいかね?」
そう言うと、潮は黎を船内のある一室へ通す。
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「それで北山さん、お話というのは?」
「うむ、単刀直入に聞こう。君は今婚約者はいるかね?」
突拍子もない質問に、思わず間抜けな声を漏らしそうになるが、なんとか堪えて冷静に答える。
「いえ、自分にそのような相手はおりません」
「そうか、ならうちの雫はどうだね?」
「……」
言われることの予想は先の質問からついていたが、いざ言われると反応に困ってしまう
「あ、あの、自分はまだ高校生ですので、そのようなことは…
「しかしそうも言っていられないだろう、君ほどの魔法の腕、そして言いづらいが、君の家のこともある。早いうちから決めておくに越したことはない。そして、私の家は君の気にするようなしがらみには捕われない。雫とも仲良くしているようだし、悪くない選択肢だと思うのだが」
「お言葉ですが北山さん、確かに雫さんとは仲良くさせていただいています。しかしそれは友達の域を出るものではありませんし、雫さんもそう思っていると思います」
「もちろん、ただの男ならこのような話はしないさ。大事な娘を託すわけだからね。しかし、私の見たところ、君は雫からただの友達以上に信頼されているように見える。まあ、今日のところは話だけだ。頭の片隅にでもおいておいてくれ」
「は、はい」
「それでは、バカンスを楽しんでいってくれ、失礼する」
そう言い残し、潮は部屋を後にした。
「……うかうかしてられない、ね」
黎は先日克人に言われた言葉を思い出していた。
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途中大きなトラブルもなく、一行はビーチに到着した。
「うーん、いいねえ」
眼福な光景である。集まっている女子メンバーは全員美少女と言えるレベルであり、そんな美少女たちが集まって水着ではしゃいでいるとなれば、健康的な男子高校生であればテンションが上がるのは必至であろう。レオと幹比古は沖の方で競泳しており黎は砂浜で達也とくつろいでいる。
「エデンはここにあったんだな」
「黎、言い方がなんだかおっさん臭いぞ」
と言いながらも、達也も否定はしなかった。そこへ
「2人とも、泳がないの?」
件の美少女たちが黎たちを誘いにやってきた。雫が代表して声をかける。
「そうだな、泳ぐか」
「せっかく海にきたんだしな」
2人とも誘いに乗って泳ぐことにした水に入るため、上着を脱ぐ。その瞬間、その場の空気が変わった。しまった、と思った時には遅かった。
「達也くん、黎くん、それって…」
上着を脱いだ2人の身体は、鍛え上げられてよく引き締まっていているが、みんなが驚いたのはそれが原因ではない。達也の身体には無数の切り傷と刺し傷。そして少量の火傷の跡。黎の身体には達也ほどの傷はないが、達也よりも大きく、凄惨な火傷の跡があった。
「すまない、あまり見ていて気持ちのいいものではないな」
「悪い、びっくりさせちまったな」 そう言って2人は脱いだ上着を着直そうとする。が、
「大丈夫ですよ、お兄様。私はお兄さまの身体が見苦しいだなんて思いません」
達也の腕に深雪が抱きついていた。ピッタリと密着した身体は布一枚隔ただけだが、それを気にする様子はない。
「わ、私も、黎さんの身体をそんなふうに思うことはありません」
と言って黎の手を取ったのはほのか。こちらは流石に恥ずかしかったのか、深雪のように抱きつくことはしなかったが、黎の右手を両の手でしっかりと握って、まっすぐ黎を見つめている。気にならないはずがない。深雪はともかく、ほかのメンバーがこの身体を見て何も思わないわけがないのだ。しかしそれでもみんな気にしないと言ってくれている。
「ありがとな、じゃあ泳ぐか」
みんなの心遣いに感謝し、それ以上その話題に触れずに泳ぎに行くことにした。
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夕食はバーベキューだった。海を見ながら食べる肉は、いつもより美味しく感じた。そして夕食も終わり、現在各々くつろいでいる。そんな時だった。
「少し外に出ませんか?」
ほのかが黎に声をかけたのは。
「ん?ああ、構わないよ」
黎は二つ返事でこれを承諾。2人で砂浜に出て行く。周りのみんなも空気を読んで、ついてくることはなかった。
数分ほど並んで砂浜を歩いた。そして、ほのかから切り出す。
「黎さん、その…」
少しのためらいの後、勢い良く口に出す。
「い、今、付き合っている人いらっしゃいますか!?」
顔を真っ赤に染めたほのかが黎をまっすぐ見つめて尋ねる。
「い、いや、いない、けど」
「じゃあ、す、す、好きな人は…?」
歯切れの悪い黎の回答に不安になったのか、先程の勢いがなくなっている。
「いや、それもいない、な」
「そ、そうですか。…あ、あの私「俺はな、ほのか」」
さらに続けようとするほのかにかぶせるように黎が話し始める。ほのかの言葉を最後まで聞いてやるべきか迷ったが、迷った末に先に伝えることにした。
「俺に、誰かを愛する資格なんてないんだよ」
「……え?」
理解できないというほのかに黎は続ける。
「俺の家は、元々二十八家の一角だったんだ。でも、あることがきっかけで、その地位を剥奪され、今も肩身の狭い家だ。そしてそのあることに俺は関わっていた、というより、俺がそのあることの引き金だったんだ。それに関わってた人間の大半が死んで、いや、俺が殺したようなもんだな。大半を殺し、その生き残りが俺だ。‘‘八田の忌み子‘‘って言われてる。俺にはだれかを愛する資格も、愛される資格もないんだ」
理解できない、という顔のほのか。当然だろう。いきなりこんな話をされて理解できるわけがない。
「だから付き合ってる人もいないし、好きな人もいないよ」
笑ってそう続ける黎。その答え自体は確かにほのかの望んでいたものだったろう。しかし、あんな話をされた後で自分の思いを伝えるなど、そうそうできることではない。
「それでも。私は黎さんが好きです」
「ほのか…?」
しかしほのかは言葉を振り絞る。
「黎さんの過去は、私が想像できないほど辛いものだったんだと思います。その責任を感じているのもわかります。でも、今の黎さんはすごく素敵な人だって、私は知ってます。過去に何があったとしても、私は今の黎さんが好きです」
「ほのか…」
「それに、今好きな人や付き合っている人がいないなら、私が黎さんを好きでいても問題ないですよね?」
「あ、ああ」
「じゃあ私は黎さんを好きでいます。他に好きな人ができるまで、ですけど!」
そう言って先に戻るほのか。しかし黎は気づいてしまった。ほのかの両頬を涙が伝っていたことに。
「俺に愛し愛される資格なんて…」
その後もしばらく黎は砂浜に1人立ち尽くした。
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バカンスから戻ってしばらくしたある日、黎は達也から「2人で会えないか」という連絡を受けていた。
「珍しいな、どうした?達也」
黎の家に達也を呼び、お茶とお菓子で一通りもてなした後、黎から尋ねる。
「ああ、ある人物から伝言を預かってきた」
「ほう、誰からだ?」
達也は思いもよらない人の名前を口にする。
「四葉真夜、四葉家現当主からだ」
「………は?」
「会って話がしたいらしい。都合のつく日を教えてくれとのことだ」
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数日後、指定された場所に向かうと、四葉の迎えの車が来ていた窓を完全に閉ざし、外を見えなくしており、本家の正確な位置を隠すためであろうことが窺える。しかし、それならそもそも黎を呼び出す必要すらないのではないか。と思った黎だったが、もちろん口には出さない。しばらくして、本家に到着した。案内されるまま家の中を進み、応接室のような部屋で待つ。数分後、四葉真夜が執事を連れて現れた。
「はじめまして、八田黎さん。四葉家当主、四葉真夜でございますわ。ご足労いただきごめんなさいね」
「八田黎です。とんでもありません。してどのようなご用件で?」
「うふふ、分かっているのでしょう?達也さんのことよ」
今回はここまでにします。お察しの通り、今作のヒロインはほのかで進める予定です。理由ですか?作者の趣味です() あくまで予定なので、変更する可能性もなきにしもあらず…? 黎の過去ですが、横浜騒乱編の後まとめて書こうと思っっております。それまでいままでのように小出しにして行くことはあると思いますが。
一話ごとの文字数を少なくしているので、次も早めにあげられるよう頑張ります。また、誤字報告をいただきました、ありがとうございます。かなり細かいところまで読んでいただいているのが分かって、うれしかったです。今後ともよろしくお願いします。それでは、ここまで読んでくださり、ありがとうございました。