第17話
『五号物揚場に接岸した小型貨物船より不法入国者が上陸しました。千葉警部、稲垣警部補は至急急行してください』
無線で届いた指令を聞き、2人の刑事が疾走する。
「やれやれ、やはりあそこか」
「ぼやいている場合じゃありませんよ警部!」
「しかしだね稲垣くん」
「つべこべ言わずに走る!」
「俺は君の上司なんだが?」
「年は自分の方が上です」
緊急の任務が入ったとは思えないやりとりを繰り返しながらも、2人は魔法によってどんどん加速、一気に密入国者たちとの距離を詰める。逃げきれないと判断した入国者たちは振り返り迎撃の態勢を取った。しかし千葉の魔法によるトリッキーな動きと見事な剣さばき、稲垣の的確な援護射撃によってたちまち制圧されてしまう。
「警部、船を抑えましょう!」
「じゃあ稲垣くん、船を止めてくれ」
「自分では沈めることになるかもしれませんが」
「構わないよ、責任は課長が取るだろう」
自分が取る、とは言わないのかと肩をすくめながらも、稲垣が魔法を小型船舶に向けて放つ。それは的確に船を貫いた。
「お見事」
称賛を口にしながら千葉が跳躍。船へ飛び移り、着地と同時に船室扉を真っ二つに切り捨てる。しかしそこはもぬけの殻、乗組員たちはすでにハッチから脱出していた。
「チッ、空振りか」
昇り始めた朝日を背に、千葉寿和は西に目を向けた。
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千葉が見据えていた先、横浜の有名な繁華街の、裏路地にある飲食店の裏庭の井戸から、続々と男が這い出す。
「まずは皆さま、着替えておくつろぎを。朝食を用意してあります。」
長髪の、貴公子という言葉が似合う青年が笑みを浮かべて男たちを迎えた。
「周先生、ご協力感謝します」
中年の男性が、ぞんざいな口調で形式だけの謝辞を述べる。そのまま周と呼ばれる青年に連れられ、建物の中に入って行った。
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第一高校の新生徒会発足から一週間が過ぎた。現在は昼休みであり、黎は達也たちE組のメンバーと学食で固まって座っている。
「お待たせいたしました」
そこへ深雪、ほのか、雫がやってくる。新学期が始まって以降、このメンバーで昼食を食べるのが日常となっていた。今日は3人が生徒会の仕事で遅れるとあらかじめ連絡されていたので、それを咎める者はいない。
「ご苦労さん」
黎が達也たちを代表して労う。待ったといっても時間は10分ほど。生徒会の仕事という理由なのだし、気にする必要はない。
「すみません黎さん、私のせいで遅くなっちゃって」
夏休みのあの告白以降、ほのかは黎のちょっとした言葉や表情に過剰に反応するようになっていた。ポジティブな過剰反応ならいいのだが、ネガティブな方はなんだか自分が女の子をいじめているような気になっていたたまれない。
「いや気にしなくていいよ、始まったばっかだし慣れないだろ?」
「そーそー、気にすることないって」
「まだ一週間だからな」
黎の言葉にエリカとレオも気を利かせて追従する。ほのかはほっとしたように腰を下ろした。
「でも八田君、今日のは本当にほのかのせいではないんですよ。職員室からいきなり『一昨年の記録を出せ』と仰せつかりまして、生徒会室でずっとデータベースを検索していたんです。雫にも手伝ってもらって」
「でも、深雪はすぐに見つけたのに、私の手際が悪かったから……」
深雪の言葉を聞き、ほのかはますます縮こまってしまう。
「深雪はあのシステムを4月から使ってるからな。ほのかは入ったばっかだし、あのシステムは分かりづらいからな。俺も最初は結構手間取った」
黎が自身の経験も踏まえてほのかを慰める。ところで、今のやり取りの通り、ほのかは新生徒会役員に任命された。新生徒会の顔ぶれは、会長・中城あずさ、副会長・司波深雪、書記・光井ほのか、会計・五十里啓である。黎は生徒会から退き、風紀委員に任命されていた。理由は、新風紀委員長である千代田花音が引き抜いたからだ。摩利が抜けた穴は大きく、戦力の補充という意味で新歓期間にも活躍した黎に白羽の矢が立ったというわけだ。
「ところで達也、論文コンペのメンバーに選ばれたんだって?」
昼食中、黎が口を開く。
「ああ、代理だがな」
深雪は聞かされていたから別として、他の面々は驚きを隠せない。
「論文コンペの代表って、全校で3人だけじゃありませんでした?」
「まあね」
「まあねって…達也くん感動薄すぎ」
「達也にしてみりゃ、そのくらいは当然ってこったろ」
「いや、やっぱりすごいよ!」
エリカ、レオの言葉の後、幹比古が興奮気味に続ける。しかし続けて心配そうに達也に尋ねる。
「だけど、もう日がないんじゃなかったかい?」
「学校への提出まで、正味9日だな」
「そんな!もうすぐじゃないですか!」
「大丈夫だよ、俺はあくまでサブだし、市原先輩の取り組んでいたテーマが俺の全く知らないテーマというわけでもなかったからね」
「なるほどな、重力制御魔法式熱核融合炉だっけか」
「ああ」
「黎くんどうして知ってたの?」
「風紀委員は論文コンペの執筆者の警備に当たることになってるからな。内容をちょっと聞かされてるんだよ」
エリカの疑問に答え、達也の方を向いて続ける
「で、市原先輩と五十里先輩はもう護衛が決まったからいいとして、問題はお前をどうするかなんだが」
「必要ないぞ」
「ま、そう言うと思ったけどな」
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その日の夜、黎は風間から連絡を受けていた。
「こんばんは、風間さん。九校戦以来ですね」
「そうだな、変わりないようで何よりだ」
「お陰さまで。それで、今日はどのようなご用件で?」
「ああ、先ほど、大黒竜也特尉が襲撃にあった」
風間から告げられた言葉に、黎は驚きを示した。
「ほう?相手の正体はわかってるんですか?」
「うむ、夜間、光学スコープのみで1000メートル級の狙撃を成功させるほどのスナイパーを遣わしてきたらしい」
「それほどの腕のやつを雇えるほどの組織ってなると…あ、まさか…風間さん、先日密入国事件がありましたよね?」
聞いた情報と知っていた情報が繋がる。風間は満足そうに頷いた。
「ああ、無関係とは言えんかもしれんな」
「大亜連合…?」
「の、可能性もある。万が一の時は、大黒特尉だけでなくお前にも協力してもらうかも知れん」
「分かりました、こちらでも警戒しておきます」
「ああ、くれぐれも気をつけてな」
「ありがとうございます、失礼します」
通話を切った後、続けて別の所に電話をかける。
「もしもし」
「ああ、深雪?悪いな夜分に。達也いるか?」
「お兄様ですか?少々お待ちを」
パタパタという足音が聞こえ、少しの間沈黙。その後しばらくすると達也がモニターの前に現れた。
「待たせたな」
「いや、悪いな突然」
「構わないさ、用件にも察しは付いている」
どうやら黎が連絡してくることは想定済みだったらしい。
「なら話が早い。俺は大亜連合だと思ってるんだが」
単刀直入に切り出す。達也も頷いて答えた。
「ああ、その可能性が高いかもな。先ほどうちのホームサーバーがクラッキングにあった。手並から見て、素人のものではなかったし、どこか大きい組織が絡んでいると見て間違いない」
「まじか…大丈夫だったのか?」
「ああ、だが途中で接続を切られてしまってな。攻撃元は掴めなかった」
「へえ…で、狙われる心当たりはあるのか?」
「ああ、ちょっと珍しいものを預かった」
そう言って達也が取り出したのは、勾玉のような形をしたものだった。
「それは…レリックか?」
「ああ、ひょんなことから預かることになってな」
「ふーん、ま、深くは聞かねえけどよ。気をつけとけよ。なんかあれば力貸すからな」
「ああ、ありがとう」
もう夜も遅かったので、挨拶もそこそこにそのまま通話を切った。
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「やっぱ、達也にも一応護衛をつけておいた方が良くないですか?」
次の日、摩利と花音を交えて鈴音と啓に達也が昨夜のクラッキングの件について共有したところで、黎が摩利に提案する
「しかし、達也くんが不要だと言ったからな」
「ホームサーバーのクラックを仕掛けられるなんて前代未聞でしょう?相手がわかってない上に、何をしてくるかもわからない。念には念をってやつですよ」
そう言って達也に目配せする。達也もその意図を理解する。
「確かに黎の言うことも一理ある。じゃあ黎に頼んでもいいか?」
「ああ、引き受けた。渡辺先輩、構いませんよね?」
「あ、ああ、達也くんと黎くんがそれでいいなら」
黎の意図はもちろんただの護衛ではない。達也と近くにいる方が、敵や諸々の情報共有がしやすいと考えたからだ。
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その日の放課後、達也と黎は、啓と花音と論文コンペで使用する道具を買うため、駅前の文房具屋に来ていた。
一通り買うものを揃え、黎と達也が先に店を出る。
「…達也」
「ああ、あの木の裏だな」
「こりゃ素人だな。昨日のハッカー連中とは別口じゃねえのか?」
どうしようか悩んでいると、会計を済ませた啓と花音が店から出てきた。
「お待たせ、どうしたんだい?」
「いえ、監視されているようなので、どうしようかと」
「監視!?スパイなの!?」
達也の言葉を聞き終わる前に、花音は黎と達也が見ている方向へ走り出す。しかし、そんな大声をあげれば相手に「逃げろ」と言っているのと同じだ。案の定気配が遠ざかる。しかし花音は陸上部のスプリンターだ。見る見るうちに距離を縮め、視界に自分たちと同じ制服をとらえる。驚いた花音だが、追う足は止まらない。女子生徒は逃げきれないと判断したのか、振り返って小さなカプセルを放つ。一瞬反応が遅れた花音は、直撃は避けたものの激しい閃光に襲われる。次に花音が目を開けた時、少女はスクーターにまたがって逃走しようとしていた。花音は反射的に『地雷源』でスクーターを止めようとする。しかしその魔法は達也によって防がれる。
「司波くん!何をするの!?」
「花音!だめだ!」
啓は叫ぶと同時に、タイヤの摩擦力をゼロにする魔法で足止めしていた。続けて黎も魔法を発動。黎の手から1本の光が伸び、スクーターの後輪を焼き切った。
終わった。誰もがそう思った。しかし、追い詰められた人間は何をするかわからない。少女はハンドルの左にあるボタンを押し込んだ。すると途端にマフラーの様子がおかしくなる。
「おいおい、まさか…」
そのまさかだった。突如2本のロケットエンジンが出現し、爆発。啓の魔法に抗って、後輪を引きずる形でスクーターは急発進した。
「…ずいぶんと無茶すんだな」
4人はスクーターを唖然として見送った。
今回はここまで。話があまり進まず、申し訳ありません。コロナで家から出ない生活が続いているので、次も早く投稿できるよう頑張ります。ご意見ご感想ありましたらお気軽にお寄せください。それでは、ここまで読んでくださり、ありがとうございました!!