翌日、第一高校では論文コンペに向けて屋外実験を行なっていた。達也、啓、鈴音の3名に加え、手伝いや警備、そして見学の生徒で校庭は溢れかえっている。その中で、不審な機械を操作している女子生徒が1人。
「あの子…」
紗耶香がその女子生徒を追って駆け出す。
「さーや、どうしたの!?」
「おい、壬生!?」
駆け出した紗耶香を追ってエリカと桐原が駆け出し、一歩遅れてレオがそれを追う。
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「待ちなさい!」
女子生徒は足の速さでは敵わないと判断したのか、立ちどまって振り返る。
「なんですか?」
「あなた、一年生ね。私は2年E組の壬生紗耶香。あなたと同じニ科生よ」
「…1年G組、平河千秋です」
ふてぶてしい声で名乗った千秋に、紗耶香が詰め寄る。
「平河さん、あなたが手に持ってるそれ、無線式のパスワードブレイカーでしょ?」
紗耶香の指摘に千秋は大きく目を見開いて慌てて手に持つ端末を背中に隠した。
「隠してもわかるわ。あたしも…スパイの手先になったことがあるから」
紗耶香は顔を辛そうに歪めながら続ける。
「でも、だからこそ忠告するわ。どんな連中か知らないけど、今すぐ手を切りなさい」
しかし千秋には届かない。
「先輩には関係のないことです」
「放っておけるわけないでしょう!相手はあなたのことをただ利用して使い捨てるだけよ!」
「そんなの当然じゃないですか!私は別に、何かが欲しくてあいつらと手を組んだんじゃないんですから!」
説得に応じる気配はない。こうなれば多少手荒になっても仕方ないと、紗耶香は判断した。
「桐原くん」
「ああ」
桐原もその意図を理解し、2人はゆっくりと千秋に詰め寄る。その瞬間
「伏せて!!」
エリカの声とともに、千秋の手から小さなカプセルが放たれる。閃光弾だった。紗耶香はエリカに庇われ光の直撃は避けたが、桐原はまともに食らってしまう。千秋が右手を紗耶香へ向けると、袖口からダーツが飛び出す。光の遮断に成功したエリカがダーツを払った。割れたダーツから煙が上がる。
「神経ガス!?」
相手は予想以上に周到だった。そのまま右手をこちらに向けながら後ずさる千秋。これでは迂闊な真似はできない。
「うおおおおお!!!」
はずだった。芝生に伏せていたレオが、千秋に向けて突進する。慌てて袖口をレオの方に向けるが、間に合わなかった。レオのタックルが間に合い、千秋は地面に倒れ意識を失った。
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「はあ…市原先輩の護衛をほっぽってどっか行ったと思ったら…あんたたちやりすぎよ」
花音がため息をつきながら言う。騒ぎを聞きつけて、花音と黎が保健室に来ていた。桐原と紗耶香はバツの悪そうな顔をしている。
「行こうぜ、またな、黎」
「ああ、気をつけてな」
エリカとレオは花音が来たことで自分たちの役目は終わったとその場を後にした。
「それで、この生徒の容態はどうなんですか?安宿先生」
「心配ないわ、ちょっと頭を打ってるだけだから、じきに目を覚ますわよ」
黎の問いかけにおっとりした声で安宿は答えた。
「じゃあお手数ですけど、この子が目を覚ましたら連絡をいただけませんか?
」
「いいわよ。あ、でも逃げられても文句は言わないでね。私は戦闘能力皆無なんだから」
「先生が怪我人を逃すわけないじゃないですか」
安宿の言葉に、花音は苦笑しながら頷き、黎と紗耶香と桐原を連れて保健室を後にした。
「ちょろすぎると思いませんか?」
「何が?」
紗耶香と桐原と別れた後、中庭へ向かう途中の黎の質問に、花音が質問で返す
。
「どこかしらの使いにしては手際が悪すぎる。聞けば、ハッキングツールをそのまま手に持っていたとか。そんな素人に全てを任せるはずがない。間違いなく他に本命がいる」
「…一理あるわね」
「まあでもこちらは基本受け身になるしかありません。警戒を強める、しかできることがないので、護衛の俺たちの仕事も重要になってきますね」
「ええ、そうね」
黎の言葉を聞き、花音は一層気を引き締めた。
「なら、あたしが教えてあげる。秘剣・薄羽蜻蛉、あんたにぴったりの技をね」
帰り道、エリカはレオに本気で関わる覚悟、つまり相手を殺す覚悟を問い、レオが肯定で返した。
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「一昨日も無茶したわね」
安宿から連絡を受け、花音、黎、五十里が千秋を訪ねて保健室に来ていた。
「なんでデータを盗み出そうとしたの?」
問いかける花音の口調は優しく、責めるような印象を与えないものだった。それが奏功したのか、うつむいていた千秋がぽつぽつと口を開く。
「あたしの目的は、プレゼン用の魔法プログラムのデータを書き換えて、使えなくすることです」
直後、花音の身体がピクリと震えた。怒りをこらえているのだろう。花音の最愛の人である五十里の晴れ舞台を失敗させようというなら、怒るのも無理はないだろう。それを察して黎が口を開こうとした花音を
制し、代わりに口を開く。
「うちのプレゼンを失敗させたかったのか?」
「違います!悔しいけど、あいつはきっとリカバリーしてしまう。でも、ちょっとくらい慌てるに違いないって思ったんです!」
「嫌がらせでやったのか?ことと次第によっちゃ退学もんだぞ」
「構いません!あいつに・・・一泡吹かせられるなら・・・」
嗚咽交じりに話す千秋を見て、黎は考えを巡らせる。
(何かおかしい・・・逆恨みだけでここまで大掛かりなことをするか・・・?)
「平河千秋くん、君は、平河小春先輩の妹さんだね?お姉さんがああなっちゃったのは、司波くんのせいだって思ってる?」
五十里が千秋に声をかける。平河小春は、九校戦でのアクシデントに責任を感じ、退学まで思い詰めていた。
「だってそうじゃないですか。あいつが小早川先輩を見殺しにして、そのせいで姉さんは責任を感じて・・・!」
(試してみるか)
「要は逆恨みってことだろ?あの事故の責任が達也にあるってんなら、それは技術スタッフ全員の責任だろ、あんたの姉さんも、ここにいる五十里先輩も含めてな。達也個人を恨むのは御門違いなのが分からねえのか?」
「姉さんに気づけないものを、他のスタッフが気づけるわけないじゃない!あいつだから気づくことができたの!あの人だってそういってたわ!!」
(あの人・・・か。おそらく精神干渉魔法だな。勘違いや恨みを増幅させ、操ってるのか)
「ハイハイそこまで、続きは明日にして頂戴。彼女の身柄は一晩魔法大学附属病院で預かります」
安宿がストップをかけ、黎たちは保健室を後にした。
「八田君、ああいう追い詰めるような言い方しなくてもよかったんじゃないの?」
保健室を出た後、黎は花音に先の言動をとがめられていた。
「すいません、どうしても確かめたいことがありまして」
「確かめたいこと?」
「ええ、ま、収穫はなかったんですけどね」
千秋が操られていると花音が知れば、花音の性格上単独で動くかもしれない。そうなったとき、別行動している黎に守り切れるといいきれない。余計な情報を与えることは避けた。
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その日の帰り道、一人で路地を歩く黎は、何者かに後をつけられていた。迂回、回り道をして撒くことを試みるが、しつこくついてきている。
(面倒だな・・・人目のつかないとこに行くか)
黎が向かったのは人通りのほとんどない裏路地。それも袋小路だ。チャンスと見たのか、男たちが一気に詰め寄ってくる。
(3、4、5・・・5人か)
詰め寄ってきた男たちと向き合う黎。そこに焦りや恐怖は全くなかった。
「何の用だ?一介の男子高校生1人に大の大人5人で後つけてきやがって」
「抵抗しないなら命は助けてやる」
「会話ができねえ奴だな、何の用だって聞いてんだけど」
「おとなしくしてろ」
どうやら有無を言わさないつもりらしい。
「ふう、元気なうちはこっちの話を聞く気はねえか。いいぜ、来いよ」
男たちは5人で一斉にキャストジャミングを放った。通常の魔法師ならとても戦闘できるような状況ではない。しかし相手が悪かった。
「それ、俺には効かねえから」
黎にキャストジャミングは通じない。サイオン波を一人の男に向けて放つ。何か魔法を使ったわけではない。ただサイオン波を打ち込んだだけで、男は倒れて動けなくなってしまった。
「な?お前らじゃ無理だ。おとなしく用件とだれの指示で動いてんのかを言えよ」
しかし男たちは何も言わず、今度は一斉に銃を発砲した。銃は魔法師にも等しく有効で、殺傷性も十分だ。
命中すれば
「だから無理だって。お前らじゃ、俺に傷一つつけらんねえよ」
黎は発射された弾丸すべてに加重魔法を発動。重力に耐えかねた弾丸はその場でつぶれ、地面に次々に落ちた。さすがにこれには動揺したのか、数瞬のためらいがあったが、先ほど倒れた1人以外の4人はナイフを片手に体術勝負に出る気のようだ。
「学習しねえな。もういいや」
黎は「朝」を発動。周囲をまばゆい光が満たし、男たちは視界を奪われる。視界の回復した男たちが次に見たのはーー
腹に穴の開いた自身の身体だった。顔が痛みと驚愕によって歪み、声にならない叫びをあげて男たちは意識を手放した。
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「では、何かわかったら教えてください、藤林さん」
「ええ、黎くんにけががなかったのが何よりだわ。気を付けてね」
その後、101に連絡を取り、男たちの身柄を拘束しに来た藤林達に引き渡して黎はその場を後にした。
(一応達也に知らせておくか)
携帯を取り出し、達也に先ほど起こったことをメールで報告する。情報が分かり次第共有するということも書き添えておいた。
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「八田黎の確保は失敗したのか」
「ええ、向かった5人全員返り討ちにあい、身柄を拘束されました」
薄暗い作戦室の中、男が不機嫌そうに副官に尋ね、副官が淡々と事実を述べる。
「・・・八田についてはいったん放置だ。何よりもまず魔法に関するデータの奪取が最優先だからな。人員はそちらに当てろ。呂上尉」
「是」
「八田の始末はお前に任せる。手段は問わんし埒も狙わなくていい、とにかく消せ」
「是」
静かな返事を返す声とは裏腹に、一匹の虎は薄暗い部屋の中で獰猛な笑みを浮かべていた。
自分の書いたものを見てくれる人がいて、感想をくれるってのはそれだけでモチベになるんですね。今後ともマイペースにですが書いていこうと思ってます。