入学式の日なので、午前中で放課となった。先ほどの一件で、まだ男子の友達がクラスにできていない、(黎自身も森崎のようなタイプの人間と友達になりたいとも思っていない)かと言っていきなり女の子に絡みに行っては、妙な噂が立ちかねない。少し考えた後、黎は達也たちの所へ向かうことにした。そして教室を出たその時、
「八田黎くん、司波深雪さん、すこしいいかしら?」
聞いたことのある、と言うかさっき聞いた声だ。声のした方を向くと、真由美が立っていた。
「はい、七草先輩、なんでしょうか?」
「あ、黎くん、司波深雪さんいるかな?」
「はい、七草会長、司波深雪です」
「ああ、司波さん、ごめんなさい。2人ともちょっと付いてきて貰えませんか?」
にこやかな顔で真由美は2人に同行を求める。
「構いませんが、どちらに?」
黎が尋ねると、
「生徒会室よ、2人に相談したい事があってね」
生徒会、その言葉を聞いて、黎は逃走を試みる。
「あ、すみません七草先輩、予定を思い出しました。申し訳ありませんが自分は…「大丈夫よ、そんなに時間は取らせないから。」
失敗に終わった。
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生徒会室では、案の定生徒会へ入らないかと勧誘された。どうやら主席は生徒会へ入るという慣例があるらしい。それなら自分はなぜ呼ばれたのだと尋ねると、次席ながらも例年と比べてもかなり優秀な成績だったので、とのこと。とりあえず今日は話だけということで、互いの自己紹介だけ済ませると、黎と深雪は退室した。
「えっと、司波さんって達也の妹なんだよね?」
「お兄様をご存知なんですか?」
深雪が驚いた顔で尋ねてくる。
「ああ、さっき森崎達が言ってた、入学式の時に隣にいた2科生ってのが、達也なんだ。」
「そうだったのですか。あの、できれば、お兄さまとこれからも友達でいてはくれませんか?」
兄を気にかける優しい妹だと思った。
「もちろん、達也がいいなら俺は歓迎するよ」
「はい、ありがとうございます!」
2人とも1-Eに向かうということで、そのまま2人で向かった。
どうやら深雪も黎と同じく、ブルームだウィードだと生徒を区別(差別)することに反対らしい。入学式の答辞からある程度予想は出来たが。
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1-Eに着くと、達也はエリカたちと話をしていた。それを見て深雪の顔が一瞬引きつったのを黎は見逃さなかったが、突っ込むのも野暮だと思いスルーした。
「あ、おーい黎くん」
エリカが最初に気づいて声をかけてきた。
「よっす、エリカ。さっきぶり」
「お待たせしました、お兄様」
「早かったね、深雪」
黎がエリカに挨拶を返し、深雪が達也に駆け寄り、達也がそれに応える。
「お?達也が言ってた一科の男子か?」
ガタイのいい男子生徒が黎を見ながら達也に尋ねる。西城レオンハルトと言うらしいその男子はとてもフレンドリーで仲良くできそうだ。
とりあえずその場の全員の顔合わせが終了した所で、深雪が達也に可愛らしい笑顔で尋ねる。
「ところで、お兄様。さっそくクラスメートとデートですか?」
周りの温度が少し下がった気がするのは気の所為だろうか。黎の中で、薄々感じていた深雪ブラコン疑惑が着々と固まりつつあった。
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黎たちは、そのまま近くの喫茶店で昼食を取ることにした。オシャレなカフェと言うこともあり、みんなで(主に女子)でお喋りに興じていた。日が傾いてきたところでお開きになり、各々自宅へと向かった。
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その夜、黎は自室のベッドの上で色々考えていた。
(とりあえず友達もできたし、楽しくやっていけそうだな。達也は''あの''事に勘づいてそうだけど、まあ悪いやつじゃなさそうだし、大丈夫だろう。生徒会はまだ分かんねえけど、まあやってもいいか。)
などなど、これからのことに思いを馳せるうちに、自然に眠りについたのだった。
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翌朝、黎は5時半に目を覚ました。始業は8時なのでまだ寝ていても全く問題ないのだが、せっかく目覚めたのだし、徐々に明るくなる外を見ると、今日もいい朝になりそうだと思い、軽く外を走ってみることにした。
「ん?達也と深雪?」
ジョギング中、見知った2人の顔を見つけた。2人とも魔法で道路を疾走している。先に気づいたのは達也だった。
「おはよう、黎」
「おはようございます、八田くん。」
達也に続いて深雪も挨拶してきた。
「おはよう、2人とも。早いんだな」
「少し行くところがあってな」
「そうか、んじゃまた学校で」
2人の目的地が気にならないでもなかったが、詮索するのは良くないと思い、そのまま2人と別れて家へと向かった。 シャワーを浴び、着替えて朝食を済ませ、自分の昼食を作った(一人暮らしの長い黎にとって珍しいことではない)後、通学のために駅へと向かった。1人用のコミューターに乗り込み、一高前の駅で降りて、そこから歩いて通学する。 途中、先程も見た知り合いを見つけた。
「おっす、達也、深雪。何だか鉢合わせが多いな」
「黎か、そうだな」
「凄い偶然ですね」
そして、偶然とは重なるものだ。
「あら、黎くんに達也くん、それに深雪さんも」
声のした方を向くと(向かずとも誰なのかは分かっていたが)、真由美がニコニコと手を振りながらこちらに近づいてくる。
「会長、お一人ですか?」
「うん、朝は特に待ち合わせはしないから」
達也の付いてくるのか、という言外の問いに、肯定を返す真由美。
「あのね、昨日の生徒会の件でお話したいことがあるんだけど、今日お昼空いてるかしら?」
結局、黎たち3人とも生徒会室で昼食をとることになった。
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昼休み、深雪が席を立とうとする前から、彼女の周りに人が集まる。昼食の誘いだ。深雪はやんわりと断っていたが、それでも周りの生徒は食い下がる。
「深雪、いこうぜ、達也も待ってる」
黎の言葉に場は少し静かになった。しかしここで達也、二科生の名前を出すのはまずかったか、周りの目が冷たくなる。
「ごめんなさい、今日は生徒会の皆さんと頂くことになっているので」
群がる生徒に今度はキッパリと断りを入れ、深雪と黎は教室を出る。
黎の背中に怒りのような視線が沢山刺さっていたが、気にしないことにした。その後達也と合流し、生徒会室へ向かった。
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「失礼します、一年生の八田と司波深雪、司波達也です。」
入室し、昼食をとる。黎が弁当を自分で作ってきたのにはみんな驚いていた。弁当にかこつけて、司波兄妹がイチャついていたが、ここでは割愛しておく。とりあえず2人とも生徒会に入る意思を伝えた。なにやら生徒会に入ると、色々と特権があるらしい。これを利用しない手はないと密かに思う黎だった。
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時間は進んで放課後、少しばかり面倒ないざこざが起きていた。
「いい加減諦めたらどうなんですか?深雪さんは、お兄さんと一緒に帰ると言っているんです。いったいなんの権利があって2人の仲を引き裂こうというんですか!?」
丁寧ながら、正論を叩きつけて雄弁を振るうのは美月。きっかけは、深雪が達也たちと帰ろうとするのをA組の生徒達が嫌い、一科と二科のけじめだの相応しくないだの散々なことを言ったのに加え、挙句の果てに達也たちを虫でも払うかのように早く帰れと促す。その支離滅裂で理不尽な発言と横暴な態度に、美月たちがキレるのも無理はない。なお、『仲を引き裂く』というワードに達也が困った顔をし、深雪が照れて顔を赤らめたが誰も触れなかった。
「僕達は彼女に相談事があるんだ!」
「そうよ!司波さんには悪いけど、ちょっと時間をとらせてもらうだけなんだから!」
A組の生徒の取ってつけたような理由を、レオとエリカが笑い飛ばす。
「ハッ!そういうのは自活(自治活動)中にやれよ!時間がもうけられてるだろ?」
「相談なら先に深雪の同意を得るのが筋じゃないの?本人の意思を無視して相談も何もあったもんじゃないの、それがルールなの。高校生にもなって、そんなことも知らないの?」
2人の物言いにA組の生徒たちもキレた。
「うるさい!他のクラス、ましてやウィード如きが俺たちブルームに口出しするな!」
見ていられない、というのが黎の感想だった。更に反論しようとした美月を手で制し、口を開いた。
「お前らその辺にしとけよ、今の自分たちを客観的に見てみろ、どれだけ恥ずかしいことしてるか分からねえのか?論理だって話も出来ねえのにプライドだけは一丁前なんだな」
「うるさい!ウィードの味方をするなんて、ブルームの恥さらしが!」
昨日教室で同じようなことを言われた気がする。しかしその後は違った。森崎がCADを操作し始めたのだ。魔法の私的な対人使用は法律違反だが、それを咎める人間はこの場にはほとんどいない。
「見せてやる、これがブルームの力だ!」
そういって魔法を発動させようとした森崎のCADを突如何者かが叩き落とした。
「この間合いなら、身体動かした方が速いのよね」
エリカだった。武装一体型CADと見られる警棒の様なもので、魔法を発動させる前に森崎に近づいて防いだ。しかし、これを皮切りに、逆上したA組の生徒達は一斉にCADを操作し始める。
「なめやがって!」
「ウィードのくせに!」
「みんな、ダメ!」
などと憎まれ口を叩きながら(1人止めようとしている生徒もいたが)、何人もの生徒が魔法を発動させ……ることはなかった。
「いい加減にしろ!」
という黎の言葉と同時に
「やめなさい!」
という声も響く。同時に離れた所からサイオンの塊が飛んでくる。不幸にも、それは暴走する一科生を止めようとした女子生徒に飛んでいく。そこからの黎の対応は早かった。飛んでくるサイオンの塊を自身もサイオンを飛ばして相殺し、女子生徒に当たるのを防いだ後、その場の全員の魔法を無効化(方法については後に語ることにする)、その後攻撃目的で魔法を使おうとした生徒全員のCADをはたき落とした。この間約1秒。
「自衛目的以外の魔法による攻撃は、犯罪行為ですよ!」
少し遅れてきた真由美がいつになく強い口調で生徒を叱咤する。どうやら先ほどのサイオンの塊は、真由美が放ったものらしい。
「風紀委員長の渡辺摩利だ、事情を聞きます。付いてきなさい。」
真由美といっしょに風紀委員長も来ていたらしい。入学早々問題を起こしたとなれば、色々と面倒なことになりそうだが、この状況に助け舟を出したのは達也だった。
「すみません、悪ふざけが過ぎました。」
「悪ふざけだと?」
「はい、学年次席の八田の腕を後学のために見せてもらおうとしたのですが、あまりに真に迫っていたので、ついムキになってしまいました。」
というと、達也は黎に目配せした。なるほど、事を穏便に済ますには、それが1番早いと悟った黎は、達也に調子を合わせる。
「すみません、自分も少しやりすぎました」
「君はその魔法でケガをするかもしれなかった訳だが、それでも悪ふざけで済ますのか?」
更なる追及に、黎は毅然とした態度で答える。
「お言葉を返すようで申し訳ありませんが、自分はあれくらいなら全て防ぎきれますし、仮に無効化が間に合わなくてもあの程度の魔法でケガをするほどヤワではありません」
黎のこのような言い方は、言外にA組の生徒がまだまだ未熟であることを示していた。自惚れるなと、そう告げていた。
「それに、そこの女子生徒が使用したのは恐らく光系統の魔法で、殺傷性はそこまで高くありません。他の生徒の魔法までは分かりませんが」
そう告げたのは黎。本当は他の生徒の魔法まで読み取れていたが、事が面倒になるだけなので伏せておいた。
「自分も''分析''は得意ですが、確かに閃光魔法だったと断言できます。」
達也が黎の援護射撃を行う。魔法式を読み取るなど、分析の一言で片付けてはいけないものだが。
「兄や八田くんの言う通り、ちょっとした行き違いだったんです。申し訳ありませんでした。」
「摩利、もういいじゃない、達也くん、黎くん、本当に見学だったのよね?」
「ええ」
「はい」
最後に深雪と真由美が宥めてくれたこともあり、今回は不問になったが、今後はこのような事がないように、と注意された。
「生徒同士で教え合うのは良いことではありますが、魔法の使用には細かな制限があります。気をつけてくださいね」
真由美のその言葉を最後に、この騒動は終わりとなった。
「借りだなんて思わないからな」
真由美と摩利の姿が見えなくなった後、森崎が口を開き、黎と達也を睨みつけながら言った。
「貸してるなんて思ってないから安心しろ」
達也が言葉を返す。黎は無言で森崎を見ていた。
「僕はお前達を認めないぞ、司波達也、八田黎、司波さんは僕らと一緒にいるべきなんだ。」
「いきなりフルネームで呼び捨てか」
達也の言葉に背を向けていた森崎の肩が僅かに震えたが、彼は振り返らずにそのまま立ち去った。
「…さて、もう帰ろうぜ」
黎の言葉に達也たちも同意し、そのままその場を離れようとしたその時、
「あ、あの!」
1人の少女の声に呼び止められた。
はい、第2話ここまでです。描写を少し雑にした所もありますが、ご容赦ください、このままだと話が進まなすぎて困りそうでしたので。
とりあえず第3話で部員勧誘かその先のなんやかんやまで行けたらいいなと勝手に思っております。あと、黎が魔法式を読み取れる理由ですが、彼の過去と関係してます。いずれ書きますので、ご了承くださいませ。それでは、この辺でお別れといきましょう。読んでいただき、ありがとうございました。