声のした方を向くと、先ほど閃光魔法を発動させようとしていた女子だった。
「光井ほのかです。先程はすみませんでした。」
達也と黎は面食らい、互いに顔を見合わせた。文句の一つでも言われるかと思ったが、実際はその逆だった。
「庇ってくれて、ありがとうございました。森崎くんはああ言ってましたけど、大事にならなかったのは八田さんとお兄さんのおかげです。」
「どういたしまして、でもお兄さんはやめてくれ。同じ一年生だから」
「俺もできれば名前で読んでくれ、名字で呼ばれるのは苦手なんだ」
''あの事''が関係しているのだが。
「わかりました。…それで、その…」
「なんだ?」
ほのかは隣の女生徒と目を合わせ、遠慮気味にこちらに歩み寄った。
「駅までご一緒してもいいですか?」
思いがけないほのかのセリフに意外感を覚え、黎たちは互いに顔を見合わせた。しかし特に黎たちに断る理由もなかった。
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「では、深雪さんのCADを調整しているのは、達也さんなんですか?」
帰り道、ほのかの達也への問いに、深雪が我が事のように得意げに答える。
「ええ、お兄様におまかせするのが一番ですから。」
「少しアレンジしてるだけなんだけどね」
「それだって、デバイスに関する知識があるからこそですよね」
達也の言葉に、美月が返した形だ。
「CADの基礎システムにアクセスするスキルもないとなあ。大したもんだ」
「達也くん、あたしのホウキも見てくれない?」
レオとエリカがさらに続ける。
「無理、あんな特殊な形状のものをいじる自信はないよ。」
「あはっ、やっぱり凄いね、達也君は。」
達也の本音なのか謙遜なのわからない返事に、エリカは裏表のない賞賛を送った。
「何が?」
「これがCADだって分かっちゃうんだ」
エリカが警棒(CAD)をクルクルと回しながら笑う。
「やっぱCADだったのか」
黎が口を挟んだ。
「あ、黎くんも気づいてたんだ。じゃあ構造は分かる?」
「警棒状のものに刻印術式でも埋め込んだのか?」
「んじゃサイオンを注入し続けるのか?よくガス欠にならねえな」
黎の推察を聞き、レオが続けた。
「おお、黎くんすごい。あんたも流石は得意分野。でも残念、もう1歩ね。振り出しと打ち込みの時だけにサイオンを流せばいいだけだから、そんなに消耗しないわ。兜割りの原理と同じよ。……ってみんなどしたの?」
エリカの説明を、その場のみんなが食い入るように聞く。
「エリカ…兜割りって、それこそ秘伝とか奥義とかに分類される技術だとおもうのだけど…。単にサイオン量が多いよりよっぽど凄いわよ」
深雪が全員を代表して答えた。
「黎さんや達也さん、深雪さんもすごいけど、エリカちゃんもすごい人だったのね…うちの学校って一般人の方が少ないのかな?」
「魔法科高校に一般人はいないと思う。」
美月の天然気味な発言に、それまで押し黙っていた北山雫(ほのかと一緒にいた女生徒)が的確なツッコミを入れて、その場の空気は霧散した。
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次の日も、黎たちは生徒会室で昼食をとった。
「あの、兄も一緒にという訳にはいきませんか?」
深雪はどうやら達也と一緒に生徒会に入りたいらしい。達也は顔を顰めていたが。
「無理です。生徒会役員は、一科生から選ばれます。これは不文律ではなく規則です。」
鈴音がキッパリと、それでいて申し訳なさそうに答える。
「……申し訳ありませんでした。分をわきまえぬ差し出口、お許しください。」
深雪も深々と頭を下げる。何となく暗くなっていた空気を変えようと、真由美は手を叩いて言う。
「ええと、それでは深雪さんは書記として、黎くんは会計として生徒会に入って貰うということでいいですね?」
「はい、精一杯務めさせていただきますので、よろしくお願いします」
「出来る範囲で頑張らせて貰います」
2人の返事に、真由美は笑顔で頷いた。
「分からないことがあったら、深雪さんはあーちゃんに、黎くんはリンちゃんに聞いてください。」
「ですから会長、あーちゃんはやめてください!」
書記の中条あずさの抗議も虚しく、真由美はそのまま話を進める。鈴音はもう慣れたようで、何も言わなかった。
「もし差し支えなければ、今日の放課後から来ていただいていいですか?」
「わかりました」
「了解です」
「ああ、昼休みが終わるまでもう少しあるな、ちょっといいか?」
摩利がおもむろに手を挙げて話す。
「風紀委員の生徒会選任枠の内、前年度卒業生の枠がまだ埋まっていない」
「それは今人選中って言ってるじゃない。そんなに急かさないで」
真由美の反論を気にせず、摩利は言葉を続ける。
「たしか、風紀委員の生徒会枠に、ニ科生を選んでも問題ないよな?」
摩利がニヤリと真由美の方を見る。
(…なるほど、達也か)
黎は摩利の言葉が何を意味するのか瞬時に察した。達也も同様なようで、顔を顰めている。
「ナイスよ!」
「はあ?」
真由美の歓声に、思わず達也は間の抜けた声を出した。
「そうよ!風紀委員なら問題ないじゃない!摩利、生徒会は司波達也君を風紀委員に指名します」
いきなり過ぎる展開に一瞬動揺した達也だが、すぐに反論する。
「ちょっと待ってください!俺の意思はどうなるんですか?大体、風紀委員が何をする仕事なのか、説明を受けてすらいませんよ」
「俺らもまだ生徒会の仕事について説明されてないが?」
黎が悪い笑顔で達也の言葉に答える。完全に面白がっていた。
「そ、それはそうだが…」
「まぁまぁ黎くん、いいじゃない。達也くん、風紀委員は学校の風紀を維持する組織です。」
……………
……………
「…それだけですか?」
数秒の沈黙のあと、達也が当然の反応を示す。
「はい?」
真由美はとぼけているわけではなく、単純に意思の疎通が上手くいっていなかった。達也は1番話を聞き出しやすいと思ったのか、あずさに視線をやった。
「あ、あの!風紀委員の主な任務は、魔法に関する校則違反者の摘発と、魔法を使った争乱行為の取り締まりです。」
(へえ、俺も生徒会より風紀委員が良かったな)
もちろん言葉には出してないが、黎は面白そうだと思った。
「一応確認しますが」
「なんだ?」
達也は摩利へ視線を投げた。
「今の説明だと、風紀委員は喧嘩が起こったらそれを力ずくで止めなければならない、そうですか?」
「ああ」
「そして、魔法が絡んでもそれは同様と」
「そうだ」
「あのですね!俺は魔法実技の成績が悪かったからニ科生なんです!」
とうとう達也は大声を出してしまった。しかし摩利は涼しい顔で返す。
「構わんよ」
「何がです?」
「力比べなら私がいる……おっと、そろそろ昼休みが終わるな。放課後に続きを話したいんだが、構わないか?」
「…わかりました」
達也は諦めと共に頷いた。
「ではまたここに来てくれ」
黎たちは生徒会室を出て、各々の教室へ向かった。
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そして放課後、黎たち3人は再び生徒会へ向かった。
「失礼します」
生徒会室に、昼休みにはいない人間が1人増えていた。服部刑部少丞範蔵(学校には服部刑部で通っている)、生徒会副会長である。服部が少しずつこちらに近づいてくる。
「副会長の服部刑部です。司波深雪さん、八田黎くん、生徒会へようこそ。」
達也を敢えて無視した発言だった。深雪が一瞬ムッとした表情を見せるが、すぐに隠して黎とともに挨拶を返す。黎も思うところが無いわけでは無かったが、ここで一々波風を立てるのも馬鹿馬鹿しいと思い何も言わなかった。
「ああ、2人とも、来てくれてありがとう。それじゃ、あーちゃん、リンちゃん、お願いね」
真由美の言葉にあずさと鈴音が頷く。
「それじゃ、達也くん、私たちも行こうか」
続けて摩利が達也を連れて風紀委員本部へ行こうとしたその時
「待ってください、渡辺先輩」
服部が口を開いた。
「なんだ?服部刑部少丞範蔵副会長?」
「フルネームで呼ばないでください!」
「じゃあ、服部半蔵副会長」
「服部刑部です!」
「そりゃ名前じゃなくて官職だろ、お前の家の」
「今どき官位なんてありません!学校には服部刑部で届けが受理…いえそんな事が言いたいわけではなく!」
「じゃあなんだ?」
いわゆるマシンガントークというやつだ。しかしそこは大人、すぐに冷静さを取り戻して服部が口を開く。
「その一年生を風紀委員に任命するのには反対です。過去、ウィードが風紀委員を務めた事例はありません。」
「それは禁止用語だぞ。私の前で使うとはいい度胸だ」
「取り繕っても仕方ないでしょう。それとも、全校生徒の3分の1以上を摘発するつもりですか?…風紀委員は、ルールに従わない生徒を実力で取り締まる役職だ。実力で劣るウィードには務まらない」
「実力にも色々あってな。力で押さえつけるだけなら、私がいる。彼には、展開中の起動式を読み取り、発動される魔法を予測できる目と頭脳がある。」
「何ですって?」
服部は信じられないという顔で問い返した。
「彼は今まで罪状が確定出来ずに、軽い罰で済まされていた未遂犯への、強力な抑止力になるんだ」
さらに摩利は続ける。
「今まで、一科の生徒がニ科の生徒を取り締まり、その逆はないという構造は、一科とニ科の間の精神的な溝を深めることになっていた。私の指揮する委員会が、差別意識を助長するというのは、私の好むところではない」
服部はそれでも達也を風紀委員に加えたくないらしく、さらに食い下がる。
「しかしやはりニ科生を加えるのは得策ではないと思います。ご再考を「待ってください!」
深雪が我慢出来ないという様子で服部へ言葉を投げた。
「副会長、確かに兄は魔法実技の成績が芳しくありませんが、それは試験内容と、兄の技術が適合していないからです!実戦なら、兄は誰にも負けません。」
(おお、言うねえ 確かに達也には勝てなそうだな、副会長はもちろん、俺も)
黎も深雪に同意見だ。副会長より自分の方が上だと自認している事になるので、口には出さない。
深雪の言葉を聞き、服部が窘めるように応える。
「司波さん、魔法師は、事象をあるがままに、冷静に捉えなければなりません。身贔屓に目を曇らせるようなことがあってはならないのです。」
案の定、深雪はヒートアップした。
「お言葉ですが、私は目を曇らせてなどいません!」
「深雪、もういい」
達也が深雪を制し、服部へ歩み寄る。
「副会長、俺と模擬戦をしませんか」
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「黎くん、本当に見に行かなくていいの?」
模擬戦の観戦のため、黎以外の役員も部屋を出ていき、残った真由美が黎に確認する。
「ええ、勝負は見えてますから」
黎は興味無さそうに答える。
「はんぞーくんの圧勝ってこと?」
「いえ、達也が負けることは無いでしょう。お茶でも用意して待ってますよ、達也の分もね」
「…わかったわ」
真由美は不思議な顔をしていたが、頷いて模擬戦へ向かった。
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「あ、おかえりなさい」
服部以外の全員が帰ってきた。それだけでどちらが勝ったのか察しはついたので、黎は何も言わなかった。
帰ってきた役員たちにお茶を振る舞い、その後は鈴音に仕事について教えてもらった後、今日の所は帰ることにした。
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次の日の放課後、黎はもちろん生徒会室にいた。
「へえ、じゃあ風紀委員はこの1週間が1番忙しいんですか」
部活動勧誘、部活の成績が直接部費などの待遇に影響するので、各部が新入部員を競うように集め、魔法を使った争いにまで発展するのも珍しくないという。
「そうなんだよ、何とか委員の補充が間に合ってよかった。と言っても人手が十分な訳でもないがな。」
摩利が困ったように答える。なるほど、毎年関わっているのか、その大変さをよく知っているようだ。黎は摩利の方に向き直り、思いがけない提案をした。
「渡辺先輩、その見回り、俺も参加していいですか?」
「え?」
いざこざまで行かんかった…ごめんなさい。
次でさすおにならぬさすれいを見せられるようにします。約束です。
あと、達也の強さを黎がわかっている理由ですが、前回の一科生とニ科生の衝突の時、黎がなにもしなければ達也が事態を収束していた事が分かっていたからです。前回に続き、事後説明が増えみませんが、黎の過去をいずれ書くので、それを読んでもらえば色々納得が行くと思います。では、次回でお会いしましょう。