討論会当日、全校生徒の半数以上が、講堂に集まった。
「意外に集まりましたね」
「予想外だな」
「警備が大変になりそうだ」
順に深雪、達也、黎の言葉だ。
3人に摩利、鈴音を加えた5人は、舞台袖で控えている。真由美は少し離れて、服部とふたりで登壇の準備をしている。(実際に討論を行うのは真由美1人だ。)反対の袖には、同盟の3年が4人、風紀委員に監視されながら控えている。その中に、紗耶香の姿はない。
「実力行使の部隊が別にいるのかな…?」
「でしょうね」
「同感です」
摩利の呟きに、黎と達也が反応する。
「何をするつもりかは分からんが、こちらからは手出しできんからな…」
「そうですね…あ、始まりますよ」
黎の言葉で、五人の視線が舞台へと移った。
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討論会は、次第に真由美の演説の趣を呈し始めた。それもそのはず、同盟側の主張に根拠はなく、真由美の具体的なデータを元にした反論に、返す言葉が見つからない様子だった。
「生徒のあいだに、同盟の皆さんが指摘するような差別の意識が存在するのは否定しません。ただしそれは、固定化された優越感と劣等感によるものです。問題は意識なのです。」
会場の誰もが、真由美の言葉に耳を傾ける。
「私は生徒会長として、この現状に満足していません。差別を助長する意識の壁を、なんとか取り除きたいと考えていました。ですがそれは、新たな差別を作り出すことによる解決であってはならないのです。当校の生徒にとって、ここで過ごす期間は、唯一無二の3年間なのですから。」
場内から拍手が湧き上がる。満場のではないが、一科二科の区別なく、手を鳴らしていた。しかし、真由美が『生徒会役員は一科の生徒から選出する』という規則を変えることを公約とし、さらなる拍手が湧き始めたその時、突如、講堂に轟音が鳴り響いた。動員されていた風紀委員、そして黎たちが一斉に動く。たちまち同盟のメンバーは拘束された。窓が破られ、紡錘形の物体が飛び込んでくる。それを見た黎は、すぐさま落下地点に移動、物体を蹴り返し、入ってきた窓から出した。
「おそらくスモークグレネードでしょう。なかなか周到な連中ですね。俺はこのまま実技棟の様子を見に行きます。」
そう言い、出口へ走る。
「俺も行こう」
「お供します!」
達也と深雪も黎のあとに続いて駆け出した。
「気をつけろよ!」
摩利の言葉に送り出され、3人は実技棟へ急ぐ。
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「乱戦模様だな」
講堂の外は、黎の言う通り文字通り乱戦だった。侵入したテロリストと、一校生徒、教師達が、至る場所で戦っている。そこへ、レオとエリカが合流した。
「物騒なことになってんな」
「退屈せずに済みそうね」
二人とも好戦的な性格ゆえか、不敵な笑みを浮かべている。
「さて、これからどうする?」
「取りうる選択肢は3つ。このまま実技棟へ向かうか、図書館へ向かうか、それとも2手に分かれるか」
黎の言葉に達也が答えた。
「じゃあ3つ目で。俺は実技棟へ行くから、みんなは図書館へ向かってくれ」
「いいのか?黎?」
レオが心配そうに尋ねる。
「敵の狙いはおそらく図書館のデータだ。なら戦力は図書館に厚めに割くべきだろう。実技棟は任せな」
という言葉を残し、黎は1人実技棟へ向かう。
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「誰か!助けて!!!」
実技棟につくと、知っている声で助けを求めているのが聞こえた。
「ほのか…?」
声のした方へ向かうと、A組の女子たちがテロリストの集団に囲まれていた。
「あ、黎さん!」
「誰だお前は!?」
ほのかの縋るような声と、テロリストの怒号が同時に聞こえた。前者に応えるように優しく笑いかけ、後者に冷ややかな声で答える。
「この子達のクラスメイトだ。早く解放しろ」
「へ!知るかよ!こいつらの命が惜しけりゃ、お前も大人しく捕まりな」
「最後の警告だ。武器を捨てて、彼女らを解放しろ。次はない」
「お前、状況がわかってねえようだな、今有利なのはこっちなんだよ。わかったらCADを外して両手をあげろ」
「生憎CADは持ち歩いてなくてな、それよりも…」
「なんだ?」
「上見てみな」
その言葉につられ、テロリストが上を見た瞬間、黎が動いた。自己加速術式で一気にテロリスト達との距離を詰め、硬化魔法をかけた蹴りを急所に打ち込む。相手が倒れるのを確認する暇もなく、次の相手に蹴りを入れる。相手が異変に気づいた時には、8人いたテロリストのうち、立っているのは3人だけだった。
「この、クソガキ!」
残った3人が黎に向かって発砲するが、黎には当たらない。
次の瞬間、3人も意識を手放した。
「ふぅ、みんな大丈夫だったか?」
「は、はい…あ、あの…」
ほのかの声は震えている。余程怖かったのだろう。見ると、他の女子達も身体を震わせていた。
「怖かったな、もう大丈夫だ。安心していいぞ」
できるだけ優しく声をかける。少しずつみんな落ち着きを取り戻したようだ。
「本当にありがとうございます。黎さんが来てくれなかったら、今頃どうなってたか…」
「助かった、ありがとう」
ほのか、雫をはじめ、A組の女子達が口々に感謝を述べる。
「気にしなくていいさ。それより、どうして捕まったんだ?」
「実技棟にこの人達が入っていくのが見えたから、私たちで捕まえようと思ったら…」
「逆に捕まっちまったってことか。今回は俺が間に合ったから良かったけど、もう危ないことするなよ?」
「はい、すみません…」
「いや、何とかしようとするのはいいことだ。もう戻ろうか」
拘束や連行は他の風紀委員を呼んで任せることにし、黎たちは外へ出た。
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外へ出ると、あらかたの戦闘は終わっていた。これならもう襲われることはなさそうだ。
「さて、もう襲われることはないと思うが…一応駅まで送っていこうか?」
「え?いいんですか?」
「さっきのこともあるしな、俺は構わないよ」
「じゃあ、お願いします!」
「わかった」
そう言って、ほのか達を連れて駅に向かおうとしたその時、黎の携帯が鳴った。
「もしもし…ああ、達也か。どうかしたか?…そっか、壬生先輩が保健室に…おう、りょうかい、じゃあな」
「達也さんから?」
電話を切り、雫の問いかけに答える。
「ああ、今回の騒動に加担してた先輩が保健室にいるらしい。それで、事情聴取をしなきゃいけなくなっちまってな。…悪い、早めに済ますから、保健室の外で待っててくれないか?何かあったら大声で呼んでくれればすぐ行くから」
そう申し訳なさそうに告げると、快く返事が返ってきた。
「大丈夫です、送ってもらえるだけありがたいですし、黎さんの都合に合わせます」
「ありがとな、じゃあ保健室に行こう」
というわけで、全員で保健室へ向かった。
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紗耶香の事情聴取は、静かに進んでいた。ちなみに、参加しているのは、黎、達也、深雪、レオ、エリカ、真由美、摩利、克人である。あらかたの情報を聞き出した後、紗耶香の口から驚くべき言葉が発せられた。
「入学してすぐの頃、渡辺先輩に手合わせを頼んだら、すげなくあしらわれてしまって、あたし、すごくショックで…それってきっと、あたしが二科生だから、そう思うと、悔しくて…」
「ちょっと、ちょっと待ってくれ。その時のことは覚えている。あの時、あたしはこう言った。ーーすまないが、あたしの腕では到底お前の相手は務まらない。自分の腕に見合う相手と稽古してくれ…と」
「ちょっと待って、摩利。じゃああなたは、自分の腕では壬生さんにかなわないから、稽古の相手は辞退する、と言ったの?」
「その通りだ、そりゃあ、魔法を絡めればあたしの方が上かもしれんが、純粋な剣の勝負で、あたしが壬生にかなう道理がない。」
「じゃあ…あたしの勘違い…だったんですか…?」
居心地の悪い空気が保健室内に流れる。
「あたし…バカみたい…勝手に先輩のこと誤解して…逆恨みで1年間も無駄にして…」
それは違う、と黎は思った。きっかけはどうあれ、紗耶香が己を磨き、強くなったこの1年間は、決して無駄の一言で片付けていいものではないはずだと、そう声をかけようとしたその時
「無駄ではないと思います」
達也が同じことを言ってくれた。それを聞いた紗耶香は、達也に寄りかかり、涙を流すのだった。
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落ち着きを取り戻した紗耶香から、背後にブランシュの存在があることが語られた。
「予想通りですね」
「本命過ぎて拍子抜けだがな」
黎の呟きに摩利が反応する。
「さて、問題は奴らがどこにいるのか、ということですが」
「ああ、俺はパスね、エスコートしないといけない人がいるんだ。後始末は達也に任せた」
ブランシュを潰しに行く話が出かけたので、黎はその場を後にした。
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「あの、今日はありがとうございました。助けていただいた上に、駅まで送っていただいて」
「いいよ、全然。ここからは自分たちで帰れそうか?」
「大丈夫、ありがとう。今度お礼させてね」
ほのかや雫たちを駅まで送るあいだ、当然何事もなかった。みんなを見送り、雫に今度お礼をしてもらう約束をして、黎も帰路についた。
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その夜、黎は自宅である人物と通話していた。
「そう、ブランシュが」
「ああ、まあもう潰されてるだろうけどな」
「黎がやったの?」
「いや、俺は別の用事があってな」
「テロリストを倒すより大事な用事があったの?」
「一校の戦力を考えれば、俺1人行かなくても問題ないと思ったんだよ」
「ふうん、で、用事ってなんだったの?」
「友達を駅まで送ってたのさ」
「…女の子でしょ?」
「そうだけど」
「やっぱり!黎は私以外の女の子には甘いんだから!」
「いや、色々ワケがあったんだよ」
「知らないもん!ふんだ!私をエスコートしてくれたことなんてないのに!」
「そりゃそんな機会なかっただろ」
「じゃあ機会があればしてくれるのね!?」
「ま、まあ機会があればな」
「よし!約束!それじゃ、また今度ね!」
「ああ、またな、"姉さん"」
そう言って、通話を切った。
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そして週末、黎は北山邸にお呼ばれしていた。
「お、お邪魔します」
黎は面食らっていた。雫の家は大のつく豪邸だったのだ。
「おお、君が八田黎くんか、すこしこっちに来てくれ」
そう言って黎を招いたのは北山潮、雫の父だ。招かれるまま、潮の部屋に入る。
「聞けば、雫をテロリストから助けてもらったそうで、どうもありがとう」
「いえ、お気になさらず。雫さんたちが無事でなによりです」
「何かお礼をしたいのだが…」
「いえそんな、自分はできることをしただけですので。お気持ちだけ受け取らせていただきます」
「む、そうか。では今日は夕飯を食べていくといい。ご馳走しようじゃないか」
これも断っては逆に失礼だと思い、この提案にありがたくあやかることにして、潮の部屋を出た。
「…八田黎…か…」
部屋に1人残った潮の呟きは、誰に聞こえることもなかった。
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「黎さん、お父さんと何を話してたの?」
雫の部屋に入ると、雫に尋ねられた。
「いや、なんでもないよ。夕飯をご馳走になる約束をしてきただけさ」
「じゃあ、家でたべていくの?」
「ああ、いただいていくよ」
「そっか」
心做しか、雫は嬉しそうだった。その後、あとから来たほのかも交え、談笑していた時、九校戦の話題が出た。
「黎さんは、今年の九校戦に出る予定はあるんですか?」
「ん?いや、まだ何も聞いてないけど」
「黎さんは絶対出るべき。何に出てもよさそうだけど、やっぱりモノリス・コードに出てもらいたい」
九校戦の話になると、雫がいつもより雄弁になった。どうやら雫は九校戦のファンらしい。今年は自分も出場したいと、意気込んでいた。
その後は主に九校戦の話(種目、見どころ、ライバル校などなど)に花を咲かせ、ほのかも一緒に夕食をいただいて帰った。さすがと言うべきか、北山家の料理は絶品だった。
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「九校戦、か…姉さんや"あいつ"もでてくるんだろうな」
帰宅後、そんなことを考えながら、黎は眠りについた。
とりあえず今回はここまで。今回で入学編が終わりましたので、次回から九校戦編です。なるべく早く投稿するようにします。最後に、UA4000突破ありがとうございます!これからも頑張っていきます!