第7話
七月中旬、第一回定期試験も終わり、夏の九校戦に向けての準備が活発化し始めた。
生徒会室にて
「で、俺は結局なんの競技に出ればいいんですか?」
「そうねえ・・・正直どれに出ても黎くんなら大丈夫だと思うんだけど・・・」
「やはりモノリス・コードじゃないか?得点の高い種目に出てもらって確実に点を稼いでもらえばいいと思うんだが」
黎の質問に真由美が唸り、摩利が一つ提案する。
「新人戦のモノリスのメンバーには、森崎がいるんですよね?」
「あ、ああ、そうだが」
「じゃあ出来れば遠慮したいんですが・・・」
「何故だ?」
「仲がいいとは言えないからですよ。チームワークが大切なモノリスで、仲違いしている奴とチームを組むわけにはいかないでしょう」
「じゃあ森崎を外そう」
摩利がきっぱりと言い切った。
「・・・そんな簡単に決めて大丈夫なんですか?」
「なに、森崎と黎くん、戦力を考えればどちらを優先すべきかは考えるまでもないだろう」
「七草先輩は良いんですか?」
「摩利の意見に賛成よ。じゃあ黎くんはモノリス・コードに出てもらっていいかしら?」
「・・・さすがにガキみたいな理由でメンバー編成を変えさせるわけにはいかないので、森崎も一緒で構いませんよ」
「そ、そう?じゃあ1人2競技まで出られるから、もう一つ出てもらいたいんだけど」
「大丈夫ですよ」
「じゃあ戦力的に不安のある競技に出てもらいましょう。そう考えると・・・」
結局、もう一つの競技はバトルボードとなった。
「選手の方はいいとして、問題はエンジニアよ」
「そんなに人材不足なんですか?」
「ええ、2年生のほうは、あーちゃんや五十里君がいてくれるからまだいいんだけど、3年生は実技の方に人材が偏ってしまっててね・・・」
会話が途切れたところで、達也が部屋を出ようとする。
「では、俺はこれで」
その背中をみて、あずさが声をあげる。
「あの、だったら司波くんがいいんじゃないでしょうか」
「ほえ?」
それを聞いて、真由美が奇妙な声を上げた。そして
「盲点だったわ!」
と叫び、目をらんらんと輝かせた。
「そうか!あたしとしたことがうっかりしていた」
その言葉に摩利も続く。
「過去、1年生が技術スタッフになった例はないのでは?」
達也がささやかな、おそらく無駄な抵抗を試みる。
「なんでも最初は初めてよ!」
「前例は覆すためにあるんだ」
案の定、無駄に終わりそうだ。しかし一応粘ってみる。
「進歩的なお二人はそうお考えかもしれませんが、1年生の、しかも二科生、加えて俺は、色々悪目立ちしているようですし」
「それは・・・」
「CADの調整は、ユーザーとの信頼関係が重要です。選手の反発を買うような人選は、避けるべきかと」
この状況に援護射撃を打ち込んだのは、黎と深雪だった。
「達也を支持する奴だけ担当すればいいんじゃね?そんだけでも負担はかなり減るんじゃないか?」
「私は、九校戦でもお兄さまに担当してもらいたいんですが、駄目でしょうか?」
結局、達也は逃げ切れなかった。
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その日の夜、黎の自宅にて
「どうも、入学したとき以来ですか、久しぶりですね、風間さん」
「そうだな、黎。そろそろ九校戦だが、もちろん黎も出場するんだろ?」
「ええ、まあ一応」
「出る以上は頑張りたまえ、期待しているよ」
「ありがとうございます、それで、ほかに用件があるんですよね?」
「ああ、九校戦がらみなんだが、会場の富士演習場南東エリア、この近くで不審な動きがあるらしい。国際犯罪シンジケートの構成員と思われるアジア人も目撃された」
「軍の施設に侵入者ですか?」
「実に嘆かわしいことなんだがな。おそらく、無頭竜(ノーヘッドドラゴン)だと思われる」
「なるほど、警戒しておきます」
「詳細が入り次第連絡しよう。それでは、期待しているよ」
「はい、失礼します」
そう言って通信を切った。
するとすかさず別の通信が入る。
「なんだよ、姉さん」
「出るの遅い!誰と話してたのよ!」
「風間さんだけど」
「ふうん、じゃあいいわ。それより、黎も九校戦でるんでしょ?」
「ああ、姉さんは?」
「私はエンジニアとしてだけどね。期待してるから頑張ってね!」
「いや姉さん三校だろ?俺とは敵同士なんだが」
「だって黎に勝てる人なんていないし、ほかの人応援するだけ無駄ってやつ?」
「そりゃとんだ過大評価だ」
「そんなことないよ、本気でそう思ってるから」
「まあ、やるだけやるさ。あいつも見に来るんだろ?」
「うん、兄さんの雄姿を見るの楽しみにしてます、だって」
「そりゃ負けられんな、頑張るって伝えといてくれ」
「わかったわ、じゃあおやすみ」
「ああ、おやすみ」
通信を切り、そのまま眠った。
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「なんでお前がいるんだ!」
九校戦の発足式が終了し、出場競技ごとに顔合わせや打ち合わせをしている時、大きな声を上げたのは森崎だった。
「そりゃ、選ばれたからに決まってるだろう」
黎は涼しい顔で答える。黎も思うところはあるが、事前に知っていたのですでに割り切っていた。
「文句言ってももう遅いんだ、九校戦には一校の威信がかかってんだから、余計な私情は持ち込まずに頑張ろうぜ」
もうお互いに高校生。その後は着々と打ち合わせを進めた。
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8月1日、いよいよ九校戦へ向け出発の日だ。真由美が家の用事で集合に遅れたが、その他には特に何もなく順調にバス移動は進んでいた。しかし
「危ない!」
そう叫んだのは2年の千代田花音。彼女の見つめる先で、対向車線の大型車が、路面に火花を散らしながら横転した状態で滑っている。すると突然、その車がガードレールを飛び越え、こちらに向かってきた。バスは急停車し、横向きに止まった。直撃は避けた。しかし車は、炎上しながらなおもこちらへ向かってくる。
「吹っ飛べ!」
「消えろ!」
「止まって!」
パニックを起こさず、車を止めるべく行動を起こしたことは、本来ならば褒められるべきことだ。しかしこの場合、事態を悪化させることになる。同時に複数の魔法が同じ対象へ発動されれば、すべての魔法が相克を起こして、逆に解決が難しくなる。
「バカ、やめろ!」
摩利がすぐに気づき、制止を試みるが、魔法を発動させようとしている生徒にその声は届かない。
(この状況で頼れるのは・・・十文字!!!)
摩利が視線をやると、克人も珍しく焦ったような表情を浮かべている。摩利の頭に最悪の可能性がよぎる。
「俺がやります!」
そう叫んだのは黎。すぐさま術式飽和を発動、発動前の他の魔法を無効化し、その後加重系魔法を車にかけ、車を止める。車が重力に耐えかねて潰れたが、それを気にする余裕はない。車が止まったのを確認し、今度は気流操作の魔法を発動、車の周りの空気を全て遮断すると、じきに火は消えた。
「ふう、なんとかなったか。」
「すごかったわ!ありがとう、黎くん」
真由美が称賛の声を送る。
「いえ、出来ることをしただけです」
「黎くんのおかげで、バスは止まりました、もう大丈夫です。」
車内から驚きと羨望のまなざしが黎に向けられる。
「それに比べてお前は!」
真っ先に魔法を発動した花音は、摩利にこってり絞られていた。
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その後は何事もなく、宿舎に到着した。
入口に意外な人物がいた。
「え?エリカ?」
「こんにちは、黎くん」
「どうしてここに?」
「もちろん応援よ」
「競技は明後日からのはずだが」
「今晩懇親会でしょ?」
「関係者以外は参加できないと聞いたが」
「それは大丈夫、あたしたち、関係者だから」
黎には、エリカの言葉の意味が分からなかった。
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懇親会は、黎の思った以上に盛大なものだった。立食式なので、自分の料理を取り、人ごみから逃れると、背後から知った声がした。
「お飲み物はいかがですか?」
見ると、ウェイトレス姿のエリカと、ウェイター服を着た知らない男が立っていた。
「おっすエリカ、関係者ってこういう事だったのか。えっと、そっちの彼は?」
「僕は1-Eの吉田幹比古、幹比古と呼んでくれ、八田君の噂は、こっちまで届いてるよ。」
「八田黎だ、よろしく。俺の事も名前で呼んでくれ」
「わかったよ」
「あ、ミキ、そこのお皿空いてるわよー」
「僕の名前は幹比古だ!」
「りょーかいりょーかい」
幹比古は文句を言いながら、エリカは軽い足取りで去っていった。
「黎さん、ここにいたの」
「雫、ほのかも一緒か」
「はい、黎さんはお一人ですか?」
「人ごみが苦手でな、逃げてきたんだ」
「ご一緒してもいいですか?」
「ああ、かまわないよ」
というわけで、雫たちとの談笑に花を咲かせながら食事を行った。
来賓の挨拶が始まり、中でも一番注目される人物、十師族の長老、九島烈。彼の順番となった
(この国で一番の魔法師か・・・)
まず広がったのは、ざわめき。壇上に登ったのは、九島ではなかった。若い、美しい女性の姿しかなかったのだ。
(トラブル・・・?いや、違う?精神干渉魔法か・・・)
どういうつもりなのかは分からないが、小さな魔法で大きな会場を覆いつくし、自分の存在を知覚させないようにした芸当は、称賛に値すると思った。黎の視線に気づいたのか、九島はニヤリと笑った。
「まずは、悪ふざけに付き合わせたことを謝罪しよう」
女性が下がり、九島が姿を見せる。
「今のはちょっとした手品のようなものだ。しかし、そのちょっとした手品に気づいたのは、私の見た所6人だけだった。」
会場からどよめきが起こる。
「魔法を学ぶ若人諸君、使い方を工夫した小魔法は、使い方を誤った大魔法に勝るのだ。私は諸君らの工夫を楽しみにしている」
会場から拍手が沸き起こった。
「黎さん、気づいた?」
「あ、ああ、一応」
「さすがですね!」
周りの視線が黎に集まる。褒められて悪い気はしないが、あまり目立ちたくはなかった。そこへ
「れーーーい!!」
良く知った女の子の声がする。
振り返る間もなく、後ろから抱き着かれてしまった。
「黎!久しぶり!」
「姉さん、久しぶりだな、でもとりあえず離れてくれ」
一旦引きはがし、落ち着かせる。
「黎さん、お知り合いですか?」
「ああ、紹介するよ、八谷沙織(はちや さおり)。姉さんって呼んでるけど、本当の姉弟じゃない。九校戦には、三校のエンジニアとして参加してる。俺たちの一つ上だ」
「八谷沙織です、よろしくね」
「よろしくお願いします。あ、あの…」
「なに?」
「お二人は付き合ってらっしゃるんですか?」
「いや、それはないよ、ほのか。血は繋がってないとはいえ、俺たちは姉弟だからな」
「そうよ、もちろん黎のことは好きだけど、それは弟としてよ」
「そ、そうですか」
「なになに?黎のことねらってるの?」
「え!?いや、そういう訳では!!」
「姉さん、あんまり2人をからかわないでくれよ」
「あはは、ごめんごめん。じゃ、私は行くね。」
「ああ、また」
沙織は軽やかな足取りで去っていった。
「ごめんな、ああいう性格だから。気にしないでくれ」
「は、はい…」
少し空気が気まずくなったが、新たな知り合いの登場でその空気は霧散する。
「よう、相変わらず賑やかにやってんな」
「陸、ご無沙汰」
「知り合い?」
「ああ、三校の八島 陸(やじま りく)。1年生だ。陸、こっちは一校1年の光井ほのかと北山雫」
「よろしくな」
「こちらこそ」
「聞いたぜ、黎。モノリスに出るんだって?」
「ああ、まあ一応な」
「俺も出るから、お互い頑張ろうぜ」
「……一条、吉祥寺に合わせて、お前まで相手しなきゃならんとは、相当厳しいな」
「ま、こっちも優勝取りに来てるからな。あたったら手加減しないぜ?」
「おう、楽しみにしてる」
一度拳を合わせ、陸もその場を離れた。
「…黎さん、あの人強いの?」
「ああ、かなりやる奴だ.
森崎たちじゃ相手にならんと思う」
「そんなに…大丈夫ですか?」
「相当気ぃ引き締めていかねーとな」
「頑張ってね、応援してる」
「ああ、2人も頑張れよ」
とりあえずここまで。オリキャラを新たに2人出しましたので、簡単に紹介を
・八谷 沙織(はちや さおり)
三校2年のエンジニアとして九校戦に出場。血は繋がってないが、黎とは姉弟という関係(詳細は過去編で)。中3の妹がいる(次回辺りに登場させます)。エンジニアとしての腕は折り紙付き。
・八島 陸(やじま りく)
三校1年で、モノリス・コードとピラーズ・ブレイクに出場。黎とは互いに認め合うライバル関係であり、魔法にはかなり長けている(これも詳細は過去編で)。
これからも少しですがオリキャラ出していこうと思ってます(あまり増やすと収集つかなくなりそうなので)。分かりにくい設定などありましたら、感想などで教えて貰えるとありがたいです。最後になりましたが、UA5000とお気に入り50突破ありがとうございます!これからも頑張っていきます!それでは、また近いうちに。