諸星きらりの子守唄   作:maron5650

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11.残響

子守唄がきこえる。

 

雪のしずくが、地面を白く染めていた。

その中心に、少女が仰向けに寝転んでいた。

私は少女に馬乗りになり、刃物を握りしめた。

白いワンピースに触っても、何も変わってはくれなかった。

 

子守唄がきこえる。

 

言葉は無かった。

少女は唄い続け、私はそれを聴いていた。

それだけだった。

少女の頬を撫でても、何も変わってはくれなかった。

 

子守唄がきこえる。

 

両手を高く振り上げ、歯を食いしばる。

雑音が漏れ出してしまいそうだった。

少女の響かせる最期の音を、汚してしまいそうだった。

しずくが少女をつたっても、何も変わってはくれなかった。

 

子守唄がきこえる。

 

 

 

 

 

振り下ろす。

 

 

 

 

 

少女の白に赤が混じった。

抵抗もなく沈む凶刃が、神経を逆撫でた。

身体に穴を開けられても、何も変わってはくれなかった。

 

子守唄がきこえる。

 

振り下ろす。

 

赤がどんどん広がっていく。

誰かが何かを吼えていた。

五月蝿い。お願いだから、黙ってくれ。

もう聴けない唄なんだ。

聴かなきゃいけない唄なんだ。

視界が滲んでぼやけても、何も変わってはくれなかった。

 

子守唄がきこえる。

 

振り下ろす。

 

涙が溢れて止まらない。

流れる血が止まらない。

少女の唄が止まらない。

叫ぶ何かが止まらない。

少女は何も変わらない。

 

子守唄がきこえる。

 

振り下ろす。

 

涙を拭い、少女を見る。

まだ口が動いていた。

まだ静かに笑っていた。

赤のワンピースが綺麗だった。

傷口を抉っても、何も変わってはくれなかった。

 

子守唄がきこえる。

 

振り下ろす。

 

叫ぶ声が五月蝿かった。

滲む涙が邪魔だった。

伝う感触が不快だった。

少女は何も変わらなかった。

 

子守唄がきこえる。

 

振り下ろす。

 

少女の口から赤がつたった。

終わりが確かに近づいていた。

どうして私はほっとしているんだろう。

考えてはいけないと、誰かが言っていた。

何も考えずに、振り下ろすことにした。

何も見ずに、振り下ろすことにした。

赤が口に溜まり始め、少女の音は混濁した。

 

子守唄がきこえる。

 

振り下ろす。

 

涙を拭うのが怖かった。

視界を取り戻すのが怖かった。

でも、確認しなきゃいけなくて。

目の前を見ると、また誰かが叫んでいた。

少女の口は、もう動いていなかった。

 

子守唄がきこえる。

 

全身の力が奪われた。

奪われたって、誰にだろう。少女に、だろうか。

霞がかった頭が、ぼんやりと考えた。

奪われ尽くしてしまったら、また唄ってくれるかな。

少女がやりやすいように、私はそのまま倒れ込んだ。

少女はまだ暖かかった。

 

子守唄がきこえる。

 

目を覚ますと、世界は明るかった。

太陽が昇っていた。

空がどこまでも青かった。

風が私を優しく撫でた。

暖かい光に照らされて、少女は冷たいままだった。

 

子守唄がきこえる。

 

私は赤になっていた。

少女と同じ赤だった。

辺りに広がる雪のしずくが、赤をそっと受け入れた。

 

子守唄がきこえる。

 

少女は眠っていた。

いつまでも眠っていた。

その顔を見ていると、とても心地よさそうで。

少女に抱きついて、眼を閉じた。

 

子守唄がきこえる。

 

どれくらい経っただろう。

少女は眠ったままだった。

私はとうとう、眠ることができなくなって。

仕方なく、眼を開けた。

 

子守唄がきこえる。

 

少女の顔が、誰かに似ている気がした。

思い出そうとするのを、誰かが止めた。

辺りに響く少女の声が、私に生きろと言っていた。

 

子守唄がきこえる。

 

従わなければならなかった。

この声に。少女に。従わなければ。

私は少女からゆっくりと離れた。

乾いた赤が抵抗していた。

何故か足がふらついていた。

雪のしずくが、赤い服に貼り付いていた。

剥がしては、いけない気がした。

 

子守唄がきこえる。

 

どこに行けばいいんだろう。

分からないから、歩いた。

どこから来たんだっけ。

分からないから、歩いた。

どうやって生きればいいんだろう。

分からないけど、歩いた。

 

子守唄がきこえる。

 

ひどく色褪せたポスターに、私が居た。

その隣で、少女が笑っていた。

2人の名前が記されていた。

少女の名前を、私は知った。

諸星きらりが色褪せていた。

 

子守唄がきこえる。

 

誰かが何かを吼えていた。

誰かが悲鳴を上げていた。

誰かが壊れかけていた。

世界の色が褪せていた。

 

子守唄がきこえる。

 

 

 

 

 

子守唄が、きこえる。

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