諸星きらりの子守唄   作:maron5650

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12.遺したものを抱き締めて

その日は、雪が降っていた。

足元が真っ白になるくらいの大雪だった。

綺麗に積もったそれに、1人分の足跡を付けて歩く。

 

寒さが身体を蝕んでいた。

随分前から、足元の感覚が無くなっていた。

手がかじかんで、動かなくなってきていた。

胸に抱えたそれを、両手で再びしっかりと握りしめた。

決して落としてしまわないように。

 

どうして歩いていたんだろう。

どうして歩いていくんだろう。

最後は結局、あの人と同じようになってしまうのに。

熱を奪われた頭が、ぼんやりと思考を始める。

これまでに、何度も繰り返した問い。

弾き出す答えは、決まって1つだった。

 

彼女がそれを望んだから。

 

なんでもしてあげると。

貴方の為なら、なんだってしてみせると。

そう泣きじゃくる私に、彼女は静かに笑って。

これを私に望んだのだから。

 

「……ねえ。」

 

遂に幻聴すら聴こえ始めたのか。

それとも無意識に私が発した音なのか。

ぼんやりと考えることすら満足に行えなくなった頭が、ゆらゆらと揺れた。

 

「そんな薄手で。死にたいの?」

 

私を心配する台詞。

その声色は、酷く平坦で。感情が無くて。

ここで私が死にたいと言ったのなら、きっと殺してくれるんだろう。

そんな確証を与えてくれる声だった。

 

「……死にません。」

 

この声が幻聴であろうと。そうでなかろうと。

私はその問いに、否定をぶつけなければならなかった。

私は死なない。

私は死ねない。

死ぬことは、許されない。

 

「そう。ご愁傷様。」

 

再び、あの平坦な声。

どうやら私の作り出した幻聴ではないらしい。

足元を見続けていた目を、久しぶりに前方へ向ける。

 

「……酷い顔ですね。」

 

そこには、少女が立っていた。

身長から推測して、小学校中学年ほど。

腰まで届くほどの長さ。その金髪を、2つに結んで。

火の付いた煙草を咥え。

ダッフルコートに身を包み、その両眼をギラギラと輝かせていた。

そして、何よりも目を引くのが。

彼女の右手に固く握られた、朱く錆びついたナイフだった。

 

「アンタが言う?」

 

私の言葉を、少女は鼻で笑う。

彼女と同じくらい酷い顔をしているのか、私は。

まあ、関係ないか。

例えそうだとしたところで、見せる相手はもう居ない。

 

本来、私はこの少女より5〜6年ほど年上で。

年上である以上、少女を保護しなければならない立場にあるのだろう。

だが。こんな少女に構っている暇はなかった。

褒められる行動をしている余裕はなかった。

そんなことをしても、もうあの人は私を撫でてはくれないから。

 

「……アンタ、1人?」

 

歩みを止めず、少女とすれ違おうとする。

すると、不愉快極まりない言葉を投げかけられた。

この少女は嫌いだ。私の苦手とする人物だ。

直感が、どうしようもなくそう告げた。

 

「2人でしたよ。」

 

苛立ちを隠そうともせずにそう返す。

すると少女は、無表情のまま目を細めた。

 

「その本をくれた人?」

 

私が両手で抱えるものを指差し、再び無機質な声が響く。

何なんだ。

何なんだ、彼女は。

そんなに人を苛つかせて、何がしたいんだ。

 

「だったら何です?」

 

私は振り返り、少女の目を真っ向から睨みつける。

その行動を見て、また少女は、表情を変えないまま。

私に手を差し出した。

 

「……死ねないんでしょ。来なよ。スープがまだ残ってる。」

 

その手をじっと見つめながら、私は戸惑いを隠すので必死だった。

何故彼女は私にそんなことをする?

何故私を助けようとする?

何故得体の知れない初対面の人間に、物資を分け与えようとする?

罠? 取引? 気紛れ? そのどれでもない何か?

 

考えても、何も分からなくて。

このまま歩き続けていれば、きっと凍えてしまうから。

生きるために。私は彼女の手を握る。

 

「……ん。じゃ、行こっか。」

 

少女は私の手を引いて歩き始める。

振り返らないまま、彼女は誰にともなく呟いた。

 

 

 

 

 

「いつか私が、貴方を殺してあげる。」

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