諸星きらりの子守唄   作:maron5650

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1.あなただけが鮮やかで

近場の店をいくつか回って、分かったこと。

どうやら私達の考えは、あまりに楽観が過ぎたらしい。

埃と蜘蛛の巣くらいしか並ぶものが無い陳列棚を横目に、私は小さく溜息をついた。

 

それもそうだ。

非感染者をシェルターに閉じ込めるほどの。

そうせざるを得ないほどの。

それほどの人類の危機だったのだ。

地上に残された人間は、大量の感染者と。

地上で生き続けることを決めたごく少数の非感染者だけ。

感染者は当然、すぐに死人も同然となり。

非感染者も、ずっと健康体で居られるはずがなく。

狂いながら衰弱を待つか、見かねた生存者に看取られるかだ。

物資を生産する理由も。余裕も。人手も。意味も無かった。

 

「だからってさぁ……。」

 

少しくらい残しておいてくれたっていいじゃないか。人類の危機だぞ。

命尽きる最期の瞬間まで、人類のために頑張ってくれよ。

逆の立場だったら、私は絶対そんなことしてやらないけど。

 

ショッピングモールに立ち並ぶ数々の店。

重い足取りで、その最後の店を出る。

 

「ダーメ、なんも無い。そっちは?」

 

きらりと手分けして、ここら一帯を虱潰しに回っている最中だった。

通路を挟んだ反対側を探しているきらりの方へと声を張る。

……程なくして、彼女がぴょこりと顔を出した。

ふふん、と、ドヤ顔で手招きしている。

その頭上の看板に、キャンプ用品云々、と書かれているのに気付き。

私は思わず小走りで彼女の元へと駆け寄った。

 

「じゃーん☆」

 

きらりが大袈裟なリアクションで指し示す先には。

大量の缶詰や乾パン、寝袋、大きいリュックサック、テント、コンパス、地図、懐中電灯、etc。

これからの生活に必要そうなものが、所狭しと並んでいた。

 

「おお……!」

 

私は歓喜に声を震わせる。

何故店先には何も無いのに、倉庫内にこれだけの物資が残っているのか。

何故倉庫の入り口のドアがひん曲がっているのか。

何故きらりの右手に名状しがたいバールのようなものが握られているのか。

それらについては、この際深く考えないことにした。

 

選り取り見取りの物資に囲まれ、私達は選別を始めた。

女2人が全て持ち運ぶには、あまりに多過ぎる量だったことに加え。

バドミントンやプラスチック製のバットといった、どう考えても要らないだろう、としか言えない物がいくつか紛れ込んでいた。

2人の体格。リュックサックの容量。現在の季節。周囲の環境。

様々な観点から判断し、より重要度の高いものからリュックに詰めていった。

 

 

 

結果。

 

「……なんか、ごめん。」

 

冗談かというほど膨れ上がったリュックを軽々しく背負うきらりを見て、自然と謝罪が零れた。

 

「だいじょーぶだいじょーぶ☆」

 

私が持つのは、コンパス、地図、ライターといった、小さくて軽く、頻繁に取り出す必要のあるもの。

きらりは重くてかさばるもの全般を持つことになった。

シェルターのレバー。倉庫の扉。荷物の運搬。

きらりが居て本当に良かった。心からそう思う。

 

「……じゃ、行こっか。」

 

立ち上がり、店を後にする。

取り敢えず、数日は余裕を持って生きられる。

今考えるべきことは、この数日の間に何をするかだった。

ショッピングモールの通路を歩きながら、口元に手を当てる。

しばらくそのまま歩いていると、きらりが私の肩を指先でつついた。

 

「あれ。……懐かしいね。」

 

振り返り、彼女を見上げると。

きらりは壁の方を指差し、どこかを見つめていた。

 

「……もう、3年前、か。」

 

壁に貼られた、1枚のポスター。

そこには、可愛らしい衣装に身を包んだ、2人のアイドルの姿があった。

双葉杏と、諸星きらりがそこに居た。

ボロボロになった端と褪せた色が、年月を静かに語っていた。

 

「杏ちゃん、変わらないね。」

 

私とポスターを見比べ、きらりが笑う。

 

「きらりこそ。」

 

あれから3年。

成人したとは思えないほど、きらりは少女のままだった。

あの密閉された空間の中で、時が止まっていたかのように。

無理矢理に違いを見つけようとしても、数センチ背が伸びた程度。

何もかも変わった世界の中で、きらりだけは変わらなかった。

だからだろうか。

彼女の変わらぬ姿を見ると、それだけで心が安らいだ。

 

「……ん?」

 

柔らかい時間が流れること、数分。

ポスターから少し離れた場所に、張り紙があることに気付く。

目を凝らして読もうとするが、いかんせん位置が高い。

 

「ええっと……物資の回収……大学に集合……?」

 

そんな私の様子を見て、きらりが張り紙の内容を読む。

ポスターよりも少しだけ年季を感じさせないそれは、生存者へ向けたものらしかった。

 

「きらり、剥がせる?」

 

きらりは四隅をセロハンテープで貼り付けただけの紙を丁寧に剥がす。

手渡されたものに目を通すと。

生き残っている人間は、ここから少しだけ離れた場所にある大学に集合すること。

その際、物資は後から警察と自衛隊が回収するので、何も持たずに来ること。

以上2つの指示と、大学の場所を示した地図が印刷されていた。

用紙の端っこには偉そうな肩書と、私達がシェルターに入った数ヶ月後の日付。

 

「生き残った人間と、物資を管理しようとしたみたい。」

 

最後の一件に当たるまで何一つ収穫を得られなかったことを考えると、当時の人間は素直にこれに従ったらしい。

世界が滅亡に瀕しても、日本人の秩序は崩壊しなかったということか。

アメリカンジョークにそのまま使えそうな話だ。

 

「行ってみる?」

 

きらりが首を傾けながら問いかける。

場所も判明しているし、この紙切れ以外にこれといった指針もない。

今背中にある食料も、いずれ尽きる。

ありったけの物資をかき集めたようだし、まだ少しは残っているかもしれない。

生きている人間が、居るのかもしれない。

 

「日が昇ったら、行ってみよう。」

 

ここの探索をしているうちに、もう日が暮れかけていた。

数十分もすれば、完全に暗くなってしまう。

街灯の無い中、舗装されているとはいえ、夜道を歩くのは危険だ。

わざわざ懐中電灯の電池を使うほど切羽詰まった状況でもないだろう。

 

物資の確保と、目標地点の設定。

初日にしては大収穫だ。

ひょっとしたらこのまま、うまいこと生きていけるんじゃないか。

 

 

 

 

 

この時は、まだ、そんな強がりを考えていられたんだ。

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