諸星きらりの子守唄   作:maron5650

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4.古ぼけた最新機器

空に浮かぶ球体が、赤く色づき始めた頃。

私達は張り紙にあった大学に到着した。

物資や他の生存者が居るかも知れないと、希望を持っていた場所。

そこに辿り着いたにも関わらず、重苦しい空気がいつまでも纏わりついていた。

 

「……静か、だね。」

 

「……うん。」

 

喧騒は、無かった。

それが何を意味するのか、嫌でも分かってしまっていた。

誰も居ない校内に、2人分の足音が響く。

 

左右に並ぶ扉を1つずつ開け、何も無いことを確認しながら進む。

生活の跡すら無かった。

美しさすら感じさせるほど、全て綺麗に片付いていた。

 

そうして歩いていると、教室とは比べ物にならないほどの、だだっ広い空間を見付けた。

どうやら、食堂を改修したものらしい。

所狭しと並んでいたのだろう机や椅子は何処かに撤去され。

そこには何かの機材やPC、化学の教科書で見覚えのある器具が大量に立ち並び。

空間の中央には、数十人でやっと囲めるか囲めないかといった、やたらと大きいテーブルが、異質な存在感を放っていた。

 

テーブルに近付き、乱雑に放置された物達をざっと見る。

綺麗に洗われたマグカップ。

小難しい数式が印刷された大量のプリント用紙。

ビニールに包まれた何かの植物の球根。

PCを初めとする電子機器類が隅に追いやられていることから、途中で電力が供給されなくなったのだろう。

 

「……研究、してたんだ。」

 

それらの情報から得た結論を、ぽつりと呟く。

物資と生存者を大学に集めた理由。

それは、それらを管理するためだけではなかった。

地上に残った人間は、その殆どが奇病に侵されている。

生存者とは、それ即ち貴重なデータなのだ。

生存している人間の把握と、残存した物資の管理。

そして、奇病の研究。

それらを一挙に行うために、この場所を選んだのだ。

ある程度の人間を収容可能であり、そこそこの研究設備が整ったこの場所を。

 

奇病の研究。

その最終的な目的は、奇病の実質的な根絶に他ならない。

人類の存続の為には、地球上から奇病を跡形もなく消し去るしか。

そうでなければ、人間を奇病に対抗できるよう作り変えるしかない。

 

何処まで進んだ。

私達が地下に隠れ、地上の人間がここに集まってから、今までの間に。

何処まで判明した。

ここに人間が居ないということは、既に感染した者の治療はできなかった。

何処まで近づいたんだ。

治療ができなかったなら、予防は。

感染者をこれ以上増やさない方法は、手に入れることができたのか。

 

テーブルの上をもう一度、今度はじっくりと見渡す。

何かがあるはずだ。

ここで電力が尽きるまで研究を続けるほどに、人類の存続を諦めなかった人ならば。

後に託すためのバトンを、用意していたはずだ。

 

全てが乱雑に積まれたテーブルの上に、唯一形の整ったものがあった。

それは左側面をホチキスで留められた、プリントの束だった。

「小学生」

「中・高校生」

「大学生・それ以上」

3つの束には、それぞれこう書かれていた。

私が当てはまるのは、大学生だろうか。

束を手に取り、ページをめくる。

ボールペンで書かれたそれの筆跡は、きっと女性のものだった。

 

 

 

『ここで何が行われていたのかは、恐らく見れば分かるだろう。

治療には失敗した。予防にも至らなかった。

ただ、発症条件だけは判明した。

 

一言で言うならば、肉体的成長が終了することだ。

 

身体の成長が終わり、緩やかに老化するのみになった時。

その瞬間から、発症する可能性が存在し続ける。

 

あくまで可能性だ。成長が終わったら即座に必ず発症する訳ではない。

発症条件を満たした者がいつ実際に発症するか、どの程度の速度で症状が進行するかは完全にランダムだ。

少なくとも、我々がそれを判明することはできなかった。

データを挙げるならば、成長が終了してから発症するまでの期間は3日から6ヶ月までの差が。

発症してから全ての感覚を失うまでの期間には、1週間から2年以上の開きがあった。

 

さて。君は大学生か、それ以上。だったな?

当然個人差はあるが、統計的に見て、発症条件を満たすのは大体20代前半だ。

つまり君は、いつ発症してもおかしくない状態にある。

 

必死に机に齧り付いて、分かったのはこの事実くらいだ。

我々が君のために残すことができるのは、殆ど何も無い。

君はいずれ感覚を失っていくだろう。

その現実を止めることは、我々にはできなかった。

 

いや、我々、という言葉は適切ではないか。

私の研究対象は元々ロボット。正体不明の奇病など専門外もいいところだ。

実のところ、彼女の手伝いくらいだ。私がやったことは。

こんなことなら、

 

この冊子の後ろに、近辺の観光地をリストアップした。

まだ皆が生きていた頃、一緒に作ったものだ。

終わりが来るまでの、せめて気を紛らわす手助けにでもなればと思う。

中々興味深いぞ。人間が居なくなって、自然は随分綺麗になった。

誰が植えたか、花畑もいくつかできていたな。

 

最後に、お願いがある。

 

この奥に進むとある、大学の中庭。

そこにはどうか、近付かないでほしい。

3人で居たいんだ。あの頃のように。

 

論文以外の形で人に何かを伝えるのは、存外難しいものだな。

拙い点が多かっただろうが、どうか笑って見逃してくれ。

 

じゃあ、私は行くことにするよ。

あまり待たせては可哀想だ。

 

 

 

 

 

君の残りの人生が、せめて苦しくないことを願う。』

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