今でも思い出すだけで鳥肌が立ち、軽く目眩がする夢でした。
この恐怖はこの夢を見た人にしかわかりません。
ですが、体験者として警告します。
絶対に見ない方が宜しいかと……
想像してみてほしい。
今、私は左手にマグカップを持っている。
中にはとてもいい香りのするスープが入っている。
我が家で調理をするのはほぼほぼ父だけだったので、このスープもきっと父が作ってくれたのだろう。
スープには輪切りにされた玉ねぎがたくさん入っており、オニオンスープであることは香りからも明白である。
試しにひとつ、玉ねぎを金属のスプーンで掬ってみると、たらりとスプーンの上からたれ落ち、火が丁寧に入っていて、この玉ねぎがトロットロになっていることがわかる。
さあ頂こうじゃないか。
一口食べたところで、がりっ、と言う不思議な音が口の中で響いた。
ふむ。がりっ、ねぇ。
何かはわからないが気になったのでとりあえず舌の上で転がしてみる。
コロコロとどうやらかなり硬度が高いらしく、それでいてサイズはそこまででもない。
が、食べれないもののようだし、吐き出そうと思い、スプーンを口の前に持ってきて、その固形物を吐き出した。
歯だった。
「
そんなブラックジョークにも似た冗談を、当時は言うつもりはなくとも、今の私からすればそれこそそう聞こえてしまう。
それほどまでに、目の前の光景が信じられなかった。
歯が、抜けた。
そうとしか思えない。私は慌てて口に手を突っ込み、一体どこの歯が抜けたのかを調べようと思った。左側の下顎の歯、それも前から5番目のものだった。
確認した瞬間、全身に恐怖が回った。
えも言えぬ喪失感。まさに、肉体の一部が失われた絶望感に襲われた。
目の前にあるのはあのオニオンスープだ。
火が通ってトロトロになった玉ねぎが入ったスープだ。
(
(他の歯は無事なのか?抜けていないか?)
焦燥にかられ、私は急いで他の歯にさわってみた。
最初は下顎の前歯だった。右側の。
少し力を入れただけで歯は抜けた。
「────ッ!」
一瞬でパニックに陥った。それからさらに慌てて他の歯を触ろうと、残っているかの確認をしようと、そう思った。
だが、上顎の歯は重力に負けて落ち、下顎の歯は触ったところから剥がれていった。
「────ッツァッ!」
叫びは自然と漏れ出た。自然にボロボロと抜け落ちたはずの歯茎からは血がとめどなく溢れ、そこからくる激痛は意識を朦朧とさせ、目の前に転がり落ちる歯たちは私をさらにパニックにさせていった。
(違う!!これは夢だ!!そうに決まっている!!)
この頃になって私はこれを夢なのだと思い始めた。しかし、夢にしては、強すぎる痛みと、明瞭な光景がその可能性をその時の私を否定した。
(どうか……夢であってくれ……!)
何度もそう願った。ベッドに子供さながらにうずくまり、何度も呻いた。遠のく意識の中、私は絶望し続けた。
目が覚めた時、私は歓喜した。歯が生えていることに。
やはりあれは夢だったのだ!!と。
当たり前のことがこんなにも嬉しいとは!!
目覚めた直後の私は神も捨てたもんじゃないと、本気で思っていた。
しかし、最近虫歯ができたのを気にしていたのも事実だった。
これを機に、私は、毎日欠かさず歯磨きをしている。
書いている途中も思い出して、気持ち悪くなりました。
皆さん、歯磨きは毎日欠かさずにしましょう。
原始的な恐怖ほど、恐ろしいと感じるものはないのですから。
え?ちなみにオニオンスープの味はどうだったかって?
何分夢の中のことですしよく覚えていませんね……。
多分血の味がしたんじゃないですかね。