どうも、大塚ガキ男です。SAOのゲームを買い、アスナちゃんが可愛過ぎたので書いてみました。
「クリフちゃんクリフちゃん。一つ聞きたい事があるんだけどさ」
「何だね?私が知っている事なら何でも答えよう」
「クリフちゃんのHPバーってさ・・・・・・何で黄色にならねェ訳?」
そこかしこから聞こえる、掠れ気味の呼吸音。疲労からか誰もが座り込み、または倒れ込んでいる状況。
「・・・・・・今回のは、マジでヤバかったな」
息を切らしながら——リザルト画面を確認しながら、キリトちゃんがそう言った。
返す。
「それな。難易度も被害も過去最高レベル・・・まだ後二十五層もあるんだろ?やってらんねェって」
14人という大きな犠牲の上に勝利を収めた七十五層のボス戦。
犠牲者の過半数が一撃死。呆気なくその身体を煌めく結晶に変え、現実世界での眠りも永遠の物にした。
そんな、壮絶な戦い。
SAOという名のデスゲームが始まってから、二年が経った。
2年間で七十五層を攻略。
強くなるのはプレイヤーだけじゃない。
階層攻略の勝利に喜ぶ者は少なく、皆疲弊。
そりゃそうだ。
HPバーの消滅は現実世界での死を意味するこのゲームを純粋に心から楽しめる者等、
楽しむ為じゃない。終わらせる為にプレイしているのだから。
そんな現状。オレのぼやきに応じたのは、キリトちゃんではなかった。
「でも、ミツヤ君は前線で戦うんでしょ?」
キリトちゃんが左隣だとすれば、会話に入ってきたアスナちゃんは右隣。
川の字。
もしくはⅢの字。
アスナちゃんとの距離がやけに近い気もするが、オレも疲れている。
恐らくは目の錯覚だ。
「まァな。早く現実世界に帰りてェし」
「
「あァ。晶彦ちゃんとは親友だったからな」
親友だから。
親友
オレは早く現実に戻って、晶彦ちゃんを一発殴らなければならない。
現実世界でオレを心配してくれている家族の為にも。
死んじまった皆の為にも。
個人的な怒りを鎮める為にも。
「そうなの?」
「あれ、言ってなかったっけ?」
「俺は聞いたけど」
「・・・へぇ。わたしには教えてくれなかったんだ」
ぞわっ。
アスナちゃんが優しい手付きでオレの頬を指でなぞる。可愛らしい筈のソレに何故か寒気を覚え、気付いたらオレは謝っていた。
「・・・わたしよりキリト君の方が好きなの?」
「えっ、何でそんな話に——」
「キリト君の方が好きなの?」
「・・・オレはアスナちゃんの方が好きだぜ」
ピッ。
「ふふ、ありがとう」
「ねぇ、何だ今の音」
「・・・そうか、ミツヤはアスナの方が好きなんだな」
「うわー、左隣も面倒な事になってる」
「左隣
「あァもう違うんだって」
疲れている身なのに、いつの間にやらいつものペースになっていた。
アスナちゃんがオレに絡めば、キリトちゃんもそれに便乗。対処しきれなくなったオレを二人が笑うという構図。
全く、アスナちゃんも人が悪い。いくら冗談だとしても、同い年の男にそんな過激なスキンシップを図るだなんて。
・・・・・・冗談だよな?
「にしても、ドリームメンバーで挑んでコレだろ?」
ドリームメンバーとは、
《黒の剣士》キリトちゃん。
《閃光》アスナちゃん。
《聖騎士》ヒースクリフちゃん。
の、レベル&プレイヤースキルが共に馬鹿高い三人衆の事(実際にデュエルを挑んでのオレ調べ)。オレが勝手に呼んでるだけなので、このゲーム内に於ける浸透度は低い。
良いよなァ、皆格好良い二つ名があって。
オレなんか《イカレ野郎》だぜ。
全然格好良くねェし。
ただの悪口だし。
キリトちゃんとの最初の出会いはこのゲーム序盤の序盤。まだSAOがデスゲームと化す前に、クラインちゃんという野武士野郎がキリトちゃんからゲームの指南を受けていた時に出会った関係。
それからは同じ攻略組として何度か行動を共にしたのと、どちらもギルドに属していないソロプレイヤーという事もあって仲良くなった。
《二刀流》というかっちょ良いユニークスキル持ち。
アスナちゃんとの最初の出会いも序盤辺り。迷宮区を無茶苦茶なペースでソロ攻略していた所をキリトちゃんと見掛け、それから何やかんやあって今に至る。
最初のクールなアスナちゃんと今の丸くなったアスナちゃんを照らし合わせてはニヤつくというのがオレの最近の趣味です(暴露)。
クリフちゃんとの最初の出会いは中盤辺り。現在のアスナちゃん属する血盟騎士団というギルドの団長。
アスナちゃんのストーカーをキリトちゃんと一緒にぶっ殺してから(言い方)、色々と問題となりデュエルをする事に。
勝てばアスナちゃんを血盟騎士団から引き抜ける。負ければオレとキリトちゃんは血盟騎士団に加入という条件付き——それから色々あって、お助けで血盟騎士団に入る事になった。現在に至るまでオレ等の団長となっている。
《神聖剣》というユニークスキル持ち。
・・・・・・改めて考えるとやべェな。何でオレはこんな有名人達と交流があるのだろうか。
時間が経てば、多少なりとも疲労は鳴りを潜める。アスナちゃんに手を引かれ、ようやっと立ち上がる事が出来たオレは、その手でキリトちゃんも起こしてから団長クリフちゃんの元へ。三人で行く必要は無いので、オレ一人だ。
「クリフちゃ〜ん」
「おや、ミツヤ君。ご苦労様。今回も素晴らしい活躍だったよ」
「またまた〜。クリフちゃんの方が凄かったって」
七十五層のボス、《The Skullreaper》。骸骨の顔した百足のような、外見的にも恐ろしい敵だった。
キリトちゃんだってアスナちゃんと協力してやっと攻撃出来たってのに、一人でアイツと互角に渡り合う等、正気の沙汰じゃねェ。
オレがクリフちゃんにそう言うと、クリフちゃんは笑った。
「?」
「いや、失礼。君は相変わらずなのだなと思ってね」
私に敬語を使わないのは君くらいだろうな。と、クリフちゃんが。
クリフちゃんとまともに話したのは、血盟騎士団の副団長であるアスナちゃんを引き抜く為に第五十五層にある血盟騎士団の本部に直談判しに行った時の事。「アスナちゃんはもらってくぜ!」と言ったら、両隣から思いっ切り口を塞がれた。その時のキリトちゃんとアスナちゃんの顔が青ざめていたのは今でもよく覚えている。
それに反してクリフちゃんからの好感度は上々だったようで、血盟騎士団に入った今でも良くしてもらっている。
「んで、どうする?そろそろ上に行っとく?」
「・・・そうだね。皆に呼び掛けようか」
拍手を二回。クリフちゃんが皆の意識を自分に傾けさせ、これからの行動についての説明を始める。それを横で聞きながら、ぼーっと考える。
今もこうしてクリフちゃんの頭上に映る、青いHPバーの事を。
ダメージを喰らう毎にバーは削れ、色は変化する。
青から黄色。そして赤へ。
青は安全で、黄色は注意。んでもって赤は危険。
信号機と同じだ。
今回のような激戦を以ってしても、クリフちゃんのHPバーは黄色にならなかった。
勿論、ダメージは喰らっている。
けれども、黄色には至らない。
それだけ自身が強いのだ。
それだけ防御が堅いのだ。
やがて説明は終わり、各々第七十六層に続く階段を上ろうと歩き始めた頃。
この際だ。
「クリフちゃんクリフちゃん。一つ聞きたい事があるんだけどさ」
話し掛ける。クリフちゃんも快くそれに応じてくれた。
「何だね?私が知っている事なら何でも答えよう」
柔らかい口調。
強くて、それでいて物腰が紳士ってやべェな。オレの理想とする大人な男そのものだ。憧れちゃうね。
「クリフちゃんのHPバーってさ・・・・・・何で黄色にならねェ訳?」
その瞬間だった。
クリフちゃんの表情が、今まで見た事のないような表情に——驚愕に染まっていたのだ。
その表情の意味を。「どした?」と問おうとした所。
剣がこちらに迫っていた。
「・・・・・・いつから気付いていた?」
剣先が眉間に到達するギリギリの所で止められている。
その気になれば殺せると言わんばかりのその行動。
「気付くって、何が?」
「惚けないでくれ
「は?」
「いやはや、しかし驚いたよ。まさか親友である君に気付かれるとはね。・・・いや、親友だからこそ、なのだろうか」
一人でぶつぶつと語り、納得しているクリフちゃん。
この重大発言。
オレ以外のプレイヤーの耳には届いていない。
「いつから気付いていたのか、参考までに聞かせてもらえるかな?」
「・・・気付いていたっつうか、実際オレにとってはただの疑問だったんだ。そういやクリフちゃんのHPバーっていつも青いなァって。でもダメージは普通に喰らうし、ポーションだって使うから、疑問からそれ以上の発展はしなかったんだ。
「成る程。続けてくれ給え」
自らの正体を明かしたというのに、やけに落ち着いているクリフちゃん。
続ける。
「だからさっきの問いだって、特に別の何かを含んではいなかったんだよ。本当にただの疑問——質問に過ぎなかった」
「・・・・・・成る程、成る程。つまりは私が勝手に自滅しただけだったという訳か。ふふ、ふふふ」
額を押さえ、笑うクリフちゃん。その動作はとても悪役じみていた。
「だがしかし、こうして気付いてしまったのも事実。本当は九十五層辺りで正体を明かそうと思っていたのだが、仕方無い。これも運命だ」
嫌な予感がする。背筋を何かが這い回るような、嫌な予感が。
だが、それが何なのかが分からないので、クリフちゃんの行動を見ているだけに留めてしまっている。
クリフちゃんは左手を振り、ウィンドウを出現させる。それから何かを操作して。
周囲から同じような音が幾重にもなって聞こえた。
見渡す。
「彼等の動きは少しの間封じさせてもらったよ。この会談の最中は邪魔だからね」
「畜生、何だ!?いきなり!」「身体が動かない!」「どうなってやがる!」「敵か!?」
オレとクリフちゃん以外の皆が、不自然な体勢で地面に倒れていた。
周囲が混乱に陥り、声が飛び交う。その声がオレの頭に刺激を与え、オレも混乱に引きずり落とそうとする。
「ミツヤ!」
「ミツヤ君!」
馴染みの深い二人の声が耳に入り、ようやく身体が動き出した。二人に駆け寄る。
「大丈夫か!?」
近寄り、HPバーを確認。ダメージは受けていないようだが、緑色の枠で囲まれ点滅している。
誰がやったのかは、考えるまでもない。
「何があったの?敵は倒した筈なのに」
「・・・オレも、よく分からねェんだ」
本音。
クリフちゃん直々にネタばらしされた今でも、オレはこの状況が理解出来なかった。
いや、したくなかったというべきか。
短い間とはいえ、確かな信頼関係を築いていたクリフちゃんの裏切りとも言えるその言動、そして行動を、オレは理解したくなかったのかも知れない。
「ミツヤ君。話の途中で相手に背を向けるのはいただけないな」
「・・・クリフちゃん」
「折角だ。どうだ?君の口から伝えてはくれないかな?・・・・・・私が実は敵だったというイベントを」
周囲に衝撃が走る。
「・・・多分、今の台詞で皆理解したと思うぜ」
「おや、失礼。君の役目を奪ってしまった」
何が楽しいのかは分からないが、クリフちゃんは笑っていた。
それはそれは楽しそうに——夢想する子供のように。
「さて。曲がりなりにも、君は私の正体を看破した。それに対しての
どうだろう?私と一対一で戦わないか?」
「はァ!?」
「無論、君の疑問も解消し、解除しよう。これが種だ」
クリフちゃんがオレに近寄り、オレに曲刀を握らせる。呆然としているオレの曲刀を握ったその手を動かし、自らに思い切り突き刺す。見た感じ、オレがクリフちゃんを攻撃しているようだ。システムもそれに反応し、クリフちゃんのHPバーを——
「!?」
自傷かと思った。
だが、違った。
オレの剣先とクリフちゃんの身体の間に紫の閃光が炸裂し、同じく紫色のシステムカラーのメッセージが表情される。
【Immortal Object】
「私は不死だ」
メッセージの意味を理解していなかったオレをフォローするかのように、クリフちゃんがそう言った。オレはPCやら英語には長けていないので、助かる・・・ってそうじゃない。
(不幸中の)幸いにも、先程の紫電の衝撃で目が覚めた。クリフちゃんの言いたい事が良く分かる。
「私と戦うのであれば、この不死設定を解除し、正々堂々と戦う事を約束しよう」
「オレがクリフちゃんと戦って得るメリットは」
一勝一敗。
オレとクリフちゃんのデュエルの戦績。勝率はお互い五分五分だが──言うまでも無く、キチンとした状況で、一対一で戦うならば、オレはほぼ確実に負けるだろう。
だから、オレは問うた。勝つ確率が限り無く低い戦いを、わざわざやる理由に値するメリットを。理由を問うたのだ。
クリフちゃんはその言葉を待っていたようで、嬉しそうに答えた。
「ゲームがクリアされる」
ゲームクリア。
オレ等攻略組の最終目標。死にもの狂いで、いくら犠牲を払おうと成し遂げようとしているソレを、クリフちゃんは口にしたのだ。
「う、嘘だ。ンな事出来る筈がねェ」
「出来るとも。私を倒せばね」
言ってのけるクリフちゃん。
ゲームクリアという餌を吊り下げても食い付かないオレに何を思ったのか、クリフちゃんは「はぁ・・・」と溜め息を吐いた。
「・・・・・・これでも、私と戦わないつもりかな?二十五層分の労力と、そして犠牲を君一人で
「死ぬと分かってるからだよ」
「死んだら、コンティニューすれば良い。——おっと、この世界ではコンティニューは出来ないのだった」
「ッ、クリフちゃん!!」
「落ち着けミツヤ!挑発に乗るな!」
飛び出しそうになったオレを、キリトちゃんが怒鳴って制止。
「損得感情や、ましてや怒りで戦おうとするな。俺はミツヤに死んでほしくない」
「そうだよ!ここは一旦引いて、万全の状態に立て直してから」
「立て直せば・・・勝てるのかね?」
アスナちゃんの言葉が止まる。
「先程も言ったように、私が不死設定を解除するのは今この時と、後は最上層の時だけだ。この機を逃せば、後は最上層の《
その通り。
今日のような戦いを。
いや、これ以上に凄惨な戦いを、どれだけ少なくとも後二十四回以上繰り返さなければ、次の機会は訪れない。
そもそも、最上層まで辿り着けるかすら分からないのだ。
最上層に辿り着くのが先か、攻略組が全滅するのが先か。
ギリギリなのだ。
ならば、オレはここで戦うべきなのか?
いやでも、ここで戦っても犬死になのではないだろうか。
しかし、やらぬ後悔よりやった後悔か?
「ミツヤ」
クリフちゃんに名を呼ばれる。
「これだけは、どうしても隠しておこうと決めていたのだが・・・君がそこまで粘るのなら仕方が無い。こちらも最終手段を使おうじゃないか」
「最終、手段?」
「宣言しよう。
「ちょ、ちょっと待て。何でオレの本名を」
「私の名は茅場晶彦。このゲームの開発者であり、この事件を起こした張本人であり、君が探していた男であり・・・君の親友だ」
「ッ!?」
頭が真っ白になる。
クリフちゃんが晶彦ちゃん?
オレがこの二年間、生きる糧と言える程に執着してきた相手が、目の前にいるだと?
「待て、ミツヤ!
「来い、ミツヤ!」
「戦っちゃ駄目!」
「私と戦え!」
呼吸が浅くなり、ペースが早くなる。曲刀を握る力が強まり、カチカチと震える。
後ろから聞こえる制止の声。
正面から聞こえる挑発の声。
行くなと。
来いと。
頭の中がぐちゃぐちゃになり、まともな判断が出来なくなって——
「・・・・・・クリフちゃん。いや、晶彦ちゃん」
構える。そして、
「取り敢えず、一発殴らせろッ!!」
飛び出した。
「はは!そうだ、それを待っていたのだ!」
怒りを乗せて刀を振るう、《イカレ野郎》
迎え討つはSAO最強の男、《神聖剣》
交わった仮想の刀と仮想の剣から仮想の火花が散り、斬り付けた仮想の身体に仮想の傷が浮かぶ。
傍から見たら、ゲーム内の一イベントに過ぎないかも知れない。命の駆け引きなんて対岸の火事かも知れない。
だが、この怒りは本物で。
この瞬間は、間違い無く本物で。
斬って斬られて、防いで防がれて、いなしていなされて、避けて避けられて。
怒って、笑われて。
「どうだミツヤ!ゲームは楽しいだろう!」
「巫山戯んな!楽しい訳ねェだろうが!!」
実力の拮抗。
もしくは、あちら側の手加減在りきで成り立っているお遊び。
決着は付かず、ただHPバーだけがじわじわと減っていく。
誰も見た者がいないというクリフちゃんのHPバーのイエローゾーンは衆目に晒され、しかしクリフちゃんはその事を恥じず、笑顔。
クリフちゃんはゲームを純粋に楽しんでいた。
「・・・・・・さて、そろそろ頃合いかな?」
そして。
やがては訪れる、終わりの時。
終戦。
敗戦。
残り1センチの自分のHPバー。
晶彦ちゃんのHPバーは、まだイエローゾーン。
レッドゾーンまで、僅かに届かず。
「どんなに力を蓄えても、知恵を絞っても勝てない相手はどうかな?最高だろう?だから人は強くなれるのだよ。だからゲームが上手くなれるのだよ」
「・・・っつーか、いるのかよ。晶彦ちゃんが勝てない相手って」
「いるとも。絶対に勝てない相手がね」
言い切る。
「だとしたら、見て見たいもんだな。その相手を」
「なぁに、焦る事はない。いずれ会えるさ」
「いずれは無ェだろ。オレは死ぬんだからよ」
「・・・何を言っている?私は負けたら死とは一言も言っていないが」
「・・・・・・は?」
「
「何を言っているんだ、晶彦ちゃん」
「君だってそうだ。私を殴るとは言えど、殺すとは決して言わなかった」
「ッ」
「双方のその甘えが、私の勝因であり君の敗因だ」
言って、倒れているオレに背を向けるクリフちゃん。
それは、生き延びた敗者に対する最大限の侮辱。
「私は今日を以って血盟騎士団の団長を辞任。団長の座はアスナ君に渡そう。アスナ君、血盟騎士団の今後は君に懸かっている。最上層まで、しっかりと部下を鍛えてくれ給え」
アスナちゃんを激励するクリフちゃん。
それに感じる違和感。
おいおい、何だよその台詞。
それじゃまるで、
「今日は楽しかった。最上層でまた会おう、ミツヤ」
帰り際の挨拶みたいじゃねェか。
「待てよ」
気付いたら曲刀を支えに立ち上がっていて、クリフちゃんを引き止めていた。
「・・・何かな?」
「まだ・・・お前を、——ぶん殴ってねェだろうが!!」
振りかぶる。
オレが限界まで磨き上げてきた投剣スキル。
余力を以って、投げ付ける。
パアァンッ!と強烈な空気の破裂音と共に、曲刀がクリフちゃんに迫る。
が。
「・・・君は
《神聖剣》の前では役に立たず。あっさりと弾かれてしまった。
最後の足掻きが、失敗に。
終わる?
んなまさか。
クリフちゃんの眼前に迫った曲刀は、一瞬だけオレの姿を隠す遮蔽物となる。
その隙。
剣で曲刀を弾く僅かな隙の間に地面を蹴り、クリフちゃんに迫り、
「——オラァッッ!!」
ガラ空きの左頬に、拳を打ち込む!
「ぐぉ!?」
体術スキル。
エクストラスキルとも呼ばれるそれは、数十と下の階層にてアルゴちゃんという情報屋の情報を元に手に入れた物。
ゲーム内で晶彦ちゃんを殴るとは思ってもみなかったが、こうして役に立ったのだ。アルゴちゃんには今度お礼をしなきゃな。
地面を転がるクリフちゃん。その姿に爽快感を覚える。
「・・・は、ははは。はーっはっはっはっは!やるじゃないかミツヤ!」
狂ったように笑うクリフちゃん。
「スカッとしたぜ、クリフちゃん。ありがとうな——それと、HPバー初レッドゾーンおめでとう」
オレも笑い、皮肉混じりに礼を言う。
オレの体術スキルでの打撃が、クリフちゃんのHPバーをイエローからレッドに変えたのだ。
立ち上がったクリフちゃんは、服に付いた土埃を払いながらこちらに近付いてきた。敵意を一切感じないその目。
オレはクリフちゃんをどう頑張っても殺せないし、クリフちゃんもオレを殺す気は無い。
ここでの戦いは終わったのだ。
「礼を言うのはこちらの方だ。まさか1日でここまで笑えるとは思わなかった」
差し出される左手。握手を求められているのだと気付き、オレも左手を出す。
ガシッと握手を交わし、離した。
「君はどこまでも成長するな」
「そりゃゲームだからな。現実と違って、伸び代は幾らでもあるでしょ」
「・・・だが、どうかね。カンスト、という言葉を聞いた事は無いか?」
「そりゃあるけど。・・・まぁ実際、オレの曲刀スキルと投剣スキルはカンストしてる訳だし」
「それを、残念に思った事は無いか?どれだけ敵を斬っても上がらない熟練度に、心をモヤつかせた事は無いか?」
楽しそうに問うてくるクリフちゃんに、思わず一歩下がる。だが、クリフちゃんもすぐに一歩踏み込んできたので、意味は無くなった。
「あるって。何だよ、クリフちゃん。様子が可笑しいぞ」
「そうかそうか、残念か。・・・なら、その憂いを無くしてあげよう」
「は?——」
何を言っているんだクリフちゃんは。
左手を振るい、ウィンドウを出現させたクリフちゃん。どうしようもない程の既視感と危機感で、ようやく気付いた。
遅過ぎた警戒。
曲刀を構えて攻撃に備えようとしたが、遅かった。
グンッと、曲刀が重みを増す。左手では支え切れずに、地面に落としてしまう。
「今度は重力でも操りやがったのか!?」
「何を言う。君は普段と同じように立っているじゃないか」
「だったらこれは何だってんだ!」
曲刀を拾おうとするが、重過ぎて持てない。
丸腰。
刀を投げる事はおろか、振るう事も出来なくなったオレを見て、クリフちゃんは嗤った。
「そんな目で私を見ないでくれ。私は君に成長の余地を与えたのだからな」
「成長?寝惚けてんのか!」
「ステータス画面を見給え」
有無を言わせぬその声色。不意討ちに警戒しながらも、ウィンドウを出現させてステータス画面を開いた。
「・・・・・・は?」
目を擦る。
ゲーム内にてその仕草は無意味に等しいのだが、やらずにはいられなかった。
だってそうだろう?
オレのステータスが、スキルが、レベルが。
全て
「な、何してンだよ、クリフちゃん!オレがここまで来るのに——ここまでレベルを上げるのに2年かかってんだぞ!?」
「ならば、また2年かければ良い。君という戦力を失った攻略組では、最上層までそれ以上の年月がかかる」
「——テメェ!」
我を忘れ、現状を忘れ、掴みかかる。
「無駄だ」
結果、比喩無く指先一つで飛ばされた。
先程のクリフちゃんと同じように。いや、それ以上の勢いと距離を、滑り、転がる。
「ミツヤ君!」
アスナちゃんがオレの名を呼ぶ。しかし、麻痺状態は解除されていないので、呼んだだけ。
ここに来て、初めて抱いた殺意。
一発ぶん殴るなんて温過ぎる。
コイツは、殺さなければ。
オレが。
この手で。
ガリッと爪で地面を引っ掻く。現実世界でやろうものなら爪切りいらずの指になるその行為も、この世界では地面に少し跡を残して終わり。
「嗚呼、これでこそ最終ボスの在るべき姿。皆に恨まれ、皆に命を狙われる。ミツヤのステータスと引き換えに、私はボスとして完成されたのだ!」
HPバーがレッドゾーンなのは変わらず。しかし、数字は比べ物にならない程減っていて、全回復したって数字は1000。
選手生命ならぬ、戦士生命を絶たれたのだ。
「せめてもの情けとして、コルは以前のままだ。せいぜい武具屋で
無様に地面に伏すオレを一瞥し、クリフちゃんは再び背を向け歩き出した。
数歩歩いて、思い出したように振り返った。
「そうそう。左手での握手には、『挑戦』や『侮蔑』、そして『さようなら』という意味があるそうだよ」
覚えておくと良い。
クリフちゃんはそう言って、上の階へと消えて行った。直後に、皆の麻痺状態が解除される。
「ミツヤ君!大丈夫!?」
「ミツヤ、大丈夫か!?」
二人が駆け、オレの身体を起こす。
「・・・悪ィ。負けちまった」
「馬鹿野郎!戦っちゃ駄目だって言っただろ・・・!」
抱き締められる。
キリトちゃんから感じる温もりで、心配してくれてたんだなァと実感する。「ごめん」と謝ると、一層強く抱き締められた。
「・・・さて。俺はここらで勘弁してやる」
「本当にごめん」
「——じゃあ、後は頼んだ」
「え?」
キリトちゃんがオレから離れ、誰かに合図。
後ろから両肩を掴まれる。レベル1に成り下がったオレのステータスでは強過ぎるその力に、身体がギシギシと悲鳴を上げる。
「ちょ、痛い!ギブギブ!」
「・・・駄目、やめない」
「あ、アスナちゃん・・・?」
ブチ切れたエギルの
このままだとダメージを喰らい兼ねないので、何とか落ち着かせなければならない。
「あの、オレ今レベル1だからあんまし力を入れられると困っちゃうっつうか・・・
」
「・・・・・・」
「えーっと。あー、あの」
「・・・・・・」
「・・・はい、すみませんでした」
目を合わせずとも伝わるプレッシャー。見なくても分かる。アスナちゃんは怒ってらっしゃる。
無言タイムに耐えられなくなったオレが謝ると、後ろから抱かれた。
「・・・・・・もう離さないから」
「おや、告白かな?」
「うん・・・」
「えっ」
「前から思ってたんだよ。ポーションも転移結晶も買わずにミツヤ君はいつも迷宮区を暴れ回ってさ・・・わたし達が危ないって言っても全然聞いてくれないし」
「うぐッ」
そう。
これは他のゲームでも言える事なのだが、オレはアイテムを買うのが嫌いなのだ。アイテムに金を使うくらいだったら、武器を買ったり強化させたり、美味い飯を食ったりした方が良くねって。迷宮区で宝箱として回復アイテムが出てくれば勿論使わせてもらうし、結構出てくるのでストックは充分にある。だが、もし回復アイテムが無くなって、店で買うとなると・・・って感じ。
もしかしたらオレの二つ名は、始まった当初から変わらないこのプレイスタイルが半分くらいは原因になっているのではなかろうかと今更ながら思い至る。
って、今はンな事考えてる場合じゃねェ。
「さっきだって、駄目って言ったのに団長と戦っちゃうし・・・。死ななかったからラッキーとかそういう問題じゃないんだよ?わたし達がどんな気持ちで、どんな思いであの戦いを見てたのか分かる?」
「ご、ごめんなさい・・・」
「わたし、分かったの」
アスナちゃんがツーッとオレの背筋をなぞる。
「ミツヤ君が危ない橋を渡るんだったら、誰かが止めなくちゃいけないんだって。危ないよって、力付くでも止めなくちゃいけないんだって」
「あ、アスナさん・・・?」
「その役目は、わたしがやらなくちゃいけないんだって」
後ろから手が伸びる。その手にはポーションが握られていて、何だろうと他人事みたいに考えていたら、そのポーションの飲み口がオレの口の中に突っ込まれた。
口内にポーションが流し込まれる。
そういえばオレは、アレから回復していなかったのか。
回復してくれたアスナちゃんに感謝していると、キリトちゃんが憐れみの視線でオレを見てくる。それからチラッと視線をオレの背後のアスナちゃんに移すや否や、身を震わせながら目を逸らした。
何だ、アスナちゃんは今どうなっているんだ。
「ミツヤ君」
「は、はい!」
「これからは、ソロプレイ禁止だから」
「は?」
「今日の戦いで分かったでしょ?ミツヤ君のプレイスタイルは危険過ぎるんだって」
「でも」
「レベリングならわたしが手伝うし、素材集めだってわたしが一緒に行ってあげる」
「でもそれってパワーレベリn何でもないです」
両手が首元に添えられたので、撤回。
どうやら口答えはしてはいけないようだ。オレは今からイエスマンになる。
もうこちらを見てもくれなくなったキリトちゃん。その理由を考えると恐ろし過ぎるので考えないようにするとして。
「この際だし、新しくお家買っちゃおうか」
「オレの?」
「ううん。二人の」
「え、何?一緒に暮らすのか?」
「・・・・・・嫌なの?」
「ぜ、全然!」
「じゃあ問題無いね」
「はーい!」
どうしちゃったんだアスナちゃんと問える筈もなく、オレは自棄気味に返事をするしか出来なかった。
お説教は終わりのようで、「行こっか」と手を取られ、立ち上がる。これもステータスの差なのか、意図も簡単に引き上げられてしまい、何だか男として情け無く感じる。
ずっと話していた事もあって、今このボス部屋に残っているのはオレ等三人のみ。急いで先に追いつかねばと歩き始める。
キリトちゃんが先を歩き、その後ろを(アスナちゃんが手を離してくれないので)二人仲良く手を繋ぎながら歩く。
「ねぇ」
話し掛けられる。
「どした?」と返事をする。
「次あんな無茶したら、わたし許さないから」
続くかは未定です。
原作を読んだのが二、三年前なので。そして、読み直したのも一巻のみでしかも斜め読みなので、設定が可笑しい所があるかも知れません。もし見付けた場合は、やんわりと指摘していただけると幸いです。