最近アスナちゃんがおかしい。   作:大塚ガキ男

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どうも、大塚ガキ男です。3年振りの更新です。


第5話

 

 

 

 

「ショッピングぅ〜????」

 

朝。

起き抜けに、(いつものように何故か)隣で寝ていたアスナちゃんから間近の真横でそんな提案をされる。寝ぼけ眼を擦り、上体をゆっくり起こしながら、自分が今なんの衣類も纏っていない事に気が付く。おかしいな。昨晩眠る前は確かに服を着ていた筈なンだけど。

己の裸体を隠すように(自意識過剰というよりは女の子に汚らわしいもんを見せない為に)掛け布団を手繰り寄せると今度はアスナちゃんの肌が見え始めたので「おわわああああああ」と叫びながら掛け布団をアスナちゃんに優しく掛け直し、光の速さでメニュー画面を開く。相変わらずログアウトが存在しないメニュー画面を爆速で操作し、何とかいつもの装備に着替える事に成功。

 

「危ないぜ。アスナちゃんの前でオレの裸体をお見せするところだった」

 

額を前腕で拭うジェスチャーをしながら、朝起きてからの状況が段々頭に入ってきた。

 

「もう、〝今更〟隠さなくても良いのに」

 

なんだかアスナちゃんがメチャクチャ怖いことを言っている気がするけど、気にしない。

 

「──で、アスナちゃん」

 

誤魔化すように。というか、都合の悪い(オレとアスナちゃんが同棲していてしかも夜はアスナちゃんにメチャクチャにされているとかそう言った類の)記憶を頭の中から追い出すように、半ば無意識的に言葉を発する。SAOは清らかなゲームなのだ。

 

「なあに?ミツヤ君」

 

いつの間にかアスナちゃんも起き上がっていたようで、シーツで身体を隠しながら首を傾けた。その際アスナちゃんの長い髪が煌めいた。

可ン愛ぃい〜。

 

「ショッピングに行くの?」

「うん。私、ミツヤ君とショッピングに行きたいな」

 

普段に比べて台詞が機械染みているような気がしないでもないが、オレはアスナちゃんの可愛さにやられてしまったので、脳から送られてきている気がする『やめておいた方が良いんじゃね』という信号を無視して

 

「よっしゃ、行こうぜ!」

 

とゴーサインを出してしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

「こんなこったろうと思ってたぜ!うわあ〜〜〜〜〜ん!」

 

場所を変え、様々なファッション系の店が立ち並ぶアインクラッド内でも一二を争うオサレ街──ではなく、適当な迷宮区。

オレは必死こいて武器を持ったトカゲ人間(仮称)から逃げ回っていた。

 

「ああ可愛いよミツヤ君そうだよねそのレベル差じゃロクにダメージ入らないから背中向けて逃げるしか無いもんね可愛いよスタミナ切れる前に何とかしないととか考えてるよねすごいキュートだよ私に助けてほしいよね私ならソードスキル使うまでもなく一撃で屠れるもんねでも駄目なの私にほミツヤ君がもう少しダメージ食らってHPバーがイエローになってから颯爽とソイツをやっつけてミツヤ君に泣きついてもらうっていう魂胆があるからもう少し待っててねほらミツヤ君そんなに余所見してたら──」

「助けてアスナちゃァん!」

 

アスナちゃんは涎を垂らしながら(これはゲーム内なので恐らくはそう見えているだけ。てかそう見えるくらいヤバい表情)オレがトカゲ人間に追いかけ回される様を見ている。

この遣り取りもオレがヒースクリフにレベルをリセットされてからはお馴染みのもので、アスナちゃんは時たまこうしてオレを騙して迷宮区に連れ出しては自分の欲求を満たしているのだ。

最初の頃はオレも二つ返事で迷宮区に付き合っていたんだぜ?でも、こんなクレイジーな追いかけっこを強制されるとは思わなんだって感じなので嫌がったり断ったりしてみるのだが、アスナちゃんが少し湾曲に誘えば馬鹿なオレはアスナちゃんの可愛い笑顔の裏に隠された真実に気付くこともなくこうしてホイホイ着いてきちまうって訳。あっ、斬られた。

 

「ッ──」

 

その直後、オレの背後で断末魔。恐る恐る振り返るとそこには、ポリゴンになりかけてるトカゲ人間の死骸をハイライトの無い目で滅多刺しにするアスナちゃんの姿が……。

 

「私のミツヤ君に傷を付けた私のミツヤ君に傷を付けた私のミツヤ君に傷を付けた私のミツヤ君に傷を付けた」

 

いや、その状況まで持っていったのはアンタやろがい。画面の左下からおいおい!笑と涙を流しながら指を指してツッコミを入れてしまいそうになるくらいには情緒不安定なアスナちゃん。トカゲ人間が完全にポリゴンとなって消え失せると、ようやくアスナちゃんは自身の相棒(レイピア)を鞘に納め、満面の笑みでこちらに向き直った。

 

「ミツヤ君っ!」

 

ステータスに(たが)わない素早さでオレに抱き付き、それから、ダメージが入りそうになるくらい力強くギチギチと抱き締められる。

 

「怖かったよね……!でももう大丈夫。ミツヤ君を苦しめるモンスターは私がやっつけたから……!」

 

涙ながらにオレの後頭部を優しく撫でるアスナちゃんにされるがままのオレ。

ゲームの中でもおっぱいは柔らかいのだ。

ヒースクリフの手によりレベルリセットされたオレを攻略組最前線レベルまで戻す──元を辿れば、そんな目的でオレとアスナちゃんは迷宮区に来ているような気がするのだが。

パワーレベリングだろうと関係無い。オレという主力の一つ(自分で言って、今の現状と合わさって泣けてくる)とヒースクリフがいない今の攻略組では76層以降の攻略を進める事が出来ないので、一刻も早く俺は元のレベルまで戻さねばならないのだ。

戻さねばならない筈なのだ。

……、

…………、

………………。

アスナちゃん?

 

「まーた変なプレイしてるよ」

 

アツい抱擁を交わしているオレとアスナちゃんの死角から、そんな声が聞こえる。二人して視線を向ければ、そこには黒の剣士ことキリトちゃんが呆れ顔で立っていた。

キリトちゃんに見られるとマズいのか、それとも単に満足したのか。アスナちゃんはオレの背中に回していた腕を戻し、咳払いをしてからキリトちゃんに向き直った。オレはその間に回復を済ませておく。

 

「どうしたの、キリト君。()()()()()()()

 

言外に邪魔しやがってとでも言ってそうなニュアンスで、しかしいつも通りの笑顔で問い掛けるアスナちゃん。

 

「じゃ、邪魔して悪かったよ。謝るからそう怒るなって」

 

アスナちゃんというよりかは、アスナちゃんの背後に揺らめくオーラに気圧された様子のキリトちゃんが、慌てて頭を下げる。アスナちゃんも今まで共に戦ってきた仲間にこんな些事でキレる程──あれ?アスナちゃんが後ろで組んでる両手が筋が立つくらいギチギチに握られてるんですけど怒ってないよね?2年近く数多の戦場を駆け抜けてきた戦友に対してマジギレしてるわけがないよね?

 

「怒ってないよ」

 

怒ってるみたい。

閑話休題。

怒ってたみたい。

 

「それで、キリトちゃん。迷宮区(こんなところ)で一体どんな用で?」

 

オレの頭頂部を抱えて一心不乱に匂いを吸い込む、〝猫吸い〟ならぬ〝ミツヤ吸い〟を行っているアスナちゃんにお互い触れぬよう、キリトちゃんと会話を再開する。オレはアスナちゃんの為に地面に座って〝ミツヤ吸い〟をしやすくしてあげている。そんなオレに合わせてキリトちゃんも

地面に座っている。そんな状態。

 

「ああ、実は血盟騎士団からの要請でここに来たんだ」

「血盟騎士団ン〜?」

 

血盟騎士団。

かつてヒースクリフが団長を、アスナちゃんが副団長を務めていた、アインクラッド内でも有名なクランの名前。血盟騎士団の特徴的な制服は一時期オレとキリトちゃんも袖を通していた事もあり、又、オレ達3人は(てかSAOのプレイヤー全員だけど)ヒースクリフにはただならぬ因縁やら恨みがあるので、キリトちゃんの口から出てきたそのクラン名に思わず眉を顰めてしまう。

頭頂部に当たる鼻息を他所に、言葉を返す。

 

「なんだよ。また血盟騎士団に入ってくれとかそンな話?悪いけど、オレまだまだレベル低いし──」

「いや、そうじゃない」

「ん?」

 

首を横に振るキリトちゃん。予想と違う展開に首を傾げるオレ。

キリトちゃんはオレに合わせていた瞳を少し上にずらす。即ち、アスナちゃんの方へと。

 

「アスナ。要請はお前にだ」

「え?」

「ヒースクリフ公認の後任である()()()()()()()の、《閃光》のアスナさんともあろう貴方が《イカレ野郎》ミツヤとずぅ〜〜〜〜〜っと一緒に居る所為で血盟騎士団の仕事が回らないから早く本部まで戻ってきてくれ──だってさ」

 

「あ、アスナちゃん?」

「……」

 

ぷい。

珍しく、オレからの問い掛けを無視するアスナちゃん。可〜愛いんだっ。

 

「血盟騎士団の仕事ほったらかしてオレと一緒に居たの?」

「……」

 

オレが目を細めると、アスナちゃんは少し狼狽えた。しかし、返答は無し。

はぁ。

溜め息を吐く。それから、少しだけ芝居掛かった感じで話し始める。

 

「オレ、悲しいよ。そりゃあ、アスナちゃんがオレの為に色々頑張ってくれてるのは知ってるけどさ。でも、血盟騎士団での仕事ってSAOをクリアする上で必要不可欠なタスクだろ?そんな重要な事を無視してオレのレベリングを手伝ってくれたってさ、正直嬉しくないよ。オレは、アスナちゃんがとても優しくて頭が良くて可愛い女の子って知ってるよ?少なくともオレの知ってるアスナちゃんは血盟騎士団の仕事も全く手を抜かない──」

 

スッ。

流麗な動作で立ち上がるアスナちゃん。顔は血盟騎士団の本部があるであろう方角を向いていた。表情はとても凛々しい。

 

「……ミツヤ君」

「なぁに」

「私、行ってくる。血盟騎士団、立て直してくるね」

 

まるで、これから世界を救いにでも行くような雰囲気。まぁ、血盟騎士団が正常になるということとSAO(世界)が救われるというのは無関係ではないので間違ってはいないのだが。

血盟騎士団が傾いているのは紛れも無くアスナちゃんの所為な訳で、今から立て直そうがそれは所謂(いわゆる)マッチポンプ。別にわざわざ褒めるようなことでもないのだが。

ここでアスナちゃんにそれを伝えても良いことはないので、オレは立ち上がって笑顔でアスナちゃんにハグをした。

 

「頑張ってねアスナちゃん。レベリングはキリトちゃんに手伝ってもらうから、アスナちゃんは安心して血盟騎士団の仕事に取り組んでほしい」

「〜〜〜〜〜〜っ!うん!私、頑張ってくるね!すぐ戻るから!私!ミツヤ君の為に速攻で終わらせてくるから!」

 

瞳に涙を滲ませ、気合十分のアスナちゃんは名残惜しそうにオレから離れ、座ってるキリトちゃんを見下ろした。側から見ると、これから戦地へと向かう(アスナちゃん)(キリトちゃん)のような構図だ。

 

「キリト君っ」

「お、おう」

「ミツヤ君に何かあったら、私はキリト君を絶対に許さないから」

「俺にはあくまでそういう感じなのかよ!」

「じゃあ、行ってきます」

「いってらっしゃい」

「はぁ……血盟騎士団の人達にちゃんと謝っておけよ」

 

《閃光》の名に違わぬ速さで地平線の向こうへと走り去っていくアスナちゃん。あの様子なら転移門まで数秒で着いてしまいそうだ。

 

「……行ったな」

「……行ったね」

 

徐々に小さくなっていくアスナちゃんの背中を見つめながら、二人してそう呟く。それから目が合い、少し笑った。オレが手を差し伸べると、キリトちゃんはその手を掴んで立ち上がった。

アスナちゃんが居ない、オレとキリトちゃんだけの空間。アスナちゃんと出会ってからは3人で居るのが主だった為、アスナちゃん抜きでキリトちゃんと面を向かって話すのは実は結構珍しいことなのだ。

 

「なんか懐かしいね」

「そうだな」

「……明日とか空いてる?」

「急にどうした」

「いや、なんか嬉しくなっちゃって。ご飯でも行かない?」

「確かに、お互い世間話をする場も今まで無かったしな。よし、行こう」

「決まりだね」

「ああ」

 

二人して、ニッと笑う。

SAOが本当に意味で始まり、クラインちゃんと別れてアスナちゃんと出会うまでの期間、オレとキリトちゃんはパーティーを組んでいた。何故かというとそれはお互いボッチで友達が少ないから──ではなく、キリトちゃんはビータテスト経験者でオレはゲームの事を何も知らないという、お互いあまり人が寄り付かない孤高の存在だったので、パーティーを組める人間が互いしかいなかったのだ。

なので、コンビじゃなかった期間があっても、二人でいると妙に落ち着くのだ。(キャラ)でもないのに、肩を組んでガッハッハと笑いたくなってしまうくらいには嬉しい。

 

「二人で話すのっていつ振りだ?ミツヤとアスナってセットでいるから、結構久し振りな気がするぞ」

「否定はしない」

 

同棲しているからという理由だけでなく、オレが外出する時にはほぼ100%の確率で隣にアスナちゃんがいるので、今回のようなイレギュラーでも起きない限りこの組み合わせはあり得ないのだ。

そういえば、前にクラインちゃんに相談に乗ってもらった時は一人だったような気がする。途中からアスナちゃん来たけど、アレはなんで一人だったんだっけか。

 

「それはね……?」

「「うわあッ!」」

 

いつの間にか、アスナちゃんが会話ではなくオレの思考を読んで割り込んできた。オレとキリトちゃんは揃って飛び上がる。

 

「あの時は……ミツヤ君が……私が寝ている隙に……勝手に家を……抜け出したからだよ……」

「あぁ、確かに!」

 

ゼェハァと肩で息をしながら、息も絶え絶えにアスナちゃんが答える。あぁそういえば、アスナちゃんには聞かれたくない話題だったからそんな行動に出たような気もする。あの晩のアスナちゃんはいつもより多めにオレの身体を噛んできたんだったよな。懐かしい。

……という事は、明日キリトちゃんとご飯を食べに行くには自分の身体を犠牲にしないといけなくなりそうだ。

 

「ミツヤ、お前怖いもの無しかよ──じゃなくて、アスナ!お前血盟騎士団のところに向かったんじゃないのかよ!」

「聞き忘れた事があって……戻ってきたの……」

「聞き忘れた事?伝えてないことなんてあったかな」

 

記憶を整理するキリトちゃんと、ふぅと胸に手を当てて息を整える(スタミナを回復する)アスナちゃん。アスナちゃんはオレの方へと向き直った。

 

「ミツヤ君」

「俺にじゃないのかよ」

 

ツッコミも板に付いてきたキリトちゃん。しかし、アスナちゃんは無視。

 

「頑張って血盟騎士団を立て直した暁には、私はご褒美を所望します」

「ご褒美?うん、何でも言って。オレに出来ることなら」

「アスナには聞こえてないだろうから口に出すけど、アスナのこの獰猛な表情見てそれが言えるミツヤ、お前マジで凄いよ」

 

獰猛?

冷静になってアスナちゃんの顔をもう一度よく見てみる。

ニヤリと笑う口。

上気した頬。

興奮故少し膨らんだ鼻。

やらしさを感じる目。

全体的に下心がありそうな表情。

……なんだかマズい気がしてきた。

 

「あ、あの、アスナちゃん。何でもって言ったけど少し言葉を改めさせてもら──」

 

ガシリ。

両肩を掴まれる。

アスナちゃんの獣のような瞳がオレを射抜く。

 

「明日と明後日……空いてる?」

「明日?明日は、えーっと……」

 

キリトちゃんの方へ視線をズラす。キリトちゃんは口パクで『こっちを見るな!』と言っているが、知ったこっちゃない。良い感じの言葉で明日のご飯計画を助けてくれ。

 

「……キリト君」

「は、はい!」

「明日のことなんだけど」

「あぁ!明日は予定があるから断ろうと思ってたんだ!という事でミツヤは明日暇!いやぁ〜早めに伝えられてよかったよ!じゃあなミツヤ!俺は帰るッ!!」

「キリトちゃん!?」

 

アスナちゃんの眼光を受けてスタコラと撤退するキリトちゃん。

この場に残されたのは、捕食者と被食者のみ。

 

「という事みたいだから、明日と明後日の予定はこれから入れないようにね」

「ど、どこか〝ショッピング〟にでも行くの?」

 

恐る恐る、窺うように質ねると、アスナちゃんはニッコリととてもイイ笑顔で笑った。

 

「今晩が楽しみだね」

 

終わった。

 

 

 

 





本当に本当に本当〜〜〜〜〜にお待たせしました。待っていただいた皆様にはマジで感謝しかないです。本当にありがとうございます。感想見直してマジで励まされました。


以前とは違い社会人になってしまったが為に執筆の時間が取れなくなってしまったのが原因でありまして、恐らくこれからもとんでもないペースでの投稿になってしまうのは確実かと思われます。なので、忘れた頃に「うわ、この作品懐かし〜〜更新されてるやんけ!」みたいな感じでゆる〜く読んでいただけると幸いです。サイワイマンです。
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