売れないロックシンガー in 戦姫絶唱シンフォギア   作:ルシエド

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 ルシエドも緒川結弦くんも正しいとは言えない独自のロック観を持っています。
 結弦くんのロック観はそこそこ面倒臭いロッカーのそれです。
 なので硬派気取り童貞の主人公に「ロックって恋愛色強い歌が多いのも特徴なんじゃねーの?」とか真実を突きつけるとロック派閥の問題で怒られます。


ロックンローラーの旅立ち

 睡眠時間削るの辛い。きつい。でも背に腹は代えられない。

 本人が気付かないだけでギターは一日弾かなければその遅れを取り戻すのに三日かかるという。

 ギター弾いてるだけじゃ飯も食えないのでバイトの時間も増やさにゃならない。

 でも練習とバイトの時間増やすには睡眠時間削るしかないわけで。

 それもこれも一日が二十四時間しかないのが悪い。

 誰だ一日が二十四時間とか決めた奴!

 

「不適合者ァ! もっと速く仕事回せェ!」

 

「はいただいま!」

 

 っと、余計なことを考えてる余裕はない。

 単純な肉体労働だけを回して貰ってるのだから、せめてそれくらいは他人の数倍ペースで回さなければ給料が貰えない。

 

「しゃあなあいなあ、ちょいと分身しよ」

 

 分身の術を併用してサクサク雑用を片付けて、と。

 あ、もう夜か。

 給料貰ってさっさと帰ろう。

 

「お疲れ様でしたー」

 

 キャロルちゃんはまだ怪我も治っておらず寝たきりだ。

 朝御飯と昼御飯は俺が用意しておけばいいが、晩御飯の分まで作り置きしておくには、流石に俺の部屋のミニ冷蔵庫のスペースが足りない。

 一人分の食事なら雑炊でもラーメンでもなんでもいいが、作り置きとなるとその辺が全部アウトになる。すっかり食費の額も跳ね上がってしまった。

 

 幸い、帰りの途中に小日向さんちの未来ちゃんが賞味期限ギリギリの食材を分けてくれた。ありがてえありがてえ。

 貰った鮭の切り身と適当な野菜に火を入れて、バター風味に仕上げよう、そうしよう。

 ……一人暮らしだと食費ってドンドン削っちまうもんなんだな。

 削れるところから削ってたから当然か?

 でもやっぱ、ちょっとでも美味いもの食うと元気が出るな。

 二人分の食事を作ってる内に、そのことに気付けた。気付かせてくれたキャロルちゃんには、心の中で感謝しとこう。

 

「ただいまー」

 

「あ、おかえりなさい」

 

「留守番おおきに……ああ、これちょっと分からんな。留守番ありがとさん」

 

 いかんいかん、せめてこの子の前では少しでも分かりやすい喋り方を心がけないと。

 外人さんだし。

 風呂入って、飯作って、いただきますして……ああ、やっぱりこの子外人さんだ。

 箸の使い方に困惑してる。さて、フォーク出さないと。

 

「フォークでええよフォークで」

 

「す、すみません」

 

「マナーなんて相手を不快にしなけりゃなんでもええんや。

 食べ物を気軽に美味しく食べられないんならそっちの方が問題やろ?」

 

 そういえば小さい頃は、俺も箸に苦戦してた気がする。

 先っちょがフォークみたいになってた小さなスプーンで飯を食べていた覚えがある。

 母さんと父さんに教えてもら―――母さん一人に教えてもらって、箸の使い方を覚えて、飯を箸で食べたのはそれからだった。

 親に褒めてもらったのが嬉しかったのを、ぼんやり覚えてる。

 

 あの頃は作って貰う側だった。

 今は作ってやる側になった。

 キャロルちゃんは美味しそうに食べてくれている。

 あの頃母さんは、オヤジと俺にどんな気持ちで飯を作ってくれていたんだろうか。

 

「ごちそうさまでした。とても美味しかったです」

 

「怪我の調子はどうや?」

 

「もう少しすれば歩くことくらいはできそうです」

 

「おお、そらよかった。いいことやん」

 

「外で走り回れるようになれれば、お金のアテもあります。

 そうしたら助けて貰った恩の何分の一にもなりませんが、謝礼を……」

 

「生活費のことなら気にせんでええて。

 自分で選んだことや、そこにかかる金くらい自己責任で調達するのは当然やで」

 

 そうだ、金なんて貰えない。

 誰かに押し付けられたわけじゃない、これは自分で選んだことだ。

 だからそのためにする努力は、苦労ではあっても苦痛にはならない。

 ロックの道も、この子を助けることも。どちらも俺が自分で選んだことだ。

 損得の問題ではなく、自分で決めたことは最後までやり遂げたい。

 途中で投げ捨てたくないんだ。

 

「話せることなら、でええんやけど。

 なんであそこに怪我して倒れてたのか聞いてもええかな?」

 

「……はい。でも、他言無用にお願いします」

 

「危ないから?」

 

「危ないからです。結弦さんが想像しているよりも、ずっと」

 

 ならやっぱ、事情は聞いておきたい。聞いた上で味方をしてやりたい。

 それが危険なものならなおさらだ。

 危険を怖がっている内は一人前のロックシンガーなど程遠い。

 狂気の60年台と呼ばれたロックンローラー達はステージに立ちお客の前でアンプをレイプし、ドラムをぶっ壊し、ギターを燃やしたという。

 それをやるかどうかは別として、チキンじゃいけないのだ。チキンはロックに似合わない。

 

「それでもかまへん、聞かせて欲しい」

 

 危険だから助けるのをやめて突き放す、というのは、どうにも俺の性に合わなかった。

 

「この世界は、歪んでいるとは思いませんか?」

 

「……それは、まあ、思うことも多々あるな」

 

「適合者の人の中にすら、そう思っている人は沢山居ます。

 何故ならこの世界には……準備が足りていなかった。

 ルル・アメルの時代には全員にあったものが、既に失われていた。

 完全なる相互理解をスムーズに受け入れられる世界ではなかったんです」

 

 む。この小難しい言い回し、この子頭いい子だな。

 

「理解があっても優しさがなければ価値がありません。

 相手を理解できても妥協できなければ意味がありません。

 自分の望むものを理解してもらっても、相手がそれをしてくれなければ幸福はありません」

 

「ああ、分かるわぁ、それ」

 

 性格悪い人間が相互理解してもあんまり意味が無いんだよな。

 今のところは社会の大半がまあ善人寄りな人が多いから綺麗に回ってるけど。

 不適合者がこれ以上増えたら、不適合者差別がこれ以上激しくなったら、ちょっとマズいんじゃないかとも思う。

 社会がどうとかいう話を抜きにしても、差別のパワーアップは俺個人が嫌に思うが。

 

「不適合者への差別なども社会に現れた歪みの一つです。

 理想的な形の社会移行なら、適合者と不適合者の分離はほとんど表れないはずなんです」

 

「差別ってよくあるものとちゃうん?」

 

「理想的な相互理解社会ならそれはない……とされています。

 相互理解社会とは、相手の心が見える社会。

 外見以上にストレートに相手の心が見えるんです。

 差別は社会的立場や肌の色などを理由に、他人の性格や価値を決めつけてしまうことですから」

 

「なるほどなあ」

 

「ところが、今は適合者と不適合者の間で差別が起きてしまっています。

 これは由々しき事態です。これでは世界に統一言語を取り戻した意味がまるでありません」

 

 むかーし、むかし。

 肌の色や社会階級を理由に「お前がこの音楽をやるな」と言われるのが普通だった頃。

 自由な音楽があんまり無かった頃。

 ロックンロールは、黒人音楽から生まれた。

 白人だろうと黒人だろうと歌っていい、金持ちだろうが貧乏人だろうが奏でていい、世界で一番自由な音楽。それがロックンロールだった。

 

 ロックンロールは最高に流行った。

 だけど、そのせいで白人に滅茶苦茶叩かれた。

 「黒人がでしゃばるな」「白人が黒人の音楽を好むなど以ての外」だとさ。

 現代だったら信じられないような迫害が起こり、ロックンローラーの音楽盤やポスターは次々と燃やされ、色々あって、ロックンローラーは社会から消えていった。

 ロックの、一回目の衰退だ。

 

 ところが一回アメリカで終わっちまった最初のロックブームは、なんとイギリスからやって来たロックバンド達が復活させてくれたんだ。

 かの有名な『ビートルズ』達。

 アメリカで生まれた音楽は、ロックは、海を越えてイギリスの奴らを感動させた。

 そして感動した奴らがアメリカにやって来て、ロックを復活させたってわけだ。

 

 皮肉な話だが、黒人が身近だったアメリカは黒人差別が酷かったが、黒人が身近じゃなかったイギリスで黒人差別はそれほどでもなく、黒人音楽は差別されなかったって話だ。

 そのくせアメリカにまでやって来て、黒人差別をルーツに持つロック迫害を事実上の終焉まで追い込んでみせた。

 最高にロックな話だ、まったく。

 アメリカはこの最高にロックな行動をイギリスの侵攻(ブリティッシュ・インヴェイジョン)と呼び、イギリスから来た奴らのライブに乗り込み、その音楽に最高に盛り上がったっつー話だ。

 そしてアメリカも対抗して更なるロックを追求し、ロックを進化させたらしい。

 

 ロックの歴史は差別の歴史だ。

 かつ、体制への反抗の歴史だ。

 差別も体制への反抗も関係のないロックもあるが、少なくとも俺はロックの本質を語るのにそれらは外せないと考えている。

 適合者と不適合者の差別。

 キャロルちゃん曰く、間違った社会構造。

 こいつは間違いなくロックンローラーが唾を吐きかけなきゃならねえ案件だ。

 

 黒人と白人は月が砕けても何十年か微妙な関係だったらしいが、百年経ったこの時代には適合者の力でなんとかよろしくやっている。

 ……適合者と不適合者の問題も、もしかしたらいつか無くなったりすんのか?

 

「ボクは世界を見てきました。

 この世界は一見上手く行っているように見えますが、ガタガタです。

 少なくとも、今見えている大破壊が一つ予測されています。

 一度元の形に戻さないと、最悪立て直しが利かないくらいに壊れてしまうかも……」

 

「ガタガタ? 壊れる? どういうことや?」

 

「相互理解はいいことです。

 統一言語は必要なものです。

 それらを今取り上げてしまえば未曾有の大混乱と大破壊が起きかねません。

 ……それでも、今取り上げないと、取り返しのつかないことになると、キャロルは……」

 

「キャロルっちゅうのは君のことやろ?」

 

「……ボクは、キャロル・マールス・ディーンハイムと名乗っています。

 でもこの名前は、本来ボクのものではありません。

 ボクはオリジナルキャロルの能力と記憶の一部を継承したコピー。

 元は名もなきホムンクルス、分かりやすく言えばクローンのようなものです」

 

 クローン? コピー?

 

「じゃあオリジナルさんはどこに? キャロルちゃんに似て美人さんなんやろな」

 

「に、似てますけど。美人さんかはともかくとして、顔は双子以上に同様です。

 オリジナルは……本物のキャロルは……私のロールアウト前に、その……」

 

「大丈夫、焦らんでええよ。

 急かさんから自分の中でゆっくり言葉を組み立てて、落ち着いて話したらええ。

 俺はちゃんと聞くから、ちゃんと待つから、君はなーんも慌てなくてええんや」

 

「……ありがとうございますっ」

 

 時間がないわけじゃないんだから、まったり話せばいい。

 真面目すぎる子は、「ちゃんと話さないと」「短くまとめないと」「分かりやすく伝えないと」「相手を待たせちゃダメ」と次々考えすぎて、上手く話せなかったりする。

 会話なんて適当でいいと思うんだが。

 いや、適当な人間よりは真面目な人間の方がいいのか?

 しかしこんな簡単な一言で安心しきった顔をしてるキャロルちゃんを見ると、適当真面目以前の話で、ちょっと危なっかしい感じもする……

 

「お察しかと思いますが、ボクはエテメンアンキにマークされています。

 エテメンアンキのトップはフィーネ。事実上の不老不死を達成した魔女です」

 

「フィーネ? ああ、だから『F』って呼ばれてるんやな」

 

 しかし不老不死……とりあえずは半信半疑くらいの塩梅で信じておこう。話が進まない。

 

「オリジナルのキャロルとフィーネは対立していました。

 表沙汰になったことはありませんが、月が砕かれた頃から非常に険悪になったそうです。

 フィーネはキャロルの長期計画を意図せず邪魔してしまい、キャロルには大きな力があった」

 

「ふむふむ」

 

「キャロルにとってフィーネはことあるごとに邪魔をしてくる邪魔者でした。

 フィーネにとってもキャロルは自分の支配構造を脅かす危険因子です。

 二人の対立は徐々に深まっていき、ある日とうとう大規模な戦闘にまで発展してしまいました」

 

「戦闘……」

 

 物騒な話だ。

 全部支配したい人にとっては力のある人が邪魔で、力のある人にとっては自分を支配下に置こうとする人が邪魔だったわけか。

 社会影響力のある過激反社会ロックンローラーを警察がマークして、度々逮捕してブタ箱にぶち込んでたって話を思い出すな。

 

「キャロルとフィーネの最後の戦いがどうなったのか、ボクは詳しくは知りません。

 ただ、キャロルが消されてしまったことだけは確かです。

 でなければボクがこうした形で起動するわけがありません。

 ボクが"『キャロル』を名乗らされてる"のは、それに相応の理由があるということですから」

 

「……『キャロル』が生きている、と見せかける必要があったとかやろか?」

 

「その可能性が一番高いと思います。

 エテメンアンキは、ボクの活動のせいでキャロルが生きていると誤認しているはずです」

 

 なるほど。この子の役割は、つまりオリジナルの影武者か。

 

「え、じゃあキャロルちゃんって呼ばん方がええんかな?

 キャロルって名乗る前の名前もなんかあったとんちゃう?」

 

「いえ、ロールアウト時のボクに名前はありません。

 ボクの役割はキャロルの代理。

 だからキャロル・マールス・ディーンハイム以外の名前はないんです」

 

「ほー」

 

「ですので、これからもキャロルと呼んでください。

 ボクがオリジナルのキャロルでないと知られてしまうのも、少し面倒ですので」

 

「ん、分かった」

 

 キャロル・マールス・ディーンハイム。

 可愛い名前だからこの子も気に入って使ってるとかあるんだろうか。どうなんだろうか。

 

「ボクはキャロルのいくつかあった計画の一つを引き継ぎました。

 その計画を進めるためにこの国に来て、エテメンアンキの手の者に見つかって……」

 

「それで道路でよく見る轢かれたネコみたいになってたんやな」

 

「その言い方は勘弁してください!」

 

 キャロルちゃんは子猫というか子犬っぽいけどな。

 ……そういや、猫と犬だと猫の方が車に轢かれやすいんだっけか。好奇心は猫をも殺すっていうが、好奇心ゆえに死にやすいとは猫もロックな生き物だ。

 

「計画って俺も手伝えるようなもんなん?」

 

 ふと、そんなことを言ってみる。

 エテメンアンキが彼女を狙ってるなら、何かしてやらないとまた死にかけてしまいそうだ。

 あ、キャロルちゃん悩んでる。

 隠し事苦手そうだなこの子。

 懐に手を入れて……なんだ、この金属片? キャロルちゃんのローブの内側にあったのか?

 

「これは?」

 

「『天羽々斬』です。ボクがこの国に来た目的の一つです。何か感じますか?」

 

「んー……」

 

 持ってみる。

 じっくり見てみる。

 手の平の上で転がしてみる。

 ……うーん、特に何も感じない。

 アクメハバキリとか言ったか? 名前からも特に何か連想することはないなあ。

 

「何も感じんなぁ」

 

「……それなら、きっとあなたにできることはありません。

 あなたはボクの命を助けてくれました。

 ボクはそれだけで、あなたにとても大きな恩を感じています。

 これ以上あなたに助けてもらったら……きっと、バチが当たっちゃいますよ」

 

「誰かに助けられすぎてバチ当たるとか、んなアホなことあったら俺は笑うで」

 

 露骨にホッとしやがって。

 俺を巻き込まないで済んだことに心底安堵しやがって。

 おのれ、このいい子ちゃんめ。

 男は頼られると嬉しいけど逆にそういう反応されるとちょっと傷付くんだぞこんにゃろう。

 

「……ふぅ」

 

 あ、しまった。

 キャロルちゃんの顔色が急に悪くなってる。話し疲れたのか?

 怪我人にこんな長話は普通に負担になる。

 この子がそういうのを自分から切り出しにくい性格をしてる、無茶しいないい子だってことは、話してて分かってたはずなのに。俺の方から会話を切り上げなくちゃならなかったのに。

 

 そうだ、他人の気持ちが分からないと、俺はきっとあのオヤジみたいに……

 ……みたいに……

 ……なりたくは、ない。

 もっと、人に気を使える人間になりつつ、ロックスターとしてビッグにならないと。

 

「そろそろ休もか。あんまり長話させるのも悪いしなぁ」

 

「ごめんなさい」

 

 電気消して、キャロルちゃんは布団に寝かせる。

 俺は葉で身を隠す木遁の応用を使えば、タオルケット一枚で床で寝てもとりあえず風邪はひかないから大丈夫だ。

 キャロルちゃんも最初は遠慮して俺に布団を渡そうとしたが、彼女は怪我人なのだ。水遁で丁重にお断りさせていただいた。

 今では申し訳なさそうにしているものの、ちゃんと布団で休んでくれている。

 

 ……それにしても。

 女の子が俺の部屋で寝てるの、何かドキドキする。

 いや何もしないけれど。怪我人に何かするほど落ちぶれちゃいないけど。というか怪我人じゃなくてもそんなことしないけど。だって俺硬派だから……誰に言い訳してるんだ? 俺。

 

「男の部屋で男の側で寝るの、何か不安になったりせえへんの?」

 

「? ボクの命を助けてくれた人を、警戒なんてしませんよ。

 今更じゃないですか。こんなに助けてくれる人が、ボクを害するわけないです」

 

 いや、そういうことじゃなくて。

 まあ、信頼されてるならいいか。

 でも、複雑な気分ではあるなあ。

 

 信頼を裏切りたくない。

 それを裏切るのだけは嫌だ。

 裏切られた方がどれだけ嫌な想いをするのか、俺はよく知っている。

 ……なんで、俺は。

 

 なんで子供の頃の俺は、あんなオヤジのことが大好きで、信頼してたんだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんやかんやで、キャロルちゃんがうちに転がり込んでから十日が経った。

 何故か分からないがキャロルちゃんの傷の回復速度は異様に速い。彼女がここを出ていくのも時間の問題だろう。

 ……ちょっとは寂しいが、まあ最初から分かってたことだ、この別れは。せめて粗相せず綺麗な想い出にできるようにしよう。

 

 今日は職場の関係でバイトがない。

 とりあえず丸一日ギターの練習ができそうだ。

 

「ロックってどういう音楽なんですか? ボク、そういうのに疎くて……」

 

 ……まあ、練習は後回しでいいか。

 キャロルちゃんにロックがなんたるかを教えてからでも遅くはないだろ。

 ビバロック。アイラブロック。広がれロックの輪。

 

「んと、黒人音楽からロックンロールが生まれたって話はこの前したんやったっけ」

 

「はい、意外なお話でした」

 

「その上で言うと……ボーカルとギターとベースとドラムがあればロックやで」

 

「なるほど、シンプルなんですね」

 

「でもこれで演奏したからってロック音楽になるわけやないんや。

 生き方がロックになるわけでもない。

 というか現代日本で生き方までロックな人ってほぼ居ないんやないかなあ」

 

「え」

 

「ロックは音楽ジャンルの名前であると同時に、人間の生き方でもある。

 ロックの系譜は全てロックンロールとも言えるんやが、ロックンロールはそれ単体の音楽や。

 始まりのロックンロールと、それの名前を略したロックは別の音楽であるとも言う。

 ロックンローラー、ロックシンガー、ロッカー……全部同じと言う人も、違うと言う人もおる」

 

「予想以上にややこしい!? じゃ、じゃあ、ロックってなんなんですか?」

 

「……なんなんやろ?」

 

「えええ……」

 

「確かなことは一つ。ロックは音楽であり生き様であるということや」

 

 ロックとは反抗。社会に反抗したAがあれば、Aに反抗したBがあり、Bに反抗したCがある。とりあえず何かが流行ってたら流行りに反抗する、というのもまたロックだ。

 

「破壊的なロックへの反抗で芸術的なロックやプログレが生まれた。

 イギリスから流入してきたロックへの反抗でアメリカロックが発展した。

 上手けりゃ偉いのかよ、と求められる技術水準に反抗してパンクが生まれた。

 パンクが他人に好かれる音楽への反発を生み、嫌われるための過激なロックが生まれた。

 ただの音楽なんて動きなくてダッサイで! と反抗からダンス系のロックが生まれた。

 そこに映画やダンスに媚びとらんで本気の音楽やれや! と海外から新ロックが流入した。

 でいい加減ロックが男だけのものと思うなよ、みたいな人が支持した女性ロックバンドが……」

 

「ロック業界の内ゲバと分裂ってどうなってるんですか」

 

「当然反抗されたロックや反発されたロックが消えるわけやない。

 前からあるロック、新しいロック、そしてそこから最新のロックがまた生まれるわけや。

 で、どれかが流行ると"流行りに迎合したくない"とまた新しいロックが生まれる。

 "俺のロックは今までにあったどのロックとも違う独立ジャンルだぜ"とジャンルが独立する。

 90年代からはそうやってどんどん細分化して……

 ……今では専門の研究家ですらロックのジャンルがいくつあるのか分からんなってしまってな」

 

「ぷよぷよもびっくりの反抗の連鎖してません?」

 

 ばっよえーん。

 

「ジョジョ好きな人相手ならこの辺の説明楽なんやけどな。

 ブラックサバスとキッスとエアロスミスが大活躍!

 だが同時期にキングクリムゾンが凄まじい流行を作っていた!

 キンクリが産んだ流行に反抗してセックス・ピストルズが立ち上がった! てな感じで」

 

「ジョジョ……?」

 

「……ごめんなあ、うち漫画置けるような余裕なくて読ませてあげられへんわ」

 

 キャロルちゃん戸惑ってる戸惑ってる。

 そりゃそうか、ロック文化は根がいい子で真面目な子には理解しづらいか。

 

「ちょ、ちょっと待って下さい。

 専門家でも数えられないくらいのロックの種類……?」

 

「ちなみに俺のロックはスラッシュメタルや。メタリカ大好きやから」

 

「スラッシュメタル、スラッシュメタル……」

 

「さっきキャロルちゃんに言うたよな?

 ボーカルとギターとベースとドラムがあればロックやって。

 あれは正解でも間違いでもあるんや。

 俺が言いたいんは、全然似てない曲二つが両方ロックだったりする、ロックの幅広さや」

 

 ロックが何かなんて一言で言える人はいない。

 キング・オブ・ロックンロール『エルヴィス・プレスリー』にさえ、無数に派生した今のロックの本質を一言で表現することなどできないと思う。

 

「先程、ロックは音楽でもあり生き様でもあると言ってましたよね?

 ええと、そこがよく分かんないです。音楽がイコールで生き様とは、どういう……?」

 

「例えば、ここに箸がある。

 もう死んだ俺の母さんの形見や。

 俺はこいつを命の次に大事にしとる」

 

 俺がそれをボキッと折る様子を見せる。おお、驚いてる驚いてる。

 

「な、ななななな何をしてるんですか!?」

 

「これがロックや。愛用のギターを何の意味もなく折ってこそ……ロック!」

 

「大切なものなんでしょう!?」

 

「まあ今のは手品で箸は折れたように見えただけで無傷なんやけどな」

 

「!?」

 

 驚いてる驚いてる。なんか楽しいなこれ。

 

「衝動に任せて誰もやらないことをやってこそのロックや。

 世の中には誰もやらなかったことと、誰もやれなかったことがある。

 普通は後者だけがもてはやされるが、ロックは前者ももてはやされるんや。

 損得勘定や常識に縛られた人間にはできないことだから、やな」

 

「凄い世界なんですね……色んな意味で……」

 

「手品で誤魔化した分、今の俺は全くロックじゃないんやけどな。

 表向きはロック気取って、実際の行動が全くロックじゃないのはダサいやろ?」

 

「ダサいやろ? と言われても……」

 

 うーん、まだ完全にピンと来てないか。

 ロックの道に落ちにくいくせに、一回落ちたら凄い真面目ちゃんタイプがいるっていう話はたびたび聞くが、キャロルちゃんはそのタイプじゃないのか?

 

「ロックとはいったい……うむむ……」

 

「一から十まで説明できないからロックなんやで」

 

「意味が分かりませんっ」

 

「強いて言うなら反体制? 法を破る……いや、それも違うやろな。

 それこそがロックだと言う奴もおるけど、殺人をロックだと言うやつはおらん。

 法を破れば、体制に反発すればロックちゅうわけでもない。

 それだと犯罪者は皆ロックってことになってまうしな。

 そう勘違いしてもうた奴の周りからは人が離れていくからなあ、一気にダメんなる」

 

 キャロルちゃんに聞かれて改めて考える。ロックとは何か?

 

「『反抗ってなんかカッコいいよな』はロックを構成する一部分。

 『強いやつに立ち向かうのってイカすぜ』もロックや。

 『誰もやってないことを最初にやるのって最高』もロックやな。

 それを音楽に変えたのが、人を魅了したかつてのロック。

 俺は真面目すぎるからロックには向いてない、と……昔の知り合いによく言われたもんや」

 

「……『かっこいい』がロックなんですか?」

 

「ああ、それ限りなく正解に近いな。キャロルちゃん頭ええやん」

 

「えへへ」

 

 俺が説明してるのに、聞き手のキャロルちゃんに助けられるとはなんたることか。

 これはちょっと恥ずかしい。何が何でも彼女をロックの道に引きずり込まねば。

 

「なるほど、これがロックなんですね……」

 

「他人から『ロックが何か』を聞いてそれを真に受けてる時点でロックじゃないんやで」

 

「えええええ!?」

 

「他人からの受け売りや既成概念の単純な継承はロックの対極やろ」

 

 昔からよくあったことだ。ハードボイルドを真似しておっさんがトレンチコートを買う。アニメの主人公を真似て男が黒っぽい服を買う。ロックバンドに憧れて、演奏の腕も磨かずファッションだけ真似て、ヘタクソなままステージにあがる。どいつもこいつもダサいダサい。

 真似するなら、せめて自分なりに発展させないと痛いだけってーのに。

 

「他人を熱狂させ、自分の真似をさせるのがロックや。

 ロックンローラーは真似する側じゃなく、真似される側なんやで」

 

「あ、なるほど……」

 

「真似しちゃいかんとは言わんし、伝説のロッカー達も先人から学んどる。

 でも、自分の中から自分だけの音楽を出さな意味がない。

 自分だけの心の叫びをロックンロールにできん奴は、結局モノにならんと言うしな」

 

「真面目な人だとそれができないんですか?」

 

 ……さあ、どうだろうか。

 

「ロックは他人を省みちゃいけない、なんてのは聞くなぁ。

 他人の迷惑を考えて止まるような奴にはロック向いてないらしいで」

 

「他人の迷惑になるようなことをすればロックなんですか?」

 

「それもちゃうな。

 ただの迷惑な人に観客は憧れん。

 他人に迷惑をかけても憧れの目線を向けられるのがロックンローラーなんや」

 

「難しいですね……でも、なんとなく分かってきた気がします」

 

 やっぱ頭いいなあ、この子。理屈じゃなく感覚で理解するものだと分かってきたみたいだ。

 よし、ここは大衆論じゃなく、俺の持論も語るか!

 

「俺が思うに、ロックは炎なんや!」

 

「炎?」

 

「触れたものを焼いて壊す、めっちゃ熱い、人の目を引きつけるパワー。

 ロックは闇の中に光をぶち込む熱い炎なんや!

 小賢しい大人になんてなりたくない、若者の内に燃え尽きたい! それがロックなんや!」

 

「……」

 

「理想的なのは十代の内に名を売って、ハタチで伝説になること!

 そしてそのまま伝説になって27歳で死ぬことやな!

 ロックンローラーは27歳で死ぬと歴史に名を残せるんや!

 でも死ぬ前に一回くらいは本場のアメリカ行きたい!

 ロックンローラーとしてはアメリカとイギリスは鉄板!

 できれば俺も伝説になってからそこで生ける伝説のマリアさんとかにな――」

 

 あ、いかん、ちょっと熱く語りすぎた。

 キャロルちゃんくすくす笑ってる。

 やべえ恥ずかしい。

 死にたい。

 ちょっと今の俺が抱くにはこの夢、分不相応すぎる。笑われても仕方ない。

 

「今日ボクは、あなたに出会ってから初めて、あなたの一番いい笑顔を見た気がします」

 

 え? 笑ってる理由それ? 天使かよ。聖女かよ。今ならラブソング一曲作れそう。

 

「ボク、あなたの曲が聞きたいです。一曲、お願いしてもいいですか?」

 

 喜んで。できればファンになってくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し、驚かされた。

 キャロルちゃんがもう外を出歩けるくらいに回復してたのもそうだが、彼女曰く、派手に動かなければ外を出歩いてもエテメンアンキに見つかる心配はないらしい。

 その証拠に、と、自分のローブを魔法のようなもので自由自在に変えていた。やべえ。

 彼女は自分の力を『錬金術』と呼んでいた。

 そうか、謎が溶けた。ベッドに血がなかったのも、手をパーンと合わせてビビビと血を錬成して消していたとすれば説明がつく。なんて凄い能力なんだ!

 

「ただ、向こうもボクが狙っているものを把握しているようで……

 日本でこれ以上計画を進めようとすれば、また見つかってしまいます。

 恥ずかしながら、結弦さんに助けられたのも、天羽々斬を確保しようとして……あはは」

 

 アクションを起こすと向こうに見つかる。

 向こうに見つかったら襲われる。

 かといってなんやかんやあってアクションを起こさずにはいられない。

 なんというか、この子も難儀な人生やってんな。

 

「ちょい早いけど、途中で昼飯買ってこか。今日のお昼は公園や!」

 

「わぁ、いいですねっ」

 

 ギター持って、財布持って、キャロルちゃん連れてまず弁当屋へ。

 さっさと行ってさっさと選んでさっさと帰ろう……と思ってたが、悩むな。

 俺は安くて量があればいい。コスパ重視だ。だがキャロルちゃんに食わせるとなると、炭水化物と脂で出来た安さ&量特価の弁当を食わせるのはどうなんだろう。

 やっぱ魚と野菜メインのやつがいいんだろうか?

 そんなこんなでちょっと悩んでたら、いつの間にかキャロルちゃんと未来ちゃんが話し込んでいるではないか。

 

「あーやっぱり、あなたが結弦さんの親戚の人? 結弦さんが今家に泊めてあげてるっていう」

 

「はい、そうです。あなたは小日向未来さん、ですよね」

 

「話には聞いてたんだ。結弦さん、お弁当か食材買いに来る度にあなたの話してたんだよ?」

 

「そうなんですか? 意外です」

 

「日本人……だよね? あれ、なんで私、今そこに違和感持ったんだろう」

 

「はい。少しばかり『化粧』をしているので、それで違和感があるのかもしれません」

 

「お化粧かぁ。やっぱり外国の女の子は進んでるのかな?」

 

 ……あれ、仲良くなってる? というかキャロルちゃん、何か錬金術使ったな。

 

「結弦さんまたロックの変な話してなかった? 大丈夫?」

 

「私が請わなければそういう話はしないでくれていましたし、大丈夫ですよ。

 ……ちょっと聞いたら、なんというか、ロックは奥が深いなあと思わされて……」

 

「だよね! そうだよね! ロックって面倒臭いものだと思ったよね!?」

 

 これ間違いなく仲良くなってるやつだ。この短時間で仲良くなってる。

 

「でも生真面目に聞かない方がいいよ?

 結弦さん、真面目すぎるから。

 昔のロックとか研究しすぎて、方向性見失っちゃってる人だもの」

 

「あぁ、なるほど」

 

 ちょっと待て!

 

「スタァップ未来ちゃん!」

 

「この人と話してると『ロックが何か』って分からなくなるでしょ?

 この人が一番『ロックが何か』って分かってなくて知りたがってるんだからそれも当然よ。

 だってそれが分かってないから売れてなくて、それが分かれば売れると思ってるんだから」

 

「は、はぁ……未来さんって人をよく見てるんですね……」

 

「もう勘弁してや……売れないロックンローラーをいじめんといて……」

 

 いや確かに成功する方法とか、自分のロックの改善案とか探してるけど。究極のロックは何かとかロックの本質は何かとか悩んでるけど。

 俺は俺で俺のロック論あるし、このロック論に従ってロックンロールするし……

 

「うちのお父さん言ってましたよ。

 ちゃんと一人前になれる奴は、言ってることとやってることに一本筋が通るもんなんだって」

 

「うぐっ」

 

 ……見てる人は見てるし、分かる人は分かるよな。

 俺は、『俺だけが出せる音』も、『俺がどんなものを音楽で表現したいのか』も、『歌を通して何を伝えたいのか』もはっきりしてないんだよなぁ……

 ソウルがあると言われたことはある。

 テクがないと言われたこともある。

 そして何より、メッセージが伝わってきたと言われたことがない。

 これじゃ、ダメだよなあ。

 

「私にこんなこと言われても、気にしない人になってください。

 凡人に何言われても気にしないようなロックンローラーになってください。

 そうしたらうちのお店、偉大なロックスターの御用達として宣伝するんですから」

 

 ……未来ちゃんにこんな風に励ましの言葉を言わせちゃうようじゃ、ダメだよなあ。

 

「ああ、これは期待に応えられるよう、頑張らないかんな」

 

「はい、頑張ってください。今日のお弁当、唐揚げ一個おまけしておきますから」

 

 弁当持って、公園に向かう。

 精神的なコンディションはバッチリだ。

 今弾けばどんな曲を弾いても、今の俺の実力を最大限にまで発揮できる気がする。

 

「さ、ベンチ座って」

 

「はい。ワクワクしますね、こういうの」

 

 二つのベンチを組み合わせたL字型ベンチの左端に座って、彼女を隣のベンチに座らせて、と。

 さあ、弾くぞ。

 ギターしか無いから音の厚みは相当に出ないが、今の俺の精一杯を魅せてやろう。

 

「ボクが知らない、この曲の曲名は?」

 

「Fight Fire With Fire」

 

 本来はバンドを揃えて弾く曲だ。が、最近は動画サイトに一人でアップする人の需要がどうとかで、ギター一本でも弾けるアレンジ譜面が出回っている。情報化社会バンザイ。

 持つ、握る。擦るようにして弾く。弦を抑え、奏でる。

 いい音が出れば気持ちがいい。

 悪い音が出れば気持ちが悪い。

 とことん突き詰めて、無心になって弾き鳴らす。

 とにかくミスをしないように、とにかくインパクトが残るように、俺が好きなロックの良さを表に出すように、夢中になって弾きまくる。

 一曲終了。

 さあ、どうだ!

 

「なんか、こう……うるさいですね」

 

「―――」

 

 俺は死んだ。期待した分死んだ。即死だ。

 

「あ……ああいえ下手とか気に入らなかったとかそういうのじゃなくてですね!

 す、凄いと思いましたよ! 特にギターを弾く指の動きの速さにびっくりしました!」

 

「……ロックが第一声で『うるさい』って言われるの、二つのパターンが多いんや。

 一つは、その人にロックが合わなかった場合。ヘビメタとかダメな人多いやろしな。

 そしてもう一つが、単純に下手な奴の曲だった場合。

 下手だった奴が上手くなってロックスターになると、騒音がロックになったとか言われるんや」

 

「そ、そ、その、他意はなくて……ボクに見る目がなかっただけかもしれませんし!」

 

「目じゃなくて耳やろ」

 

「あっ」

 

「キャロルちゃんが変なわけやなくて、俺が下手なだけなんや……気にせんといて」

 

 ヘコむ。

 普通にヘコむ。

 なんかこう、この流れでロックで感動させたかった。

 でもダメだ、腕が足りてない。

 歌を紡ぐ口も、曲を奏でる指も、どっちも能力が足りてない。

 ……俺は、『うるさい』じゃなくて『凄い』っていう第一声が欲しかったのか。ああもう、身の程知らずの希望的観測にも程がある……死にたい。

 

「ああ、ええと、ほな飯食って帰ろか。ゴメンな、変な演奏聞かせて……」

 

「もう一曲、お願いします。今度は別の歌が聞きたいです」

 

 なのに、キャロルちゃんは弁当に手をつける気配も、帰る気配も見せなくて。

 ベンチに座ったまま、微笑んで、俺をまっすぐ見つめている。

 

「せやけど、俺の腕じゃ……」

 

「ボクはロックが聞きたかったわけじゃありません。

 上手いロックを聞きたかったわけでもありません。

 あなたの曲が聞きたいんです。だから、もう一曲お願いできますか?」

 

「―――」

 

 ……本当に、本当にいい子だな、この子……悲しくなってくる。

 ああ、クソ、もっと練習しておけばよかった。もうちょっと上手くなっておけばよかった。

 もっといいロックを、この子のロック初体験にしてやりたかった。

 悔しい。

 みじめだ。

 俺より上手いロッカー全員に劣等感を感じる。

 もっと上手くなりたい。

 この子を感動させたい。

 手段はなんでもいいから、もっともっと上手くなって、この子にもっといいロックを聞かせてやりたい。

 キャロルちゃんの言葉に応えられる自分に、なりたい。

 

【市民の皆様、エテメンアンキです。いつもお世話になっております】

 

 ……ああ、もう!

 

【現在、派遣ノイズが市役所の役員と協力して行動を開始しています。

 皆様は屋内から出ないようお願いします。

 屋外にいらっしゃる方はすぐに屋内に入るか、エテメンアンキの誘導で避難してください】

 

 こんな時に限って、邪魔なことを!

 

【ノイズが迅速に対応を終わらせるため、ご協力をお願いします。繰り返します】

 

「キャロルちゃん、役所の放送聞こえたやろ! 逃げるで!」

 

「……」

 

「キャロルちゃん!」

 

 手を引いても動かない。こんな小さな子のどこにこんな力が……?

 いや、そんなこと考えてる場合か!

 くそっ、もう空に何体か見えてる!

 

 エテメンアンキの固有戦力、『ノイズ』。

 なんかよく分からんが人間が触れると灰になる気持ちの悪い生物だ。

 エテメンアンキはアレを制御して、百年前の月崩壊後の混乱を全部強制的に抑え込み、最小限の被害で世界をまとめた……って、歴史の教科書に書いてあった。

 現代においてあれは、テロリストや反社会分子くらいにしか使われない。

 逆に言えばそいつらに対しては容赦なく使われる。

 その恐ろしさから、今の世界の平和を維持する抑止力とさえ言われてた。

 

 アレは最近、各国で過激な活動してる不適合者を皆殺しにするのに多用されてたからか、ニュースでしか見てない俺でさえ怖く感じる。ヤバい。

 社会に愚痴を垂れてる不適合者程度ならアレには狙われない。

 だがテロリストなら適合者でも容赦なく狩る。

 つまりアレの狙いはキャロ……あれ? 通り過ぎた?

 狙いはキャロルちゃんじゃないのか?

 

「チャンスやキャロルちゃん、今の内に見つからない場所に隠れ……」

 

「駄目です」

 

 俺が取った手を、彼女は振りほどいた。

 それどころかノイズが向かっていった方向を睨みつけている。……まさか。

 

「キャロルちゃん?」

 

「黙っててごめんなさい。

 ボクはキャロルの意志を継ぎましたが……ボクにはボクの、目的があるんです」

 

 キャロルちゃんの声には、芯が通ってる。

 俺とは違う、自分の人生をかけてもやるべき一つのことを見据えている声だ。

 目指す場所、やるべきこと、やりたいこと、今の自分への意識。全てがガッチリ揺らいでないから、こんなにも小さく細い体で、こんなにも強く立ってられてんだ。

 

「世界の歪みに、沢山の人が苦しめられています。

 社会の歪みに、沢山の人が殺されています。

 そしてこのまま行けば、世界のほとんどの人を巻き込んだ大崩壊が待っています。

 ボクはキャロルの目的を果たす以上に……その人達に、救われて欲しいと思ったんです」

 

 ああ、分かった。今分かった。

 この子は……人を助けるためだけに、生きようとしてるんだ。

 

「ボクは世界を敵に回します。

 ボクは世界中の人達に恨まれるでしょう。

 ボクは世界を壊します。

 ……それでも、ボクは、今生きている人達に、救われて欲しいんです!」

 

「まさか……今ノイズが狙っていった奴らを助けに行くんか?」

 

 キャロルちゃんが頷く。

 今ノイズに襲われてる奴らなんて、面識すらもないだろうに。

 もしかしたら、最悪テロリストか何かかもしれねえのに。

 ただ被害者なだけの不適合者が、役所に通報されて『駆除』されてる可能性もゼロじゃないが、それでも数%くらいだろうに。

 この子は、救おうとすることを躊躇ってない。

 

 エテメンアンキが弾圧と虐殺に使うノイズ軍。それと戦うことに、何の疑問も持っていない。

 

「ボクは、世界を救う方法を求めて、この国に来ました。

 ありがとうございます、結弦さん。

 この国であなたと出会えて、とても嬉しかったです。ボクは……見捨てず、戦います」

 

「キャロルちゃん!」

 

 彼女が走り出していく。

 止めようとしたが、間に合わない。

 錬金術で移動したらしい彼女が座っていたベンチを見ると、血が一滴滲んでいた。

 ……治ったなんて、本人は言っていたけど、それは隠していただけだった。

 彼女は我慢と頑張りが得意なだけで、頑丈な体なんて何も持ってない、怪我をしたか弱く儚い女の子なんだ。

 

 後を追うか、一瞬だけ迷う。

 追えばエテメンアンキが何をしてくるか分からない。

 ニュースで見たノイズの恐ろしさが脳裏を駆け巡る。

 ああ、怖い。

 こええ。

 死にたくない。

 危ないことはしたくない。

 だってまだビッグになってない。

 俺は何者にもなれてない。

 今死ねば、粋がってたガキが一人情けなく死体になるだけだ。

 あの憎いオヤジを見返すこともできない。

 母さんに胸を張ってあの世に行くこともできやしない。

 嫌だ、それは嫌だ。何にもなれず死ぬのが怖い。

 帰れる。今なら平和な家に帰れる。帰りたい。

 

 一歩踏み出すだけで死ぬと、何故かそう確信できた。

 

「……ロックンローラー、舐めんなッ!」

 

 だけど踏み出すことに、何の躊躇いもなかった。

 

 あの子はきっと、俺を全く頼りになんてしてないと思ったら、なんか無性に腹が立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 走った。

 全力で走った。

 他のロックンローラーの真似をしてタバコを吸おうか迷って、結局歌のためにやめたことを、今だけは全力で感謝できる。

 ノイズが襲撃していた場所に俺が辿り着いた時、そこは既に地獄だった。

 

「ひでえ」

 

 ……ああ。ああ、くそ、見覚えがある。

 最近()()()()()()()()()()()()と揉め事を起こして、立ち退きを迫られてたっていう、不適合者の団地だ。

 デカい金と利権が絡む土地がなんとかって話を、ここの団地の住人と話した覚えがある。

 その住人は、俺と時々バンドを組む無愛想な兄ちゃんだった。

 俺と何度も一緒に曲を奏で、俺にこの団地が抱えてる問題を話してた兄ちゃんは、俺の目の前で炭素のクズになって消えていった。

 

「……っ」

 

 事件の裏が見えてきた。

 この後に隠蔽されるだろうし、詳細な裏が見えることはないだろう。

 だけど想像はつく。

 この不適合者達は、何も悪いことをしてないのに、明日にはきっと重犯罪者扱いになる。

 この一件で得をする外道どもが、きっとそうする。

 明日には情報操作も完了していることだろう。

 エテメンアンキの仕業とは思えないくらいに暴力的で悪辣で行き当たりばったりだが、ノイズを使っているのなら間違いなく奴らも関わっているはずだ。

 

 ムカついて、ムカついて、ムカついて……そして、キャロルちゃんを見つけた。

 

「! キャロルちゃん、上!」

 

 団地の人達を逃してるキャロルちゃんと、その後を追うノイズと、ノイズの攻撃で崩れかけてる団地のてっぺんが見えた。

 

「!? 結弦さん、なんでここに―――」

 

 あ、やばい。声かけたせいでキャロルちゃんが上じゃなくてこっちを向いてしまった。

 ああ、クソ、ここから出来ることなんて一つしかない! ……やるか!?

 怖いけど、やるのか!? ……だけど、やるしか!

 

 だってまだ俺は、上達した腕前で、彼女にちゃんとしたロックを聞かせてない。

 俺はまだ彼女に本物のロックを教えてない。

 俺達の間ではまだ、何も始まってないんだ。

 ……だからッ!

 

「―――」

 

 縮地で移動し、彼女を突き飛ばした俺の背中に、鉄骨みたいな何かが刺さった。

 

「あ……ああああっ!」

 

 痛い。

 熱い。

 息したくない。

 息するだけで痛くて、動くだけでも痛そうだ。

 動かなくても、姿勢を維持する筋肉が勝手に動くだけで凄く痛い。

 ああ、普段意識してないだけで、体の筋肉ってこんなに動いてんのか……勉強になった。

 それにしても、痛い。泣きたい。

 

「なんで、なんでこんなことを!」

 

「ビートルズのジョン・レノンは言ったで?

 好きに生きたらいいんだよ。だって、君の人生なんだから……ってなぁ」

 

 ロックンローラーはドラッグもやる、喧嘩もやる、ライブで無許可にマシンガンぶっ放したりもする。皆好きに生きてるんだ。

 キャロルちゃんを助けたかっただけで、他は何も考えなかったんだから、なんでとか聞かないで欲しい。答えに困る。

 

「なんで、どうして、って言われても困るわ。

 俺は……徹頭徹尾、好きに生きてるだけや。君が気に病む、ことはない」

 

「そんな!」

 

 俺の胸には歌がある。

 ロックという名の歌がある。

 胸の奥で燃え盛る歌、ロックは俺の魂だ。

 

 この生き方は自分で決めた。

 どこでどう生きるかは自分で決めた。

 キャロルちゃんを助けることも自分で決めた。

 だから後悔なんてない。

 生き方を曲げるくらいなら、若い内に死んでしまった方がマシだ。

 俺が憧れたロックンローラーの多くは、みじめな死に様だったとしても、そうやって―――意地だけは通して、若くして死んでいったんだから。

 

「ごぶっ」

 

 血を、吐いた。

 どこかからか出て来た血が、喉の奥の奥で詰まってる。

 息が、できない。

 体が、つめたい。

 しんで、いく。

 

「死なせません!」

 

 キャロルちゃんの声で、飛びかけた意識を繋ぎ止めた。

 だけどもう目も見えない。息もできない。手を動かそうとしたが動かない。指を動かそうとしても動かない。指先を僅かに震わせることが精一杯だ。俺は、ここで死ぬ。

 キャロルちゃんの騒がしい涙声混じりの叫びに感じる罪悪感だけが、俺が自由にできるもの。

 ああ、くそっ。

 もう少し上手くやれてれば、くそっ。

 

「……これしか、ないなら。この先に何があっても、ボクは―――ボクは!」

 

 ―――熱い何かが、胸に差し込まれた。

 鉄骨が貫いた心臓に突き刺さり、その『何か』が燃える。

 熱い。

 なんだこれ?

 信じられないくらい胸が熱い。

 これは……炎だ。

 胸の内で燃えるこれは、炎以外の何物でもない。

 わけがわからないが、胸の奥の熱い思いが、外から胸の内に差し込まれた熱い何かと一緒に、俺の中で大声で叫びまわっている。

 

 熱い曲を一曲聞かせろロックンローラー、って。

 

 ああ、分かった。

 最高の一曲を聞かせてやる。

 ギターも舞台も観客もないが、なんとなくできる気がする。さあ、やってやるぜ。

 こいつが俺の、ロックンロールだ。

 

「この光……この旋律……結弦さんのこれはまさか―――ノイズを殺すロックンロールッ!?」

 

 とりあえず何も考えず、深く考えず、胸の奥から噴き出す音楽を形にする。

 

 過去最高のロックンロールになった……そんな、気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……あれ? なんか俺生きてる? おはようございます。

 寝起きで頭がはっきりしない……あ、キャロルちゃんが居る。

 

「音楽の良さを理解できない者だけを選択して、消滅させた……?」

 

「キャロルちゃん、これどうなってるん?」

 

「……覚えてないんですか?

 結弦さんがぱあっと光を出して、広範囲を包み込んだんです。

 光に包まれたものの内、ノイズだけが消滅させられました。

 おそらくですが、生物として音楽を好む人間はその全員が無傷です」

 

「へ? 俺超能力かなにかに目覚めたんか?」

 

「違います。……その、ごめんなさい」

 

 なんでキャロルちゃんが俺に頭下げてんだ? ……状況が読めないな。

 

「先史文明の遺産である聖遺物、というものがあります。

 それらを組み上げた人工聖遺物を、ボクは持ち歩いていました。

 穴の空いたあなたの心臓を修復するため、ボクはその聖遺物を、あなたの心臓に……」

 

 埋め込んだ、と。確かにそんな感じの跡が残ってる。

 

「ペースメーカーみたいなもんやな。ありがとさん、キャロルちゃん」

 

「本当にごめんなさい!

 ボクを庇ってあなたは死にかけて……

 しかも、聖遺物のせいでエテメンアンキにバレれば狙われることになってしまうんです!

 ボクと関わらなければあなたは、平穏無事に過ごせていたはずなのに。ごめんなさ―――」

 

「ノイズ片付け終わったんなら公園戻って飯食おか。弁当置いてきてもうたしな」

 

「……あの、真面目に聞いてます?」

 

「勿論。ちゃんと理解しとるよ。

 ただなんというか、キャロルちゃんが悪いとか微塵も思えへんし」

 

「そんな! だってボクは」

 

「ロックンローラーに

 『ボクのせいにしてください』

 と強制しようとか中々ロックやな、キャロルちゃん。反抗するで」

 

「え!? い、いやそういうつもりでは!」

 

「それにあれやん? いっぺん死んでから心臓に何かを埋め込んで復活―――ロックやろ?」

 

「ロックってなんですか」

 

 キャロルちゃんが言ってたことじゃないか。かっこよければロックだって。

 

「……」

 

「でもこれキャロルちゃんの大切な物やないんか?

 それなら俺が逆に申し訳なく思うてしまうなあ。どうにかならん?」

 

「……そう簡単に、抜き取れるものではありません。本当にごめんなさい」

 

「謝るのはこっちやて、こんな高そうなもん使わせてもうてすまんなあ」

 

 ペースメーカーって二百万くらいだっけ?

 やっべー、勝手に突っ込んで頼まれてもないのに助けて、それで無様に死んで貴重品分けてもらって助けられたとか、これはダサい。頭が上がらんぞ。

 何故キャロルちゃんはこんなクソ雑魚馬糞ロックンローラーなんかに謝ってんだ。

 

「結弦さんには、何度も助けてもらいました。

 ボクはその恩をほとんど返せていません。

 ……その上で、ボクは更にあなたを頼るお願いをしようとしています。

 失礼だと思います、不躾だと思います、でも、あなたの心臓の聖遺物がどうしても必要で……」

 

 もっと偉そうにしていい、そんなにへりくだらなくていい、って言っても真面目な子には逆効果なんだろうなあ。

 この子の重圧と肩の荷を取り去ってやるには、彼女を俺の上に置くより、もっと適当なやり方が……あ、そうだ。

 

「ええよ、言ってみ。どんとこい。

 キャロルちゃんはいちいち重すぎで、俺はノリが軽すぎやろ?

 もーちょい気楽に、俺をちょっと見習って軽く話して見るのもいいんやないかな」

 

 この子に必要な言葉は、これかもしれない。

 

「俺らもうダチやろ? 気軽にお願いすればええんや」

 

「ダチ……友達?」

 

「せや、友達や。同じ釜の飯を食ったダチくらい、気軽に頼ってええんやで」

 

 嬉しそうな顔しちゃって、こんにゃろうめ。

 出会ってから今日までの間に見た顔で、一番いい顔してるぞ、キャロルちゃん。

 

「ボクの……世界を巡り世界を救う旅を、手伝ってください!」

 

「ええよ。あ、旅の途中でギターの練習くらいはさせてーな?」

 

「即答!?」

 

「世界かー、アメリカとイギリスのロック聖地には行ってみたいとこやね」

 

「え、あの、いいんですか? 不安になったりとか、嫌だと思ったりとか……」

 

「ないない。海越え上等や」

 

 海の向こう……ロックの本場! 外国のロック!

 日本よりクソな不適合者差別もあるだろうが、そんなことがどうでもよく思えるほどのこの期待感! 海外! 海外かー!

 

「音楽は言葉の壁を越えるコミュニケーションツール。

 ロックは海を越えて何度も伝説を作ってきたミュージック。

 ワクワクするやろ? 海の向こうで、どんなロックが待ってるんやろな、って」

 

「……結弦さんって、根本的に凄くタフで凄く前向きですよね」

 

「向きたくなる前があるのが悪いんちゃうかな」

 

 明日に希望が持てる内は、ロックンローラーなんてそんなもんだ。

 明日に希望が持てなくても、今日ライブを開いて客を集めるのが一流のロックンローラーだ。

 俺もそういう風になりたいものである。

 

「あ、そやそや。もひとつ聞いておきたいんやけど、この心臓に埋まってるやつ。

 これってなんなんや? どういう名前で、何のために必要なんや?」

 

 ずっと俺を微笑んで見ていたキャロルちゃんが、背筋を正した。

 そしてその指先が俺の胸のあたりをなぞっていく。ちょっと恥ずかしい。

 

「これは世界を救う鍵。

 聖剣デュランダルを芯に、魔剣ダインスレイフを外装として融合させたもの。

 神が人の過ちを防ぐため生命の木へ続く道に楔として打ち立てた剣の模倣。

 すなわち、"追加された禁忌"の象徴。

 世界を救うための一振り、煌めき回る炎の剣……神剣・ディバインウェポンです」

 

「神剣、ディバインウェポン……」

 

「完全に覚醒していない今は、あなたの心臓の代わりとして動く、神の炎の聖遺物です」

 

 小難しいこと言ってんなこの子。何言ってんのかさっぱり分かんねえ。

 とりあえず分かってる風な顔をして神妙な感じに頷いておこう。

 

「この神剣は、七つの聖遺物を組み込むことで真価を発揮します。

 七つの聖遺物は独特の相性と相互干渉により、神剣の力を強化・安定させます。

 天羽々斬は回収しました。

 残りはイガリマ、シュルシャガナ、アガートラーム。

 イチイバル、神獣鏡、ガングニールの六つです。うち五つは所在が判明しています」

 

「後六つ、と」

 

「世界の終わりは近付いています。ボクとあなたで、世界を救いましょう!」

 

「っしゃあ! ロックで世界を救うんやな!」

 

「いや、ロックは特に何も救わないと思いますけど……」

 

 なにおう?

 って、着信音? 俺の携帯じゃない……とすれば、キャロルちゃんか。

 

「通信端末?」

 

「ちょっと待っていてください。ええと、ここをこうして……」

 

 あくせくしてキャロルちゃんが操作した端末が、スピーカーとマイクを通して通話を繋げる。

 

『こちらセレナです。イタリア行きのうちの船、予定通りに乗れそうですか?』

 

 ほうほう、セレナさん……誰?

 

 

 




五人目のビートルズ今何人居るんでしたっけ(矛盾するワード)
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