売れないロックシンガー in 戦姫絶唱シンフォギア   作:ルシエド

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エレキギターを剣に見立てる人と斧に見立てる人ってきっちり別派閥に別れてるんですよね
仮面ライダーウィザードインフィニティースタイルの武器を見ると興味ない人でも「ああ……」と理解できる気がします


忍術を継ぐ、君らしく

 寝ても覚めてもロックンロール。

 目を覚ましたのはベッドの上。セレナさん達に紹介されたあの家か、ここ。

 神剣・ディバインウェポンの抜剣で暴走し、抜剣暴走の負荷で気絶したのか、俺。

 時計を見る。

 時間がない。

 さあ、練習だ。

 

「何やってるんですか!」

 

 ああ、キャロルちゃん止めんな! ギター返せ!

 

「ただいま精密検査中です!

 自分の体の状態が分かってるんですか!?

 ただでさえ一回生死の境を越えているのに、それに加えて暴走してしまったんですよ!」

 

「聖遺物パワーってのはドラッグより体に悪いんか?」

 

「え? 流石にドラッグよりかは体への悪影響は少ないですが……」

 

「じゃあ平気やん。ドラッグ以下なら」

 

「ドラッグもボクが見てる内は絶対に服用させませんからね! 絶対!」

 

 おい、それじゃ最後の最後の手段として考えてた、過去のロックスターの如くドラッグからインスピレーションを得て調さんに音楽を披露する腹案が使えねえじゃねえか。

 選びたくない選択肢だったが俺の最後の希望が……くそっ!

 

「ボクは、間違ったのかもしれません」

 

「……? なんや、定期的に自分責めるな君。俺はそんな気にせんでええと思うけど」

 

「結弦さんのことを分かってるようで、分かってなかったんです」

 

 そりゃお前、分かられてたら俺は色々恥ずかしいわ。

 

「他人の痛みを理解できるのに、刃を迷わず人に振るえる適合者が居ます。

 他人の痛みが分かるから、刃を持っても人に向けられない不適合者も居ます。

 『剣』は、それが扱える人こそ持つべき武器で……

 心と心臓に融合し、精神と直結する聖遺物は、あなたの手に馴染まなかった」

 

「心配しすぎやろ。慣れてないだけで、俺かて剣ぶん回すくらい余裕やで」

 

「結弦さんの手に似合うのはギターです。

 あなたの指は剣を握るためじゃなく、心の音を奏でるためにあります」

 

「―――」

 

「今日抜剣したあなたを見て、ボクはようやく気付けました。

 あなたに剣を振るってもらおうと思っていた事自体が、間違いだったんだと」

 

 ああ、クソ。

 

「本当に、ごめんなさい」

 

 俺はキャロルちゃんの期待に応えられなかったわけだ。

 神剣が胸に入った俺は、キャロルちゃんに"戦う力"を彼女の無意識下で期待されてて。

 俺はロックだけじゃなく、戦闘の方でも期待に応えられなかったったんだな。

 だからこんな、心配そうで泣きそうな顔をキャロルちゃんにさせちまってる。

 キャロルちゃんに謝らせちまってる。

 俺が上手いロックシンガーだったら、剣を速攻で使いこなして無事無双できるような最強キャラだったなら、彼女に気を遣わせることなんてなかったのに。

 

 クソ、実力が足りねえ。天才になれない、平凡な自分が恨めしい。

 俺より才能があるロックシンガー皆死ねばいいのに。

 

「俺に剣が合わない言うんなら、ビームだけ出すとかできないんかな?」

 

「できないことはないと思います。

 聖遺物のパッチワークである神剣は、汎用性を非常に高めた構造になっていますので」

 

「ほうほう、汎用性」

 

「ディバインウェポンは、聖書に語られる煌めき回る炎の剣。

 神は雲の上におわすもの。

 炎とは煌めくもの。

 神の炎とは、つまり古代においては『雲の向こうで煌めくもの』……

 神の権能たる雷の別表現の一つでもある、と解釈されることもあります」

 

「剣で、楔で、炎で、雷なんやな」

 

「聖書において、正式な名前さえ語られないのがその剣です。

 あやふやであるがために、ボクも何ができるのか完全に把握できているとは言い難いです」

 

 そう聞くと、小細工のしようはありそうな気がしてきた。

 つまりあれか、335のセミアコか。

 軽く、音が良く、大抵のロックバンドで使えるほどに万能と言われる有能ギター。

 あのギターを扱う感覚でやれば、神剣の別の使い方が見えるかもしれない。

 

「つまり発想の枠を壊せばええんやな。それならロックンローラーの得意分野や」

 

 調さんに聴かせる曲の次は、そっちの問題も解決しよう。

 でないと、キャロルちゃんの反応がちょっとな。

 俺が情けない内は「巻き込んでごめんなさい」しか言われん。

 俺が無双するようになったら「あなたを頼って良かった」とか言われるだろう。

 頼られないのは男として純粋に悔しいし悲しい。

 謝られるのはもっと辛い。

 歌って踊れるロックンローラーが理想だったが、これからは歌って戦うロックンローラーを目指すか。俺と同じ不適合者が殺されそうになってたら守れるくらいの力は欲しいな。

 そうでもなきゃ、キャロルちゃんとか守れそうにない。

 

「あー、でも自信ないなぁ」

 

「え?」

 

「失敗続きの俺は自信失いかけや。

 親しい友達に励まして貰いでもせんと頑張れなさそうや。

 キャロルちゃんはどう思う?

 俺は何もできんダメダメだと思う? それともやればできる男やと思う?」

 

「……できます。きっと、できます! 結弦さんならできますよ!」

 

「うし、信じてもらったなら期待に応えなあかんな。

 今度こそ、俺は君の期待に応えてみせるで! 乞うご期待!」

 

 この手の内気な子に困るのは、自分で自分を励ますのを自重しちまうこと、一度自分を責め始めると止まらないことだな。

 他人を励ますことは躊躇わない優しい子だってのに、自分は励ませないときた。

 まったく。

 でも他人を励ましてる内にいつの間にか自分も前を向いてる、そういう人種でもあるからな。俺がこうしてちょっと嘘演技したことも許して欲しい。

 

「……結弦さんは、すごいです。

 ボクはちょっとでも暗い気持ちがあると、すぐ俯いてしまって……」

 

「ロックンローラーは人前では強がってるだけやで?

 だから色々溜め込んで、ドラッグや自殺に逃げることも多いんや。

 キャロルちゃんみたいに素直に感情を外を出せるのも悪かないと俺は思う」

 

「でもやっぱり、ずっと前を向いている人は、ボクの憧れなんです」

 

 ……? なんか変だな、中々立ち直らない。

 キャロルちゃんが落ち込んでる理由、いくつか俺が見落としてるのか?

 

「ボクはどうしても、他の人が気にならないことが気になってしまうんです。

 結弦さんが船で話している時、ずっとセレナさんの胸ばかり見ていたこととか」

 

「あ」

 

 やべえ。

 

「ボクが曲に反応したら結弦さんは喜んでくれました。

 セレナさんが曲に反応したら、結弦さんはボクの時より喜んでいました。

 ボクがセレナさんの真似をしたら、ボクが反応した時よりも喜んでいました」

 

 やべえ。

 

「船を降りても、ボクにセレナさんのことを聞くくらい気になってたみたいですし……」

 

 やべえ。

 

「気にしないようにしようとしても、気になって。

 セレナさんは美人で、結弦さんは人助けを躊躇わないいい人です。

 結弦さんが、ボクよりセレナさんの方が好きになったら……

 ボクじゃなくて、セレナさんの方について行って、そっちを手伝うんじゃないかって……」

 

 やべえ。

 

「また一人になってしまったらって……ボクは思ってしまうんです。

 こんなにも怖がりで、自分のことしか考えてない自分が、嫌いなんです」

 

 これは俺が悪い。

 つかこの子、意外と俺のこと見てんな……

 

「大丈夫やって!

 キャロルちゃんについて来て、新しい美人見つけたからそっちなびくとか最低やろ?

 そんなロックらしさの欠片も無い真似せえへんて!

 俺はどこにも行かん、君が望むんなら地獄の底まで付いてってもええくらいや!」

 

「本当、ですか?」

 

「せやせや。地獄でライブってのも楽しそうやしな。

 俺は誰も見捨てへんし、誰の信頼も裏切りたくないんや。

 キャロルちゃんはちゃうやろけど、俺はこの心臓の件も大恩やと思うとるしな」

 

「……よかった」

 

 そんな心底ほっとした様子とか見せないで欲しい。

 なんかしてやらないとと思うが、結局何も思いつかないんで、俺は何もしてやれないんだ。

 

「それにキャロルちゃんが格別怖がりってわけやないで?

 俺も死ぬより怖いことがある。ロックンローラー皆が怖がってるもんがな」

 

「死ぬより怖いこと、ですか?」

 

「自分の曲が評価されないこと。

 それで自分の価値がなくなること。

 でもって自分が特別だと思えなくなること。

 ……そして、自分の曲が特別なものじゃなくなって、皆に忘れられることや」

 

「忘れられてしまうことが、死ぬことより怖いんですか?」

 

「おお、怖い。若くして死ぬのは怖くないんや。でも曲を忘れられるのは堪えられん」

 

 少なくとも、俺はそうだ。

 

「メンデルスゾーンは知っとるか?」

 

「いえ、音楽方面はあまり」

 

「偉大な音楽家バッハは、現代じゃ知らない者なんておらんやろ?

 けど実は一時期、流行のせいでほっとんど忘れ去られた存在だったんや。

 知る人ぞ知る、って感じでな。

 それを復活させ、知名度を一気に上げたのがフェリックス・メンデルスゾーンなんや。

 こいつのおかげで、死んでたバッハの音楽は復活を果たした。

 驚くことに、音楽の世界にはこういう『不死』や『復活』が時々あったりするんやで」

 

 よい音楽とは死なないもの。

 歴史に刻まれ、人に語り継がれ、旋律は紙に記され残り、社会と流行に殺されようとしぶとく残骸を隠して、やがて復活を遂げる。

 本当に素晴らしい音楽ってのは、人には殺せない不死なんだ。

 

「最高のロックンローラーが産んだ曲なんて、まさしく不死そのものやな。

 皆がそれ使って、参考にして、歌って、弾いて、ずーっと人の間に残るんやから」

 

「歌がイコールで不死とは……ボクの知らない世界ですが、なんとなく理解できる気がします」

 

「若い内に死ぬこた怖ないんやけど、自分の音楽がすぐ忘れられるのは怖いんや。

 できれば永遠に『いい音楽』として語り継いで欲しいんや、ホンマに。

 未来永劫俺の名前とセットですげーすげーと言ってもらえるような曲作りたいんや」

 

「し、信じられないくらいでっかい承認欲求……!?」

 

 ロックンローラーの承認欲求が強くないわけないだろ。

 第一承認欲求の何が悪いんだ?

 

「俺達は皆、永遠に残る(うた)を求めてるんや。

 永遠に生きるものやなくて、永遠に残るもの。

 俺達ロックンローラーが本当に死ぬ時は、俺達の音楽が忘れられた時なんやろな」

 

 エルヴィス・プレスリーも、ジョン・レノンも、シド・ヴィシャスも、ついでにアラン・フリードも、まだ死んじゃいない。彼らはまだまだ生きてるんだ。

 誰も彼らを忘れちゃいない。

 彼らを知らなかった人が、昨日も今日も明日も新たに彼らを知って、彼らの音楽に興味を持って検索を始める。

 そして、彼らを知る人間が世界に増えていく。

 こいつのどこが死んでるんだ?

 ロックンローラーは生きてる間も伝説だが、死んだ後も伝説なのさ。

 

「結弦さんも、そういう歌と旋律を残したいんですか?」

 

「勿論。最高の一曲作って、思いっきり弾いて、全力で歌いたいんや!」

 

「……今、ようやく心底理解できました。

 あなたは確かに、ミュージシャンでもないし、アーティストでもないんですね」

 

「せやで、俺はロックンローラーやからな」

 

 俺も今、キャロルちゃんの言葉で分かった。

 キャロルちゃんは今この瞬間に、ロックを理解したんだってことを。

 彼女の魂は既にロックを理解し、ロックとそうでないものを見分けられるようになってる。

 

「俺は思うんや。

 ロックンローラーは永遠の刹那に生きたい。

 誰かの想い出の中に永遠に生きていたい。

 だから世界に革命を起こせるような、すっげえ音楽を作りたいんやって」

 

「永遠の刹那……」

 

「刹那に聞かせた音が誰かの想い出に永遠に残るなら、十代で地獄に落ちても後悔は無い」

 

 ああ、今一瞬本音が出ちまった。一瞬だけ本気の声が出ちまった。

 普段の俺の軽い雰囲気が台無しだ。

 キャロルちゃんが聞き逃してくれてねえかな?

 ……聞き逃してくれてねえみたいだ。ちょっとだけ、表情が真面目になってる。

 しゃあない、練習すっか。もう調さんが来るかもしれない時間が近い。

 

「もう一曲、練習してもええかな? 聞いてくれると嬉しいんやけど」

 

「一曲と言わず何曲でもどうぞ。もう、ボクは結弦さんの練習を止めませんよ」

 

 ロックの永遠と刹那の話を、彼女にした。

 彼女はロックを理解した。

 前にロックの説明をした時にこの話をしなかったのは、この話をしてしまえば必然的に、彼女が俺のことを理解してしまうからだ。

 だから彼女は、ロックを理解すると同時に俺のことも少しばかり理解したことだろう。

 "誰かの中に残りたい"という俺の本音を、彼女は既に理解している。

 そう思うと、俺の中の何かが変わっていく気がした。

 俺の心が揺れて、少しだけ熱くなった気がした。

 何故か変わった心境に抗うことなく、心のままに俺は弾く。

 

 彼女の中に永遠に残りたいと、そう思って弾いてみた。

 

 返ってきた彼女の反応は、これまでで一番いいものだった。

 

 それがなんだか、嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は来た。

 調さんを待つまでもない。

 秘策をいくつか抱えた俺は、キャロルちゃんを引き連れ港に移動する。

 居た。調さんと切歌さんだ。昨日襲われた船の横に居た。

 

「暇デスねえ」

 

「昨日ノイズが出て突然消えたでしょ?

 セレナは事情を把握してるみたいだけど、危険には変わりない。

 せめて私達が見張って、いざという時はすたこらサッサと逃してあげないと」

 

 あ、こっちに気付いた。

 ビビるかよ。俺が大抵のことでビビると思うなよ?

 調さんにまた曲を聴かせるのなんか怖くねえ。こいつは武者震いってんだ。

 

「……何用?」

 

「こら調! 次会ったら謝れってあれほど言ったじゃないデスか!」

 

「ええんです、切歌さん。

 調さん、俺らがイタリア出る前に、もっかい一曲聴いて貰ってもええですか?」

 

「一日で音楽の腕前が変わると思う? ロックを舐めないで」

 

「腕前は大して変わってないやろな。

 でも一日キャロルちゃんに付き合ってもらって、俺もこっから引き下がれん。

 俺にできることといえば、腕前やなくてやり方を変えることだけや」

 

「へぇ……」

 

 食いついた。

 

「ロックは独りよがりではいけない。

 かといって誰かに迎合してはいけない。

 誰の影響も受けず、自分の道を行く音楽を、他人に聞かせるのがロック。

 そういう意味では"誰かに聞かせる"練習をしたのは正解に近いと私は思う」

 

「おおきに。俺は基本独学やから、そう言ってもらえると嬉しいわ」

 

 やはり、一流。調さんは俺より明確に格上のロッカーだ。

 生半可な小細工では通用しないと、魂で理解できる。キャロルちゃんと相談した秘策をしょっぱなから披露する以外になさそうだ。

 あ、セレナさんまで来た。

 

「調、切歌、どうしたの?

 あ、キャロルちゃんに結弦さん。

 忘れるといけないから先にはいこれ、イガリマとシュルシャガナね」

 

「か、軽い! 渡すノリが軽いけどこれでええんか!?」

 

「ありがとうございます、セレナさん。結弦さん、忘れない内に組み込んでおきましょう」

 

 ええ……まあいいけど。

 

「セレナさん水持っとったらちょっと分けてくれへん?」

 

「聖遺物って、水で飲むんだ……風邪薬みたい」

 

 体内に入ればなんだっていいんだとさ。天羽々斬と合わせ、これで神剣の完成度3/7か。

 

「入った入った。さて、音の時間やな」

 

「私の言った部分はちゃんと直してきた?」

 

「言われた部分直しただけやとまた失格やろ。

 調さんは俺の欠点をいくつも見抜いてた。

 そん中で特に目につく部分を指摘しただけなんやないか?」

 

「そこは分かってたんだ」

 

「言われたとこ直しとるだけやといつまで経っても認めてもらえへん。

 第一、言いなりって時点でロックやないんや。

 だから俺は、『どう表現するか?』を考えた。

 キャロルちゃんのお陰で『誰に聞かせるか』もばっちりイメージできた」

 

「それが口だけじゃないことを、ここで証明してみせて」

 

 調さんの台詞は、期待してない奴の口調じゃない。

 気合いが入ってくるじゃねえか。

 頭ン中のスイッチを切り替える。

 集中、集中、更に集中。

 俺の頭の中の機能を、全部この一曲を奏でるためにつぎ込んでいく。

 

「ノイズ! また来た!」

 

「また不適合者の難民狙い!?」

 

 うるせーな、集中してんだよ俺は。

 

「いやノイズとかどうでもいいんで、俺の音楽聴いてくれや」

 

「何おかしなこと言ってるんデスか!?

 ロッカーだからってシャブで脳味噌シャブシャブでもしてきたんデスか!?」

 

 あーもう面倒臭え、静かになる気配無いし始めるか。

 

 

 

「ここからや。ここから始める。

 こいつが、俺の―――始まりの歌だッ!」

 

 

 

 さあ、来い!

 剣として抜こうとした昨日は失敗した!

 だが今日は、キャロルちゃんが俺の腕に似合うと言ってくれた、あの姿で来い!

 てめえが、俺の心臓代わりに、俺のロック魂と、本当に融合してるってんならな!

 

「あれは……なんデスか!?」

 

「神剣は名も形も記されぬ剣。

 それを楽器の形状に固定化……結弦さん、第一段階は成功です!

 あなたの心臓に直結したその楽器は、あなたのロック魂そのものです!」

 

 来た。

 神剣ディバインウェポンのギター形態。

 まだだ、止まらねえ! もっと変われ!

 ギターになれ、ドラムを生み出せ、ベースを生み出せ、マイクを生み出せ!

 

「一体何が始まるんデス!?」

 

 分身ッ!

 

「まさか、『ワンマンライブ』ッ!?

 一人のロックンローラーが四人に影分身しッ!

 聖遺物の力で必要数の楽器を生成しッ!

 一人四役(ワンマン)ライブをここで実行させるつもりッ!?」

 

 ああ、そうさ! 流石調さんはひと目で見抜くか!

 神剣を変化させた楽器四種! 影分身四体!

 精を煉り気と化し、気を煉り神と化し、神を煉り虚に還す、これが分身の術の上位技術!

 俺一人だけの分身ロックバンドだ!

 

「うおらあああああああああッ!!」

 

 まずは、生み出したギターを地面に叩きつけて折る! そして再構築! 新ギター生成!

 

「ロッケンロールッ!!」

 

 ノイズ接近。俺は彼女らを庇える位置に立つ。さあ、聴けよ。こいつが俺のロックンロールだ!

 俺の音を聴け、曲にぶつかれ、歌に呑まれて消えていけ!

 ……あ、マジで消えるのか。

 すげえなディバインウェポン。

 

「『昇天現象』……! ロックバンドのライブで、曲をぶつけられた観客が昇天する現象!」

「物理的にノイズが消滅・昇天してるデス! このパワー、一体どこから!」

「でも悲しいことに音楽の腕は大して上がってない! ここは練習あるのみだよ!」

 

 うるせえ! ヘタな自覚はあるからほっとけ!

 

「緒川結弦、なんでこんなに多芸な楽器の腕を!?」

 

「調さん、結弦さんはあまりいい環境でロックをしてなかったんです。

 不適合者というだけで一緒に音楽をやってくれる人は少なかったと聞きました。

 だから結弦さんは足りないドラムなどに、自分の分身を数合わせで入れていたんだそうです。

 それでも楽器演奏ほどの細かい作業は難しく、何度も失敗していたと自嘲していました。

 でも、ボクがディバインウェポンを調整しました。それを上手く実行できるように!」

 

 ああ、そうさ。サンキューキャロルちゃん。

 君のおかげで、俺は俺の意志一つで一丸となって演奏する、『俺』という名のロックバンドを構築できた!

 ロックンロールは一人で演奏するものにあらず!

 そんな常識、ぶっ壊してやるぜッ!

 

「調! つまりどういうことなんデスか!?」

 

「かの有名なビートルズのドラマーはリンゴ・スター!

 でも実際はベース弾いてるポール・マッカートニーの方がドラムは上手いとの話!

 つまり彼は、複数の楽器が弾けるマルチプレイヤー!

 日本では『マルチ奏者』と呼ばれるロックシンガーなんだ!

 もしかして、ギターの練度が高くないのはこれの影響……私が、見誤ってしまうなんて!」

 

「ギター以外は『使える』なんて恥ずかしくて言えんレベルやけどな!」

 

 さあ、もっと聴け、ノイズだけじゃなく、人間のオーディエンスももっと聴け。

 音にも一目惚れはある。

 音に惚れる人間は居る。

 音に恋する人間も居る。

 最高の音は、老若男女問わず恋させるような『いい男』で『いい女』だ。

 現実の女には目もくれず、そいつに一途に尽くして尽くして、他の人が惚れるような音楽を奏でて創る。

 今、この瞬間にも。

 この一曲を聞いている誰もが曲に惚れるような、歌に恋するような、そんな一曲を弾き上げるために、俺は全身全霊を叩き込んでいる。

 

 もっと、もっと上がれ、俺の気持ち、俺の腕、俺の魂。

 

「頑張って、結弦さん!」

 

 キャロルちゃんが声援送ってくれて、俺の気持ちも腕も魂も上がっていってハイになる。

 

「あなたの歌は、物理的に世界に平和をもたらすロックンロールです!」

 

 君の期待に応えたい。今はヘタクソでも、少しくらいは応えたい。

 だって俺は、ロックンローラーだから。

 ファンにはちょっとくらい、かっこいい奴だと思っていてもらいたい。

 

「Fooooo―――ッ!!」

 

 叫んで、息吸って、シャウト。

 

 俺の最後のシャウトが、ディバインウェポンの力が、最後のノイズを消し飛ばしてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一期一会。

 俺とキャロルちゃんは世界を救うために旅をしている。

 セレナさん達は不適合者や難民を救うため世界を回っている。

 俺達は旅の同行者じゃない。

 ちょっとした用があって、少しばかりそれぞれの道が交わっただけだ。

 少し悲しいし、ちっとは寂しいが、しょうがない。別れは来る。

 

 俺とキャロルちゃん達はイギリスへ。セレナさん達は不適合者を連れてロシアへ。

 それぞれ、別の道を行く。

 

「あなたのロック、見せてもらいました」

 

 調さんが別れ際にそんなことを言うもんだから、俺は思わず居住まいを正してしまう。

 ところが、調さんは俺に頭を下げようとしていた。

 ……俺の音楽に価値を認めて、昨日の言葉に罪悪感を覚えたのか。

 ああ、真面目な人だなこの子も。

 

「薄っぺらい言葉で、あなたを傷付ける言葉を吐いて、ごめんなさ―――」

 

 神剣(ギター)出して、ギュインと一発鳴らす。

 調さんはキョトンとして、微笑んで、どこからか取り出したベースをトゥルッと鳴らす。

 俺も笑って、調さんも笑った。

 会話終了。

 俺達なら会話はこれで十分だ。

 適合者と不適合者だって、こんなにも簡単に分かり合えるんだ。ロックっていいもんだよな?

 

「ではでは、さよならデス。

 私達お仕事の合間に『Death Killing Cut』ってバンドで活動してるんでよろしくデス」

 

「デスキリカ?(難聴)」

 

「Death Killing Cutデス!」

 

 Death Killing Cut Deathか。やっぱデスメタルじゃねーか多分!

 

「じゃあね、結弦さん。キャロルちゃんをよろしくね」

 

「えろうお世話になりました」

 

 セレナさんが、俺の耳元に口を寄せて。

 

「女の子を見る時は、視線の向きに気をつけてね? 女の子はそういうの、気付いてるんだよ」

 

 こっそり囁いた内容に、俺は心底死にたくなった。

 死にたい。

 許してくれたセレナさんが聖女すぎる。

 控え目に言って俺は死ぬべきでは?

 おっぱい一つでやらかしすぎだろ……

 

「ではまた! どっかでまた会えたらええですな!」

 

 セレナさんと、その友達二人と、お仲間沢山。

 彼らに別れを告げて、俺とキャロルちゃんは歩き出す。

 

「次はイギリスです。エテメンアンキも感づいていると思います。気を付けて行きましょう」

 

「イギリスには何があるんや?」

 

「聖遺物と、ボクの支援者の一人が居ます。……その、扱いの難しい方が」

 

「寛容なキャロルちゃんがそう言うって時点で極悪人に等しいんやない?」

 

「そ、そこまでの悪い方では……」

 

「その人の名前は?」

 

 次に会うのはどんな人か。ちょっとワクワクしてきた。

 

「イギリスの王家直属聖遺物研究チームを追い出された男……

 『汚いモードレッド』こと、ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス氏です」

 

 なにそれやべえ。

 肩書きが既に濃くね?

 どうなってんだよイギリス王家。

 

 

 




ロックは自分の個性を活かすもの
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