大学の課題と中間テストでそろそろ忙しくなりそうだけど週一更新は徹底していくから許して。
「く、うう……」
「乙音ちゃん! ……良かった、生きてる」
「あ……桜さん、ここは?」
「さあ……要塞が変化して、今は私と乙音ちゃん以外には……って、乙音ちゃん、腕大丈夫!?」
「へ? あ、はい。大丈夫……ですけど………」
((……なんで?))
空中要塞が組み変わってから小一時間ーー桜と乙音は、周囲様子がわからない、マンションの一室程度の広さの部屋へと押し込められていた。
桜は直前に乙音がディスパーに腕を折られていた事を覚えていたため、彼女の身を真っ先に案じたが、乙音はその桜の問いに、大丈夫だと返す。
それはやせ我慢などではなく、本当に腕は治っており、乙音自身も不思議に思っていた。
しかし、その疑問が解消される暇もなく、再び2人の周囲の空間が変化していく。四方系の窓もない部屋が組み換わり、目の前に扉が出現する。
「……誘ってるのかしら?」
「行くしかないですね」
警戒する桜に、迷わず一歩を踏み出す乙音。桜は乙音の行動に一瞬焦るが、彼女の顔を見て、すっと冷静になる。
(……乙音ちゃんの顔、やせ我慢とかじゃない……本当に、何も恐れてないし、痛みも感じてない)
さっきから折れた右腕をさすったりはしているのだが、疑問符は浮かんでいても、自身の状態にも、この状況にも恐れは感じていないようだ。
その事が、桜には何よりも恐ろしかった。
「乙音ちゃん……」
「どうしたんですか? 桜さん」
「…ううん、なんでもない。それより、変身しといた方がいいわよ」
「あ、そうですね」
桜の指摘に、乙音は再度変身を行い、ソングとなる。桜もこれまでにないほどの長時間の変身で流石に息苦しさを感じていたが、変身解除はしない。ここは敵の本拠地であり、その上構造を音成が自由に組み替えられるとわかっているのだから、警戒してのことだ。
「それじゃ、いくわよ」
「はい」
「…………っ、あ゛ー……お前ら、いったい何人生き残ってる?」
「……もうここにいるやつらぐらいじゃねえか?」
「だな……あー、死ぬ。もう死ぬぜ」
地上ーー空中要塞の真下から離れ、シキたちは数多のディソナンスとの死闘を繰り広げていた。
現在は廃ビルの中に潜伏し休息をとっているが、いつまた襲われるかもしれない。極限の緊張感の中、彼らがすることといえば、くだらないことを喋るだけ。
「空中要塞も動きはないか……」
「爆発音が響いてましたけど、止まっちまったな……」
「うむ……大丈夫か?」
「乙音さん舐めてると承知しねえぞ……」
足元から足音が聞こえてくる。足音はバラバラで統一感がなく、それが故に不協和音を奏でるそれの主人は、ディソナンスであるとわかった。
「さて、いきますか」
「ああ、行くか」
「いくか……生き抜くぜ、俺たちは」
「……ここは?」
「……行き止まりね」
乙音と桜がしばらく歩くと、たどり着いたのは、最初の地点のような、窓もない部屋だった。そこに2人が警戒しつつも入ると、予想通り、入ってきた扉が閉まる。
「ま、予想通りね………無駄な労力を使いたくはないんだけど」
「ん? 振動?」
乙音が微弱な揺れを感じた瞬間、ガコン! という音と共に部屋が動き、エレベーターのように降下していく。まさか地上に落とすつもりかと一瞬思考する2人だったが、すぐに降下は止まり、目の前の壁が開いていく。
「……桜さん」
「行くわよ」
エレベーターから出て、目の前の部屋の中に入る2人。すると左右の壁が開き、そこから乙音達と同じように真司、刀奈、ゼブラ、ドキ、バラクの5人が現れる。
「いったい何が……むっ、後輩!?」
「えっ先輩! 生きてたんですか、良かったあ……」
「ドキ……? いや、真司の話からすると、お前は敵ではないか」
『よう、久々だなドキ。あとゼブラ、お前も』
『ああ。だが、今はそんな話をしている場合では……』
つかの間の再開を喜ぶ暇もなく、乙音達のいる部屋の床が下がり、そのままさっきのエレベーターのように降下していく。
「……芸がないな。またこれか」
「いったい、何が起きてるんでしょう……」
またすぐに降下は止まるが、乙音達の周囲の壁が開いていき、部屋がどんどん広大になっていく。それを警戒しながら眺める乙音達だったが、部屋の拡大が終わった時、奥に転がる人物に気づき、乙音は驚く。
「ボイスちゃん!?」
「なにっ!?」
「ボイス……!」
部屋の奥の階段、そこの手前に、うつ伏せに倒れているのは、ボイスだった。その身体はピクリとも動かず、生きているのか死んでいるのかもわからない。
「ボイスちゃん!」
「待て後輩!」
思わず駆け出そうとする乙音を真司が阻止する。その視線の先には、階段の奥、暗がりから歩いてくるディスパー……音成がいた。
「天城……音成!」
「……ボイスをどうしたのよ、アンタ」
『まあ落ち着きたまえ、彼女のことなんて、どうでもいいだろう?』
その発言の直後、刀奈が一瞬で音成の背後に回り、その剣を首元に向けて振るう。
しかし、神速のその剣は、音成にあっさりと防がれてしまう。
「なにっ!?」
『うおおおおおおっ!!』
『……!』
次に駆け出したのはバラクとドキ。バラクは破壊のエネルギーを拳に集中させて音成へと跳躍し殴りかかり、ドキは天井へと跳躍。その髪束を操り伸ばして、音成へ襲いかかる。
『悪いが、君たちはおよびでない』
『!?』
『なにっ!』
「それなならこれで……」
しかし、そのバラクの拳は音成に当たる直前にエネルギーが消失。ダメージを与えることはできず、ドキの髪もその勢いを失ってしまう。
それを見た桜がファイヤーストームブレイカーを発射しようとするが、射出された直後、勢いを失って墜落してしまう。
「嘘……!」
『ふっ!』
「ぐっ!?」
『なんだと……』
音成は刀奈を裏拳で適当に転がすと、バラクを蹴りで吹き飛ばし、天井のドキは跳躍からのパンチで叩き落とす。そして桜は、転がした刀奈を投げ飛ばし、諸共に壁に激突させる。
「ぐあっ……」
『なんて野郎だ……』
「…次は僕たちが!」
「うん!」
「っ、待て!」
真司の制止を振り切り、音成へと襲いかかる2人。しかし2人が攻撃しようとすると、その身体に異常が起こる。
「ぐっ! ……っ!?」
「なに、この、感覚……!」
奇妙な吐き気に襲われた2人は膝をつき、そのまま変身を解除してしまう。解除した瞬間に吐き気は治るが、体力をだいぶ消費したのか、立ち上がることはできない。
『成る程、やはりそうか』
「……貴様」
1人立つ真司は、ゆっくりと構えを取る。それを見て小首を傾げて鼻で笑う音成は、真司に向けて手招きをして挑発する。
「……はあっ!」
走り殴りかかる真司の拳を、腕でガードする音成。しかし、真司の拳を受け止めた瞬間、音成の身体は僅かに後ろに下がる。
『なに……?』
「妙な力を持っているようだが……基本的な攻撃スペックならば、俺が一番高い!」
この場にいるライダーの中で、ディスパーを除いてもっとも総合スペックが高いのは乙音が変身するソングだ。しかし、こと攻撃力という点においては、真司のファング、それが最も秀でている。
「ふっ! であっ!」
『ちいっ……』
ファングの拳をかわしつつ反撃の機会を伺う音成だったが、真司の戦闘経験はライダー達の中でも群を抜いて高い。同期の刀奈ですら、アイドルとしての仕事もあって、真司には及ばない。
「はあっ!」
『それはいけないな!』
だが、真司がファングの足の牙を伸ばして攻撃しようとすると、音成が手をかざした瞬間、形成されていたオーラは消えてしまう。
「な!?」
『ふんっ!』
隙だらけとなった真司は、音成の蹴りをまともに食らって吹き飛んでしまう。
「真司っ!!」
「まだ大丈夫だ……しかしこの力、そのドライバーのせいか、それとも……」
『目敏いね? そうさ、こいつはDレコードライバー。そこのボイスくんもつけてるけど、僕が開発した最強のライダーシステム……ってところかな?』
「最強……?」
『そうさ。……試しに、なんでもいいからさっきみたいにしてみなよ』
音成の挑発を受けて、刀奈が高速移動で一気に詰め寄る。しかし音成に近づいた瞬間、その動きは途端に遅くなる。
「なあっ……!」
『こういうこと……さっ!』
音成の拳を喰らい、壁に吹き飛ばされる刀奈。先程と違って腹にもろに食らったその一撃は、刀奈ですら変身が解除され、腹を抱えて悶絶してしまう。
『このDレコードライバーには相手の能力を無効化する機能がついていてね。流石に変身機能までは阻害できないけど、君たちなら、これがどれほど絶望的なことかわかるだろう?』
「………………!」
『そこのボイスくんもバカだよねえ。Dレコードライバーどうしならこの能力を打ち消しあえて、スペック的にも勝機はあったのに、僕の言葉で動揺して……ま、事実だしね』
「なにを…言ってんのよ」
『このディスパーにはね、素晴らしい機能がある。それは……』
音成が、バラクとドキに向けて手を向ける。すると、2人の瞳が赤く輝き、次の瞬間、その身体に電撃を浴びたかのような痛みが走る。
『がっ、ああっ!?』
『ぐうっ……』
『
「……まさか」
真司は乙音とゼブラの方を見る。先ほど、変身解除の時、ゼブラは苦しんでいた。ディスパーの機能を使われたからだ。……では、乙音は?
『やっと飲み込めたか。そうさ、木村乙音。君はディソナンスになりかけているんだよ』
「……私、が?」
『うん。たぶん、君から生まれたゼブラくんのせいだろうね。君、絶望と、それに関する感情が欠落してるでしょ?』
「……っ!」
音成の言葉を否定したかった桜だが、思い当たるふしはあった。
「……まさか、そんな」
『事実さ。……そこのボイスくんも、Dレコードライバーを使い続ければディソナンス化するという事実には耐え切れたのに、君がディソナンスと化しかけているという事には耐えられなかったみたいだね。いやあ、美しい友情だねえ』
「きさ、ま……」
『さて、彼女も憎かろう……ディソナンスは、殺しておかないとね?』
音成が、乙音とゼブラに向かってゆっくりと歩み寄ってくる。まず狙いはゼブラなのか、彼女の方へと足を向けると、乙音が即座に殴りかかってくる。
『……あ?』
「…私が、ディソナンスとか、そういうのは知らない……でも、あなたは許しておけない!」
乙音の頬を、音成が殴りつける。鈍い音が響き、乙音が倒れる。
「後輩!」
『つまらないな……ふむ、死ね』
音成の足が、乙音の頭を踏みつける。そのままザクロを潰すように、音成は足に力を込めーー
『やらせる……かあっ!!』
【仮面ライダー……デス、ボォォォイス!!】
ーーだが、その足が地面へと着く前に、目を覚ましたボイスが、音成の身体を突き飛ばす。
『大丈夫か!? 乙音!』
「あ……ボイス、ちゃん………」
頭から血を流し、自身に微笑みかける乙音を見て、ボイスは頭が一瞬真っ白になり、そしてすぐに激昂する。
『……テメエ!!』
『ぐっ!? いいのかい? そいつはーー』
『黙れ! もう……もう、惑わされねえ!』
ボイスの拳が、音成の身体に突き刺さり、初めて彼にダメージらしいダメージが通る。続けざまに追撃を続けるボイスだったが、音成は対抗策を用意していた。
『しつこい……なっ!』
『うあっ!?』
ボイスの足元の床がせり上がり、彼女と天井を挟み潰す。突然のことに対応できず、ボイスはもろにそれを食らってしまう。
『がっ……』
『少し転がっていろ』
【カーテンコール!!】
【ライダー エンド ブレイク!!】
落ちてきたボイスを、音成は必殺技で蹴り飛ばす。まともに喰らったボイスは変身解除され、地面を転がる。
「ぐっ……あ、が………?」
『おや、まだ意識があるのかい』
「あなたは……いったい、何が目的なんですか!」
『……僕はね、ただ知りたかっただけなんだ』
「知りたかった、だけ……?」
『そうさ、自分自身の限界……どこまでやれるのか、どこまで人は進化できるのか? どこまで僕は僕自身とこの世界を愛する事ができるのか? それを知りたかった』
『まあ、結局のところ人間のままじゃ限界があることを知った。だからこそ、もっと強靭な身体を手に入れるためにレコードライバーを作り、ディソナンスを解析し、Dレコードライバーを作り上げた』
『でも、どちらも僕の望むものじゃなかった。だからその時は絶望したよ、ここで終わりかと』
『でもね、そうじゃなかった。素晴らしいアイデアが浮かんだんだ』
『全知全能の神は矛盾した存在だ。全知全能ならば自分より強大な存在は生み出せない。だけど生み出せなきゃおかしいし、生み出したその存在を倒せないのはもっとおかしい。なんたって全知全能だからね。よくフィクションとかで全知全能とかを見るけど、どんな理屈をつけても、あれは僕に言わせれば矛盾しかないダメダメな存在だ』
『でも、僕は全知全能じゃない。だから……生み出せたんだ』
音成が指を鳴らすと、彼の背後の地面が開き、そこからせり上がってくるものがある。
それは、人ひとりが入れそうなカプセル。そのカプセルの中には、真っ黒な人間のようなものがあった。
そのカプセルの蓋が開き、真っ黒なヒトガタが出てくる。その足取りは生まれたての赤ん坊のように拙く、しかし程なくしてその両足で地面に立つ。
『紹介しよう。彼が最強にして最後のディソナンス……』
『デューマンだ』
「最強の、ディソナンス……!?」
『そんなひょろっちいやつがか!?』
『ひょろっちいとは失礼な。まあ聞きたまえよ』
音成は倒れ、膝をつく乙音達を眺めながら、自身はせり上がってきた椅子に座って、悠々と語りだす。
『ここで君達にひとつ質問だ。完璧な同一人物って作れると思うかい?』
「……無理に決まっている。全く同じ人間を作るなど、あり得ない」
『正解。クローンなんて作っても、結局人は環境次第さ……でも、自分以上の存在は生み出せる。その証拠が僕さ。僕は間違いなく、僕を生んだ両親よりかは優れているからね』
「何が、言いたい!!」
『つまりは、こういうことさ』
音成がデューマンの肩に触れると、次の瞬間ーー
『………なに?』
「は?」
「なにを……」
音成の腹は、デューマンの手に貫かれていた。
『ついに閉幕だ……!』
音成の腹から手を引き抜くと、デューマンの腰にあるものが生成される。それはDレコードライバーだった。
いや、それだけではない。音成の身体が崩壊していき、それに応じてデューマンの体躯に装甲が装着されていく。
そして、その黒塗りの顔に、不気味な笑みが浮かんだ瞬間ーー
『変…………身』
【パーフェクトチューン!】
【デス エンド ソング!!】
【ディスパー!!!】
【オォォォォバァァァァァラァァァァァァイド!!】
ーーその変身は完了した。
「お前は、誰だ……?」
『私の名は、デューマン……そして、天城音成そのものでありながら、それ以上でもあるもの』
『
『私こそが……全てを超えるもの。オーバーライド……!』
その言葉とともに、デューマンがその手を乙音達に向ける。誰もが動けないなか、真っ先に動いたのはーー
「…………っ、変身!」
乙音だった。ディソナンス化しつつある身体の、驚異的な精神力と絶望を抱かない心に裏打ちされた回復力。いや再生力が彼女の身体を不幸にも、戦えるまでの状態にまで修復する。
「ああああああああああああああああああっ!!!」
『Over the Over!!』
『Rider Heart Wave!!!』
『邪魔だ』
【カーテンコール!!】
【オーバーライド!!!】
【ライダー エンド ソング!!!!】
グチャッ……
乙音の渾身の一撃をあっさりと打ち砕き、カウンターでデューマンの拳が、乙音の腹を貫く。
その生々しい音が、乙音の腹から鳴ったものだと理解するのに、見るものは数秒の時間を必要とした。
「あ……あ?」
「乙音ぇぇぇっ!!」
最近面白くない気がする。でも途中でやめることだけはしたくないなあ……