百合が見たいだけです(切実)   作:オパール

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カリオストロ……良い奴だったよ……

今回は比較的真面目にやります


始まりのセレナーデ

セレナ・カデンツァヴナ・イヴ

デビュー後、僅か数ヶ月で全米チャートを席巻した世界の歌姫、マリア・カデンツァヴナ・イヴの実妹

姉譲りの美貌と整ったスタイル、美しくも可憐な声を持ち、他人を思いやれる優しさと芯の通った強さも持ち合わせる才女

 

今は日本に移住し、家族や巡り逢った友人達と共にささやかながら幸福に満ち、充実した日々を過ごしている

 

そんな彼女は今―――

 

 

 

「スヤァ」

「寝てるし…」

 

朝もいくらか過ぎた時間、普通の安アパートの一室の住人を訪ねるも、当の家主は見事に寝落ちていた

 

「はぁ……ヒロ、ヒロ。もう10時だよー」

 

住人―――相原ヒロの住む部屋には度々足を運んでいるセレナ。ヒロの交友関係には女性が多いが、さらっとこの部屋の合鍵を持ってるのは、その中の女性陣ではセレナ一人だけだったりする。

このアパートの大家の女性を初め、他の部屋の住人達からこっそりと「通い妻」呼ばわりされていることを彼女が知らないのは果たして幸か不幸か。

当のヒロが聞いたら普通に否定することは間違いないが

 

「まったく、『日本じゃ20歳未満はお酒飲めないし』なんて言ってたクセに、一人の時は堂々と飲むんだから」

 

部屋のあちこちに無造作に置かれた空き缶の山を見て嘆息するセレナ。本人曰く「人目に付くところじゃ飲まないだけで飲めないとは一言も言ってない。青少年特有のバステだネ!」とのこと

 

だが、それでもここまでの数の酒を空けることなど滅多にない、というよりも自主的に飲むこと自体、ヒロはあまりしないのは知っている。

 

例外があるとすれば―――自棄酒、くらいだ

 

「……」

 

未だに寝息を立てているヒロの顔を覗き込む

眉間にシワが寄り、どことなくうなされているようにも見えた

 

「…永遠に秘密にしておきたいこと、か」

 

付き合ってた人がいた。だが寝取られた、とも言っていた

他人のプライバシーを詮索するつもりは無いが、それでも気になってしまう。目の前で眠るこの人が好きになった女性が、どんな人だったのか

 

「ヒロ……」

 

―――相原ヒロは、セレナ・カデンツァヴナ・イヴの王子様

 

かつて抱いた感情は、今もセレナの胸の内を甘く焦がす

救ってくれた、守ってくれた、自分の在り方を受け入れてくれた、姉や妹分達にも優しくしてくれた

 

恋、愛、憧れ

この感情をどう表現するべきか、明確な答えをセレナは持たない

 

それでもただ一つ言えることは―――どうしようもないほどに、彼女は彼に焦がれている、ということである

 

「……ん」

 

その寝顔を眺める内、珍しいことにこんなに早い時間から睡魔が襲ってきた

それにあえて抗うことなく、身体を横にすれば、目の前にはヒロの顔

 

「…こういうことするから、奏に『あざとい』とか言われるんだろうなぁ、私」

 

自分の浅ましさを自嘲しながら、眠気のままに瞳を閉じる

 

 

 

―――そして、始まりの夢を見た

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

ネフィリムという完全聖遺物がある。

「聖遺物を喰らう」という特性を持つ、米国の組織、F.I.S.の切り札とされていた代物。

シンフォギア装者の力に依らず、完全聖遺物を人の手で扱おうと試みる者達の行動もあった。

 

だが、資格無き者に与えられるほど、力も世界も甘くはなかった

 

結果、ネフィリムは暴走。

周囲を巻き込み、破壊し、灼き尽くしてなお、巨躯の怪物は止まらない。

 

多くが逃げ惑い、絶望する中であっても、それでも、立ち上がる者がいた

 

「―――姉さん。私、歌うよ」

 

セレナ・カデンツァヴナ・イヴ

戦神の銀腕を纏った姿、背後で倒れる姉と母代わりの女性に告げる

 

「セレナ……!」

 

「―――」

 

歌う

その声が奏で、紡ぐのは装者の『絶唱』

「力のベクトルの操作」という、争いを好まないセレナの心そのものを現したかのような力は、瞬く間に白い異形を呑み込み、その形を変えていく

見上げるほどの体躯は、小さな白い蛹のような形へと姿を変えた

 

同時に、その力の高すぎる代償も、セレナの身体を呑み込んだ

 

「―――ッ!!」

 

声も出せぬままに、絶唱の反動と、そのまだ年若い身体で受け止めるには大きすぎたネフィリムの力が、セレナの肉体を内側から蝕み、傷つけ、言葉に出来ない激痛となってその心をも抉る

 

意識を保てず、膝から崩れ落ちるセレナ

 

後ろから見届けることしか出来ない少女の姉を嘲笑うかのように、倒れ伏したセレナに、消えぬ炎と、崩れた瓦礫が同時に襲いかかる

 

「―――セレナァッ!!!」

 

マリアさんの慟哭が響く

 

目の前の光景に、時間が遅くなったかのような錯覚を覚えるマリアさんは動くことも出来ず、ただ居もしない神に祈るしかなかった

 

 

 

―――お願い、セレナを奪わないで!

 

―――こんなに優しい子を、私のたった一人の肉親を!

 

―――お願い、誰か、誰か!

 

―――セレナを助けてッ!!

 

 

 

世界は残酷で、人の願いや祈りを容易く踏みにじる

たった一人の妹を想う姉の懇願もまた、例外ではなかった

 

勢いを増す炎

降り注ぐ無機物の残骸

 

その全てが、セレナへと襲いかかり、小さな身体をその中へと呑み込んだ

 

「―――あ、ぁぁぁあ!!!」

 

涙が溢れる。まともに前も見えない

こうして、嘆くことしか出来ないような自分が、憎くて哀れで情けなくてたまらない

 

なぜ、なぜ、なぜ

 

「セレナ……せれなぁ……ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カデンツァヴナ姉妹愛を邪魔すんなやエヌマエリシュゥゥゥゥゥゥ!!!」

 

真面目にやると言ったな、あれは嘘だッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ」

 

そんな結末カストディアンが許しても俺は許さない!!

 

「あ、あなた、は……」

「名乗るほどのもんでもありまコフッ!」

「吐血!? ちょ、顔色すごいことに」

「大丈夫です! 気を抜けばすぐに死にそうですけど大丈夫です! あと妹さんも無事です!」

 

セレナに瓦礫が落ちる直前に割り込みが間に合って、何とか鎖で防御完了、積もりに積もったものは一気にエヌマった。おかげで比喩とかじゃなく死にそう! 乖離剣のバックファイアしゅごい!

 

原作におけるセレナの死因は絶唱の反動で動けなくなったところに火災の炎と瓦礫が行ったから

じゃあ少なくともそれを防ぎさえすれば生存確率は跳ね上がる、QED証明完了!

 

「あ、瓦礫ジャマですよネ!」

 

意識がある内に鎖を振るってマリアさんとナスターシャ教授の上の瓦礫もぶち壊す

教授に声をかけるマリアさんを横目に、意識の無いセレナを何とか背負って、落ちないようにまたまた鎖を使って身体に固定。

 

「そっちの人、背負って走れます?」

「……な、なんとか。それよりもあなた」

「じゃあ時間も無いんで行きましょ! マジに俺の意識も朦朧としてるんで!」

 

目ぇぼやけてるし耳も遠いし頭クラックラしてるあはははは、やべぇキャットみたいな笑いしか出ないあははははははは!!

 

「Go Die Go!!!」

「Dieはダメでしょ!?」

 

この後辛くも脱出した後、マジで死ぬようにぶっ倒れました

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

薄ぼんやりとした意識の中で、声をかける人がいた

 

『おう、ここで死ぬとか認めねーぞ俺は』

 

顔は見えない、というよりも目があまり見えていない

 

『あんたには生きてもらわないとネ。まだまだ見たい光景とかあるんだよ、俺にも』

 

黄金に輝く鎖と、剣のような何かを持った、私と同い年くらいの男の子

 

『……100歩譲って、俺が許したとしよう』

 

あぁ……なんて

 

『だが、こいつが許すかなッ!!』

 

まるで―――物語の王子様みたい

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「あ゛ーったまいでぇー……」

 

いかん、前世での最悪なこと思い出したからって流石に自棄酒するんじゃなかった……頭ガンガンいってる

 

「……まだ夢に見る辺り相当ひきずってるなぁ俺」

 

あれから数えて20年以上は経ってるはずなのに、それでもまだ夢に出てきやがる。早いとこ忘れてぇのになぁ

 

「はぁーあ………ん?」

 

横を見る

見知った顔がいた

ていうかセレナだった

 

「……あー、そういや合鍵持ってたっけ」

 

フロンティア事変終わって少しした辺り? だった

責任者の司令とニンジャな緒川=サンに渡した時、予備の一つをどうするか、みたいな話になった

 

『欲しい人ー』

藤尭(cv赤羽根の無駄遣い)オルァッ!!』

 

勢い良く上がった手が3つ

おずおずと上がった手が1つ

思い出したかのように上がった手が1つ

 

そこから司令の音頭で公平にじゃんけんになった

 

『最!初は!!』

『『『グー!! ジャンッケンッッッ!!!』』』

 

結果

 

握った手を高々と掲げるセレナ

心底悔しそうに頭を抱える奏さん

膝から崩れ落ちたマリアさん

普通にしょんぼりしてる響ちゃん

(自称)カッコいいチョキを突き出した姿勢のまま絶唱顔(流血無し差分)キメてた翼さん

 

実にカオスな空間を作り出して、セレナが俺の部屋の合鍵を勝ち取っていた

 

……てか、今更ながらこの五人から選べとか言われてもセレナしか選択肢無かったんですがそれは

ツヴァイウィングとマリアさんは世間体的な問題あるし、響ちゃんも学生だから男の家に入り浸るのも風紀的にアウトだし。あと未来さんいるし

 

「……んにゅ」

 

そんなことを思い返す俺の目の前で、セレナの口から寝息が漏れる。……やっぱこいつも美人だよなぁ改めて見ると

 

「……」

 

片手の指をセレナの半開きになった唇に押し当てる。

うーわ、ぷるっぷるしてる。弾力すごっ

 

「……この顔で絶唱顔キメてたらそりゃ衝撃走るわ」

 

言いながら唇に押し当てたままの指を押し込んだり擦ってみたり

 

「ん、にゃ……みゅ、ぅ」

 

むず痒そうにしてはいるけど、起きる気配は無い。

……ふむ、トドメいってみるか

 

顎の下に手を添える。親指だけは唇から離さずに

 

「んぅ、ぅ………ふぁ……ひ、ろぉ……?」

 

タイミングが良いのか悪いのか、うっすらとセレナの瞼が持ち上がった。けど、ここでやめるつもりは無い

 

 

 

「ていっ」

「んきゅっ!?」

 

 

 

顎下に添えてた手を思いっきりカチ上げる。カツンッ、という歯と歯のぶつかる小気味の良い音を立てて、セレナの口が閉じられた

 

「クハハハハッ! ざまぁ」

「いったぁ……!」

 

恨めしげな視線を送ってくるけど無視。そもそも勝手に入ってきた挙句、隣で眠りこける方が悪い

 

「おはようさん」

「……おはよう。今、何時?」

「そーネだいたいネ」

「そういうのいいから」

「アッハイ……うーわ、十時半。だいぶ寝たなぁ俺」

「……私は30分くらい、か」

 

身体を起こしてぐしぐしと目元を擦る。それだけで眠気が覚める辺り、流石だなとは思う。

 

「んで?」

「え?」

「わざわざ鍵開けてまで入ってきたってことは何か用あったんだろ?」

「ああ、うん。司令が、話があるから連絡したんだけど、携帯繋がらないから私に見てきてくれって」

「司令が? ……あー、この時間じゃ普通に寝落ちしてたなぁ」

 

携帯の着信履歴に司令からの不在着信の文字。

やべぇまずった……

 

「……オッケ、わかった」

 

すぐに電話帳から司令の番号に。これお説教待ったなしやなぁ……

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「電話じゃ何も言われなかったのが逆に怖い」

 

いつもの場所に停泊してたS.O.N.G潜水艦にセレナと二人で乗る。司令の電話では連絡ついたことの安堵の言葉と、すぐに来てくれ、とだけ言われて終わった。

 

「……お説教?」

「言っとくけどお前にも何かしらあるからな。呼びに来といて結局寝てたんだから」

「わかってるよ。……ねぇ、ヒロ」

「んー?」

 

くっ、と手を軽く握られる感覚。隣を歩くセレナを見れば、何か言いたげな眼で俺を見てた。

 

「……期待してるようなことは答えるつもりねぇぞ」

「……うん、いいよ。話さないままで。ただ……ちょっと、改めて決めたことが出来ただけだから」

「さいで。……そろそろ離せよ。もうすぐ司令室」

「ん……」

 

名残惜しそうに離れた手。こっそりため息一つして、扉を開く

 

 

 

「お疲れ様でー」

「確保ォッ!!!」

「すぅいッ!?」

 

 

 

入った瞬間手首を掴まれ、引っ張られて振り回される勢いそのままに、壁に叩き付けられる。

 

「いって(ダァンッ)ヒェッ!?」

 

壁を背にしたと思ったら間髪入れずに俺の両サイドに人の腕が押し付けられた。

壁ドン!? 俺がされる側!?

 

「……か、奏さん、に、マリアさん……」

 

俺の右側に伸びる腕は奏さんの、左側の腕はマリアさんのもの

その二人の後ろにはやや曇りがちの顔した響ちゃんとどことなくおろおろしてる翼さんの姿が

 

「あのー、皆さん? これはいったい……」

「いきなりこんなことして悪いな、ヒロ」

「けど、どうしても貴方から直接聞いておきたいことがあるの。こうでもしないと逃げられそうだし」

「……何のことか察しはつくんで、その前に一つ訊ねたいんですが、よろしいですか?」

「どうぞ」

「後ろの翼さんと響ちゃんも興味ある感じ?」

 

二人を見る。奏さんとマリアさんも肩越しに見る。

その隙に入口にいるセレナを見る。

 

(テメェ話しやがったな)

(私だけ知ってるんじゃ不公平だもの。だから私は謝らない)

(この……!)

 

以上、アイコンタクト会話

 

「……すまない、相原」

「ごめんなさいヒロさん。で、でも、気になっちゃって……私……」

「ああ、真っ赤にならないで、そういう反応一番困る」

 

顔どころか首まで赤くしそうな勢いの二人だった

 

「……はぁーあ」

 

ただ、百合が見たかっただけのはずなのに

 

ほんとに、どうしてこうなった




Q.セレナ視点の回想じゃなかったん?
A.気付いたら百合男子が割り込んでた

Q.エヌマったらぶっ倒れるはずじゃ
A.瓦礫吹き飛ばせばいいだけの低出力調整と男の子の意地

Q.セレナただのあざとい系ヒロインじゃね?
A.それな

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