三ヶ月以上空いちまったいチクショウめ申し訳ありません!!
え、バレンタインにも遅刻? 地球の年齢からすれば一時間なんて誤差だから(震え声)
2月14日
それは一年に一度の、乙女の聖戦が日本各地で勃発する、戦争の日
策を巡らせ、他者を蹴落とし、己が望む結末を掴み取る。そんな、たった24時間限定の血みどろの戦さ場
乙女達は知っている。これは戦争だと
乙女達は理解している。逃げるは恥だし役立たずだと
乙女達は、この言葉を何よりも胸に刻む
戦わなければ、生き残れない
これは、どこかで起きた、或いは、どこかで起こりうるバレンタインデーの一幕―――
◇◆◇
「くたばれバレンタイン!!!!(挨拶)」
アイサツは大事。古事記にもそう書いてある。
まぁ朝目覚めて第一声がこれというのはどうかと自分でも思う。
ただ関係無いケド、聞いてくれ。とんでもない夢を見たんだ。
まさかアダムがあんなことをやるとは思わなかった。夢だけど
カリオストロの雄声やプレラーティとサンジェルマンさんのシャウトには震えたね。夢だけど
にしても、今日は珍しくセレナが来ていない。いつもは大声出そうものなら注意しに来るハズなんだけど
「ま、いっか」
それならそれで自分の時間が作れるし、顔なり何なり洗ってメシにしよう。幸い今日は何も―――
「……2/14」
…………
……あ、もしもし、お疲れ様です。相原です。今日ってバイトの手って……あ、大丈夫? そうですか、わかりました。失礼しまーす
「……くたばれバレンタイン!!!!(2回目)」
◇◆◇
バレンタインデー、乙女の聖戦とは言ったが、それがどういう意味合いなのかは千差万別。王道を往く者もいれば、親しい友人と送りあうに留める者もいる。
そしてとある女子校にも、そんな一幕が
「ひーびき」
「んぉ? どしたの、未来?」
「はいこれ。ハッピーバレンタイン」
「おぉ!? ありがとう未来! やー、毎年悪いねぇなんだか」
「ふふっ。そう思うなら、もっと私に心配とかかけないようにしてほしいかな」
「たはは……それを言われるとなぁ……っと、今年は一味違うんだよねぇ」
「?」
「私から未来にも、ハッピーバレンタイン!」
「……え、嘘。響が?」
「その反応ひどくない!?」
立花響と小日向未来。十年来と呼んでも良い親友同士、いつもと変わらぬ言葉と態度。その睦まじさに興奮する馬鹿がいないおかげで、それはそれは穏やかなムードである。
「クスッ、冗談だよ。ありがとう響」
「まったくもぅ。未来、最近いじわるじゃない?」
「ヒロさんばっかりじゃなくて、もうちょっと構ってくれたら直るかもねー」
「うぇあぁ……!」
「……お返し、期待しててね?」
「……うん。私もちゃんとお返し用意するからね!」
「あっ、響さんいたデス!」
「やっぱり未来さんも一緒。クリス先輩、ほら」
「わかってる! わかってるから引っ張んな!」
「ほぇ?」
「ん?」
そんな響と未来へと歩み寄る三つの人影。
先輩、友人、後輩、戦友。いくつもの数奇な巡り合わせにより今の関係に至った、暁切歌、月読調、雪音クリス。
各々の手にはそれぞれを象徴する色合の小袋が
「響さん。それに未来さんも。ハッピーバレンタイン」
「デース!!」
「……ん」
三者三様に差し出されたそれ。響も未来も、嫌な顔ひとつせずに、笑顔のままに受け取った。
花も恥じらう十代の乙女が5人。微笑ましく、また愛らしいその光景、見る者が見れば、さぞや「平穏」という言葉が浮かんだだろう。
まぁそんな平穏を壊すのも、また日常の象徴なのだが
「立花さん! あたしのチョコを受け取って!」
「雪音さん、一目見た時から憧れてました!!」
「小日向さん、この後アバンチュールと洒落こまない!?」
「暁さん是非とも私の妹に!!」
「調ちゃん抱きたい(迫真)」
乙女5人が、乙女がしてはいけない顔になったのは、想像に難くない
◇◆◇
場所を変えよう。
テーブルに着くのは三人のトップレディ。
朝焼けのような緋色の長髪、やや露出多めな装いの天羽奏。そのバストは豊満である
その奏の相方にして親友、さらりと艶のある蒼い髪を靡かせるSAKIMORI、風鳴翼
その二人の向かいに座る、桃色のふわふわしたロングヘアー、ネコミミめいた頭頂部がチャームポイントなマリア・カデンツァヴナ・イヴ。バストも豊満だ
三人が囲むテーブルに置かれた、いくつも仕切りが入れられた小箱。日にちから察するに、中身はチョコ
「……ん、うまい!」
「確かに……甘すぎず、かといって苦味もほどほど。味や形も数の分だけ違いがある。見た目も華やか……流石だな、マリア」
「そう、よかった。料理はともかく、お菓子なんて初めてだったから、好評なようで何よりだわ」
「しっかし、バレンタインだからって手作りとはねぇ。本当に根っこは生娘だよなぁマリアは、あたしらの中じゃ最年長だってのに」
「フフッ、それブーメランよ奏」
「緒川さんや司令を初めのS.O.N.Gの面々、お父様とそれに……相原か。ふっ……こういう世間の催とは無縁と思っていたが、こうしてみると悪くないものだな」
「お前まだヒロ用のチョコも用意できてないだろ」
「さらりと流そうとしてるけど、彼が何を喜ぶかどうか相談に来たの貴女じゃない」
「こふっ」
涼しげな顔から一転、胸を抑えて突っ伏した翼とそれに笑い声を上げる奏とマリア。
そんな二人を恨めしげに睨むも、当の女性らはどこ吹く風。
そもそもの目的を思い返し、年長、なれど乙女な三人もまた、今日という日に想いを馳せていた
◇◆◇
「――♪」
セレナ・カデンツァヴナ・イヴはご機嫌だった。
数日前より準備していた、仲間達と共に想い人へと送るバレンタインのチョコレート。
サプライズも兼ねて、家に行くことを伝えず、一緒に皆が待つS.O.N.G.の司令部へと向かおうと胸に秘めていた。
(びっくりするだろうなぁ……喜んでくれるといいけど)
ウキウキとした気分と雰囲気を隠すことなく、当の彼の部屋の呼び鈴を鳴らす。
直後聞こえてきたのは、何やらバタバタと騒がしい音。
「……? ヒロー?」
『アイエ!? セレナ……ちょ、ちょっと待って! 今のタイミングはよろしくない!』
「……入るよー?」
『ダメ! 絶対にノゥ!』
普段は何の躊躇いも無くOKを出してくれる彼が、何やら切羽詰まった様子。
怪訝に思ったのも束の間
セレナの耳に届いたのは、明らかに発禁モノの女性の声だった
「―――明るい内から何してるのッッッ!!!」
合鍵を使って手慣れた様子で部屋へと突入
「入るなって言ったろうがァッッッ!!!」
もはや半泣きの彼―――相原ヒロの姿。
有り体に言って、半裸であった
「~~~~~!!!?」
一瞬で朱色に染まるセレナの顔。それは怒りか羞恥か、或いは予期せずしてソレを見てしまった高揚か
いずれにせよ、彼女の次の言葉は決まっていた
「―――ヒロォッ!!!」
◇◆◇
「反省しろヘンタイ!!」
「流石に庇えないから鬼は外デス!」
「福は内……!」
「痛い痛い! ちょっと、節分とっくに終わってるんですけどォ!?」
ほぼ連行という形でいつもの潜水艦にやってきたヒロ。セレナとのあれこれにより正座させて縛り付けられたまま、愛されガールと仲良しザババによる制裁を食らっていた。
彼にも言い分はあるが、古来よりこういう場では男の立場は弱いのである
「やめて! 顔が凹む! 骨格変わる! 装者の肩で人に豆まきは洒落にならないから!」
「詳しいことは知らないデスが、セレナが真っ赤になったまま塞ぎこむ辺り、とんでもねーことしたのは確かデス! もんどーむよーデス!!」
「罪は重いですよ、ヒロさん」
「しゃらくせぇ! こちとら半強制的に禁欲させられてるようなもんなんだぞ! 一人の時間に発散させて何が悪い!?」
「んなことデカい声で言うんじゃねぇこのスットコドッコイ!!」
「ア゛ー!?」
顔どころか全身に叩き付けられる炒り豆の嵐。流石に辛くなってきたのか、近場にいた同性に助けを求めた。
「男がみんな司令や緒川=サンみたいだと思うなよ!? そうですよね藤尭さん! 藤尭さんなら俺の気持ちわかりますよねぇ!?」
「……」フイッ
「おいこらそこの童貞ィィィィィ!!!」
厄介事に首は突っ込まない。藤尭朔也、大人の処世術である。
「……ヒロ」
「か、奏、さん……」
ついに助けかと思った矢先、だが南無三。
奏とその背後に立つマリアの手には、同じく大量の炒り豆が
「……あたしらも納得いかねぇ。ていうか許せねぇ」
「ヒエッ」
「私達は映像の向こうの女未満かァ!!!」
「ア゛ッー!? いぃったい目がァー!!?」
「すんませんした」
「もぅ……せっかくの場なのに」
精一杯頭を下げて謝罪するヒロと見下ろす一同。呆れた様子のマリアの声がなおキツい
「セレナも、なんだ。ごめん」
「う、ううん……」
こちらにも非があったと自覚があるのか、ぎこちないながらも返す。そんな二人を見守っていた面々。やがて、響が沈黙を破り、告げた。
「それじゃ! そろそろあれ出しましょう!」
あれ? と鸚鵡返しのヒロ。ちょっと待ってて、と告げられ待つこと1分弱、戻ってきた装者達の手には、それぞれが用意したそれが、あった。
「ハッピーバレンタインです!!」
「―――」
「初めて会って、助けてくれたあの日から、ずっとずっと、ヒロさんに感謝してます」
はにかみながら、響が
「戦さ場に於いて、並び立ってきた日々……私は、気付かぬ内に支えられていた。だから……ありがとう」
ぎこちないながらも、翼が
「初めて会った時には、正直迷惑にしか思ってなかったよ。けど……お前が身体張ってくれたから、あたしは今、ここにいるような気がしてる。ありがとな、ヒロ」
いつも通りの笑みを浮かべた、奏が
「その、なんだ……あたしだって、お前に感謝することだって、あるんだっての……いいから、受けとれ!」
照れ臭そうに、クリスが
「セレナを助けてくれた。切歌と調に優しくしてくれた。そして……私達を、誰よりも真っ先に受け入れてくれた。それだけで、本当に嬉しかった。……ありがとう、ヒロ」
聖母の名に恥じない微笑みの、マリアが
「あたし達、色々と大変なことしちゃったデス」
「でも、響さん達と一緒に、ヒロさんは私達の側に立ってくれた」
「「ありがとう、ヒロさん!」」
花咲くような満面の笑顔で切歌と調が
「何度も伝えてきた。けど、それでもまだ言い足りないんだ。姉さんや、みんなと一緒にいられるこの今は、ヒロが私にくれたものだから……ヒロ。本当に、本当に……ありがとう」
頬を染めながら、まっすぐその目を見つめるセレナが
今日まで重ね積み上げてきた日々が、その全てが、無駄ではなかったのではと
目の前に広がる、皆の笑顔を見て
かつて画面の向こうから眺めるだけだった悲劇を、防いだことは、少なくとも、間違いではなかったのではと
「……ったく」
視界が滲む。頬が熱い。それでもしっかり前を見て
「こっちこそ―――ありがとう」
その日は、ヒロにとって、忘れ得ぬ1日だった
◇◆◇
「……キャロル。ハッピーバレンタイン」
「……は?」
「えっと、今日は、大切な人に感謝を伝える日だって、ヒロさん達から聞いたんです。だから……」
「そんなことに割く時間があるなら……」
「でも!」
「ッ……」
「それでも、ボクがここにいるのは、元々、キャロルがボクを生み出してくれたから……」
「……」
「……だから、ありがとう、キャロル。ボクを……この世界と出会わせてくれて」
「……フンッ」
「わわっ。……キャロル、これは」
「借りは作らん。取っておけ。……菓子なぞ、一人で二つもいらん」
「―――キャロルッ!!」
「ガッ!? 抱き付くな阿呆が!?」
誰かが望んだそんなキセキ
誰かが求めたそんなミライ
ある種の、何かの戯れとしても、誰かがこの瞬間に感謝している
ハッピーバレンタイン、世界
パヴァリア組とか出そうかなとも思いましたがAXZ編終わってないのに出せるわけもねーだろと自己判断
・童貞こじらせた主人公の一言
「オートスコアラーにも穴はあるんだよな……」
「ゾ?」