ハイスクールD×D~円卓の銀鴉~    作:Licht10

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 読者の皆様、ありがとうございます。

 今回は、真打――ミッテルト登場!
 ギャル語ェ……。
 フリード君以上の強敵を発見しました。

 あの口調をうまく描けているかが心配です。

 それでは、7,777文字にてお送りします。



九話 堕天使

「始めましてだな、堕天使のお嬢さんたち」

 

 優雅に一礼をするラウル。

 彼は逃げることなく、対峙することを選んだのだった。

 

「クソ悪魔といた割には、案外まともじゃん」

 

「お嬢さんか……悪くないな」

 

 レイナーレに続いて結界を抜ける二人の堕天使。

 フリルをあしらったゴスロリ服を着飾る少女。

 胸前を開いたスーツを纏う女性。

 彼女たちはラウルの口上に気をよくしていた。

 

「おべっかはいいから、さっさとアーシアを渡しなさい、薄汚い人間」

 

 出端を挫かれた形になったレイナーレは、原因となったラウルに蔑みの視線を送った。

 

「酷い言われようだ。堕ちた天使は醜さだけが残ったわけか」

 

 ラウルは左反面の仮面に手を当て顔を振る。

 最近の堕天使は世辞の一句も言えないのかと。

 欲に溺れて堕ちた割には、美徳感性もなくなってしまったのかと。

 衰退した堕天使の実態を嘆いたのだった。

 

「あははは! チョーウケるんですけどー。チョット褒めただけで、人間風情が粋がっちゃって!」

 

「言ってやるな。高々、人間ごときに私たちの価値が分かるわけないだろ」

 

 ラウルの嘆きを知らない、堕天使たちは声高に笑い声を上げた。

 

「さあ、アーシア。私の下に帰ってきなさい。あなたの神器は私たちの計画に必要なのよ」

 

 目の前の存在を取るに足らないと判断したレイナーレは、ラウルを無視してアーシアに帰還を促す。

 帰還を促されたアーシアは困惑の表情を浮かべた。

 天平に乗るのは、勝ち取れるかもしれない輝かしい未来と、嫌悪する暗い過去。

 根が優しいだけに我が儘を言えない少女は、ラウルとレイナーレの狭間に視線を彷徨わせた。

 

「好きな方を選ぶといい。決めるのは貴方だ」

 

 ラウルは思い煩う少女の背を押した。

 これはアーシアの人生。

 決めるのは貴方であり、その決定を何人たりとも犯させないと。

 微笑みを讃えるラウルは悠然と物語っていた。

 背に風を受けたアーシアは意を決したようにして、レイナーレの前に立った。

 

「ごめんなさい、レイナーレ様。もう、私はあの教会には戻りません」

 

「何を言っているの、アーシア!?」

 

 アーシアの決断にレイナーレは悲鳴を上げる。

 まさか、拾ってやったのに捨てられるとは思うまい。

 固まったままのレイナーレにアーシアは別れを告げる。

 

「私を拾ってくださって、ありがとうございました」

 

 最後に頭を下げた少女。

 涙を浮かべるその姿は、実に健気であった。

 

「だ、そうだ。アーシア・アルジェントの身柄はこちらで保護することが決まったわけだ。敵地まで無駄足ご苦労様、堕天使諸君」

 

 アーシアの前に立ち、ラウルは不敵な笑みを浮かべる。

 堕天使に暗に尻尾を振り逃げろと、よく回る舌は毒を吐き出す。

 それは挑発であり、同時に警告でもあった。

 

「……へぇ、言うじゃない。なら、あなたを殺してアーシアを連れ戻すだけだわ」

 

 略奪を宣言するレイナーレ。

 挑発に乗った彼女は目を細めて剣呑な雰囲気を纏った。

 

「できるかな? 下級堕天使ごときが、幾ら群がろうとも結果は変わりはしない」

 

 レイナーレの答えを聞いたラウルはニヒルに笑う。

 悪寒を感じるほど冷たく深淵よりもなおも昏い。

 生存本能に語りかける、切れるような笑みであった。

 

「ほざいたわね、人間!!」

 

「ナマいっちゃって、身にほどを思い知らせて、ア・ゲ・ル」

 

「精々、酒の肴程度にはなれよ」

 

 挑発に挑発を重ねられた堕天使たちは、戦いの口火を切る。

 彼女たちが携えるのは、堕天してなお輝き続ける神の威光。

 光は形を為し、携える彼女たちはラウル目掛けて投擲する。

 仄暗い部屋を眩い閃光が満たし、蝋の灯火を吹き飛ばした。

 

「キャッ!?」

 

 狙われるラウルは堕天使が攻撃の動作を取ったと同時に、行動を開始していた。

 虚空より抜いた銀の短剣をスカートの内に差し、軽く一叩き。

 後ろ手でアーシアを押し倒すと、もう一方の手でケープの内より神父から奪った光の剣を抜剣。

 

 迫る三条の光を迎え撃つ。

 右正面より急所を狙う光刀を斬り落とす。

 研ぎ澄まされた一閃は堕天使の放った光を霧散させた。

 低空に這い脚を貫かんとする光槍を薙ぐ。

 横薙ぎされた光槍は目標を失い、内壁を貫いた。

 光剣を手の内で回転させ、正面より穿たんと迫る光槍を逆手にて斬り上げた。

 より力を込められていたそれは、軌道を変えられ天井を貫き、天へと疾駆した。

 

 僅か三閃にて斬り払う妙技。

 強度や出力で劣る光剣で行った偉業は、彼の技量の高さが垣間見える。

 堕天使の攻撃を易々と防いだラウルは攻勢に転じる。

 間髪入れずに堕天使たちの下へ飛び込んだのだ。

 

「まずは一羽」

 

「――――ぁ」

 

「ミッテルト!?」

 

 手始めにゴスロリ服の少女の腹部目掛け掌底を打ち込む。

 打撃の瞬間に腕から魔光が発せられる。

 練られた魔力が氣と交わり、音速の一撃に乗せ腹部へと放たれた。

 防ぐことも敵わなかったミッテルトは、芯まで伝わる衝撃に身体を折ることになる。

 打ち込まれた魔力と氣、過剰なほどの衝撃によって、息をすることも許されない。

 残されたのは、意識を手放し力の入らぬ身体を投げ出すことだけだった。

 

「余所見をする暇などないぞ」

 

「がっ!?」

 

 全身の力を失った少女を投げ捨てたラウルは、次なる獲物へ疾駆する。

 狭い部屋を駆ける常闇の狩人は、スーツ姿の女性に襲いかかる。

 強靭な脚によって支えられた身体は、鋭い踏み込みを以って跳躍する。

 暗闇に奔るは一条の白光。

 撓りあげる健脚は腰の捻りを以って、首筋を捉える強烈な撃蹴となる。

 影でさえ見失っていた女性は、為す術なく内壁を突き破ることになった。

 

「これで二羽」

 

 手を軽く叩いて衣服の裾を整える麗人。

 視線が向かうは、最後の堕天使であった。

 

「さて、これで残るのは貴方だけだ」

 

「……ありえない。たかが人間にこんなこと……」

 

 一瞬にして部下二人をやられたレイナーレは放心状態に陥る。

 ラウルの姿を認めると、覚束ない足で距離を取ろうとする。

 

「悪い夢なら覚めるといいな」

 

「――――――――」

 

 茫然とするレイナーレの背後へと回ったラウルは首元へ手刀を打ち込む。

 力無く崩れる堕天使の身体を受け止めると、ゆっくりと床に横たえた。

 

「押し倒してすまなかったな」

 

「いえ……あの、レイナーレさまたちは」

 

 堕天使たちを倒したラウルは、自身が押し倒したアーシアに手を貸す。

 辿る辿るラウルの手を掴み取ったアーシアは状況を尋ねた。

 一瞬の交錯であった以上に、灯りの消えた一室では、彼女が状況を把握することは叶わなかったのだ。

 

「大丈夫、気絶させただけだから」

 

「……よかったです」

 

「優しいなアーシアは」

 

 敵の心配までするアーシアを見て小さな笑みを漏らす。

 同時に堕天使たちに視線を向けて目を細めた。

 ラウル自身、敵と分かりきっている者に手心を加えることは稀である。

 きっと心優しき元聖女に感化されたのだろうと、おかしなことを考えながら優しく撫でた。

 

「さて、帰ろうか」

 

「はい!」

 

 彼らは堕天使を置き去りにして、凄惨な現場を後にする。

 

 後悔するときが訪れるとも知らずに――。

 

 

* * *

 

 

 魔方陣で自宅に転移したラウルたち。

 彼らの帰宅をエプロン姿の少女が蒼銀の尾を活気よく揺らして出迎える。

 

「おかえりラウ、またな……にか……」

 

 出迎えた少女はラウルの傍らにいるシスターを見て、驚愕の色を顕わにした。

 目口は開かれ、活気よく動いていた尾髪も動きを止める。

 忙しなく瞬きを繰り返し、現実を直視しようとしない。

 ラウルは停止した同居人に連れて帰ったアーシアを紹介する。

 

「ただいま。こちらアーシアさん、これから数日ここで生活することになるのでよろしく頼む」

 

「アーシア・アルジェントです。不束者ですが、どうかよろしくお願いします」

 

「……うん、こちらこそよろしくね」

 

 紹介されたアーシアは丁寧に頭を下げた。

 固まっていた少女も、笑顔を浮かべて出迎えた。

 その光景を見てラウルは、よく反射で対応できるものだと感心する。

 これも彼女の教育の賜物かな、と皮肉な笑みを浮かべながら。

 

「じゃなくて!」

 

 何事もなく彼女を招き入れれると思われたその時、少女の思考が回り始めた。

 

「犯罪はダメだよ、ラウ! こんな純粋無垢そうな娘を攫ってきちゃって!! しかも、シスターじゃん!! 天使さまに怒られちゃうよ!!」

 

 少女は声高にラウルの所業を糾弾する。

 誘拐はこの国において犯罪ですと。

 純粋そうな娘を騙くらかしたのねと。

 教会関係者なんてものを攫って、後で天使に怒られても知りませんと。

 聞くに堪えない言い分にラウルは眉をひそめた。

 

「人の話を聞いていたか?」

 

「聞いてたよ! あれでしょ、自身の性的欲求を満たすために、連れてきたんでしょ! 今回は、『天使を堕落させてやるぜぇ、ぐへへ』とか思って連れてきたんでしょ!」

 

「……私はどこの赤龍帝だ」

 

 遺憾ながらその役目は、赤き龍帝を宿した幼馴染の役目だと言い直す。

 もっとも、大事な局面で臆しそうなので、大胆なことはしないだろうが。

 

「それともなに! 新薬の人体実験をするために、被検体として攫ってきたというの!」

 

「薬の開発は専門外だ」

 

 非道徳的な研究が嫌いな彼は、厳しい目で少女を咎める。

 それに、ラウルの専門は武具や神秘の研究。

 万民受けする分野の研究は専門外であった。

 

「させないからね! こんな無垢な娘、ラウに指一本触れさせないんだから!! この娘はわたしが――」

 

「いい加減落ち着け。また、体調を崩すぞ」

 

 気持ちが高まっていく少女に、ラウルは手刀を入れた。

 ラウルとしては、少女に落ち着きを持ってほしいところであった。

 毎度の如く少女には手を焼いているのだ。

 静かにして居ろとは言わないが、自重を覚えてもらいたいのが本音であった。

 頭を押さえて蹲る少女を確認すると、顔を振って気分を入れアーシアに向き直る。

 

「愚妹が騒がしくてすまない」

 

「い、妹になったつもりなんてないんだから!」

 

 アーシアが口を開く前に、少女が起き上がって抗議を始めた。

 

「書類上は義兄妹だろ」

 

「まずそこがおかしいんじゃない! わたしの方が生まれが早いんだよ! なのに、義妹ってありえない!」

 

「保護者が私になっているからだろ、仕方ないじゃないか。それに、義弟が身元引受人では格好がつくまい」

 

 元々、少女の出生は不明であった。

 一度は教会にて作られたが、諸事情があり破棄される。

 彼女を引き取り、もう一度作り直す際に自身の兄妹として登録し直した過去があった。

 ラウルは半場騙す形で、少女の同意を勝ち得たことが、今も遺恨として残ってはいるのだが。

 

「うぅぅぅ……。ラウの意地悪! けちんぼ! 甲斐性なし!」

 

「……少なくとも甲斐性はあるのではないか? 私が養っているだろ」

 

 喚き声を上げる少女に、ラウルは不敵な笑みを浮かべて返した。

 得意顔を浮かべるその姿は、少女の琴線に触れたのだったが。

 

「うわああああん!! 絶対、分かってて言ってるんだぁぁぁぁああ!!!!」

 

 少女は泣き声を残して、家の奥に消えていく。

 その身の翻し脱兎の如く。

 流石のラウルでも止めることも敵わず、見送るしかなかった。

 少女を見送るとやれやれと肩を竦めた。

 

「色々騒がしい家だが、よければ寛いでくれ」

 

 困り顔のアーシアにラウルは優しく微笑むのだった。

 

 

* * *

 

 

「さて、落ち着いたところで、自己紹介といこうじゃないか」

 

 少女を宥め、仮面を外したラウルは席に着く。

 円形の四人掛けテーブルで向き合い顔合わせをすることに。

 テーブルの上に陶磁器のカップやポットなど、紅茶が準備されているのはご愛嬌だろう。

 

「私の名前は八幡ラウル。ラウでも、ラフィーでも、ラウルでも、好きなように呼んでくれ」

 

「よろしくお願いします、ラウルさん」

 

 手始めに家主であるラウルが名乗りを上げた。

 対面に座るアーシアはこれから数日、世話を掛けるラウルに深々と頭を下げた。

 

「次はわたしね! 八幡・F・ルチア、欧米風に言うとルチア・F・ヤハタになるかな? 気軽にルチアって呼んでね」

 

 蒼銀の少女は元気よく後に続く。

 活気溢れる姿で、ルチアと名乗った少女。

 右手を差し出し握手を求めた。

 

「お世話になります、ルチアさん」

 

 アーシアは笑顔で応じる。

 しかし、握手を返されたルチアは、不満があったのか唇を尖らせる。

 立てた左手の人差し指を横に振り不服を顕わにした。

 

「ノン、ノー! わたしのことはルチアでいいからね」

 

「え~と、ルチアさん?」

 

「そうじゃないの! わたしのことは呼び捨てでいいから」

 

「る……ルチア……さん」

 

「もう一回」

 

「……ルチア」

 

 ルチアは自身を呼び捨てにするまで何度も迫る。

 根負けしたアーシアは、声を振り絞って彼女の名前を呼んだ。

 顔を赤らめ、上目遣いで相手の顔色を何度も確認する姿は、小動物の様であった。

 その健気な姿に感化されたルチアは、勢いよく抱き着き、頬擦りを始める。

 

「はぅ!?」

 

「う~、可愛いわアーシア! お姉さんは最近こんな妹が欲しかったのです!」

 

「や、止めてください、ルチアさん!」

 

「もう、また戻ってるよ! 悪い娘にはおしおきだ~」

 

「ひゃん!? ダメですよ! そこはダメですよ、ルチアさ、ひゃぅ!?」

 

「ル・チ・ア。そう呼ばないと止めてあげないから」

 

 部屋に響き渡る艶めかしい声音。

 ルチアは過剰なスキンシップで刷り込みを始めたのだった。

 刷り込まれるアーシアは、鍛えられた四肢に捕まり最早為されるがままであった。

 その様子を外野であるラウルは目を細め、優雅に紅茶を啜っていた。

 

「これで仕込みは完璧ね!」

 

「仕込みとか言うな。たかが、名前を呼び捨てにさせただけだろ」

 

「分かってないな、ラウは」

 

 名前を覚え込ませたルチアは、ぐったりと四肢を投げ出したアーシアを解放する。

 解放された少女は上気した惚けた顔で、色に濁った碧玉の瞳を彷徨わせていた。

 

「う~、汚されちゃいました。主よ、こんな私をお許しください」

 

 椅子にもたれ掛かっていた少女は、暫くしてから正気を取り戻した。

 アーシアは身体をまさぐり服装を確認する。

 顔を羞恥により真っ赤に染めて、思い出すのは先の醜態。

 聖女であった少女は、不徳を犯したとして、応えない神に許しを乞いていた。

 

「最後はアーシアの番よ」

 

「ぐすぐす。ルチアに汚されてしまった、アーシア・アルジェントです」

 

 ルチアに促されたアーシアは、泣き真似をしながら応じた。

 元聖女の挙動は庇護欲を刺激する。

 これが、天然なのか、ルチアに感化された結果なのか、ラウルには判りかねるところだった。

 

「ふふふ、これでわたしとアーシアは友達ね」

 

「友達……ですか?」

 

 アーシアは目を見開き瞳を潤ませる。

 それは神に願いてまでも欲した存在。

 教会を追放されてなお願い続けた少女の下へ、遂に現れたのだった。

 

「そう! 日本には名前を呼び捨てで呼び合ったら、友達になれる文化があるのよ!」

 

「そ、そんな文化が……!」

 

 ルチアは素晴らしい文化を教える。

 寝耳に水を掛けられたアーシアは、口までもを広げ、驚きを顕わにする。

 叫びかねないアーシアたちを見ていたラウルは、白い目をしていた。

 少なくとも、日本での生活がルチアよりも長いラウルは、そんな話を聞いたことはない。

 小さな子に聞かせる例えなら理解できるが、それを文化と言い張るのは過大ではないか。

 無垢な娘を詭弁を使って、丸め込もうとするな、と声には出さないが、目で訴えかける。

 

「だから友達よ」

 

「ルチアと私が?」

 

「そう、わたしとアーシアは友達なの!」

 

 視線を涼しい顔をして受け流したルチアは、熱烈にアーシアに迫る。

 無垢なアーシアは、ルチアの態度に心打たれ、口元に手を当て涙を流し始めた。

 

「私、世間知らずです」

 

「今から覚えていけば問題ないのよ。ラウも一緒に連れって行って色んなことを経験しましょ」

 

 財布兼荷物持ちにされようとしているラウルの白眼は健全だった。

 

「……日本語もしゃべれません。文化も分かりませんよ?」

 

「当然じゃない。アーシアは日本にきたばかりなんでしょ? それに、そのくらいのことラウとわたしの特別講習を受ければ一発よ」

 

 白眼を維持していたラウルは、眉間に皺を寄せる。

 言語を覚えるのは簡単ではなく、準備するのはラウル自身だ。

 加えて、結社の技術を用いても、一発で全てを覚えるのは無理であった。

 

「友達と何をしゃべったらいいかも分かりません」

 

「特に考える必要はないのよ。しゃべりたいことをしゃべる。友達なんだから、遠慮はいらないのよ」

 

 ルチアの無責任な言葉に頬が引き攣る。

 親しき仲にも礼儀あり。

 日本の文化を語る割には、なぜ知ろうとしないのか、ラウルには不思議でならなかった。 

 

「……私と友達になってくれるんですか?」

 

「何を言っているの、わたしたちはもう友達よ。不安なら姉妹の契りでも結びましょうか?」

 

 ルチアは謎の誓いを持ち出す。

 何のことだと思う一方、簡単に言わないでもらいたいと、ラウルはげんなりした。

 

 現在、アーシアは堕天使側に身を寄せていることになっている。

 身元を引き取る為には、グレゴリとの接触は必須である。

 異端者扱いされた普通のシスターなら、交渉を行えば幾つか制約が付くことになるが、引き取ることも可能だろう。

 

 しかし、アーシアは貴重な回復系神器所有者なのだ。

 身を寄せて日の浅い彼女であっても、交渉は難航するだろう。

 加えて、問題はあの堕天使総督。

 神器マニアである彼が、貴重な神器持ちを手放す筈がなかった。

 

 最悪、ラウル自身がグレゴリ本部へ出向くことになるだろう。

 そうなれば、色々と面倒事が起こるのは確実なので、避けて通りたい道ではあったが。

 どうなるにしろ、アーシアの身の振り方は考えて、手を打たないとならなかった。

 迫りくる困難な未来を思い描いて、ラウルは微笑みを浮かべた。

 

「アーシアはラウの幼馴染……一誠君と知り合いなのよね?」

 

「……はい。以前困っていたところを助けて頂きました」

 

 会話に花咲かせる少女達。

 彼女たちの為に骨を折るのも悪くはないかと思うのだった。

 

「――仲直りがてら、逢引に誘ってみてはどうかしら?」

 

「あいびき? ……ですか?」

 

「そう! またの名をデート大作戦ともいうのよ!」

 

「はぅ! はぅわ!?」

 

 微笑ましい光景を尻目に、ラウルは紅茶を啜る。

 ふとティーカップに視線を落とした。

 紅の水面に映る己の姿。

 流れる銀髪を見て、記憶を呼び起こした。

 

 それは初めて友達ができた時の懐かしく忘れることのない記憶。

 

 木陰で一人、雲を見上げる少女に話しかけてきたのは茶髪の少年。

 幼稚な少年は辿る辿る言葉を紡ぐ。

 気を引こうと健気な姿を見せる少年に少女は問う。

 

 なぜ、わたしにかまうのか、と。

 

 異端であった少女は鋭い視線を向けた。

 淡蒼の瞳は少年の真意を捕らえようと離れることはない。

 少女の見幕にたじろいだ少年であったが、居住まいを直して応えた。

 

 ――――――――、―――――――――――――。

 

 最早その言葉を覚えているのは、少女だったものしか覚えていないだろう。

 幼き日の幻影。

 埋没した記憶を大切に覚えている方が異常なのだ。

 

 懐かしの記憶を掘り出したラウルは、自嘲の笑みを浮かべた。

 

「――――ねぇ! 聞いてる!? 今度、一誠君を誘ってダブルデートに行こうよ!」

 

「……ルチア、貴方はイッセーと知り合いではないだろ?」

 

「そこはラウが誘ってよ! ねぇ、アーシア」

 

「お願いします、ラウルさん。私、イッセーさんともっとお話ししたいです!」

 

「…………分かった。貴方の周辺の整理が付いたら考えよう」

 

 不確かな口約束であるにも拘らず、手を合わせて喜び合う少女たち。

 ラウルは無邪気な彼女たちに幸があらんことを願った。

 

 たとえ、我が道が深紅に彩られようとも――――――――。

 

 




 強敵ミルテット、打ち破ったり!!
 ――――ラウル君がですが。


 遂に、蒼銀の髪を持つ少女の名前が判明しました。

 ルチア・F・ヤハタ。

 戸籍はラウル君の義妹と登録されています。
 ラウル君の話術に乗せられてしまった結果です。
 年上であるはずなのに、社会からは義妹としか見られない。
 背伸びしたがりの女の子になってしまいました。
 自称お姉ちゃんです、残念。


 この回は、その自称お姉ちゃんが、フラグをバキバキと折ってしまいました。
 なにしているの貴女。
 自重してください、自重。
 自称しなくていいですから。


 そして、ラウル君とグレゴリに関係がちらちらと。
 それに加え、ルチアさんが折ってしまった代わりに、とんでもないフラグを。

 やめて! うちの家計(プロット)は火の車よ!

 今後、どうなる事やら……。


 次回はまたもや戦闘回……の予定でしたが、変更します。
 読み直すと、一誠君に駒の特性を話していないことが判明。
 これも、バイザーを飛ばした弊害なのか……。

 ちなみにバイザー、まったくでないのはあまりにもかわいそうなので、番外編にてお送りします。

 そんな訳で、次回はオカルト部からお送りしますので、どうかよろしくお願いします。
 執筆が終わり次第、更新しますので数日お待ちください。 
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