ハイスクールD×D~円卓の銀鴉~    作:Licht10

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 上下合わせて一万四千字。
 一話、五千字と言っていたのはどこにいってしまったのか……。

 十一話、十二話はラウル君の同居人、ルチアさんがメイン。
 ラウル君は登場しますが、裏方役になります。

 それでは、怖いレイナーレ様のご登場です。



十一話 尾行

 陽光照らす林地の奥深く。

 広大な敷地を誇る大屋敷が姿を現す。

 大きな正門から続くは整然と並べられた石畳。

 辺りは数多もの垣根が築かれ、多彩な薔薇が園庭を彩る。

 道沿いに家屋へ向かうと、水のアーチが目に留まる。

 水の芸術を創り出す泉は訪れる者の心を解きほぐす。

 立派な庭園を備えた屋敷は豪邸と言って差支えない程の佇まいであった。

 

 三階建ての家屋の玄関から一人の少女が勢いよく飛び出した。

 頭に被った野球帽からは、髪留めで一纏めにされた後ろ髪が躍る。

 春先にも係わらず、少女はすらりとした手足、引き締まったくびれを大胆に露出していた。

 露出した青白い肌は、病弱さに負けず陽光を浴びて一際輝いていた。

 

 活動的な少女は春先の空気に触れると、身体を震わせる。

 予想外の寒さを感じたのか、取り急ぐようにして、亜空間を開き虚空から衣服を取り出す。

 ショールを肩口からしっかりと纏い両腕で身体を抱きしめる。

 その場にしゃがみ込み、雪兎の如く身体を小さくして、ひとしきり震える。

 

 暫くして、震えが止まった少女は顔を上げた。

 足のアンクレットを一撫ですると、凛々しい顔つきをして立ち上がる。

 決意を目に宿した少女ルチアは、腕を天に掲げ高らかに宣言した。

 

「追跡ミッションスタートです!」

 

 こうして始まった、アーシアの初デートを見守ろう大作戦。

 蒼銀の尾髪を揺らす少女は、霧に包まれ姿を消したのだった。

 

 

* * *

 

 

 ラウルが家の鍵たるメダルを渡した翌日。

 一誠と小猫は、ラウルの拠点を訪れていた。

 

「鍵を渡した明くる日に来訪するとは……せっかちな奴だ」

 

 冷涼な空気が滞留する石造りの堂。

 日差しを取り込むステンドグラスは、鮮やかな造形を以って七色に輝く。

 透過光によって彩られる儀式場の中央で、彼らを迎え入れたラウルは、昨日の今日で訪れる行動の早さに嘆息した。

 

「え~と、お邪魔します?」

 

「許可を出したのは先輩です……問題ありません」

 

「覚えがないのだが……」

 

「鍵を渡しました」

 

「……そうか」

 

 ラウルは手ずから鍵を渡したので、仕方がないと割り切る。

 物珍しそうに辺りを見回す一誠には、既に許可を出していたので気にも留めはしなかった。

 

「ラウ、お客さん? わざわざ、転移門を使っているってことは、メイ? リン? それとも、黒にゃん? ここは大穴でティアとか?」

 

 部屋の扉を開けて姿を現すのは蒼銀の髪の少女。

 次々と女性の名前を上げながら、来訪者を予想していた。

 

「残念ながら、全て外れだ」

 

「へ? ええええええええ!?」

 

 部屋に入ったルチアは、転送陣の中央にいる一誠と小猫を見て、驚愕の表情を見せる。

 

「ら、ラウが知らない人呼んでるぅぅ!?」

 

 ルチアの驚きの原因はラウルが人を呼んだこと。

 この家には基本、身内しか招くことがなかったのだ。

 

「友人の一人や二人招いても不思議なかろう?」

 

「だ、だって、ここ建ててから顔見知りしか呼んでないじゃん!」

 

「勝手に来たのだがな」

 

 その身内も正確に言うと、断りもなく訪れるのだ。

 中には、結界が張ってあることを知ってなお、直接転移してくる猛者もいた。

 

「お姉さん、感動だよ! ラウって、悪戯娘なところがあるでしょ! 度が過ぎて、友達が一人もいない――痛っ!?」

 

「余計なお世話だ」

 

「もう、折角心配したあげたのに……ラウの意地悪!」

 

 ラウルは無駄口を叩くルチアに手刀を見舞う。

 手刀をもらい頭を押さえることになった少女は、非道な行いに頬を膨らませていた。

 

「ルチア、ラウルさん……置いていかないでください」

 

「アーシア!?」

 

「イッセーさん!?」

 

 開け放たれた扉から飛び出してきたのは、シスター服の少女。

 アーシアの姿を認めた途端、一誠は彼女に向けて駆けだした。

 そして、それは姿を認められたアーシアも同じこと。

 堕天使によって、引き裂かれた悪魔と元聖女は、麗人の導きの下、再び巡り合ったのだった。

 

「心配したんだぞ、アーシア!」

 

「イッセーさんこそ、無事でなによりです」

 

 二人は無事に再会できたことを手を取り喜び合った。

 

「ん~……堕ちた天使によって引き裂かれた禁断の絆。赤き龍帝は悪魔に成り果てようとも探し求め、穢れなき聖女は思いを胸に秘め待ち焦がれる。しかし、そんな二人の希望を打ち砕かんと次々と刺客が放たれる。白き猫又――非道な毒を以って、龍帝の心を脅かす。紅髪の悪魔姫――王の威光を笠に着て、龍帝を我が物にせんと欲す。銀の魔天使――御業を振るい、無慈悲な裁きを下す。赤き龍帝は立ち塞がる難敵に、九死一生を重ねようとも歩みを止めることはない。そして、幾多もの試練を乗り越えた先に、遂に二人は再開を果たしたのだった……ってところかな?」

 

「…………最早、なにも言うまい」

 

 ルチアは二人の姿を見て、英雄譚を作り上げる。

 それは勇ましい龍帝の少年と優しき聖女の物語。

 幾多もの困難を乗り越えて、二人は禁断の恋を成就させるのだった。

 好き勝手に語るルチアの行為をラウルは目を瞑り、聞き流すことにした。

 その混沌とした輪の中に入り込まず、厳しい顔をしている少女が一人いた。

 

「なに怖い顔してるのかな?」

 

「っ!? あなたは何者ですか?」

 

「ふっふっふっふ。いいでしょう! その問いに答えてあげましょう!」

 

 警戒心をむき出しにする小猫に、ルチアは両手を広げ、仰々しく名乗りを上げた。

 

「人呼んで! 薄幸美少女ルチアとは、私のことなのです!!」

 

 煌めく閃光。

 ルチアの背後で、幻術による光と音の演出が巻き起こる。

 

「すまない、愚妹が馬鹿で」

 

「……いえ、兄妹似た者同士なのは、よく分かりましたから」

 

 ルチアの行動に、ラウルは目を伏せ、小猫は冷めた視線を送る。

 一方、外野になってしまっている一誠とアーシアは、手を繋いだままお互いの顔を見て赤らめていた。

 自分たちだけの世界にの二人と悪戯な会話を繰り広げるラウルたち。

 同じ部屋にいるにも係わらず、各人の体感温度は天と地ほど違っていた。

 そんな混沌とした空気を吹き飛ばすが如く、ルチアが大声を上げた。

 

「だ・か・ら! 妹になったつもりはありません!」

 

「往生際が悪い。小猫もそう思わないか?」

 

 いつもの取り留めない会話が始まり、ラウルは肩を竦める。

 事情を知らない小猫に同意を求めようとするが、当の彼女はラウルから遠ざかるように後ずさりしていた。

 

「近づかないで下さい。変態がうつります」

 

「……小猫。貴方は大きな勘違いをしている」

 

「勘違いではありません。ラウル先輩は女装僻こそあるものの、良識ある人だと思っていたのに……軽蔑します」

 

 絶対零度の視線がラウルを射抜く。

 ルチアにも目くじらを立てられラウルは針のむしろであった。

 苦笑いを浮かべると、説得が楽な小猫の誤解を解き始めた。

 

「これとは血こそ繋がっていないが、兄妹だぞ」

 

「これって、なによ! それに、わたしの方が年上なんだからね!」

 

「妹プレイですか……姉弟揃って変態だったんですね」

 

「違うよ!? 違うからね! ラウの所為で変な誤解されちゃったじゃない!!」

 

 誤解が更なる誤解を招く。

 事態をややこしくしたルチアが八つ当たりを始める。

 

「……色々と複雑なんだ。うちの家庭はな」

 

 八つ当たりを受けたラウルは目を瞑った。

 思い浮かべるは我が家の家庭事情。

 義妹として戸籍を作り直したルチアは、いつになっても納得しない。

 しかし、ラウルとしては納得してもらわざる得なかった。

 実家に戻れば、一族の問題が待ち構えている。

 結社における所属派閥や権限や財産等の後継者の問題。

 余計な利権問題に係わらせないためにも、ルチアに長子を名乗らせるわけにはいかなかったのだ。

 そんな日の陰の争いなど知るよしもない彼女は声高に糾弾する。

 ラウルは飄々とした態度で、非難を受け流すしかなかったのだった。

 哀愁に塗れたその姿は、実に儚くあった。

 

「…………分かりました。先輩は嘘を付いても、悪い人ではありませんから」

 

「うそっ!? 白にゃんはラウの方に付いちゃうの!?」

 

 ラウルの様子に、小猫はしぶしぶながらも理解を示す。

 小猫が理解を示したことに、ルチアは失望の色を隠せないでいた。

 

「……白にゃん」

 

「そう、白にゃん! 白い猫又だから、白にゃんなのよ!」

 

 雰囲気を一転させ、ルチアは自身の付けた愛称を自慢するように熱弁を振るう。

 白い髪をした猫又の妖怪だからと。

 本人は良い出来だと思っているようだが、酷く安直な名付けであった。

 

「……先輩」

 

「ああ、こいつはこういう奴なんだ」

 

 咎めるような視線を送る小猫に、ラウルは首を振る。

 小猫の正体をしゃべったわけではなく、ルチアが出会い頭に見破ったのだった。

 

「これもある種の才能だからな」

 

 目で捉えた者の素性を見破る能力。

 ルチアの本質を見抜く才能は、類い稀なるものであった。

 実際にラウルもこの能力に助けられたこともあり、ルチアの目利きはある程度信用していた。

 また、心眼ともいえる能力は、剣士としても遺憾なく発揮される。

 相手の、場の、気を読み、先手を押さえる。

 彼女の実力を一流からさらに上へ押し上げていた。

 

「無遠慮な奴だが、よかったら仲良くしてやってくれ」

 

 ただ、持ち前の性格の所為か、憚りがないのが難点であると、ラウルは忠告した。

 

「よろしくね、白にゃん」

 

 当の本人は小猫の手を気付かぬ間に握っていた。

 屈託のない笑顔を浮かべるルチアに、小猫は僻々とするのであった。

 

 

* * *

 

 

「私は部長に話を付けてくるが、おとなしくしておけよ」

 

 小猫が訪れたのは、リアスの言伝を伝えにきたのであった。

 ラウルとしても、アーシアを引き取る工作に移るために、話を付けて置きたかったので、都合が良かったのだった。

 もっとも、食糧庫を荒らしに訪れたのではないかと、冗談を述べたラウルは小猫の拳によって、一度沈むことになったのは余談である。

 

「ラウル、俺も――」

 

「折角、遊びに来たのだ。私はいなくなるが、ゆっくりと寛いでいってくれ」

 

「ゆっくりなんかしてられねえよ。俺も話し合いに参加する」

 

 これから行われるのは、アーシアの身の振り方を決めるかも知れない話し合い。

 そのことを知って、付いて来ようとする一誠を押し留めた。

 露程も納得を示さない一誠に、ラウルは手札を切った。

 

「それに、彼女は見惚れた娘だろ。傍にいたらどうだ?」

 

「なななな、なんでラウルがそれを!!」

 

 ラウルは耳元まで寄って囁く。

 彼女の容姿や性格は、一誠の好みのど真ん中を射抜いているのではないかと。

 秘めた思いを見破られた一誠は、声をどもらせ酷く狼狽する。

 

「伊達に幼馴染をやっているわけではないのでな。貴方の好みぐらい知っていて当然だろ?」

 

「ラウル……」

 

 純情な幼馴染の反応に悪戯な微笑みを浮かべる。

 その無邪気な微笑みは、異性も同性もを虜にしてしまう魅力があった。

 ふと、ラウルは惚けた顔を見せる一誠を見て忠告する。

 

「一応言っておくが……襲うなよ。同意の上でなら構わんが」

 

「やっぱり、俺をそんな目で見ているんだな! ちくしょう!!」

 

「……帰ってきたときに、事後だったりしたら絶交します」

 

「こ、小猫ちゃんまで……」

 

 ラウルだけではなく、小猫にまで釘を差された一誠は肩を落とした。

 

「昼食は保温室の中にあるからな。夕食前には戻ってくるつもりだが、遅かったら頼むぞルチア」

 

「頼まれなくても、わたしがやるのに」

 

 何処か過保護な様子に、ルチアは苦笑いを浮かべる。

 なんだかんだ言って、ラウルは身内に甘い家主であった。

 

「アーシア、イッセーのことをよろしく頼むぞ」

 

「分かりました。ラウルさんも、お気を付けて」

 

 顔を綻ばせ、小さく手を振る少女に手を振って応えると、彼らは転移の光に呑まれていった。

 

「さてと……一誠君!」

 

「な、なんっすか?」

 

 邪魔者(ラウル)が消えた途端、ルチアは透かさず行動を開始する。

 目標は家主の幼馴染である兵藤一誠。

 彼の手を取り、茶目っ気のある瞳をして告げた。

 

「あなた、デートしてみたくない?」

 

 蒼銀の尻尾を振るう少女は、小悪魔な笑みを浮かべたのだった。

 

 

* * *

 

 

 窓の外を見て小さく息を吐く少女。

 もの思わしげな雰囲気を纏う彼女に周囲の目が集まる。

 すっと高い鼻に凛とした瞳、蒼銀の髪を揺らす少女の日本人離れした美貌は人の目を惹く。

 注目の的となっていた少女の視線の先では、一組の男女が仲睦まじく会話を楽しんでいた。

 

「初々しいわね。今度、ラウでも誘ってみようかな」

 

 一誠たちのデートに出かけた後、ルチアはそれに続くようにして尾行を始めた。

 現在は、こじゃれた喫茶店の二階。

 向かい側にある、ハンバーガーショップで昼食を取る彼らをコーヒーカップ片手に眺めていた。

 

「相席、宜しいでしょうか?」

 

「ん? 別に……げっ!?」

 

 ルチアは声の聞こえた方に目を向ける。

 そこにいたのは、二人組の黒髪の女性たち。

 ラウルと同じ制服を着ていることから、駒王学園の生徒だと言うことが窺い知れる。

 されど、問題は別にあった。

 ルチアの五感が捉えたのは、異形の気配。

 それも、尾行していた片割れと違い、明確な悪魔の気配であった。

 

「結界を張りましたので、ご安心を」

 

「ぜんぜん安心できないから!」

 

 前に立ちスレンダーな女子生徒が魔方陣を描く。

 僅かに空間が張り詰めた後、テーブルを囲むようにして外界との隔たりが出来上がる。

 結果、少女たちに集まっていた視線が、一つ残らず外された。

 その光景を見て準備が整ったと言わんばかりの女子生徒に、ルチアは席を立ちあがって抗議した。

 

「善良な一般市民を捕らえてなんの用なのよ……悪魔さん」

 

 臆することなく向かいの席に座る彼女たちに、しぶしぶ席に座った。

 席に座り直したルチアは、鋭い目をして用件を尋ねた。

 

「裏社会に精通しているような人を一般市民とは言いません」

 

「言葉の綾ってやつでしょうが!」

 

 人の揚げ足を取らんとする女子生徒。

 揚げ足を取られたルチアは声を尖らせるのだった。

 

「折角、初々しいカップルを眺めて悦に浸っていたのに……」

 

 ルチアはカップに視線を落とし、邪魔者が現れたことに嘆息した。

 なかなか、外に出る機会のない少女にとって、彼らの尾行はまたとない機会だった。

 せっかくの楽しみを潰された形になったルチアは嘆き悲しんでいたのだった。

 嘆く少女の様子を見て、対面に座る女性は眼鏡を光らせた。

 

「なるほど。善良な市民でもありませんでしたか」

 

「なんでよ!」

 

「ストーカー行為は犯罪です。人界でそのような定めがあったはずですが」

 

「なななな、何を言っているのかな? こっそり付けてたんだよ、悪魔さんに判るわけないじゃない!」

 

 ルチアは動揺の余り、口を滑らせた。

 尾行に自信があった彼女にとって、気付かれていたという事態は沽券に係わる失態であったのだ。

 

「その恰好ですね。春先なのに薄手すぎます」

 

「うっ!」

 

「尾行自体は巧妙な手口でしたが、それが仇になりましたね」

 

「ちゃんと雑踏に紛れていたのに……」

 

 原因はルチアの薄手の服装。

 日の光を目一杯浴びようとして、露出の多い服装を選んだのが失態であった。

 

「い、いつから気づいていたのよ!」

 

「不審な人物だとは思っていましたが、同業者だと気付いたのはつい先程。まさか、同じ人物を尾行しているとは思いませんでしたが」

 

「っ!? あの子たちをどうするつもりなの!?」

 

 女子生徒の言葉に、険呑な空気を纏い始める。

 剣こそ構えていないが、一足で首二つを狩れる体勢へと移っていた。

 ルチアの行動に後ろに控えていた女子生徒が対応しようと動くが、スレンダーな女子生徒は片手をあげ冷静に対処した。

 

「心配はいりません。私たちは親友の眷属を見にきただけですから」

 

「ふ~ん。シトリー家のお嬢様は、あの派手好きにお姫様のお友達なんだ」

 

 言っていることが本当ならここで争う必要はない。

 同棲しているラウルは、紅髪の悪魔と行動しているのだ。

 それでもなお、疑わしい目をしてルチアは警戒心を緩めない。

 

「……あなたも派手好きなのでは?」

 

「良いのわたしは! 真っ赤っ赤だったり、滅びの魔力なんて大袈裟なもの持っていないから」

 

 女子生徒は、腰のくびれや大股を大きく露出した格好を見咎める。

 見咎められたルチアは、露出しているのはファッションであり、紅髪の悪魔とは断固として違うと言い張った。

 

「………………そうですか」

 

 女子生徒は目を瞑り熟考した後、ルチアの言い分を埒外に追いやることにした。

 

「私やリアスを魔王の妹と知っているあなたは何者ですか?」

 

 眼鏡を指で押して気を取り直すと、先程口から零れた言葉の核心に迫る。

 ルチアが口にした、お姫様やお嬢様という言葉は魔王の妹と暗喩していることに気付いていたのだ。

 

 核心は突かれた薄幸少女は、口唇を細く鋭く三日月の如く歪ませた。

 

 

 ――貴女たちの首を狩るものよ――

 

 

 少女は虚空から一振りの業物を取り出す。

 細身の刀身に僅かに反り持つそれは、明らかに魔の力を宿した剣であった。

 同時に何処からともなく立ち込めた霧が、少女の姿を包み隠す。

 結界の内は濃霧に覆われ、一寸先も見通すことができない。

 

「っ!!??」

 

 咄嗟に女子生徒は自身の魔力を使って、霧を排除しに掛かるが、突如としてその手が止まった。

 叩きつけられる殺気。

 出所の判らない威圧感は、うねりを上げて女子生徒に襲いかかる。

 女子生徒は身体中から冷や汗を流し、恐怖のあまり息をすることすら忘れる。

 躯体を丸め震える両腕で身体を抱き、力の入らぬ足腰は膝を着いて圧力に屈した。

 恐怖に身を竦めるほどの濃い殺気をぶつけられて、止めざる負えなかったのだ。

 

 視界を遮る深い霧の中で、紅蓮の双眸が妖しく光る。

 獲物を捉えた少女は惑うことなく女子生徒へ疾駆する。

 青白い腕に携えるは鈍色の魔剣。

 振るわれる凶刃は銀閃と為りて、禁断の領域に踏み入った不届き者を討たんと欲す。

 

 

 白刃が首皮を切り裂き――――――――そして。

 

 

「ふふふ、冗談、冗談。そんな怯えなくても、からかったに決まっているじゃない」

 

 陽気な声が響くと、立ち込めていた霧が幻の如く霧散する。

 ころころと鈴の音を奏でる少女の腰には、魔剣が携えられていたが刀身は鞘に収まっていた。

 その姿を目にした女子生徒は、首筋に手を当て傷を負っていないことを確認して、安堵の余りその場にへたり込む。

 へたり込んだ主を目にしたもう一人の生徒は、駆け寄って介抱を始める。

 

「はぁ~、とんだ大失敗よ。このことが伝わったら、マリーにしごかれちゃう……」

 

 事を起こしたルチアは席に戻ると、テーブルにだらしなく身体を投げ出す。

 自身の失敗を顧みて、これから訪れかねない未来を想像して悲嘆に暮れるのだった。

 

「……交渉の席で、相手を威嚇するような行動は褒められません」

 

 女子生徒は従者の支えを得て立ち上がる。

 震える身体を押して席に着き、額に張り付いた黒髪を拭う。

 冷たい視線でルチアを捉え眉間に皺を寄せると、軽率の行動を咎めた。

 

「交渉も何も、悪魔さんたちが押しかけてきたんじゃない!」

 

「確かにその通りですが……」

 

 元々、ルチアが一人で昼食を取っていたところに、目の前の悪魔たちは押しかけてきたのだ。

 非難される謂われないと、ルチアは頬を膨らませた。

 

「それに、わたしは化かし合いより、剣を取る方が得意なの! 切った張ったで話を付ける方が、よっぽど性に合うし」

 

 腰に携える鞘を叩いて、武芸者であることを示した。

 話し合いたいならこちらで話そうと。

 

「話し合いの方が有意義です」

 

「チェンジ! 後ろの刀を隠したお姉さんと交代してください!」

 

 ルチアは交渉役の交代を要求した。

 このままでは話し合いは平行線で終わるのは目に見えていた。

 彼女にとって、剣での語り合いの方がよっぽど有意義であり、対話は不本意であるのだ。

 

「まさか、お姉さんも堅物!?」

 

「堅物と呼ばれるのは心外です」

 

 ルチアの要求を受けて、控えていた女子生徒が応じた。

 スレンダーな女子生徒の横に座る。

 彼女が答えたのは、ルチアの要求通りではなく、話し合いでの対話であったが。

 

「前門の眼鏡、後門の眼鏡ってやつね。わたし、大ピンチじゃない」

 

 ルチアは眼鏡にあまりいいイメージを持っていなかった。

 経験則から言って、堅物=眼鏡、眼鏡=天敵の方程式が成り立つ程。

 目の前にいる悪魔たちも、きっとそうなのだとルチアは断定する。

 故に、軽薄な態度をっとって天敵に抗って見せる。

 しかし、帰ってきたのは無言の圧力。

 打ちのめされたルチアは、げんなりした様子で窓の外に目を逸らした。

 

「って、あれ!? 一誠君たちは!?」

 

「私たちが話し合っている間に、離れてしまったようです」

 

「そんな……。探し出さなきゃならないじゃん」

 

 ルチアが窓の外に視線を向けると、すでにそこには追っていた二人の姿はなかった。

 知らず知らずの間に、目の前の悪魔たちと話し込んでしまっていたのだ。

 事態を理解したルチアは、深々と肩を落とした。

 

「よし……じゃあね、悪魔さんたち。また、縁があったら会いましょう」

 

 気を取り直し立ち上がったルチアは、茶目っ気のある笑顔を送る。

 次の瞬間にはその姿は霧に包まれた。

 そして、霧が晴れるとルチアの姿は跡形もなく消えていた。

 それは悪魔たちが張った結界を意ともせず、姿を消したことを意味していた。

 

「会長良かったのですか?」

 

「問題ありません。彼女が何か起こせば、彼に抗議すれば済む話です」

 

 従者の女子生徒は主に問う。

 素性不明の少女を捉えなくとも良かったのかと。

 対して、会長と呼ばれた女子生徒は構わないと答えた。

 霧に包まれ消えた少女。

 その少女が携えていた鞘の表面には、六羽の紋章が彫られたのだ。

 関係者の割り出しに成功し、交渉の席にて得るべきものはすでに得ていたのだ。

 

「まずはこの請求からですね」

 

 テーブルの上に残る伝票を見て、女子生徒は冷笑を浮かべた。

 飄々とした麗人が泡を食う未来を思い浮かべ、笑みをさらに深くしたのだった。

 

 

* * *

 

 

「イッセーさん……」

 

 店を巡り歩いた一誠たちは、街路樹の脇にある長椅子へと腰を下ろしていた。

 

「私と……私と、友達になってはいただけませんか?」

 

 アーシアは身体を寄せて、上目遣いで訊ねた。

 それは教会にいた頃から抱いていた切望。

 今でこそ、ルチアという友を得たが、この町にきて初めて親切にしてもらった一誠と友になりたい気持ちは変わらない。

 そのルチアに発破を掛けられたこともあり、迷いなく胸の内に秘めた思いをさらけ出したのだ。

 

「……いいのか、アーシア。俺は悪魔なんだぞ」

 

 訊ねられた一誠は、嬉しい表情を顕わにするが、自身が悪魔であったことを思い出して一転、険しい表情をしてアーシアへ真剣に問いかけた。

 

「構いません。今日一日、イッセーさんと一緒に遊んで、とっても楽しかったです! だから、これからも……これから何度でも、一緒に遊んでおしゃべりしたいです!!」

 

 アーシアは自身の思いを語る。

 昼時に訪れたハンバーガーショップ。

 こってりとした味付けは真新しく、パンを紙に包むなど斬新であった。

 その後、入店したゲームセンターでは、目まぐるしい音と光が出迎えた。

 レーシングゲームで遊ぶ一誠は格好よく、クレーンゲームで獲得したラッチュー君のぬいぐるみをプレゼントされた時はとても嬉しかった。

 歩き巡った店舗では、初めて目にする物が数多くあった。

 そして、立ち寄ったブティックで見入ってしまったのは、花を模したヘアピン。

 四苦八苦していた一誠に、洋服と一緒に手渡された時は、申しなく思いながらも喜んでしまった。

 何もかもが新鮮で心躍る一日だったと、アーシアは潤んだ瞳をして物語った。

 

「アーシア……」

 

 飾ることない少女の言葉に、一誠は心を打たれることになる。

 

「そうだな。俺とアーシアは友達だ! これから何度でもおしゃべりして、笑いあって……時には悲しいことも共感するんだ」

 

 一誠は、友を欲する聖女の想いに応えた。

 楽しい時も、苦しい時も思いを分かち合おうと。

 そして、笑いあって楽しい時を共に過ごしたのだから、友達であると。

 

「今日は行けなかったけど、一緒に買い物に行こう! 本だろうが花だろうが何度でも買いに行こう! な?」

 

「ふふふ、それは楽しみです! その時には、ルチアに今日のお礼も買わないといけませんね」

 

 これから訪れるであろう未来を思い浮かべて、花開くようにアーシアは顔を綻ばした。

 そのきっかけを作り出したルチアへの感謝の気持ちも忘れない。

 

「イッセーさんとルチアは知り合い……ではないんですよね。なら、私が紹介させてもらいます! ちょっと……え、エッチですけど、いい人なんですよ」

 

「ルチアさんって、エッチなのか……」

 

 ルチアがふしだらだと聞いて、一誠は如何わしい妄想を始めた。

 

 流れるように肩口で踊る錦糸。

 慎ましい乳房や秘所を覆う布切れ。

 赤みが差した玉肌は熱を帯びる。

 過激な格好をした少女は、後ろで纏めた蒼銀の髪を解く。

 艶やかに微笑むと、紅玉の瞳が怪しい光を宿した。

 漂うは胸を軽くする清涼な香り。

 細くしなやかな両腕は背中に回される。

 ぷっくりとした花唇から熱い吐息が鼻に掛かり――――――。

 

「むぅ~」

 

 だらしない顔を顕わにする一誠の様子に、アーシアが可愛らしく頬を膨らませる。

 

「俺も紹介するよ! 松田、元浜っていってな! あいつら、ちょっとスケベだけど、すっげぇイイ奴らなんだぜ? 絶対にアーシアの友達になってくれるよ!」

 

 妄想から戻ってきた一誠は、アーシアの姿を見て我に返った。

 手の届かない少女と遊んでいる場合ではなかったと。

 失態を隠すように矢継早で友を紹介することを約束する。

 

「それでな、ラウルも一緒に……って、ラウルも紹介した方がいいよな」

 

「え~と、お世話になっているのですが……」

 

「友達じゃないだろ」

 

 相変わらずな幼馴染を思い浮かべて、一誠は苦笑いを隠せなかった。

 

「ああ見えて、アイツ意外と奥手なんだよ。妙なところで壁を作るからな。わざわざこっちから手を出さないといけないんだぞ。ホント手の掛かる奴なんだぜ」

 

 今でこそ社交的ではあるが、昔は頑なな内面が強く出ていた為に酷かった。

 自ら人の輪に入ろうとせずに、仏頂面でこちらを眺めるばかり。

 放っておけば、木陰で寂しそうな目をして、流れる雲を見上げる始末。

 二年、三年経つに連れ、かなり真面になってきたが、幼馴染の一誠たち以外からは、やはり距離を取りたがる。

 再開した時に、随分と愛想の良い性格になっていたのには、その相まった美貌のこともあり別人と見間違えたほどだ。

 小難しいことを考えて、友を自ら作らない姿を見た時には、安堵を漏らしたほどだった。

 

「意外です、ラウルさんは何でも、てきぱきと出来る人だって思ってましたから」

 

「だろ、あれでなかなか可愛いところがあるんだぜ。でも、気を付けろよ、アーシア」

 

「何をでしょうか?」

 

「あんななりして、男だからな」

 

 一誠の告げたことを理解できなかったアーシアは、丸い目をしたまま何度も瞬きをする。

 ゆっくりとゆっくりと、一誠の言葉をかみ砕いていった少女の顔が、真実に辿り着いた瞬間、驚愕に彩られた。

 

「ふぇぇええええええ!!??」

 

 辺り一帯に響き渡る驚嘆の声。

 告げられた真実を理解したアーシアは、飛び上がり身体全体を使って驚きを顕わにする。

 

「ら、ラウルさん、男の方だったんですか!?」

 

「俗に言う、男の娘って奴だ」

 

「お、男の娘ですか……」

 

 ラウルが男だとしたアーシアは動転して、己を見放した神に祈りを捧げ始める。

 世界には不思議がいっぱいですと。

 女の子みたいな男の子を男の娘と呼ぶようですと。

 主よ、残酷な仕打ちはなさらないで下さいと。

 未知に触れたことを報告し、ラウルが男として生まれてしまったことを嘆いた。

 何度も何度も、直面した真理が認められず祈りを捧げる。

 祈りを捧げ終わった後、辺りに漂ったのは居た堪れない空気。

 アーシアは取り乱したことを恥じ、一誠はバツの悪い顔をしていた。

 

「そ、そうだ! あの……イッセーさん……イッセーさんのこと、一誠って呼んでもいいですか?」

 

「ぶっ!? あ、アーシア……いま、なんて?」

 

「一誠って呼んでは、ダメですか?」

 

 大切なことを思い出したアーシアは、思い切って訊ねた。

 その表情は真剣であり、冗談など一欠片も含まれていなかった。

 

「い、いや、ダメじゃないさ……でも、いきなり呼び捨ては、なんと言うか、恥ずかしいと言うか……そいやあ、俺、部長には呼ばれてんだよな……それもなんと言うか、子弟を見るみたいに……」

 

 異性に慣れていない一誠はしどろもどろになる。

 現在、一誠を呼び捨てにする異性は母とリアスのみ。

 それも異性と見られているのではなく、親愛の情を以って接せられる。

 母性一杯な彼女たちでも呼ぶのも愛称であり、名前を呼び捨てにするような異性などいなかったのだ。

 

「アーシアはいきなりなんで呼び捨てに?」

 

「ルチアが名前を呼び捨てで、呼び合ったら友達だって……」

 

 アーシアは涙目で伝える。

 それは初めて友達ができた夜のこと。

 初めての友達子とルチアが、自信満々で言い放った。

 名前を呼び合うことこそ、友達の第一歩であると。

 舞い上がっていた少女は、隣でげんなりしていたラウルには気付くことはない。

 無垢な聖女は勘違い娘の牙に掛かってしまったのだ。

 

「そ、それは同性同士での話じゃないのかな? 異性で呼び合うのには、もっと特別な意味があるんだよ」

 

 そんな事情をまったく知るよしもない一誠は、問題を先送りしようと動き始めた。

 

「例えば、好きあってる恋人同士とか、な」

 

「はわわ!? そ、そんな風習があったのですか!」

 

 一誠は頬を掻きながら、己が思いつく一番の例えを上げる。

 

「だからな、アーシア。お互いの事を深く知ってから、呼んでくれるようになると嬉しいかな」

 

「わ、分かりました、イッセーさん」

 

 アーシアは一誠の示した妥協点に同意した。

 その姿を見て、一誠は安堵した。

 示したのは本心であり、紛れもない心内であった。

 いずれは、目の前の少女と望むような仲になれたらと。

 ただし、行き成りという事態は、初心な一高校生には敷居が高かったのだ。

 

「これから、末永くよろしくな」

 

「はい!」

 

 一誠は友情の証に握手を求める。

 応えるように、アーシアもまた手を伸ばした。

 

「え?」

 

 されど、アーシアがその手を取ることはできなかった。

 一誠から贈られたワンピースに鮮血が飛び散る。

 目の前の少年が苦悶の表情を向けて倒れてきたのだ

 

「穢わらしい悪魔から離れなさい、アーシア」

 

「がふっ!?」

 

「イッセーさん!?」

 

 胸間から生える光の槍。

 光槍に犯された一誠は、夥しい量の血を吐き出す。

 悲鳴を上げるアーシアは、迷うことなく一誠に近づき治療を始めた。

 

「聞こえなかったの?」

 

「……いやです、レイナーレさま……」

 

 天より降り立った堕天使に、アーシアは涙を浮かべて首を振る。

 少女にとって数少ない友達であり、見捨てると言う選択肢は最初からありはしなかったのだ。

 

「……やっぱり……夕麻ちゃんは……堕天使だったのか……」

 

「黙りなさい下級悪魔! あなたのような下賤な存在と話している暇はないの!」

 

 激痛に蝕まれる一誠は、半眼を開けて堕天使の姿を捉える。

 堕天使の正体は天野夕麻。

 一誠の初めての彼女にして、レイナーレという名を持つ堕天使であった。

 

「さあ、帰るわよ、アーシア。わがままを言うようなら、そこの下級悪魔を消滅させてあげるわ」

 

「止めてください!? イッセーさんは関係ありません!!」

 

「関係あるわよ、あなたを連れ去った……人間の仲間なのよ」

 

 ラウルの関係者。

 上司からの命令故でもなく、悪魔故でもない。

 レイナーレが一誠に危害を加えようとする理由は、その一点のみに尽きた。

 

「そうね……あなた、アーシアを連れ去った人間のことを教えなさい。ちゃんと話したら、アーシアともども逃がしてあげてもいいわ」

 

「っ!? だれが、ラウルのことを話すかよ……」

 

 レイナーレの厚かましい行為に一誠は噛み付いた。

 一誠にとってラウルは、かけがえのない友であり、命を救ってくれた恩人だ。

 そんな存在を命惜しさに売ることなどできなかった。

 

「うふふふふふ、アハハハハハハハ!!!!」

 

 突然、レイナーレは狂ったように笑い声を上げる。

 

「い、一体なんだっていうんだよ!」

 

「ラウル……ラウルっていうのね、あの人間!」

 

 瞳は狂気に彩られ、憎悪の余り端正な顔は醜く歪んでいた。

 

「下級悪魔に分かるかしら、この屈辱が。地を這い蹲るしか能のない下等生物が、至高の堕天使たるこの私を地に塗れさせたのよ!! そのくせ、顔も思い出せないときたじゃない……ふざけないで!! 私に恥をかかせたこと、泣きわめいてもなお、後悔させてみせるわ!」

 

 ラウルによってもたらされた敗北。

 完膚なきまで叩きのめされ、自身の宿願の為に確保したアーシアまで奪われる始末。

 それは自意識の強いレイナーレにとって堪え難いものであった。

 相手は見下していた人間でもあり、感情はなお一層のこと暴走を始める。

 堪え難い屈辱は、恨みと為り深い憎しみに変わる。

 肥大する憎しみは理性の檻を壊して、渦巻く狂気へと変貌した。

 その狂気はラウルの名を以って忘却の鍵を外し、レイナーレに更なる動機を与える。

 

「そう、そうよ……思い出したわ、あの憎たらしい顔。ふふふ、あの澄ました顔を苦痛で歪ませてやるの……アハ、想像しただけで、ゾクゾクしてきちゃった。爪を一枚一枚剥いだら……ああ、どんな声で啼いてくれるのかしら? 身の毛もよだつ恥辱に塗れたなら、あの瞳はどう染まるのかしら? アハハハハハハ!!!!」

 

「れ、レイナーレさま……」

 

「ラウルの奴、とんでもないのに目を付けられたようだぜ」

 

 レイナーレの変貌に一誠たちは怖気づく。

 高貴な姿しか知らなかった故に、狂気に堕ちた姿は一層のこと畏怖の念を起こさせた。

 

「うふふふ……ああ、いいことを思いついたわ」

 

 恍惚の笑みを浮かべるレイナーレは、ひとしきり笑い声をあげると、目の前の下級悪魔を見据えた。

 

「あなた、あの人間の知り合いなのよね」

 

「……それがどうした?」

 

 一誠の答えを聞いたレイナーレは艶やかに微笑んだ。

 

「決めたわ、一誠君。あなたも私と一緒にきてくれない?」

 

 一転して、レイナーレは優しい表情を作る。

 心地いい声音を響かせ、一誠を誘惑し始めた。

 

「っ!? 誰がお前なんかについていくかよ」

 

 夕闇の公園を想起した一誠は反射的に拒否を示す。

 天野夕麻は初めての彼女にして、自身を殺した敵なのだ。

 ラウルのことに関係なく、着いていく気など微塵も起きなかった。

 

「そう……なら仕方ないわね」

 

 拒否を示されたレイナーレは深く息を吐く。

 彼女にとって一誠など価値の見いだせない存在。

 精々、ラウルを引き寄せるエサ程度でしかなったのだ。

 故にレイナーレは両手に神の威光を集め、用事を果たすべく動き出した。

 

「四肢を捥いででも連れ去ってあげるわ!」

 

「イッセーさん!?」

 

 レイナーレは両手の槍を投擲する。

 放たれた二筋の光の刃が、一誠の四肢に向けて殺到した。

 

「それは無理よ」

 

 一誠とレイナーレの間に漆黒の人影が割り込む。

 振るうは鈍色の魔剣。

 魔力を纏った刀身は神の威光を振り払う。

 流れる身のこなしで、飛翔する光槍を一閃にて叩き折ったのだった。

 突如として現れた乱入者にレイナーレは顔を歪めた。

 その堕天使を見据えた乱入者は、剣を掲げて高らかに名乗りを上げた。

 

円卓の黒騎士(ラウンド・オブ・マーセナリー)が騎士、マスター・ルチア! 友の危機を悟って、ただいま参上!」

 

 蒼銀の髪を揺らす少女は颯爽と、一誠たちの危機に登場したのだった。

 

 




 宣言通り、怖いレイナーレ様の登場になったでしょうか?

 怖さが足りないという方。
 ベクトルが違うと言う方。

 期待に応え切れずに申し訳ない。
 これ以上やると私の構想から外れてしまいそうなのでご容赦を。


 ちなみにルチアが最後にさらっと、結社の名前を言ってしまいました。

 円卓の黒騎士(ラウンド・オブ・マーセナリー)

 円卓ゆえにラウンド。
 黒騎士ゆえにマーセナリー。
 黒騎士は仕える主のいない騎士――傭兵と名を打たせて頂きました。

 酷く安直な名前ですが、その方が組織としても分かり易いかもしれません。
 こちらが表でよく知れ渡っている方の結社になります。

 もう一つの結社は隠喩表現を用いているので、分かりにくい名前と為ります。
 分かり難い故に、一部のもの以外概要も知らないような組織です。


 次回は戦闘回。
 一誠君の活躍はあるのか!?
 ルチアさんの実力のほどは!?
 そして、レイナーレ様の狂気はどこに向かう!?

 ヒロインであるアーシアちゃんそっち除けでお送りします。
 (嘘です! ちゃんと、アーシアちゃんは登場します)

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