「これはこれは、ラウル卿ではありませんか」
閉ざされた暗室の中。
光溢れる魔方陣より壮年の男性が現れる。
タキシードを身に纏い、シルクハットを被りて頭を覆い隠す風貌。
立体映像として現れた紳士風の男は、銀髪の麗人を前にして深々と頭を下げた。
「先日、私どもが用意させて頂いた情報は、ご期待に添えましたかな?」
「……ああ、大変役に立ったな」
「それはそれは。骨を折った甲斐が御座いまして、至極恐悦に御座います」
白々しい笑顔を浮かべる男に、ラウルは鋭い視線を投げ掛ける。
低姿勢ながら、尊大な態度を感じさせる言葉に、目くじらを立てたのではなかった。
初めて見合わせたその日から、男の厚かましい態度は変わることがないのだから。
「されど、二度目はどうかご容赦を。我らが提督殿に、あなた様との繋がりを嗅ぎ付けられることになりかねませんので」
男はラウルに忠告を送る。
リアスを納得させるために、ラウルが依頼した血判状。
顧客が末端の堕天使に被害を被ったとして、男は発行させたのだ。
そう、何度も使える手ではなかった。
二度目になれば、必ず堕天使提督は疑いに掛かる。
そのような事態に陥れば、ラウルは気嫌っているあの総督と顔を合わす羽目になると。
「して、本日はどのようなご用件に御座いますか?」
忠告を送った男は、笑顔を貼り付けたまま、通信を繋げたラウルに問う。
「先日の一件……いや、なんでもない。頼んでおいた情報封鎖はどうなった?」
教会に訪れた件について口を開いたラウルは、顔を振ってその考えを封じ込める。
目の前に映る食えぬ男は、決して答えることはないだろう。
男の行動は思惑ゆえか、依頼ゆえか。
どちらにしろ問いたところで、徒労に終わる事は火を見るよりも明らかであった。
「万全を期しております。万が一にも、こちら側から洩れることは御座いません」
加えて、ラウルは別の依頼を任せていたために、強くは出れなかった。
男に依頼したのは、赤龍帝に関するの情報の工作。
出自や住所などの個人情報は当然のこと、リアスの眷属が駒八つにて転生したことなどの周辺情報までの偽装工作まで頼んである。
それが功を奏して、堕天使側では今代の赤龍帝の死が広まっている。
工作が上手くいっている以上、探りを入れて男の機嫌を損ねるわけにはいかなかったのだ。
「されど、あのお嬢様が隠し通しますかな? 悪魔とは絵に描いたが如き高慢な輩。あなた様のお気持ちも汲むことなく、見せびらかせてしまうでしょう」
ラウルもリアスから情報が漏れることを危惧していた。
あの高飛車なお嬢様が、折角手に入れた眷属の赤龍帝を自慢しないわけがない。
適正年齢の関係で、レイティングゲームにこそ出場することはないが、情報の拡散は免れないだろう。
しかし、彼女の兄が魔王であることに、一縷の望みも残っていた。
良識がある人物ならば、事の重大性を知る故に、ある程度は留めてくれるのではないかと。
「貴方から伝わらないだけでも、随分とマシなものだ」
「左様に御座いますか。褒め言葉として受け取っておきましょう」
例え、魔王が情報を留めても、笑みを張り付けたこの男が広めては意味がない。
男は知る人ぞ知る情報屋。
諜報の腕はどの勢力をも、舌を巻かせるほどであった。
「それになされても、あれだけの大金を投げ打つとは……流石、我らが
口端を釣り上げる男の言葉にラウルは眉を曇らせた。
「……よせ、その言葉は私ではなくロデリク辺りに投げ掛けるべきではないか?」
「ご謙遜を。私としては、眼が眩むほどの秘宝を御生みになられる、あなた様が羨ましい限りに御座います」
ラウルは所謂、次世代を担う魔術師。
富も栄光も結社最大派閥を率いる導師には届かない。
しかし、男の言う通り油断ならないのも確かだ。
僅か十六で組織の一角を担い、創生する真贋の剣は伝説に劣ることもない。
鬼才という言葉は彼の為にあると囁かれるほどであった。
「ただ……ロデリク卿に千金をちらつかされてしまっては、口が滑るやもしれませんね」
笑みを納めて真顔に戻った男は手札をちらつかせる。
未だ財力の余裕のあることを知っているために容赦することはない。
血肉の一滴まで啜ろうとする姿は、まさに商人の鏡であった。
「……一ヶ月だ。せめてその間は持たせてくれ」
脅迫じみた交渉を仕掛けられたラウルは苦渋の決断を下す。
競合相手は稀代の資産家。
幾ら金銭を積もうとも、決して上回ることはできない。
それならば、ラウルも男も利を得れる妥協点を見つけるしかなかったのであった。
「随分と弱気の発言に御座いますね。……宜しいでしょう、私とあなた様のお仲に御座います。
「ああ、頼んだ」
「承知致しました」
弱みを握られているの等しいラウルは、男の不穏な物言いに口を出すことはなかった。
「僭越ながら、このリーク・ハワード。あなた様の宿望が叶わむことを……我らが神にお祈りさせて頂きます」
ラウルは黙して男の行動に目を瞑った
堕天使である男が十字を切るのは滑稽としか言いようがない。
ただ、願うのがラウルの宿願の成就なのであるのだから、笑うに笑えない冗談であった。
「それでは、またのご利用を心よりお待ちにしております」
深い笑みを浮かべて綺麗に礼を取ったリークは、光で構成された現身を消して去ったのであった。
「イッセー……私は…………」
光が消えた暗闇の静寂で、ラウルを深く息を吐いた。
これから訪れるのは過酷な未来。
混沌の渦が世を乱し、赤と白の運命が立ち塞がろうとも――――。
銀翼の魔導師は決意を新たに歩みは出すのだった。
読者の皆様のおかげで、一章完結致しました。
ご閲覧ありがとうございます。
最後は意味深なエピローグとなってしまいました。
加えて、初出の用語が幾つか出ることに……。
リーク君のあざとさを出すためには仕方がなかったのです。
投稿前に見直してみたのですが、プロローグに比べてスッキリしてませんでした。
背景や心理の描写が増えたのが原因。
頭を入れ替えるのが難しいですが、精進していきたいと思います。
ちなみに、私の予定では一話五千字の十二話構成でした。
それが、書き始めてみると倍の文量となってしまいました。
圧倒的に文字数をオーバーすると言う以前の癖が直っていません。
誰か助けて~。
こほんっ。
エピローグの後、番外編を二話投稿する予定でしたが後回しにします。
出来次第投稿しますのでご容赦を。
(早くエクスカリバー編に突入したいと言うのが本音です)
そんな裏積りを抱えながら、次章突入!
この段階で登場してもいいのかという、原作キャラが二人ほど出てしまいますが、そこはラウル君使用。
原作に準じたまま、ブレイクしていきます!
次章――――戦闘校舎のセブンスミスト。
乞うご期待ください。