プロローグ
静かに深まる小夜のこと。
飽和する紫光が深海の青と為りて仄かに包む。
華やかな香に満ちた一室で、黒光に照らす出された細い影が身じろきを繰り返していた。
まるで神が手ずから創ったような無駄のない輪郭。
天蓋に隠された柔らかな寝台に銀の絹糸が扇情に広がる。
浅く吐息を繰り返すその姿は、安らぎの時を過ごす女神のようであった。
月の女神こと、濡れ羽色のランジェリーに身を包む女装の麗人は、思考の海から脱してゆっくりと瞼を開いた。
「グレイフィア・ルキフグス……か。随分と大物が出てきたようだ」
ラウルは夕焼けに染められた銀髪を思い出して目を細める。
亡き魔王ルシファーの血を継ぐ、分家ルキフグス家の遺児。
最強の女性悪魔とも言われ、『
最近は鳴りを潜めているらしいが、かつては冥界の内戦に於いて、御神輿に祀り上げられたこともある。
四大魔王の直系である、旧魔王たちを退けての選出だけにその非凡さが窺える。
「お家騒動だろうな。巻き込まれなければいいが……」
そして、彼女はリアスの兄にして現魔王のサーゼクス・ルシファーの妻でもあったのだ。
魔王の妻という重役に就いている彼女が、用もなく人界に上がり従妹の様子を見にきたなどということはない。
おそらく、グレモリー家が抱えている継承者の問題。
長寿の悪魔たちがなにを騒いでいるのかと、ラウルにとって眉唾ものであるが、純潔に拘る上級悪魔たちにはそうもいかない事情があるのだろう。
身近で起こる騒動に一抹の不安を抱くのであった。
「誰だ、こんな時間に?」
自室に僅かな揺らぎを感じたラウルは身体を起こす。
肌に伝わる魔の波動。
視線の先で魔方陣が浮かび上がり、深い青色に包まれていた部屋に銀の光が満ちた。
光の満ちる中、ラウルは術式を織る。
眼球を覆うように展開されたのは銀の魔方陣。
視界を保護と同時に結界を抜けてきた転移の術式の解析に入る。
見覚えのある術式に首を捻ることになる。
解析が進むにつれて険しくなる彼の顔は、最悪の結果に剣呑さを帯びることになる。
「何をしに来た、グレモリー?」
解析を終えたラウルは、結界を抜けてきた紅の悪魔に鋭い視線を投げ掛けた。
「――っ!? 部長と呼んでくれないの?」
突き放すようなラウルの態度に、陰を落とす悪魔の少女。
転移してきたのは、渦中の最中にいると思われたリアス・グレモリー、その人であった。
「いいわ、今は許したあげる」
口を一文字に結ぶと、リアスは憑いた陰を振り払う。
決意を宿した瞳で見据える彼女は、いつもの気丈な振る舞いを取り戻した。
「許すもなにも、貴方は不法侵入なの――」
「ラウル――」
哀情と不安に揺れる碧。
悲哀の決意を宿した瞳がラウルに言葉を紡がせない。
いつにも増して強引な彼女の振る舞いに、ラウルの脳髄は警鐘を鳴らした。
「――私を抱きなさい」
鮮血色の髪を掻き上げた紅の姫は、碧玉を潤ませて迫りくる。
寝室へ押し入った痴女に、ラウルは頬を引き攣らせることになる。
「私の処女をもらってちょうだい、至急頼むわ」
紅糸の紡ぎし運命は、銀の麗人を継承者問題へと巻き込むのであった。
三日連続の投稿になりました!
残念ながら、その内二話は短い序幕と終章ですが……。
序幕でリアスが一誠君の下ではなく、ラウル君の下を訪れた理由は後に明らかとなります。
二章の中盤あたりでしょうか。
皆さんに納得して頂けるよう頑張ります。
また、二章の題名は先日の通り、戦闘校舎のセブンスミストで行きたいと思います。
フェニックスはどこにいったと思われる方。
私的に語呂が良さそうな組み合わせができなかったので省いてしまいました。
されど、フェニックスは出ますのでご容赦を。
番外編については、こつこつと執筆中。
一つはルチアさんを主人公にしたバイザー編。
もう一つは、グレモリー眷属のラウル邸訪問です。
前者は物語に影響が出ないので後回しにします。
後者の場合は、多少影響が出てしまうので、早めに書き上げたいと思います。
次話はオリキャラ、原作キャラの登場回。
主人公勢の半数近くが揃います。