日々のご愛読ありがとうございます。
今回はタイトル通り、日常パートです。
タイトルがなかなか思いつかないと言うジレンマ。
何気ない一幕では、これが一番の強敵かも知れません。
前回の下火が燻っている翌日の朝。
故に、後半注意です。
頭に響く鈍痛に端正な眉を顰める女装の生徒。
ラウルは仮眠をとる事しか許されず学園に通う羽目になっていた。
原因は昨夜遅くから、聴取の名の下で行われた尋問。
自宅にて起こった珍事の過程を右腕の拘束を受けた状態で説明することとなる。
頭部に奔る危険信号と向けられた絶対零度の視線によって、ラウルの精根は尽きてしまったのであった。
そんな体調の優れない状態であっても、道行く生徒たちに笑顔で挨拶を送る姿は、お姉様と呼ばれる所以の一つか。
健気な姿を見せるラウルの前で、金髪の錦糸が意気盛んに舞い踊るのだった。
「朝から盛んだな、イッセーとアーシアは。公衆の面前で見詰め合うとは……やるようになったものだ」
腰まで伸ばした長髪を陽光に輝かせる少女の正体はアーシア・アルジェント。
元はヴァチカンにて聖女として祭り上げられていた彼女であったが、持ち前の優しさを遺憾なく発揮してしまったために、教会を追放された過去を持つ。
そして、一か月前の事件にて、彼女は堕天使の計略に嵌まることになる。
ラウルも関わることになった事件は、主犯格こそ逃がしてしまったものも、少女の隣にいる兵藤一誠たちの活躍により幕を閉じたのであった。
大金星を挙げた一誠に助け出されたアーシアは、悪魔の囁きに導かれ人外へと転生することを選んだ。
同じ悪魔と生り、友たちと新たなる生を謳歌するために。
皺一つない真新しい制服に身を包んだアーシアは、身も心も新たに歩み出したのだった。
図らずとも、教会にとって最大の皮肉を噛ますこととなった少女は、通う学び舎の校門前で茶髪の少年の顔を覗き込んでいた。
アーシアが顔を覗き込んでいるのは、彼女にとって恩人でもあり、ラウルにとっては数少ない幼馴染の一誠であった。
先の事件で勇猛な姿を見せた一誠であったが、彼は近辺に悪名を轟かす変態三人組の一人でもあった。
当然、美少女であるアーシアと一緒に登校しているだけでも顰蹙を買う状況にある。
登校する様子を見た生徒たちが密合のを尻目に、彼らは大胆な行動を取っていた。
一誠は白昼堂々、美少女と顔を突きあわせていたのだ。
ざわめきの広がる校門前で、ラウルは足を止めてお互いを見合わせる少年少女を視界に収める。
その光景に悪戯心が疼いてしまったラウルは、皮肉を口に出して無垢な少女たちをからかい始めたのであった。
「ら、ラウルさん!? ち、違うんです! これは、イッセーさんの様子を見てただけで!」
「ほう、盛んなのはアーシアの方だったのか。貴方も随分と世俗に染まってきたようだ」
「だ、だから、違うんですってば!」
口端を釣り上げて二人だけの世界に入り込んできたラウルに、アーシアは顔を真っ赤に染めて狼狽える。
必死に否定するも、ラウルの悪戯心に油を注ぐばかり。
視線を彷徨わせるアーシアの様子に、ラウルは笑みを深めるのであった。
「ふふふ、分かっているよ、アーシア。大方、イッセーが嫌らしい顔を見せていたのだろう」
「もう! ラウルさんたら! ルチアに言い付けてあげます!」
ラウルは涙目で縋り付くアーシアを流石に可愛そうに思い、冗談であったことを素直に伝えた。
からかわれたと知ったアーシアは羞恥を怒りに変え、非道な行いに抗議する。
されど、少女が見せるは小動物の威嚇でしかない。
身体の奥底から込み上げてくるものがあったラウルは、膨らんだアーシアの頬に手を当て捕食者の笑みを浮かべた。
「それにしても、可愛いなアーシアは。思わず食べちゃいたくなる」
「はぅわっ! た、食べられちゃうのですか?」
「――っ!? ラウルッ!!!!」
顔を蒼くして狼狽えるアーシアから、ラウルはさっと身を引いた。
入れ違いで二人の間に割り込んでくる人影。
鋭い視線を向ける一誠がそこにいたのであった。
「い、イッセー……さん?」
アーシアの視界に映るのは頼もしい少年の背中。
かつて、自身を救おうとしたその背中に安堵を覚えるものだった。
その一方で、どうして一誠が怒りを浮かべているのか理解できていない彼女は、動揺をさらに大きくするのであった。
「こらこら、イッセー。アーシアが怖がっているではないか」
「アーシアに手を出してみろ、いくら幼馴染のお前だって許さないぜ……」
険悪な顔つきを見せる一誠に、ラウルは苦笑いを返す。
「冗談に決まっている。私が花を手折るよりも、愛でるような性分であることは知っているだろう?」
「……ラウルはモテるから信用にならねぇよ」
怒れる一誠を前にして、ラウルはおどけて見せた。
少女たちの魅力を引き出すことがあっても、手を出すことはないだろうと。
そんなラウルの態度に一誠は顔を顰めるのだった。
「それに、子羊に手を出そうものなら、私が食べられ兼ねないからな」
「な、なに言ってんだよ、ラウルはっ!?」
アーシアに手を出そうとすれば、手痛いしっぺ返しをもらうことになる。
襲われてしまうだろうと、両手を上げて首を振るラウルに一誠は喰い掛かった。
「アーシアみたいな無垢な娘が傍にいれば、流石のイッセーでも毎晩のお勤めに支障が出ていることだろう。そして、抑えきれなくなった性欲が、私に牙を――――」
「んな訳あるかっ!! なに馬鹿なことを抜かしてやがる、この女装娘ッ!!」
一誠はあらんことを口走るラウルを黙らせようと拳を振った。
しかし、怒りの込められた拳は、予備動作なしに身を引いたラウルに躱されることとなる。
「どうやら、子羊を育てる狼が本性を現したようだ」
「待ちやがれっ! ラウルッ!!」
片眼を閉じて舌先を見せたラウルはスカートを翻して走り始める。
激情に駆られた一誠もラウルの後を追い、彼らは理解の追いついていない少女を置き去りにするのであった。
「はわわ、おいていかれちゃいました」
ラウルたちに置き去りにされたアーシアは、先程の騒ぎもあり好奇の視線を集めてしまっていた。
彼女の白馬の王子様もラウルを追って戻ってくる気配はない。
好奇の目に晒されて居心地悪そうに身を縮込ませる少女に、救いの手が差し伸べられた。
「ごきげんよう、アーシア。今日もあの子たちは元気なようね」
「うふふ、朝一番から精力が満ち溢れているようで」
アーシアに手を差し伸べたのは、紅髪の姫と黒髪のお姉様であった。
心の拠り所を見つけたアーシアは、満身の笑みを浮かべて彼女たちに会釈を返す。
「お、おはようございます、部長さん、朱乃さん」
入れ替わりに現れることとなった三大お姉様の影に、色めき立つ校門前。
それはいつもと変わらぬ朝の風景であった。
穏やかな一日の始まりでもあり、波乱に満ちた二週間の幕開けの日でもあった。
* * *
「くそっ、どこに行きやがった」
校門にて黄色い声が上がっている頃。
靡く銀色の後ろ髪を追ってきた一誠は、ラウルの姿を見失ってしまったのだった。
「鬼さんこちら、手の鳴る方へ」
苛立つ一誠の元に届くのは、古き日を思い起こさせる掛け声。
姿を一度くらましたラウルが、手拍子を鳴らしながら一誠の前に姿を現す。
「逃げんな、ラウル。そんでもって、一発殴らせやがれ!」
「逃げるのは当たり前だろ。いつも言っている通り、私は至って普通だからな。男に襲われて喜ぶようなことはないのだよ」
「……一回、その口を閉じさせた方が良さそうだな」
ラウルはいきり立つ怒りの炎に油を注ぎ続ける。
煽りの煽られた一誠は、我慢の限界を迎えて本能の赴くままに力を振るい始める。
「ブーステッド・ギアッ!!!!」
『Boost!!』
赤龍帝の籠手。
一誠の左手を覆うそれは、かつて世界を震撼させた二転龍の片割れが宿る神殺しの神器。
十三種の神滅具と呼ばれる神器の一種であり、持ち主の力を十秒毎に倍加させる効果を持つ。
一か月前、彼が堕天使に殺された原因でもあり、その危険性は証明されている。
その後、リアス・グレモリーによって、悪魔へと転生を遂げた一誠はアーシア同様、悪魔としての生を謳歌しているのだが――。
「ちょっと待て、イッセー! ここは――」
「誰が待つかよ!!」
ラウルの制止を振り切って殴り掛かる一誠。
握られた拳は愚直にまで真っ直ぐにラウルへと向けられる。
まるで、彼の性格を指し示すかのように。
「仕方あるまいか……」
ラウルは宙に一つの魔方陣を描くと静かな闘気を纏い、赤き龍帝の主と対峙する。
静のラウルと動の一誠。
威勢よく殴り掛かった一誠の拳は届くことはなかった。
一誠の拳を見切ったラウルは、半身になり淀みのない動きで躱したのだ。
そして、ラウルは空を切った一誠の伸びきった腕を取る。
残った右腕で胸倉を掴み、前に出した右脚で一誠の支えを払う。
「うおっ!?」
一誠を襲う浮遊感。
投げられたことに理解の及ばない彼は、受け身を取ろうともせずに驚きの声を上げてしまう。
「っと、男一人分支えるのは大変だな……」
「は、放しやがれ! 一発殴んないと気がすまねぇんだ!」
受け身を取る気配すらないことを重々承知のラウルは、宙舞う一誠から一度手を放して、脇の内へと腕を差し替えた。
無茶をしたこともあり、衝撃はラウルへと圧し掛かる。
華奢な身体でなんとか一誠を支え抜いたラウルは、小さかった幼馴染がよくここまで育ったものだと、場違いなことをしみじみと思うのであった。
「落ち着け、イッセー。落ち着いて、神器を仕舞うんだ。早くしないと、誰かの目に付いてしまう」
「あっ! ああ……」
感傷に浸るラウルであったが、腕の中で暴れ始めた一誠がそれを許さない。
ラウルは激情に駆られて周りの見えなくなった幼馴染を宥めに掛かった。
本来なら人を襲おうとしたことを窘めるべきなのだが、ラウル自身が誘いを掛けたこともありその素行の悪さを指摘することはなかった。
それよりも一誠の左腕を覆うものが問題であった。
神器とは、世界に異なるもの。
表の社会では認知されておらず、不特定多数の人々が通う学園で晒すことになるのは、少々拙いものがあった。
仮に見つかったことが分かれば、記憶操作を掛ければ問題なかった。
しかし、この光景を見たにも係わらず、記憶操作を掛けることのできなかった者が現れれば、不徳の事態に陥ってしまう。
最悪、学園全体に記憶操作を掛ければ問題ないのだが、ラウルとしてもあまり取りたい手ではなかった。
取り返しの付かない最悪の状況に陥らないためにも、ラウルは迂闊に神器を晒した一誠を窘めるのであった。
「一人前の悪魔を目指すなら、表と裏の区別を付けてくれよ。イッセーも平穏な日々を壊したくはないだろ?」
「わりぃ……ついカッとなっちまって」
「私にも責任の一端があるからな。今回のことは部長たちには、内緒にしておくよ」
穏便に事を納めたラウルは、人差し指を立てて目配せを送るのであった。
「それと校舎の中では、上履きに履き替えるものだぞ」
「そ、そうだったな……って、うちの学校に上履きなんてねぇよ!!」
「真に残念ながらな。美しき日本の文化が蔑ろにされているようで、遺憾に堪えないよ」
心残りだと肩を竦めるラウルの様子が、どこかツボに嵌まった一誠は笑い声を上げる。
釣られる様にしてラウルも小さく笑声を漏らす。
手慣れた冗談を仄めかして、漂おうとしていたきまりが悪い空気をラウルは見事に払拭したのであった。
「ラウルは変わらないな。そういう、日本かぶれな所とか」
「……それは酷くないか。仮にも、私には日本人の血が半分通っているのだがな」
ラウルは心外だとおどけて見せる。
彼は戸籍上日本人と英国人のハーフとなっている。
裏に係わる魔術師のため、文字通りの血筋とはいかなかったが。
おどけて見せるラウルであったが、自身の血脈を思い浮かべ、ふと切なそうな表情を浮かべる。
「なあ、イッセー……私は――――」
絞り出されるようにして、問い掛けられたラウルの声は、突如として響いた陽気な掛け声に掻き消されることになる。
「よう、いい雰囲気のお二人さん方。朝からやってるな」
「おかげでいいものを撮らしてもらったからな……まいどあり」
「元浜に松田! って、なに撮ってんだよ! ラウルも早く放せ!」
声とともに意気揚々と現れたのは、変態三人組の残り二人。
元浜は薄気味悪い笑いを浮かべ、不気味に眼鏡を光らせる。
松田は手にした一眼レフカメラを掲げて、ニンマリと満ち足りた笑みを浮かべる。
抱きかかえられている光景を撮られたと思い当たった一誠は、拘束するラウルの腕を振り解かんと暴れるのだった。
「カメラを寄越せよ松田! データを根こそぎ消し去ってやる!!」
「残念だが、イッセーよ。折角、面白いネタを手に入れたのだからな、有効に使わしてもらうぜ」
ラウルの拘束を逃れた一誠は、カメラを手にする松田へと飛び掛かる。
しかし、相手はセクハラパパラッチこと松田である。
無駄とも言える身体能力を遺憾なく発揮して、悪魔である筈の一誠から逃れ回る。
「おはよう、元浜。……貴方たちは、先ほどの光景を見てしまったのか?」
「おう……お姉様がイッセーに熱き抱擁をしている光景をきっちりな」
「そうか……」
再び鬼と化した一誠が松田を追う光景を尻目に、ラウルは元浜に確認を取る。
ラウルが気にしているのは、彼らが神器を見たか否か。
一誠が神器を展開した直後に、辺り一帯に幻術を振り撒いたが、完璧な隠蔽ができたとは限らなかったのだ。
ラウルの危惧など知るよしもない元浜は、ラウルたちの関係を幼馴染以上の物ではないかと冷やかす。
冷やかされたラウルであったが冷静に対処すると、目を閉じて現状を確認する。
元浜たちが見ていたのは、隠蔽を施す前か後か。
前ならば、興奮もせずにイッセーを抱きかかえていた様子しか口にしないのはなぜか。
確認を終えたラウルは、無色の魔方陣を展開していま一度確かめる。
「忘れろ。からかわれるのは趣味ではないからな」
「ぐぉぉぉ。お姉様の愛の鞭が痛い……」
記憶読みの魔術の乗せられた拳が元浜の脳天を捕らえる。
所謂、拳骨を見舞われた元浜は、皮肉を口にして地面をのた打ち回るのであった。
元浜より記憶を読み取ったラウルは、情報を精査し始める。
案の定、卑猥な記憶の数々であったが、無視して調査を進める。
膨大な記憶の数々に、色々な意味で頭の痛くなったラウルであったが、数日間の記憶に目を通した限りでは、危惧した記憶は存在しなかった。
安堵の息を漏らしたラウルは、読み取った記憶を破棄して、松田の下へと向かう。
「松田よ、これは没収だ。写真を撮るなら、被写体となる者に許可を得て取るべきだからな」
「うぉうっ! カメラを返すんだ、ラウル! それがないと、今月のやりくりが心細くなってしまう!」
音もなく忍び寄ったラウルは松田からカメラを取り上げる。
名目上は肖像権の侵害。
慣れた手つきでカメラから、記憶媒体を取り出すのであった。
「はぁ……。撮るなとは言わないが、自重を持つように」
「流石、我らが学園を代表するお姉様! 物分りの良さは学年一位だぜ!」
カメラを返した途端、記憶媒体を取り出されたことに、気付く由もない松田は調子を取り戻す。
返したのは早計であったかと、ラウルは頭痛が酷くなる思いであった。
「待った! 待った! 表情そのままで、こっちに視線を!」
陰鬱な表情を見せるラウルに対して、松田は好機が巡ってきたとばかりに一眼レフカメラを向けた。
ラウルが底冷えするような冷めた視線を向けているとも気付かずに。
「憂いに満ちたラウルの表情。これは売れ……め、メモリー切れっ!? さっき入れ替えたばかりなのに!?」
「メモリーはこちらで処理させてもらおう。断片データを復元されても適わないからな」
袖の下に隠していたメモリーカードを取り出したラウルは、その存在を松田に見せ付けるのであった。
「そ、それはねぇぜ! そのデータを複製すれば幾らになると――ッ!?」
「学友を売ろうと考えるな、エロ坊主」
この期に及んで記憶媒体の返却を求め続ける級友の不義に、健脚を振り上げてラウルは裁きを下す。
無慈悲に振り下ろされる断罪の足斧。
革靴の踵が松田の脳天にめり込み、嫌な音が辺りに響き渡るのであった。
「そこの馬鹿を置いていくぞ。のうのうとしてしまっては、遅刻してしまうからな」
両手を打ち払ったラウルは、残る彼らに声を掛けて壁に預けた鞄を拾いに歩みを進める。
流石の変態たちも目の前で繰り広げられた惨状に、只々首を縦に振るのであった。
「覚えてろよ、ラウル! この恨み、絶対晴らしてやるからな!!」
奇跡的な復活を遂げた松田の恨み言に、ラウルはどこか嫌な予感を感じるのであった。
* * *
そして、午前の放課を終えた昼休み。
ラウルの頭に過った悪い予感は当たることになる。
「ラウル君、いったいこれはどういうことっ!?」
快音と共に机に叩きつけられる一枚の写真。
優雅にランチタイムを楽しもうとしていたラウルの下へ、淡い桜色の髪を短く切り揃えた少女、片瀬を筆頭に女子生徒たちが押し寄せていたのであった。
「この写真……どこで手に入れたのかな?」
弁当の包みを開こうとしていたラウルは手を止めた。
陽光によってグラデーションを奏でる銀髪。
風に乗せられて靡く長髪はさらりと広がり、首筋の隠された素肌を晒し出す。
流動的な被写体と浮かび上がるスカートの様子から跳躍後の一コマと思われた。
目の前に叩きつけられたのは、明らかな盗撮風の写真である。
盗撮を認めていないと公言しているラウルは、真剣な表情で写真の出所を探る。
「あのエロ坊主が……じゃなくて! この首裏のキスマークは何なのかな?」
ラウルが視線を巡らせれば、嫌らしい笑みを浮かべた松田の姿が目に付く。
片瀬が口を滑らせたことにより犯人は確定する。
どの様にして吊し上げるかと、考えを巡らしたいラウルであったが、目の前に集まった女子たちがそれを許さない。
彼女たちが興奮している原因は、写真に写った首筋の朱の痕跡。
一般的にキスマークと呼ばれる口付けの痕にあったのだ。
「お姉様に彼女が!? お相手は誰なの!?」
「きっと、お相手は木場君よ! ここ最近、毎日一緒に下校している姿が多数目撃されているわ!」
「遂にラウルくんが、木場君と禁断の関係に!?」
「いえ、私は小猫ちゃんを押します。ここまでくっきりと映っているのなら、口紅の可能性が高いかと。ならば、最低でもお相手は女性。着実にポイントを稼いでいた彼女が妥当かと」
「で、でも、木場くんとの関係がありえないことはないよね。くっきり痕が残るぐらい、吸い付いたのかもしれないし……」
「やっぱり、ここは木場くんと小猫ちゃんを交えた禁断の関係でしょ! 甘いマスクの裏側に隠れた残忍性。大丈夫よ、ラウルくん。それも愛の形なのだから……」
「それを言うなら、リアスお姉様と朱乃お姉様との三角関係もあり得るわね」
「もしかしたら、リアスお姉様たちと密会を!」
「「「きゃぁぁぁぁああああ!!!!」」」
根拠のない自論を持ち出して騒ぎ立てる少女たち。
黄色の花が咲き誇る教室の空気を無視して、ラウルは容赦なく楔を打ち込む。
「合成写真ではないのか? 心当たりはないのだが」
写真の光景を真っ向から否定したのだ。
ラウルのことを妬んだ松田の嫌がらせでないかと。
事実、ここ最近に首裏へ口付けをされた覚えなど一つもなかった。
「うそっ! これって合成写真なの!?」
「こんなものを作って、お姉様を陥れようとするだなんて!?」
「松田の野郎! マジ許せない!」
女子生徒たちの反応は二手に分かれた。
一つは合成写真を手掛けたと思われる松田に対する嫌疑を抱く者。
「じゃ、じゃあさ、ラウルくん。首の裏側を見せてもらってもいいかな?」
もう一つは、片瀬を中心とする真偽を確かめようとする者たちであった。
「どうぞ、気の済むまで見てもらって構わないよ」
片瀬の申し出を快く聞き入れたラウルは後ろ髪を掻き上げる。
掻き上げた長髪から漂う芳香。
甘酸っぱい柑橘の香りに女子生徒たちは息を呑む。
「ちょっとだけお邪魔して――」
後ろに回った片瀬は意を決して確認を始める。
掻き上げてなお、流れる銀髪に隠された秘所へと手を伸ばした。
「ストップ! 片瀬さん、そこでストップなんだよ!」
秘密を暴こうとする片瀬を制する声。
女子生徒の集団より歩み出た小柄な少女が、居ても立ってもいられずに制止を掛けたのであった。
「いいところになんで邪魔に入るのよ、鏡花! 片瀬さんだけじゃなくて、それを眺める私たちにも役得な筈でしょ!」
「まさか、鏡花さん。あなた……」
「前にラウルくんに口説かれていたことがあったわよね。あの時の申し出を受けちゃったの!?」
「こちら、『
片瀬を止めた鏡花の行動は大きな波紋を生んだ。
何故、鏡花は今になって止めに入ったのだろうかと。
ラウルにキスマークを付けたのは彼女ではないかと。
鏡花の行動を深読みした女子生徒たちは、過去の出来事まで掘り返して騒ぎ立てる。
中には駒王学園に設立された非合法組織に連絡を取り、鏡花の不義を暴こうとする輩が現れるほどであった。
「いや、違うからね! そんな関係になれたら嬉しいけど……。それよりも、片瀬さん! 合法的に香しいお姉様の匂いを嗅ぐ機会は、平等的に分けるべきだと思うのよ!!」
頬に朱の差した鏡花は、周りの空気に流されまいと声を上げる。
同時に片瀬だけが良い思いをすることへ異議を申し立てるのであった。
「た、確かに! 鏡花の言うことも一理あるわね!」
「片瀬さんだけお姉様の香りを堪能するのはずるいわ!」
「見直したよ、鏡花。そんな大事なことに気付くなんて。流石は我ら『爛れた乙女』の会長殿だね」
「訂正いたします! 早乙女会長は無実を証明したうえで、級友の片瀬氏の不義を暴いた模様。平等性を期すための妙案を上げ、聖戦を行う様子です。会長! 私はこれから、お姉様の香りを楽しむ機会を掛けての聖戦に挑んで参ります!」
手のひらを返したように、鏡花の提案へ乗った女子生徒たちは盛り上がりを見せる。
「鏡花、その権利とやらは、なにで決着をつけるつもりかな?」
お祭りムードの高まる教室でラウルは苦笑を隠せなかった。
取って減るものではないが、彼女たちにしてみれば特別なことなのだろう。
そのことを経験から分かっているラウルは、無粋なことなどせずに、うら若い少女たちの意欲を煽り立てるのであった。
「此処は公平に――――じゃんけんよ!!」
鏡花は握り拳を上げて宣言する。
ラウルの秘所を探る権利は、古今東西に伝わる決闘方法で争うのだと。
中途半端なところで終わってしまった二話でした。
長くなってしまったので、分割した結果です。
分割してしまった故に、本来二話目に付けていたタイトルは次話に持ち越しになりました。
そして、前半はラウル君と一誠君の絡み、後半は腐女子成分たっぷりと、なんだか済みません。
書いていたら筆が奔ってしまったもので(汗)
ここまでの内容を三千字に抑えるのが、当初の予定だったのですが……。
また、今回は松田、元浜、オリキャラの鏡花の再登場でした。
再登場において発覚したことがあります。
セクハラパパラッチって松田のことだったのですね。
プロット段階で元浜がその役を担ってしまっていたものですから、大幅な手直しが必要でした。
ミッテルトはミルテッドと間違える作者。
もう一度、原作の見直しが必要な気がしてきました。
オリキャラの鏡花については、何故か設定が自然と構成されている事態に。
苗字が早乙女、字画もなにも確認していない突発的な思い付きです。
さらに、腐女子成分が……。
私に彼女たちを止めることはできそうにありません。
脳内で勝手に暴走を始めてしまいました。
加えて、桐生と村山が登場していないことが発覚。
後書き中に発覚したので、おそらく出番はなしになります。
不覚です。
こんな話をした後で申し訳ありませんが、改めて日々のご愛読ありがとうございます。
記念に何か書きたいと思うのが作者の心情。
されど、なにも用意できていないのが現状です。
以前、活動報告で話題に挙げた『片翼の預言者』などという、ハイスクールD×Dの二次小説を準備していたりいなかったり……。
まだ、書き始めていないので、絵に描いた餅もいいところです。
UA20,000記念として、ストーリー上でも必要になってしまった番外編を投稿したいと思います。
骨組みは終わっているので、早めに投稿できると幸いです。
次回はこの話の続きではなく、ラウル邸での一幕となりますので、よろしくお願いします。