最新話の更新になります。
この話では時折、混入させていた独自解釈が盛り込まれています。
今回はアーシアの神器についての解釈。
いつものことなので特に気にしないで頂けると幸いです。
暮れの空で夕日の傾く頃――。
部活動を終えたオカルト研究部の面々は、部長副部長である彼女たちを除き、和気藹々と会話を交わしてそれぞれの自宅へと足を向けていた。
「今日の昼間の騒ぎはすごかったね。人の波が廊下を埋め尽くしていたよ」
「あれが日本女子……精力的な方々を多かったです」
「……いつものことながら、彼女たちの活気は凄まじいの一言に尽きるな」
帰路へ着く彼らが交わす今日一番の話題は昼食時の騒動。
今朝の一件より松田が水面下で行っていた悪巧みが暴発した形だった。
午前の放課を終えると勢い良く立ち上がった少女たち。
昼食時にも関わらず全生徒の半数以上が噂の真偽を確かめようと押し寄せたと言う。
最終的には生徒会が悪魔の力を使ってまでも強制介入するほどであった。
「キスマーク一つで大騒ぎなんて……イケメンは羨ましいぜ」
鼻抓み者の一誠を尻目に持て囃されるラウル。
理不尽な現実を僻んだ一誠は、学園を揺るがすこととなった騒動の中核を担った人物に、恨みがましい視線をぶつけた。
「イッセーも悪くない顔立ちだと思うぞ。日々の素行を直せば、見る目も変わってくるのではないか?」
「うっせぇ。ラウルこそ、エロいことをしない……ことはないな。なんで、同じ変態なのにラウルだけモテんだよ! ちくしょう!」
ラウルは幼馴染の恨みがましい嫉妬の感情を正面から受け止める。
好く言えば肝が据わっている、悪く言えば愚鈍な一誠の性格。
少女たちが嫌がると知ってなお、隠すことなく嫌がらせを続ける所業に問題があるのではないか。
湧きあがる情念を抑える術を覚え余裕を持つことができれば、周りの目も変わってくるとラウルは説くのだった。
「それで、どうだったのかな? 僕もそれなりには気になるところだよ」
一誠を説き伏せたラウルへ耳にタコができるほど聞かれたであろう問いを佑斗は投げ掛ける。
笑みこそ作ってはいるが、麗人を射る眼光は鋭く彼の真剣さが窺えた。
「まあ、結論から言えば付いていたのだがな」
「軽蔑します……女装変態」
首筋へマーキングするが如く付けられた紅。
確りと付けられたそれはブラウスの襟口を汚すほどであった。
犯人の当ては付いているラウルだったが、こんな粋な真似をするのは誰だと困ったように肩を竦める。
そもそも、首筋の紅ぐらいのものならラウルの実力を持ってすれば隠し通せた筈であった。
認識阻害に幻術など覆い隠してしまう術や浄化の術を用いて紅を落としてしまうこともできたのだ。
騒ぎになることなく隠し通せたにも関わらず、ラウルは術を行使することはなかった。
ラウルにとって首筋の紅は愛情という名の絆の証であるのだから。
自身が大切に想う人が付けた故に、消すわけにはいかないとの信条からだった。
妙に殊勝な体裁を取り繕うラウルを小猫は半眼で咎めるのであった。
「女装変態とは……小猫は遠慮というものを知らないな。それにキスマークはどうしようもなかったのだぞ。大方、身体を休めている間にでも付けられたのだろう。流石の私でも、気付きようがないな」
容赦ない小猫の毒舌にラウルは表情を歪めた。
女装は正装であり、首筋の紅は知らぬ内に付けられた汚点。
それを指摘して変態と罵られるのは、些か心を抉られるものがあったのだ。
「嘘です。先輩なら寝ている間でも、人を手玉に取ることぐらいできる筈です」
「小猫、貴方はなにを期待しているのだ? 私は悪魔でもなければ、天使でもないのだぞ」
容赦ない言葉に心を抉られたラウルは大人気なく逆襲に出る。
過剰な期待を寄せる少女に微笑む麗人は、質の悪い意趣返しをしてみせたのであった。
「キスマークを付けたのは、やっぱりルチ姉?」
「分からない。昨夜は色々と客人が押し寄せてきたのでな。特定などできない」
事実、龍王や龍神が押し寄せてきて一騒動あったのだが、佑斗は知る由もなかった。
「あれ、ラウル? 教室では、親戚の
「言葉の綾でそう言ったまでのことだ。別に証拠があるわけではない」
一誠に事の整合性を指摘されたラウルはしらっと嘘を吐いていたと認めた。
教室で述べたのは詭弁に過ぎないかった。
裏世界の奥底まで関わっている以上、表の世界である学園では言ってはならないことも存在する。
故にラウルは言葉を濁すために、一人の少女に仮初の配役を与え、罪を着せたのであった。
もっとも、今回の真実をリアスたちのような根本的に冥界に染まってしまっている悪魔へも、伝えてはならないのだったが。
「ラウルくんって意外と薄情なところがあるよね」
何時になくラウルを責め立てる佑斗は抑揚のない声で不実を糾弾する。
佑斗が責め立てるのは詭弁を並べる様子を咎めてか、ラウルの内情を察してか、それとも佑斗の抱える感情が先走った結果か。
その答えは彼自身にしか分からなかった。
「心外だな。確かに、グレモリー眷属に比べれば情が薄く見えてしまうかもしれない。それでも、彼女たちには私なりの情念を抱いているつもりではあるぞ」
小猫に続き、一誠、佑斗にまで自身の間違えを指摘されてなお、ラウルはその姿勢を崩すことはなかった。
大胆不敵に笑みを浮かべお茶目に振る舞って見せる男の娘。
指を立てて口を窄めるラウルは、佑斗の糾弾をやんわりと否定する。
情に厚いグレモリー眷属に比べれば足りないものがあるだろうが、人並み以上にラウルは情を抱いているのであった。
「彼女たちって……いったいキミは何人の女の子を囲っているのかな?」
疑念を一つを躱したラウルであったが、佑斗の追及の手が緩まることはない。
愛情を注いでいるのが一人ではないと迂闊な発言したラウルを厳しい視線で言及するのであった。
手厳しい言及を受けたラウルは静かに瞳を閉じた。
思いを巡らすのは自身の交流関係。
親しい者で言えば、マリナにルチア、ルフェイ。
使い魔には黒歌やティアマット。
現代のオーフィスも雌性を為しているので、女性と数えてもいいかもしれない。
もう少し範囲を広げれば話は変わってくるが、ラウルの周りにいるのは見事に女性ばかりであった。
「…………囲っているつもりはなかったのだが……周りからしてみるとそう見えるかもしれんな」
「マジかよ! くそっ! イケメン、滅びやがれ!」
瞑想を終えたラウルは躊躇いがちに口を開いた。
ラウルの現状は外から見てみれば女性を囲っていると見られても可笑しくはない。
実質は彼女たちが自主的に集まってくるために、囲っていると言うよりも囲われていると言った方が正しい。
ゆえにラウルは彼らへ、特に一誠に対して、ハーレムを形成しているのではないと弁解する。
しかし、危惧していた通りにラウルは要らぬの恨みを買ってしまうのだった。
「言われてるぞ、佑斗よ」
「この場合、ラウルくんだと思うのは僕の気のせいかな?」
冗談を言ってみるが全く相手にされない。
鋭い眼をして微塵も笑うことのない佑斗に流されるのであった。
退路を断たれつつあるラウルは深く息を吐き出すと、意を決して一誠の方へ向き直る。
「イッセー…………」
しっとりとした唇から漏れる熱を帯びた吐息。
黄昏の空でラウルは静かに彼の名を紡いだ。
「私をそんな恨みがましい目で見ないでくれ。そんな目で見られたら、思わずきゅ――」
「言わせねえよ!! つぅか、そんな顔して言うなよ! まじで困るからな!!」
胸前で固く握られた両手。
端正な輪郭を描く玉肌は夕焼けに染まる。
そして、彼を象徴する腰の辺りまで伸びる銀髪は夕日に照らされて一層のこと輝きを増していた。
艶麗な幼馴染が潤んだ瞳で懇願する姿に、一誠の動悸が激しくなったのは彼だけの秘密であった。
「変態です……変態しかいません」
男たちの演じる三文芝居を目の当たりにした小猫は肩を抱いて身を震わす。
「その中に僕も含まれているなんてことはないよね」
「……触らないでください、うつります」
「こ、小猫ちゃん…………」
小猫の嫌気は蚊帳の外にいた佑斗にまで及んだ。
愛嬢のように思っている少女から汚物を見るが如き視線を向けられ、佑斗は堪らず膝を屈する。
「よしよし、妹のように慕ってした女の子に拒絶されて辛かったろう。私の胸で十分に泣くといい」
「ラウルくん……キミってひとは本当に……」
膝から崩れ落ちる佑斗を受け止めたラウルは、心に負った傷を癒すようにさらさらと流れる金髪を優しく撫でる。
胸の痛みを涙に変え伴に背負っていこうではないかと。
辛辣な侮言によって激しい喪失感に襲われる佑斗を同情するようにして宥めるのだった。
「冗談です……佑斗先輩。冗談ですから元に戻って、ラウル先輩から離れてください」
態度を改めることのない麗人の様子を見て、小猫は口を一文字に結んだ。
「まさか、小猫ちゃんまでラウルの毒牙に――っっっ!?」
「イッセーさんっ!?」
赤い空に舞い上がる茶髪の少年。
馬鹿なことを口走った一誠は苛立ちを爆発させた白き猛獣の一撃に沈むのだった。
「勘違いしない下さい。また、変な噂が広まると困るだけです」
アーシアの悲鳴を尻目に地へ伏せた一誠を踏みつける小猫。
憮然とした面持ちで小猫はラウルたちへ注意を促すのであった。
「ははは……小猫ちゃんの言う通りだね」
愚者の末路を見せ付けられた佑斗は愛想笑いを小猫に向けると、跳ね起きるようにしてラウルの胸元を離れるのであった。
「今回は気持ちだけ受け取っておくよ。ありがとう、ラウルくん」
礼を述べる佑斗の胸に小さな罪悪感が生れる。
小猫の暴力を恐れて、親身な態度を取ったラウルを突き放してしまった事実に真面目な騎士は胸を痛めるのであった。
「残念だが仕方あるまい。佑斗よ、泣きたい時にはいつでも、私の胸で良ければを使ってくれて構わないぞ」
「うん。その時はお願いするよ」
それなのに跳ね除けるようにして突き放されたラウルは苦笑いを浮かべるだけ。
感極まった佑斗は少女たちを虜にする魔性の微笑みをラウルに向けるのであった。
小猫の視線が一段と厳しくなったのは言うまでもなかったが。
「さて……大丈夫か、イッセー?」
「ラウルには、これが大丈夫そうに見えるのかよ……」
小猫の怒りを買った為に、地へ伏せることになった一誠。
戦車の腕力と脚力をその身で知った哀れな兵士は、絶賛アーシアの治療に掛かっているところであった。
「それもそうだな」
ぐったりと身を横たえた一誠の主張に頷いたラウルは白魚のような細指を宙に踊らした。
【挫かれし者よ 我が宿木に泊まりて 汝が翼を休めよ】
紡がれるは神秘を内包した旋律。
幾多もの魔方陣が彼らを囲い、発せられた癒しの光が一誠たちを包み込む。
「ぉぉおおお。大分楽になってきたぜ」
「まあ、アーシア程うまくはいかないのだがな。足しにはなるだろう」
術を掛けられた一誠は声を上げて容態が落ち着いたことを顕わにする。
治療目的で一誠に掛けられるアーシアの神器とラウルの魔術。
一誠を癒そうとする意図は同じであれども、その効果は似て非なるものであった。
前者の手段は魔力を癒しのオーラに変換して治療を施す外科的なもの。
欠損部位を破損部分を癒しのオーラで作り直し再生する。
聖女の微笑と呼ばれていた神器に相応しい能力であった。
対して、設置型のラウルの魔術は寝台をようなもの。
術の対象となった者に安らぎを与え、患者本人の細胞を活性化させて再生を促す。
主だった効果は鎮静に疲労回復、治癒能力の補助にあり、自然の摂理に逆らわない治療方法であった。
彼ら、奇跡の担い手たちは医者も青くなるほどの速度で一誠を癒していく。
神器と魔術が生む相乗効果ゆえに。
それは、嘗てアーシアの神器に手を加えたラウルだからこそ行える効果的な治療でもあった。
「ラウルくんもアーシアさんもだけど、もう少し人目を気にした方がいいんじゃないのかな?」
「ふぇ? 何か粗相をしでかしてしまったのでしょうか?」
「佑斗先輩がそれを言いますか……」
一誠が快調を顕わにする中、治療のために置いていかれた佑斗が、縦横で裏の世界の力を振る舞う彼らの様子を見兼ねて注意を促す。
「此処は一応学校だよ。人気が少ないと言っても、誰が見ているか分かったものではないんだよ」
旧校舎から校門へ続く道と言うこともあり人の目は少ない。
少ないがゆえに、一度目に付いてしまえば記憶へ残ってしまうだろうと、佑斗は危惧するのであった。
「はわわ!? ど、どうしましょう!?」
佑斗の指摘を受けて治療を行っていた元聖女は取り乱す。
悪魔に転生してまで手に入れた日常。
その望んだ日々が脆くも崩れてしまうのではないか。
振る舞った力によって、迫害を受けた過去のあるアーシアは、迫る影に身を縮こまらした。
「取り敢えず、落ち着いたらどうだ? 佑斗もアーシアを困らせるようなことを言ってはダメだぞ」
伴に治療を行っていたラウルは冷静に狼狽えるアーシアへと助言を送る。
取り乱しては時間を無為に過ごしてしまう。
対策を練るためにも落ち着いて状況を捉えてはどうかと、優しく語りかけた。
一方で、佑斗には立てた指を振るって、健気な少女を辛かったことを可愛らしく咎めるのであった。
「アーシア、人目に関しては問題ない。私と佑斗で手を打っておいたからな、安心して治療を続けても構わないぞ」
治療を行っていたラウルが落ち着いていられるのは理由があった。
アーシアが治療を始めた頃に佑斗が張った結界。
加えて、一誠が空に舞い上がった時には既に一手を打っていたのだった。
隠し通すのは古代魔術師たるラウルの常套手段であり、万が一にも表の世界に露見することはなかった。
「はぅ、佑斗さんも人が悪いです」
「ごめんね、アーシアさん。これは先輩として言っておかないといけないかなって思ったから、つい意地悪しちゃった」
佑斗は舌先を出してお茶目に謝罪する。
この辺り、ラウル邸に住む蒼銀の自宅警備員の影が見え隠れするのであった。
「でも、ラウルくんはいつの間に策を施したのかな? 僕はまったく気付かなかったよ」
「さてな……秘密だと言っておこうか。教えてもいいが、ただでは面白くないからな」
佑斗は悪魔へ転生してから身に付けた結界を張っていたのだが、ラウルにはその兆候もなかった。
結界を張る素振りも術を施した痕跡はどこにもない。
親しい人物とは言え、ラウルが行動を起こす兆候が捉えられないのは、グレモリーの騎士として致命的であった。
不敵に笑う麗人は佑斗が頭を悩ます様子を面白がって教えることはない。
「ただでなかったら教えてくれるんですか、先輩?」
「ん~。いや、教えはしないさ。丁度いい機会でもあるからな」
小猫に乞われたラウルは、少し迷っていたがその姿勢を崩すことはなかった。
四人の悪魔たちを見回して、いい頃合いだと判断して笑みを深くする。
「悪魔とはいえ眷属である貴方たちは、多彩な術を使うような者が身近にいないのではないか? 居たとしても朱乃ぐらいのものだろ?」
グレモリー眷属にはウィザードタイプのテクニシャンが居ないと思われた。
肉体派である前線三人は論外。
最近、転生したアーシアは未だ知識する身に付けていない状態。
主であるリアスに至っては公園での一戦を見る限り、滅びの魔力を前面に押し出したパワータイプであった。
斯く言う、朱乃も色々混ざっているようだが、雷を操るところした見ていないために、判断しかねるというものであった。
眷属全員が力押しな分、旧校舎の奥へ封印されているであろう眷属には期待しているのだが。
そんな状況もあり、リアスたちにはその手の指導者が欠けているのではないか。
リアスの兄のルシファー眷属に頼れば話は別だが、魔王という役柄上、兄妹という間柄であっても気軽に会える人物ではないと、ラウルは判断してのことであった。
「『
故にラウルは自身の行動から、微妙な兆候を読み取るように促す。
戦士にならなければならない彼らに、戦いで必要になる五感と第六感たる危機察知能力を身に付けるように。
最初は難しいかもしれないが、読み取れるようになれば今後に活きてくると。
冥界ではレーティングゲームと呼ばれる、上級悪魔同士の社交界も存在するのだ。
それ以上に赤龍帝の一誠がいるグレモリー眷属は、戦いの渦から逃れることは叶わないのだから。
「レーティングゲーム? なんだよそれ?」
皮肉気に笑うラウルの言葉に一誠は首を傾げた。
「集めた眷属同士を戦わせる模擬演習――極小規模の戦争をスポーツ感覚で行うゼロサムゲームのことだ」
チェスを元としたレーティングゲームの意義は、元々先の大戦で数を減らした悪魔たちが、力を落とさないように行い始めた模擬演習。
それが一世紀、一世紀と時代を重ね、同時に悪魔たちも世代を重ねた結果、今の形に収まっているのではないかというのが、ラウルの推測であった。
今の形に収まり上級悪魔が競い合うようになった以上、政治的にも利用されるため、レーティングゲームがゼロサムゲームというのもあながち間違えではなかった。
「部長が眷属を集めているのはもしかして……」
「間違えないだろう。自身のステータスの為に、レーティングゲームに参加する為に眷属を集めているのだろうな。まあ、それは理由の一部に過ぎないのかもしれないがな」
詳しいことはリアス本人でなければ分からないと、ラウルは苦笑を浮かべた。
「レーティングゲーム自体、悪趣味極まりないが、有効な交渉手段であることには変わりない。見世物としても冥界で流行しているようだしな」
政治的な思惑がなければ、見世物とした発達を遂げたレーティングゲームは、間違えなくプラスサムゲームとなっていたであろう。
惜しいことをすると、ラウルは口にこそ出さないが、己の見解を暗に仄めかすのであった。
「なんにせよ、貴方が深く考える必要はないと思うぞ。そこは主である部長の役目であるからな。今は力を付けて部長の力になり、彼女に頼られるようになるのが目標ではないか?」
ともあれ、今は考えさせる時ではない。
考える必要があるのはリアスであり、彼女の眷属である一誠は来るべき日に向けて力を付ける。
一刻も早く、赤龍帝としての力を十全に振るえる用に鍛えるべきであった。
しかし、急いて事を仕損じては如何な思いも無為に終わってしまう。
そのことが身に染みているラウルは、一誠に捉えやすい目標を提示する。
目指すべき場所を示せば、純粋な幼馴染は愚直にまでその場所に向かい突き進むであろう。
女性関係ならば尚更に。
「考えるのはイッセーが上級悪魔に昇進し、眷属を持つようになってからでも遅くはないはずだ。先達者たる部長もいることだから、彼女に相談して伴に頭を悩ますようになるのも一興だろうよ」
「そうだな……ラウルの言う通りだな。まずは、部長のお乳様に辿り着くことから!」
「……ラウル先輩は言動が変態ですが、イッセー先輩は性根が変態です」
予想通りの一誠と小猫の反応に苦笑を浮かべるラウルは、ふと力の流れを感じてその源泉へと視線を向けた。
巧妙に隠されてはいるが、明らかに場違いな悪魔の気配。
最低でも最上級悪魔クラスであり、ここまで力を持った悪魔は先の大戦のこともあるため数が絞られる。
恐らくは上級悪魔であるリアスを尋ねたものであろうが、窓越しに見える彼女の様子からは不穏なものを感じるのであった。
「ん? どうしたのかな、ラウルくん? 部室の方に目を向けて」
訝しげに視線を向ける佑斗に気付いたラウルは思わず舌を巻いた。
助言を真摯に聞き入れ行動に反映させる。
反映させるのだが、実際には口で言うほど簡単ではない。
皮肉交じりで言われたのならば尚更のこと。
反感を覚えるのではなく、素直に行動へ移せる者がどれだけいようか。
ラウルは佑斗の隠された素質を心の中で褒め称える。
ただ、今し方佑斗に注視されるのは都合が悪かった。
行動を注視するように促したのは自身だが、今はその素直さが忌々しくあったのだ。
一拍の逡巡の末に、ラウルは少しばかりの険の入った声で応じた。
「言わせるな……少しばかり、花摘みにいってくるだけだ」
佑斗へ片目を瞑って目配せを送ったラウルは、異変に気付かない彼ら、そして得体の知れぬ者に気取られることのないよう留意して足を速めるのであった。
* * *
時を同じくして、ラウルの瞳に映った紅髪の持ち主は、沈みゆく夕陽の輝きを背にして一体の悪魔を鋭く睨み付けていた。
「あなたが直々に冥界から上がってくるなんて……なんの用かしら、グレイフィア」
両側に垂れ下がる結われた銀髪。
身に纏う紺と白を基調としたメイド服は皺一つなく整っている。
一誠の求めた本物の銀髪メイドにして、ルシファー眷属の女王グレイフィア・ルキフグスが静かに瞳を据えていた。
「先日、お伝えした件への回答を頂きに参りました」
グレイフィアは朱の引かれた唇を粛々と開いた。
「その件についての返事はしたつもりよ」
「一応の返事は頂きましたが、しかし……」
「当初の話では、私が人間界の大学を出るまで猶予があったはずなのよ。上級悪魔ともあろう者が、取り付けた
婚約者と結ばれる気などさらさらなく、次期当主としての責任は自身で背負う。
リアスは瞳を紅に染め、本気であることをグレイフィアに伝えた。
「それに私が次期当主である以上、婿の相手ぐらい自分で決めるわ」
「……お嬢様、あのような答えでは誰も納得できるはずがありません。興味の惹かれる殿方が現れたからと言って、旦那様方が決めた婚約を破棄しろなどと――」
グレイフィアの忠言の最中に鳴り響いた足音。
部室に反響する不可解な音に、グレモリー家のメイドは視線を奔らせて警戒する。
「―――? 気のせいですか……話の腰を折ってしまい申し訳ありません、お嬢様」
グレイフィアが警戒をする中、音の響いた直後からリアスは頭を悩ますこととなる。
十中八九、侵入者は大胆不敵な行動を取る彼ではないかと。
そんな彼女の様子を見て、侵入したのが彼女の手の者と悟ったグレイフィアは警戒を解いた。
「ちょうど良いわ、この話はもう終わりにしましょう」
「お嬢様……」
「不毛な会話をこれ以上続けるつもりはないわ。帰ってちょうだい、グレイフィア」
グレイフィアに言葉を紡がせることなく、リアスは決然たる口調で言い放った。
「今日のところはこれで帰らせて頂きますが、後日また伺わせて頂きますので」
このまま話し合おうとも、結論が出ることがないと悟ったグレイフィアは、綺麗に一礼すると魔方陣を展開し部屋を後にする。
転移の光が収まり、グレイフィアが姿を消した部室に一陣の風が吹き抜けた。
「あなたにも可愛いところがあるのね、ふふっ」
吹き抜けた夕風に流される紅髪。
窓枠に寄り掛かるリアスは、眷属の輪へ戻っていく麗人の姿を見付けて笑みを零すのであった。
本人が知り得ぬところで、勝手に利用されているラウル君でした。
ばっちりとリアスに利用されていました彼。
いつもの意趣返しでしょうか。
この後、プロローグ該当部へ戻る予定ですが、何処かこじつけ感が否めないところ。
グレイフィアも追い返しましたし、緊急性がない気が……。
故にプロット段階になかったサイドストーリーを構成中。
本文に書くか分かりませんが、書かなかった場合は後書きで補足いたします。
そして、初登場のグレイフィア。
セリフは少なくありましたが、こんな感じだったでしょうか。
物事を静観するような人物として描くつもりではありますが、勢いが足りない様な。
逆にリアスへラウル君の皮肉がうつった結果、彼女が口達者になったのが原因かもしれませんね。
アーシアの神器に関しての考察ですがあれが私なりの解釈です。
癒しのオーラによって回復する聖女の微笑ですが、急激に細胞を活性化させるにしては熱反応の描写がないところ。
故に、肉体の状態を読み取り細胞を作り直すのではないか。
ある種、生体創造系の神器の可能性があると言う見解に辿り着きました。
厳密に詰めるのではなく、回復のオーラだから再生しますでもいい気もしますが。
次回更新は速めにしたいところ。
今回が一日千字と言う超スローペースだったこともあり、感覚を取り戻していきたいです。
それでは次回は、ラウル君がリアスに襲われる(?)場面の前から。
クサイ描写に悶えながら、鋭意執筆致します。