ハイスクールD×D~円卓の銀鴉~    作:Licht10

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 一週間以内のようやく投稿成功。
 徐々に勘を取り戻していきたいところです。

 今回は侵入者さんにスポットを当てます。
 まあ、リアスも侵入者に変わりはないですけど、前回の後書きで言っていた人ということで。

 それではどうぞ。


五話 夜霧の侵入者

 森の奥に響いた甲高い清音。

 硝子の割れる音は激しい業火に呑まれた結界が崩壊したことを指し示していた。

 

「感覚を狂わす幻術に、練度の高い結界……この地に腕の立つ術者が巣食っているとは……」

 

 地表へ深々と刺さった儀礼剣を一瞥したグレイフィアは、想定外の事態に眉を寄せる。

 当主の命を受けてグレモリー家の令嬢たるリアスの後を追った。

 魔力の残り香を追って辿り着いたのは、リアスに管理を任せた土地の一角に広がる山林であった。

 一年と半年前に物好きが買い占めただけの変哲もない土地だったはずだ。

 

 それが足を踏み入れた結果はどうだろうか。

 一帯を覆い隠すよう巧妙に巡らされた霧と幻術の認識阻害の結界。

 霧と幻術の結界を抜けた先では、柔らかな土壌が隆起し、肥大化した木の根が足を掬う。

 葉の茂った枝が月明かりを遮る山林は、樹海へ迷い込んだと錯覚させるほどの悪路が続いていた。

 

「お嬢様が仰るっていた魔術師なのでしょうか……」

 

 不自然に広がる樹海は職務を全うするグレイフィアに牙を剥いた。

 奥に進めば進むほど地面はぬかるみ、土壌は足を止めんと地中に引きずり込もうとする。

 纏った魔力を諸共することなく。

 沼と言っても差支えない柔らかな土壌に呑まれたグレイフィアの衣服は、泥に塗れ大きな染みを作ることとなる。

 

「八幡ラウル……彼は報告に違わぬ人物のようですが、もう一度周辺を洗い直してみる必要がありますね」

 

 服を再構成することで泥汚れを落としたグレイフィアは、森の奥で待ち受けるラウルへの評価を改める。

 

 当初、ラウルの評価はリアスからの報告も含めて、極めて優秀な魔術師だと思われていた。

 四大元素に於いて風を司る気流や火を司る雷の魔術。

 音に聞こえた剣士の弟子たる騎士を圧倒した剣術。

 一報では神器や悪魔の駒に対する造詣もあるとのこと。

 実力を隠していることも含めれば、上級悪魔以上の魔術師と判断されていた。

 

 判断されていたのだが、身を以って彼の魔術に触れたグレイフィアは首を捻らざる負えない。

 この地に巣食う魔術師は優秀過ぎるのではないかと。

 

 それこそ――――悪魔である彼女たちの目へ(・・・・・・・・・・・・)留まっていても(・・・・・・・)可笑しくはないぐらい(・・・・・・・・・)には(・・)

 

 大規模な魔術や多彩な技能を取得しているとの報告から一代で築かれたものではない。

 加えて、人様の管理地に大規模な移転を軽々しく行ったことから、それなりの財力があることが伺える。

 財を成すのにはいずれかの形での社会との接触が不可欠であり、若さから判断するに有名な組織、またはその氏族にいると思われていたのだ。

 

 しかし、ラウルの影が作り出した事実は小説よりも奇である。

 確認のため魔術協会へ問い合わせたところ、八幡ラウルという名の魔法使いや魔術師は過去にも現在にも在籍していなかった。

 もちろん破門された記録すらなかった。

 魔術教会への非接触と若くして大成を遂げた魔術。

 彼の魔術師の背後には巨大な陰謀が潜んでいるようにならなかった。

 

 尻尾を掴むことすら叶わない彼の者であったが、グレイフィアにも理解できたことがあった。

 古典的でありながら実用的な精神攻撃を始め、奥にいけば奥にいくほど試練のように築かれた細工の数々。

 八幡ラウルという魔術師は些か趣味の悪い人物としか言いようがなかった。

 

「リアス……」

 

 グレイフィアはそんな魔術師の下へ転がり込んでしまった義妹の身を案じる。

 婚姻前に得体の知れない人物を頼った令嬢の純潔を。

 それ以上に義姉として、暴挙に出るまで追い込まれてしまったリアスの心身を。

 魔道の巣窟に踏み入れた銀髪の使用人は、行き先の暗い道を前にして瞳を揺るがせるのであった。

 

 

* * *

 

 

「状況はどうなっている?」

 

 天井から吊るされたシャンデリアが彩る大広間。

 突如現れた紅髪の少女も含め、六人の少女たちが結界を抜けてきた侵入者の対策を練るために円卓を囲んでいた。

 入り口を正面に見据える奥の席に座るのは女装の麗人。

 黒一色の騎士団服に身を包んだラウルが、状況把握に努めていたマリナへ現状を訊ねた。

 

「はい、侵入者と思わしき人影を第二層区にて監視用ゴーレムが確認。第一層区を容易に抜けてきたことから、相当の手練れと推測できます。第二層区の結界が破壊されるのも時間の問題かと」

 

 指先で眼鏡の縁を押し上げたマリナは、監視ゴーレムの映像を元に解析した情報を伝える。

 単騎で突入を敢行した侵入者。

 迷いなく屋敷のある方向を目指していることから、武術にも魔術にも長けていることが予想できた。

 猛者であると予想された侵入者は、既に幻術で構成された第一層区を抜け、第二層区に張られた結界の破壊を試みているのであった。

 

「黒……黒子(シャドー)は結界外の哨戒に就け。侵入者が一人とは限らないから慎重に……な」

 

「まあ、それが順当よねー」

 

 マリナの解析した情報を元に即席の作戦を立てたラウルは各自に指示を飛ばす。

 悪魔の令嬢が傍に居る以上、表に出すことの出来ない悪戯猫には視界の外で働くよう指示を出す。

 彼女の得意とする仙術を用いた隠密行動。

 隠密行動を前提とした指示に、黒子と呼ばれた女性は何処からともなく言承を伝えた。

 

「ルフェイは最終防衛ラインを構築。ティアはその警護に当たれ。屋敷の防衛は貴方たちに任せるぞ」

 

「承りました。屋敷はわたしが守りますね」

 

 鍔広のとんがり帽子に、花柄の描かれた外衣。

 あどけない顔を見せる魔女っ娘は丁寧な口調で、屋敷の防衛という重責を背負うのであった。

 

「納得できんな。折角の獲物なのだ、私に譲ってもらおう」

 

 しかし、業を司る龍王はラウルの立てた作戦に首を振ることはなかった。

 元は闘争本能を満たすために好き勝手振る舞っていたティアマットであったが、とある一件よりその振る舞いは鳴りを潜めることとなる。

 今でこそ気力を取り戻して多勢力への手出しをしているが、全盛期のそれには届かない。

 尻拭いをラウルがやっていることもあり、手間取らせるのを悪く思う半面、退屈な時に気を引く手段として用いるくらいのもの。

 時偶に行われる戦闘訓練に参加して、燻る闘争心を焚き付けるしかなかった。

 そんなときに舞い込んできた千載一遇の機会。

 本能を疼かせる彼女にとってこれ以上の好機を逃す術はなかったのだ。

 

「貴方が出ては辺りが荒れてしまうだろ。ルフェイと伴に庭先で待機をしてくれないか?」

 

「むむむ。まるで私が暴君のようではないか……」

 

「そう不貞腐るな。後で私が相手をしてやるさ」

 

 ラウルは唸り声を上げるティアマットに苦笑を隠せない。

 真摯に頼み込めば不満を口にしながらも、卒なく応じて見せるのだ。

 無愛想でありながらどこか憎めない龍王様。

 愛嬌たっぷりのティアマットの要望に、ラウルは形を変えて応えると口約束をする。

 

「いいだろう……だがな、ラウル。今日は寝れると思うなよ」

 

「……程々にな。日中休めれる貴方と違って、私は学生なのだ。そこを考えてもらいたいものだ」

 

「ふんっ! 知ったことか。足腰立たぬように痛めつけてやろう。精々、足掻くといい」

 

「それは楽しみだ。侵入者の迎撃がてら、身体を温めておくようにしよう」

 

 笑みを深めて闘争心を視線に乗せる魔術師と龍王。

 似た者同士、共感するところがある主従であった。

 彼らが火花を散らしている間も状況は刻々と変化していく。

 

「第二層区の結界の破壊を確認、再構成までの時間は後180秒。また、結界を破壊した侵入者は第三層区を快走中です」

 

「第三層区は何もないからな。直に抜けられるだろう」

 

 報告を受けたラウルは難敵から視線を外して宙を向く。

 ラウルは細指で宙に弧を描くと第三層区に仕掛けた細工を起動する。

 

「グレイフィアッ!?」

 

 宙を開いて現れた数十にも上る映像。

 遠近の間隔を置いた映像は当然のこと、空高くから見下ろす鳥瞰図、低視線から見上げる虫瞰図や地中から動きを捉える土竜図など、多種多様な映像が全方位から抜け目なく対象を映し出す。

 そして、数多の視線によって監視するように投影される被写体はリアスの良く知る人物。

 屋敷の方角へ向けられた凛々しい銀の瞳。

 両肩に垂れるおさげが風に靡き、足首丈のスカートは颯爽と駆ける彼女の五体に引かれてはためく。

 何処かの赤龍帝が食い付きそうな銀髪のメイドであった。

 

「なんだ、貴方のところのメイドさんか?」

 

「え、ええ。あなたも知っているでしょ?」

 

「さてな? 私も初めて見るからな。噂程度は知っているつもりだがな」

 

 リアスの問いにラウルは白を切る。

 大禍時に見付けたメイドの姿は、盗み見ゆえに見なかったこととした。

 胡散臭いものを見るようなリアスの視線を遮るようにラウルは手を打つ。

 茶番は終わりだと空気を入れ替えたラウルは最終的な命令を下す。

 

「状況は以上の通りだ。第五層区にて私とマリナで迎撃。振り切られた時のため、第七層区に戦闘用ゴーレムを配置する。目標は捕縛、最悪の場合は殺害も厭わない」

 

「ちょっと!?」

 

 ラウルの下した非常な命令に、黙して会議の動向を探っていたリアスは堪らず声を上げた。

 

「何かご不満か、グレモリー嬢?」

 

「不満に決まっているでしょ! グレイフィアは家のメイドなのよ、傷付けないでちょうだい」

 

「私たちからすれば、無作法な侵入者にしか過ぎない。人様の家に土足で上がり込んだ者に、咎めなしとはいかないだろ」

 

「それでもよ! あなたたちに討たせるわけにはいかないわ!」

 

 声を荒げるリアスは最強の女王であるグレイフィアを討てるのだろうかと疑問を抱く。

 魔王ルシファー眷属の女王グレイフィア・ルキフグス。

 彼女は嘗て、冥界最強の女性悪魔の座を争った片割れである。

 もう一人の女性悪魔は魔王の役職についていることから推測できるように、グレモリー家のメイドの実力は魔王級と言われている。

 

 一方で、ラウルたちにはそれを可能とする力があるのではないかと不安に駆られる。

 グレモリー眷属を剣技のみで一蹴した自称魔術師を筆頭に、円卓に座る彼女たちは猛者が揃っているのではないかと思われたのだ。

 

 黒髪金眼の母性豊かな身体つきをした女性。

 ラウルと軽い口論を交わした彼女は間違えなく戦闘狂の類いである。

 裏の世界で闘いを好む者は総じて実力者であることが多い。

 生き延びるために己を鍛えたにも関わらず、闘いを重ねる内に命のやり取りを行うことへの快楽を見出してしまうからだ。

 もちろん例外も存在するが、陣頭指揮を執るラウルを見詰めるティアマットもまた、それに属する香りを漂わせていた。

 

 そんな熱い視線を一身で受けるラウルの傍らへ座り補佐に回る黒ローブ姿の女性。

 双子と見紛うほど顔立ちの良く似た彼女も実力者であると思われた。

 突如として降りかかった災難に、揺らぐことすらなく赫々と鋭い光を放つ瞳がその証拠だ。

 彼女もラウルと伴に迎撃に出ることから間違えはないだろう。

 

 大人しく席に着いて会議に参加する少女の姿も忘れてはならない。

 幼なさが抜け切らない少女が、魔術師を筆頭とする集団の中で魔女の姿を装い、平然と会議に参加している。

 一人前と扱われていることから非凡な才能の持ち主であることが窺えた。

 

 唯一剣を携える蒼銀の少女は護衛と思われ、同時にラウル以上の剣術使いだと明言されていた。

 姿を見せない黒子と呼ばれた女性も含めれば十分な戦力になる可能性が高かったのだ。

 

「ならば、貴方が説得を試みてみるか?」

 

「……そうね。私を追ってきたのだろうし、私が話を付けるわよ」

 

 不敵な笑みを浮かべる麗人は荒ぶるリアスへ代替案を提示する。

 自身が起こした問題は自身で解決してみるかと。

 下唇に指を付けたリアスは悪くない案だと快く了承するのだった。

 

「ルチア、彼女の警護に就け」

 

「はいはい。ほんと、ラウルは素直じゃないよね」

 

 方針が決まったラウルは残っていたルチアへ役を振った。

 応じたルチアは展開が読めていたと言わんばかりに苦笑を浮かべる。

 遠回りをしてまで相手の意を汲もうとする行動は、勘の良い少女に見抜かれていたのだった。

 

 おもむろに席を立ったルチアは、護衛に付くこととなったリアスへ挨拶をする。

 護衛対象と挨拶を交わすのは不思議なことではないが、会議の流れで立ち振る舞う彼女の行動は性格がよく出ていた。

 

「初めまして、リアスさん。いつもユウ……今は佑斗だったかな? 弟分が世話になっています」

 

 にっこりと人懐っこい笑みを浮かべる少女。

 手を差し出すルチアが紡ぎ出した言葉の羅列にリアスは呆気に取られた。

 ルチアの言葉を信じるとするなら、彼女はリアスの眷属の姉分となる。

 思いがけない出会いに口を半開きにするリアスは言葉を失ったのだった。

 

 それは成り行きを見守っていたラウルでも変わりはしなかった。

 ルチアの胸内で燻っていた不安の種。

 佑斗との再会の機会が用意されても躊躇してしまうほど大きな楔となっていた。

 戸惑っていたにも関わらず、迷いなく公然の秘密を口へ出した彼女の行動に度胆を抜かれたのであった。

 

 しかし、ラウルの驚きも刹那の内に消え失せることとなる。

 驚愕に固まったリアスを置き去りにして、当人のルチアはお茶目に瞑った片目を向ける。

 褒めてとばかりに目配せを送る少女の尾髪を振る姿に、ラウルはどこか安堵を覚えるのだった。

 

「弟分……っ!? まさか、佑斗が言っていたお姉さんって――」

 

「ルチアで間違えない。姉と言っても血の繋がりはなく、出会ったのもあの……施設のようだしな」

 

 静かな大広間に息を呑む音が響いた。

 リアスの騎士もあの忌まわしい教会の施設の出身であるのだ。

 被害者と思われる少女が、ラウルが語った真実は素直に受け止めるには重い話であった。

 

「感傷に浸るのは後ほどに。貴男は自身のやるべきことを忘れないようにしてください」

 

「んんっ! マリナの言う通りだな。詳しい話は目下に迫る脅威を取り除いてからにしよう」

 

 居た堪れなくなった空気を切り裂く叱声。

 マリナの鋭い眼差しを受けたラウルは咳払いをして気持ちを切り替える。

 気を取り直すと皆を奮い立たせるように檄を飛ばした。

 

「敵はグレイフィア・ルキフグス。彼のルキフグスの生き残りにして、冥界屈指の実力者だ。各自、心して当たれ!」

 

『Yes,sir』

 

 ――異口同音。

 無事を願うラウルの檄に少女たちの心は統一された。

 目指すは最強の女性悪魔の捕縛。

 円卓に集った少女たちは屋敷の防衛を第一に役目を全うするべく動き始めた。

 

「さあ、我が工房に立ち入った愚かな悪魔を盛大に出迎えようではないか」

 

 結界を破った無作法な侵入者に不敵な笑みを送る麗人。

 不可侵のラウル邸にて真夜中の迎撃戦が幕を開ける。

 

 

* * *

 

 

 暗然とした山林に響き渡る轟音。

 薙ぎ倒された樹木が悲鳴を上げ、閃光と伴に破裂音が散発的に上がる。   

 不条理に破壊されいく自然が戦いの激しさを物語っていた。

 

「……下手を打ちましたかっ!」

 

 木々の合間を駆け抜けるグレイフィアの顔には焦りが浮かぶ。

 地を這いずる漆黒の影が執拗に追い駆けてくるのだ。

 半刻近くにも及ぶ逃走劇に、義妹の安否を気遣うグレイフィアは苛立ちを募らせていた。

 

「いい加減にっ!!」

 

 感情に呼応して膨れ上がる魔の波動。

 大気を震わす魔力は描かれた魔法陣より形を為す。

 グレイフィアは振り返りざまに地面へ魔力を放出する。

 

 着弾した魔力は激しい轟音を立て土壌を巻き上げた。

 木の葉が、堆積した粘土や流砂が衝撃に煽られて舞い上がった。

 当然、抉り取られた地表は重力に引かれ地に降り注ぐ。

 個々が小さくあれども、膨大な体積を成して雨霰の如く降り掛かるそれは馬鹿にできない。

 抜け間なく降り注ぐ土砂は執念深い追跡者たちを呑み込んだ。

 

 されど、自然の猛威を以ってしても、その者たちの勢いを削ぐことは叶わない。

 銀髪のメイドを付け狙うのは千を超える妖蛇の群れ。

 魔力を喰らい数を増やした蛇たちは降り注ぐ土砂を意とすることもなく、極上の霊肉を貪らんと一心不乱に襲い掛かる。

 

「全く……趣味が悪い」

 

 巻き上げた土砂を囮にして樹の幹の裏へと身を隠したグレイフィアは、用意されていた罠の悪辣さに声を尖らせた。

 

 発端は意識を誘導されたグレイフィアの初歩的な失敗にある。

 次々と襲い掛かる姑息な罠に精神を擦り減らしていた彼女の前へ姿を現した地雷。

 人界に於いてクレイモアと呼ばれる形状の地雷からは、暗がりで輝きを放つワイヤーが伸びていた。

 足首の高さに張られたワイヤーであったが、罠を張るのが魔術師ということを考慮すれば起動方法は異なってくる。

 僅かな魔力が宿っていることから、何かしらを感知して作動するとグレイフィアは考えた。

 今までの罠を鑑みるに、吐き出される鉄球にも呪術の一つでも込められているだろう。

 

 ここまで推測できたのだから迂回すればいいものをグレイフィアが選んだのは破壊の一択。

 好き放題罠を張り巡らす魔術師への怨嗟を込めて、あからさまに仕掛けられた偽造爆弾(ブービートラップ)へと、安易に魔力を向けてしまう。

 グレイフィアの手を離れた魔力は本命の罠を作動させてしまったのだ。

 

「本当に厄介な御方です……」

 

 眉を顰めて非難を口にするグレイフィアは、目下で這いずり回る妖蛇に視線を向ける。

 忌まわしい妖蛇は暗闇に潜んでいた漆黒の靄から生まれることが分かっていた。

 漆黒の靄は魔力もしくは魔法生成物を糧として肥大化し、分裂することで妖蛇の数を増やすのだ。

 魔の力を主軸に置く彼女たち悪魔には正に天敵と言えよう。

 世界の拮抗を崩しかねない術を組んだ魔術師に興味の湧くグレイフィアであったが、今は沸き上がる好奇心を抑える。

 

「お嬢様を迎えに上がった暁には、少しばかり締め上げるとしましょう」

 

 冥界の安泰のためにも、危険度の高い人物を放置するわけにもいかない。

 堪りに堪った鬱憤を晴らすついでに従属関係を築いておく。

 このお家騒動が終わってから結ばせるであろう契約においても有利になるはずだ。

 リアスと一定以上の信頼関係を築いている魔術師を一度は吊るすと、グレイフィアは心に深く刻みつけるのであった。

 

「あの厄介な魔術を撒くことができたようで僥倖です。同じ轍を踏まないように気を付けませんと――ッ!?」

 

 去っていく妖蛇の背を木陰で見送ったグレイフィアは小さく息を吐いた。

 歴戦の勇士とはいえども悪魔である以上、魔力とは切っても離せない関係にあったのだ。

 限定的ではあったが己の半身を封印せざる負えない状況には緊張を抱いていた。

 魔力を喰らう妖蛇も去り、辺りには漆黒の靄も見えない。

 制限の外されたグレイフィアの胸には安心という言葉がすっと落ちた。

 

 しかし、その気の緩みが魔道の巣窟では致命的であった。

 背後より伝わるのは聖なる波動。

 グレイフィアは咄嗟に行動を起こそうとするが、視界の端に映る剣先が反撃を許さない。

 

 最強の女性悪魔とまで称された女王の背後を容易に取った剣の担い手は静かに口を開いた。

 

「ここまでにしてもらおうか、侵入者殿?」

 

 銀髪の悪魔の首筋へ聖剣を添えた麗人。

 薄氷の瞳に剣呑な光を宿らせたラウルは、凛とした声音で投降を促すのだった。

 

 




 次回、ラウル君VSグレイフィア!

 最強の女王はこの程度で終わりはしない。


 といつもの次回予告を後書きの始めに持ってきてみました。

 う~ん、グレイフィアさんの口調が難しいです。
 これで良かったのでしょうか?
 原作でもメイドとして動いていたので、事務的な言葉も多いですし。
 ご指摘いただけると助かります。

 そして、最強の女王としての戦闘シーン。
 次回設けるつもりですが、戦い方はほとんどオリジナル。
 12巻だけのワンシーンで全て読み取るには無理があります。
 ネタでハリセン……ないです、在り得ません。


 今回、ラウル君が色々と仕掛けていましたが、後日ラウル君が説明の機会を設けますので暫しお待ちを。
 この章のタイトルにもなっている通りだと思って頂いても構いません。

 それでは次回、またお会いしましょう。
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