書いてもいいのですが、それで一話潰しそうなので。
追っ手を撒いたラウルたちはファーストフード店に入り密談がてら、軽食を取ることになった。
場所について言及した一誠に対しラウルは――。
「なに、英国育ちの私としてはティータイムを押して然るべきだろうよ」
「味に当たりはずれがなく、万民受けする嗜好品としては最高の部類に入るのではないか?」
「格式の高い店を選んでも良かったが、イッセーは話どころではなくなるだろうからな」
――等と宣い、反対する理由もなく決定した。
また、支払いは全てラウル持ちであり、一誠としてもこれ以上追及することはなかったが。
「滑稽無灯な話だが心して聞け」
端正な顔を寄せてくるラウルに対して、一誠は気が気でなかった。
漸く手がかりを得た、彼女の情報。
また、それ以上に目の前の幼馴染が原因であった。
中身は男だと頭で理解していても、見た目は稀なる美少女なのだ。
普段は自分が向ける嫉妬と羨望の眼差しを向けられていることも拍車を掛けていた。
「天野夕麻についてだが……確かに存在した」
ラウルは懐から一枚の写真を取り出すとテーブルの上に置く。
「っ!? 夕麻ちゃん……」
一誠は身を乗り出して、写真を手にする。
写真の中に映るのは濡れ羽の様に黒い長髪の美少女。
一誠の彼女にして、夕暮れの公園で殺そうと襲いかかってきた天野夕麻だった。
「焦るな。愚直なまで真っ直ぐで熱心な所はイッセーの美徳だが、人の話を聞かないのはいただけないな」
「……褒めてんのか、貶してんのか、どっちかにしろよ」
「長所と短所は表裏一体、単なる言葉遊びに過ぎないものだ」
一誠はジト目をしてラウルを見るが、彼は軽やかに笑って応える。
「落ち着いたか?」
「ああ」
「続けるぞ。天野夕麻が存在したということなのだが、正確に言うとだな……天野夕麻と言う人間を語った異形の存在が居たということだ」
「異形の……存在? スライムみたいな?」
「す、スライムか……? まあ、あれもあれで異形の存在には間違えないな」
「そ、そっか……」
一誠が異形の存在と聞いて、まず思い起こしたのはゲル状の生物だったのは流石としか言いようがない。
ラウルが是と答えると、一誠の表情がだらしなく崩れる。
今までの緊張感は何処に行ったのかと嘆息するラウルであった。
「スライムは置いておいてだな。イッセー、貴方が公園で彼女に刺されたことは覚えているだろ」
「なっ!? なん……で……そのことを……」
夕麻に関しては一誠が紹介したことから知っていても問題ないのだが、公園の件は話が別である。
公園で刺されたことは一誠と彼を刺した夕麻しか知りえない事柄であったはずなのだ。
「ま、まさか……ラウル、お前が……」
「だから、落ち着け」
とんでもない結論に至ろうとした一誠は、手刀を見舞われる。
ラウルに夕麻を紹介した時点で、その可能性はほぼないに等しいことぐらい、冷静に考えれば導ける筈だ。
テーブルに沈む一誠を見て、外野の野次馬たちは「修羅場! 修羅場なのね!!」と勘違いしている者もいた。
「起きろ一誠。邪推するのは構わないが、話が進まないので家に帰ってからにしてもらいたい」
のそのそと起き上る一誠を見て、ラウルは話を続ける。
「公園での一件を知っているのは、尾行をしていたからに相違ない。彼女を一目見たときから異形の存在だと気付いていたからな。悪いとは思ったが後を付けた次第だ」
一誠は悪いと言いながら、悪びれもしない幼馴染を再びジト目で見る。
夕麻と居た当時に、異形の存在だと聞いても信じなかっただろうし、デートプランを立てた時に注意でもしてくれていれば、と思わないでもない。
さらに言えば、襲われた時になぜ助けてくれなかったのかと高望みもしたりする。
もっとも、言えるはずもないので結局はジト目で見ることしかできなかった。
「それでだ、イッセーが刺された時の状況をよく思い出してほしい。彼女の背中に何があったか覚えているか?」
「黒い……黒い翼! 夕麻ちゃんの背中には黒い翼が生えてた」
「生えていた……まあいいか、その黒い翼が異形の証だ。翼など本来、人間にあるはずもない器官だからな。つまり、イッセーは人ならざる者に化かされたという訳だ」
「化かされたって……そんな……でも、俺刺されたはずだよな」
自身の記憶とラウルの証言。
最早、夕麻が異形の存在であることを一誠は認めざる負えなかった。
しかしながら、理解できないのは刺されたはずの切創である。
切創は胸を突き抜けており、素人が見ても致命傷なのは疑いもなかったはずなのだ。
なら何故、今もこうして生きているのか。
その答えを目の前の幼馴染が持っているとは、露程も思っていなかった。
「それは私が治したからな」
「治したっ!?」
しれっと、想定外なことをラウルは言ってのける。
裏に精通してそうな感じ、いとも容易く致命傷を治療したこと。
そして何より人離れした美貌の持ち主だ。
こいつこそが異形の存在ではないかと、一誠が邪推してしまうのも無理ないことであった。
「まあ、私だけではなかったが、そのことは追々話そう」
一誠の困惑を他所に、ラウルは紙ナプキンで口元を拭く。
使い終わった紙ナプキン綺麗に折りたたみ、トレーの上にある容器を纏める。
「今日はここまでだ。知りたいことはまだまだあるだろうが、今はゆっくり休んで気持ちを整理するべきだ」
ラウルはイッセーの肩を軽く叩くと、ゆったりと席を立ったのだった。
* * *
「……撒かれました、すいません」
「申し訳ありません……」
神聖な校舎の裏手に位置する旧校舎の一角。
オカルト研究部と名を打った室内の至る所に描かれるのは幾何学文字。
中央より広がる人の目を引く円陣には、悪魔の家紋である紋章が面妖に輝いていた。
そして、部屋の奥――王座たる席に端座するのは、美しい紅の長髪を持つ姫君であった。
背徳的な雰囲気の漂う一室で、主である紅の姫に対して、男女一組の悪魔が頭を下げていた。
「そう……撒かれてしまったものは仕方ないわね」
紅の姫は麗しい顔を顰め、嘆息を吐く。
眉間を解きほぐすと、自らの下僕に姿勢を直すように促す。
「彼は思ったよりやり手の様ですわね」
微笑みを浮かべながら、頬に手を付き小首を傾げる女性。
まるで大和撫子を体現したが如き女性は、艶のある黒髪を駿馬の驥尾のように纏め、妖しく躍らせていた。
「もしかしたら、校舎裏の時点で気付かれていたのかもしれないわね」
「……校舎裏の時点でですか? 尾行の途中ではなくて?」
「小猫たちと別ルートで追わせていた使い魔も撒かれてしまったわ」
「……部長の言う通りでしたら、かなり厄介なことになりますわね」
紅の姫たちは彼の存在を再評価する。
この部屋に集まった彼女達は人ならざる者たち。
その存在に気づき、包囲網を易々と潜り抜けるなど、並大抵なことではなかったのだ。
ともすれば、彼は彼女達と同じ人外種。
もしくは、その存在を知りえ、裏の世界に精通する、稀有な力を宿した人間やも知れなかったのだ。
「八幡ラウル、学年は二年生。成績、素行とも良好、性格は社交的。人離れした、その容姿から男女ともに人気が高く、近隣では女子生徒と間違われること多数。出生はこの町で、特記事項といえば半生を過ごした英国より舞い戻った帰国子女、ということぐらいかしらね」
「私たち二人と合わせて【駒王学園の三大美女】と呼ばれているのをよく耳にしますわね」
一般的には男の娘、学園内だと女装麗人なんて呼ばれていますわよ、と黒髪の女性は付け加える。
「佑斗、そういえばあなたは何度か彼と手合せをしていたわね」
「週に一度、剣道場にてやらせて頂いてます」
佑斗と呼ばれた、美男子の悪魔は流暢な口調で主に問いに答える。
その甘い顔立ちはうら若き少女達の視線を独り占めする。
「実力的にはどうかしら?」
「正直な所、底が見えません。お互い防具をつけるのを嫌がっているので、ほぼ実戦に近い感じで竹刀を交えるのですが、未だ勝てたことがないのが現状です」
しかし、口から洩れたのは驚愕の事実。
件の女装麗人は、騎士を司る金髪の貴公子と互角以上の戦いを繰り広げると語る。
「……それは悪魔の力を開放してでもかしら?」
「はい、去年の秋に挑発に乗ってしまってからは、使わせて頂いています」
その偉業は悪魔の力を以ってしても、なお衰えることはない。
「冗談……ではなさそうね。その様子なら、駒の特性も用いたことがありそうね」
「……一度だけですが」
「一度? 意外に少ないわね……その様子だと何かあったのかしら?」
「ええ……ちょっとした事故で勝負は着きませんでしたが」
金髪の貴公子はバツの悪そうに曖昧な笑いを見せる。
本人も語り難いことなのだろうと、紅の姫は興味を引いたがそれ以上尋ねることはなかった。
「とても特殊な訓練を受けた人には見えなかったのですが……やはり、神器持ちの方でしょうか?」
「その可能性があるのは間違えないのだけど――」
黒髪の女性の問いに、紅の姫は首を振って見せる。
「――彼は
『っ!?』
そいて、紅の姫が導き出した結論は悪魔たちに緊張を奔らせる。
悪魔祓い――――。
――曰く、聖書の神の下に集いし、使徒であると。
――曰く、神の威光を以って、魔を滅することを生業にすると。
――曰く、人界に住む悪魔にとって、最大の天敵であると。
悪魔にとっては古より続く戦にて、覇権を争う仇敵の使徒であった。
「流石にそれは飛躍しすぎでは?」
「……先輩は意地悪ですけど……悪い人には見えませんでした」
「彼が教会の人間だなんて……僕には信じられません」
主が導き出した結論が信じられないと下僕たちは語る。
仮に事実だとすれば、かの麗人は使徒であることを微塵も感知させずに学園に潜り込んだことになるからだ。
それ以上に、彼の人当たりの良さを目の当たりにしてきた少女達にとって、受け入れ難いことであった。
「彼が住んでいた倫敦は聖公会の……その母体ともなったと言われる英国国教会の御膝元。可能性は少なからずあるわ」
「それは……」
「それに駒の力まで解放した佑斗の剣についてこれたのも説明着くわ」
金髪の貴公子が騎士の駒の特性を開放のなら、同じ悪魔であっても捉えることは難しい。
グレモリー眷属、随一の速度と剣の腕が彼の売りであったのだ。
「だけど、もしも教会の人間でなかったら、この駒を使う価値は十分にあると言えるわね」
人ならざる美しさを宿した紅の姫の白き指には、馬の頭部を模した一つの駒が弄ばれていた。
「リアスは彼を眷属にする気満々ですわね」
「当り前よ、佑斗をここまで唸らせる人材を腐らせるには惜しいわ」
必ず自らの物にすると、紅の姫は豊満な胸に手を当て気概を見せる。
「それに……先日、眷属した子の幼馴染。これは何か秘めているものが、あるに違いないわ」
「
「そうよ、駒を八つも転生に消費した悪魔だなんて未だ嘗てないことよ」
駒八つ――およそ、転生悪魔八人分の価値が、新入りとなる兵藤一誠にはあった。
これは極めて異例な事であり、下手をすれば神の創造物、奇跡を織りなす
その幼馴染でもあるラウルにも、それと同等の期待を寄せるのも無理らしからないことであった。
「……部長」
「なにかしら?」
「……新米悪魔の先輩は……悪魔祓いの先輩と行動中……」
物静かな白髪の美少女は発言する。
悪魔でもある一誠と悪魔祓いかもしれないラウルが行動をともにしている危険性を。
「だ、大丈夫よ! 幾ら悪魔祓いとは言え、人間ですもの! いきなり親しい仲の幼馴染が悪魔になったから祓う、なんて展開にはならないはずだわ!!」
「リアス、落ち着いてください」
「朱乃! これが落ち着ける訳がないじゃない! 兵藤君は悪魔になったばかりなのよ! 右も左も分からないような子が悪魔祓いの犠牲になるだなんて……」
紅の髪を振り回し、姫は見目麗しいその玉顔に絶望の色を映し出す。
注意を怠っていた所為で下僕が危機的状況にあると。
このままでは幼馴染の皮を被った悪魔祓いに、自身が転生させてしまった一誠が討たれてしまうと。
親愛の情念が深いグレモリー家の息女としては耐え難いことであった。
「八幡君が悪魔祓いかもしれない、という話をしたのはリアスですわよ。加えて、八幡君の話は可能性の域を出ない話。彼は案外善良な市民かも知れませんわよ?」
「そうね……落ち着いたわ朱乃」
警戒の対象が人畜無害な存在だと、微塵も思っていない女性ではあったが、敢えてその可能性を述べる。
いきの利いた冗談に、女性の心遣いを感じ取った紅の姫は落ち着きを取り戻した。
「でも……万が一、彼が悪魔祓いで、私のかわいい下僕を傷つけようものなら……」
「その時は私もお供させて頂きますわ」
暗幕の下りた一室で女悪魔二人は、一人の男の未来図を描いて高笑を上げる。
知らず知らずの内に伸ばされた魔の手は、ラウルの背中に悪寒を奔らせたのだった。
Warning ラウルに悪魔祓いの嫌疑が掛かりました。
Warning 一誠君、ピンチです!
といった感じの二話でした。
このままいくと一誠君は板挟みに、となりそうな展開ですね。
昨日募集を始めたアンケートなのですが、感想欄への返信は利用規約に掛かる様なので、もう一度書かせて頂きます。
(F&Aを見る限り、前・後書きでの募集は大丈夫だそうですが)
募集内容は、主人公の服装についてです。
普段は良識を持って男子制服。
此処は思い切って女子制服で。
気分によって制服を切り替える。
読者の皆様の脳内補填で好きにしてもらう。
などの構想があるので、描写は控えさせていただきました。
しがないことですが、アンケートを取らせて頂けたらと思っております。
期限は今週一杯。月曜を迎える午後0時とさせて頂きます。
もし、女子制服を着るようなことがあれば――。
風が舞い上がり、スカートが花弁の如く広がる。
大股を覆う布地が捲れ上がり、白雪の如き柔肌が顕わになる。
などの描写が入ることでしょう。
回答場所は活動報告、もしくはメッセージにてお願いします。
しつこいようですが、感想欄ではいけません×。
感想欄に書かれた方は活動報告に場所を作ったので、お手数をかけて申し訳ありませんが、よろしくお願いします。
(作者も先程知ったばかりでした、無知をお許しください)
次回、一誠君の日常は平穏から乖離していきます。
それでは、また明日お会いしましょう。