ハイスクールD×D~円卓の銀鴉~    作:Licht10

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 銀髪の麗人VSグレモリー眷属。
 不快な描写もあるでしょうが、最後までお付き合いいただけると嬉しいです。


四話 一誠の目覚め

「小猫! 佑斗! 相手は高位の術師よ! 油断無くなさい!!」

 

 ラウルは銀の短剣を逆手に持ち、グレモリー眷属の王リアス・グレモリーに駆け迫る。

 首級を狙われるリアスは自らの眷属に掛け声を掛け迎え撃つ。

 

「君とはいつの日にか、真剣で切り結べる日が来ると思ってたんだ。こんな形で残念だけど、本気で行かせてもらうよ」

 

「……先輩の作るお菓子はとても美味しかったです……もし抵抗しないなら、その腕だけは残したあげますよ」

 

 前衛を務めるのは騎士と戦車の二人。

 有り余る速度で敵の足を刈り取るのは、八双の構えの佑斗。

 王の御前に立ち、城塞の如き護りと砲台の如き一撃を以って、敵を押し返す小猫。

 待ち構える彼らの数歩手前でラウルの脚から魔力が迸り、地面が弾ける。

 銀の残像が音を置き去りにして、騎士に肉薄する。

 

「速いっ!? がっ!?」

 

「佑斗っ!?」

 

 銀閃が煌めき、甲高い金属音が響き渡る。

 距離を見誤った佑斗は一刀の下に、得物を失う。

 得物を弾き飛ばしたラウルは、魔力を纏った踏込みにより音速を突破したその身体を以って追撃に掛かる。

 軸足となる左足を起点に魔力を消費する事で、得られた驚異的な脚力が身体を前へと押し出す。

 右膝を折り畳み、得物を失いがら空きの身体に向け差し込む。

 内臓まで抉り出さんとする膝蹴りによって、佑斗は目を口を見開く。

 鳩尾を抉られ宙に浮き放れていく騎士の身体に対して、逃がすまいとラウルは右足で宙を蹴る。

 腰の捻りを以って、繰り出されるのは蛇の一撃。

 細脚は竹の如き撓りを見せ、爪先が再び鳩尾を捉える。

 さらに、深く踏込み全体重を靴裏に乗せ、佑斗の身体を蹴り飛ばした。

 

「……足元注意です」

 

「頭上注意だ、小猫」

 

 着地の瞬間を狙った小猫の攻撃は、ラウルが魔術を使って宙に身を浮かせたことによって躱される。

 宙を足場にしたラウルは、体を捻り頭部目掛けて蹴りを繰り出す。

 上空から繰り出された蹴りではあったが、小猫は体を逸らし避けて見せる。

 反撃を躱した小猫はそのまま、柔軟な体を以って宙返りによる逆襲を繰り出す。

 ラウルが高度を上げ難なく避けると、小猫は俊敏な動きをし距離を取った。

 一瞬の攻防にて騎士は打ち砕かれ、戦車は後退を余儀なくされたのだった。

 

「朱乃!!」

 

「お痛の過ぎる子には少々、お仕置きが必要ですわね……雷よ!」

 

 にこやかな表情を浮かべながらも、朱乃の眼は真剣さを帯びていた。

 黒髪を躍らせると、天に向かって手を翳し、天空より一条の雷を呼び寄せる。

 

「風よ――」

 

 ラウルは天空より迫る雷に対して、銀の短剣を掲げて見せる。

 紡ぎし一節は内包する起源を呼び起こした。

 短剣の表面に文字が浮かび上がり、周囲の空気が流動を始める。

 ラウルが方向性を示すと渦巻き、雷を防ぎ辺りに散らした。

 

「消飛びなさい!」

 

「風よ、刃と化し切り裂け」

 

 続いて放たれるのは本命であるリアスの魔力。

 魔法陣より放たれるは黒光りする赤光。

 有り余る魔力は迸り、ラウル目掛けて奔走する。

 リアスの魔力を見たラウルは空気を圧縮し、風を鎌鼬と化せて迎え撃つ。

 両者の間で赤光と鎌鼬が鬩ぎ合う。

 

「ちっ」

 

 鎌鼬では打ち勝てないことを悟ったラウルは、射線上を離れる。

 事実、鎌鼬は赤光を僅かに削いだが、呆気なく消飛ばされた。

 

「今のがグレモリーの……否、バアルの滅びの力か」

 

「ご名答。わたしがお母さまから受け継いだ、万物を消し去る滅びの魔力」

 

「降参なさるのなら、お早いうちが宜しいですわよ。部長の力に消されたものは、戻ってきませんからね。それに……お話しするなら活きの良い内が、宜しいですし」

 

 リアスは力を誇り、朱乃は見る者を蕩けさせる艶やかな恍惚の笑みを浮かべる。

 高慢な態度で投降を促す彼女達にラウルは目を細めた。

 

「り、リアス先輩、いま物騒な言葉が聞こえたんっすけど嘘ですよね……」

 

「嘘ではないわ、イッセー。教会と悪魔は交わらない運命なの。残酷なことを言うようだけど、幼馴染とは言え彼が悪魔祓いならば、いつかはこうなる運命だったのよ」

 

「でも、俺……悪魔じゃないっす。なのになんで――」

 

「現実を見なさい」

 

 リアスは一誠の頬に手を当て、正面から澱みない瞳を言い聞かせるように合わせる。

 彼女が言い聞かせるのは裏社会の掟。

 悪魔と悪魔祓いは相容れず、その背後にいるのは怨敵であると。

 幾ら親しい幼馴染であっても、その運命から逃れることは適わないと、状況を呑み込めない一誠に説いた。

 

 納得のいかない一誠は必死に考えを巡らせ、現状を打開しようとする。

 されど、理不尽なこの世界に、一般市民であった彼が抗う手段など存在しなかった。

 必死に抗おうとする一誠の姿を目の当たりにして、良心の呵責に耐えられなくなった彼女は、逃げるかのように目を逸らした。

 

「ごめんなさい……あなたを勝手に悪魔に転生させたのは私なのに、都合のいいことばっかり言って……」

 

「い、いえ……俺も夕麻ちゃ……堕天使に刺された傷をあのまま放置されてたら、死んでしまっちゃってますし、先輩が治して下さったんですよね……先輩とラウルが二人で……」

 

「そ、それは……」

 

 一誠が辿り辿りに紡いだ言葉に、リアスは碧玉を彷徨わせる。

 生き残らせる為にと一誠は語ったが事実は違った。

 彼女が到着した時に残されていたのは、血塗れの少年だけ。

 語ることにない、悟られていない、彼女のみが知りえる隠された真実は、一層のこと良心を蝕む。

 

「私が治せたのは肉体の欠損部分だけだぞ、失った血までは無理だからな。悪魔に転生することで、真の意味で死を回避できたのだ。感謝こそすれども、恨むのは筋違いというものだ」

 

「ほら、ラウルもこう言ってますし……って、なに二人とも争っているんすか! 俺を治した時には、二人一緒に直したんっすよね? 二人の共同作業……なんて」

 

 見るに堪えない状況にラウルは手を差し伸べる。

 ラウルが語るもまた真実。

 治療こそしたが、失血による生命活動の低下は免れぬことであった。

 血を失った状態で何もしなければ、一誠の灯は当に尽きていたことであろう。

 仮に、ラウルが何もしなければの場合だが。

 

 リアスは告げられた真実に、自身が行ったことは正しかったと、心を蝕む重科から解放される。

 隠された真実に気付ける筈のない一誠もまたラウルの言に乗り、袂を分かった二人の仲を取り持とうとする。

 

「勘違いをするな、イッセーよ。私が傷を治し去った後で、彼女は現れ貴方を悪魔に転生させたのだ。協力など、一度もしたことはあるまい」

 

「……彼の言う通りよ。わたしがイッセーを転生させたときには、すでに傷痕すらない状況だったから」

 

「そんな……」

 

 だが、ラウルは和解の為に差し延ばされた手を払って見せる。

 彼は一誠を治療しただけで、悪魔の力を借りたのではないと。

 リアスも首肯し、ラウルの考えに同意した。

 怨敵である、悪魔祓いの協力を得たわけではないと。

 交わることのない紅と銀の宿命に、一誠は絶望の色を浮かべる。

 一握りの希望を掴み損ねただけに、その絶望も一層深いものであった。

 

「さて、貴方の騎士も起き上った戦闘再開といこうか」

 

 ラウルの視線の先には、蹲っていたはずの佑斗が口元を拭き、新たな剣を構えていた。

 刺客を見つめる瞳は、内臓を抉り取られる程激しい襲撃を受けたにも関わらず、良く立ち上がるものだと褒め称えていた。

 

「君が足癖の悪い人だとは思わなかったよ」

 

「短剣装備で戦っているのだ。体術も使って当然だと思うがね」

 

 やはり、先手を抑えるは銀髪の麗人。

 風を纏い、更なる飛躍を以って騎士へと迫る。

 対する佑斗も悪魔の駒を開放し、油断なく迎え撃つ。

 ラウルは右手より掬い上げる剣戟を、佑斗は上段より振り下ろす。

 得物がぶつかり合う瞬間、ラウルは身を引き刀身を滑らすようにして長剣を受け流す。

 その勢いを殺さぬまま、左より掌底を放つ。

 先の一合にて、四肢より放たれる凶悪な徒手撃蹴の恐ろしさを身を以って知る佑斗は、無理することなく身を引く。

 一時離脱するよう見せかけた佑斗は、死角より切り掛かる。

 ラウルは騎士の速さを以って放たれるそれを難なく受け流す。

 反撃に次ぐ反撃の応酬。

 一合、また一合、断続的に響き渡る剣戟は、不可視の領域に到達する。

 

「すげぇ……音しか聞こえない」

 

「あらあら、思ったより楽しませてくれますわね」

 

「……目で追うのがやっとです」

 

「人の身でここまでやるなんて……教会から引き抜くべきかしら?」

 

 観客たちが魅入られている間に戦いは徐々に変化する。

 時が経つにつれて、ラウルの足が止まる回数が多くなっていた。

 外野から見れば、人の身で切り合うラウルが疲れを見せてきたかと思われたが、実情は異なる。

 現在掛けている術の身体強化だけでは、機動力に劣ると理解したラウルは、自身から攻めるのは不要と考え受けに徹する。

 ただ、隙を見せたなら踏込み切り掛かることは忘れない。

 柳の如く受け流し、薔薇の如き鋭い棘を持つラウルに佑斗は攻めあぐねていた。

 事実、手傷が増えていくのは佑斗だけであった。

 

「佑斗よ、いつまで出し惜しみする気だ?」

 

「っ!? 君には敵わないな」

 

 ラウルの問いかけに佑斗はいったん距離を置く。

 むろん、ラウルは見定める為に、追撃することはない。

 

「――喰らえ」

 

 沸き上がる闇が光を侵食し、刀身を黒い靄が覆い隠す。

 

「ほう、魔剣使いだったのか」

 

「『光喰剣(ホーリー・イレーザー)』。この剣の前に、光の攻撃は無意味だよ」

 

 ラウルは感嘆の声を漏らした。

 魔剣とは悪魔、悪神の力、もしくは『魔』を宿した剣のこと。

 絶大な力を誇ることもさながら、強力な呪いを掛けられたものも少なくはない。

 そんな魔剣を手にする彼の人生は如何な物であったのだろうか。

 闇の魔剣を構えるその姿は暗に全力での打ち合いを所望しているようだった。

 

「風を纏いて牙と為れ」

 

 故に、ラウルは応える。

 風の起源を込められし短剣を胸の前で構える。

 紡ぐは付加の術。

 短剣に風が纏わり付き、鋭利な刃と化す。

 これで銀製の短剣は真の意味で風の魔剣と為す。

 機動力で後れを取っていたラウルは、風の術を以って相対する。

 

 魔剣を開放し合い、両者の間で緊張が高まる。

 

「……………………」

 

 魔剣より吹き付ける風が、砂子を攫い舞い上がる砂煙を合図に、どちらからともなく駆けだした。

 

 佑斗が振るう闇の魔剣は天より降り注ぐ光を喰らう。

 ラウルが振るう風の魔剣は周囲の空気を巻き唸らせる。

 金と銀の剣士が、月照らす園庭で激突した。

 闇が喰らい、風が押し切ろうと鬩ぎ合う。

 幾度も影が交差し、甲高い剣戟が響き渡る。

 

 先の切り合いにて受けに回っていたラウルも果敢に責め立てる。

 短剣を右手左手と持ち換え、変幻自在の剣舞を見せる。

 四肢より繰り出される徒手撃蹴も忘れてはならない。

 凶悪な一撃が風を纏うことで剣刃と化し、騎士を叩き切ろうと迫る。

 さながら、美しい撓りを見せるそれは蛇腹剣と称しても遺憾無くあった。

 

 受けに回らざる得なくなった佑斗は、連撃に次ぐ連撃を防ぎ必死に隙を窺う。

 身体の至る所に細かな裂傷を負いながら、涼しい顔で麗人の息切れを待つ。

 その姿は孤高なる狼を幻視させる。

 

 されど、風を司る魔剣を手にする麗人は隙を見せることはなかった。

 極限状態の中、緊張の糸が切れたのは責め立てられる佑斗の方であった。

 

「風がっ!?」

 

 騎士は吹き付けた風に足を取られ隙を晒す。

 決定的な瞬間に踏み込んだ麗人は、魔剣の纏う風の密度を一段階上げ切りかかる。

 不利な体勢で受けざるえなかった騎士は健闘虚しく、闇の魔剣を叩き切られる。

 無手となった騎士に麗人はまたもや撃蹴を見舞う。

 

「風よ――」

 

 ラウルが追撃を掛けようとすると、地を這う雷が襲いかかる。

 襲いかかる雷を一瞥すると、短剣を構える一節を唱える。

 風を呼び寄せ、佑斗を助けるべく朱乃が構成した雷を難なく防いだ。

 

「私が何時、光術を使ったのか説明してもらい所だ」

 

「……佑斗先輩……大丈夫ですか?」

 

「まだやれるよ、小猫ちゃん」

 

 小猫に受け止められていた佑斗に、ラウルは選択の間違えを指摘する。

 挑発された佑斗は子猫の心配を振り切り、砕かれた剣の柄を構える。

 

「――止まれ」

 

 創造するのは新たなる魔剣。

 柄より伸びる刀身には円状の特殊な刃が形成される。

 刀身にできた円の中央、その空間に生まれた不可解な渦が周囲の風を呑み込む。

 

「む、風喰らいの魔剣か」

 

「卑怯だと罵ってくれて構わない……弱点を突かせてもらうよ」

 

 自身の魔力で構成していた風を吸い取られ、ラウルは軽く頬を膨らませる。

 苦汁を嘗めさせられている佑斗は動じることなく、鋭い視線でラウルに宣言する。

 

「当然だろうよ。手数の多さで攻めるのも戦術の内、讃えてこそ罵るようなことはありはしない」

 

 佑斗の態度に心くるものがあった彼は、小さく笑みを漏らす。

 やっと、全力を出すのかと。

 形振り構わず栄冠を求める取る気になったのかと。

 これから交える一合を思い浮かべ笑みを漏らしたのだった。

 

「ただ……手数の有無で負けるつもりはないかな」

 

 劣ることはないと語ったラウルは短剣に手を翳す。

 

「術式停止――――魔力刃構成」

 

 風が止み、現れたのは銀光放つ純性魔力による光刃。

 魔力で構成するにも拘らず、神の威光にも匹敵するその神秘に誰しもが息を呑んだ。

 彼は虚空より紋章描かれし白銀の鞘を取り出すと神秘を覆い隠した。

 

 そして、向き合うは悪魔の騎士。

 抜剣の構えを取り、風喰らいの魔剣を構える佑斗に接近する。

 

「…………」

 

「――――――ぁ」

 

 一刀――――抜き放たれた神秘の前に模造の魔剣は断ち切られる。

 銀閃は魔剣を断ち切るに留まらず、血肉を求め迸る。

 

「騎士撃破(テイク)――――貴方たち風に言うとこんな感じかな?」

 

「佑斗……先輩?」

 

「…………」

 

 一瞬の交錯で残ったのは、血潮に身を染める銀の麗人のみ。

 騎士であったものは、深々とその身を切り裂かれ、血の海に沈み込む。

 

「返事もないとは、余程機嫌が悪いと見える」

 

 顔半分を返り血で濡らしたラウルは、倒錯的な笑みを浮かべる。

 血化粧に彩られた姿は、悪魔よりも悪魔らしかった。

 

「ラウル……ラウルがどうして……確かに木場は気に食わないイケメンだったけど! 殺すことはないじゃないか!!」

 

 一誠は幼馴染が仕出かした、取り返しのつかない所業に、憤りを見せる。

 

「イッセー、これが貴方の踏み入れた……リアス・グレモリーによって、踏み入れ込まされた裏の世界。悲しいことだが、敵対するものと会えばどちらかが動かぬ者になるしかないのだよ」

 

「だからって……なんでっ!」

 

「失いたくないのなら、強くあるしかない……それが、この世界の真理」

 

 ラウルは目を瞑り静かに語る。

 瞼の裏に映るのは、忘れることのない情景。

 師と慕い魔導の道標を示した者、母と崇め敬愛の念を抱いていた者、友と認め情を育んできた者――そして、主と仰ぎ――。

 救えなかった、届かなかったこの腕に抱く無念と悔恨は生涯、彼を蝕み続ける。

 自らの過去を以ってして、自覚のあるはずもない一誠に喚起を促す。

 理不尽な現実を突きつけられた一誠は息を呑んだ。

 

「さて、次はどなたかな。『魔剣創造(ソード・バース)』の使い手は鍛えれば――――」

 

「――許さない」

 

 瞼を開くとラウルは次なる獲物を探し求める。

 薄氷の瞳は鋭く紅の姫を捉えていた。

 

「イッセー、小猫下がっていなさい」

 

「わ……わたしも……」

 

「下がっていなさい」

 

 リアスは憤怒の炎を目に宿して、前に進み出る。

 抑えきれない感情が魔力と為りて溢れ出し、奔流は紅髪とともに立ち昇る。

 朱乃も怒りを顕わにし後に続いた。

 

「配役は(キング)女王(クイーン)。グレモリー眷属の主力『紅髪の滅殺姫(ルイン・プリンセス)』に『雷の巫女』か――――術式再稼働」

 

 前に出る女悪魔二人を確認し、再び魔剣に風を纏わせる。

 

「実は八幡君を眷属入りにする話も出ていたのですが……正直、貴方はやり過ぎましたわ。私も含め、怒らせてはいけない、人を怒らせてしまったのですわっ!」

 

「消飛びなさい、佑斗の仇!!」

 

 黒髪の巫女は黒雲を呼び出し、雷を束ね、天空を裂く一撃を見舞う。

 象をも呑み込む特大の魔力は、大地を消し去り、怨敵を滅さんと迸る。

 リアスと朱乃は怒りに任せ、魔力を最大限まで絞り出し、限界を超える一撃を放ったのである。

 迫る魔力の奔流にラウルは嘲笑を浮かべる。

 

「解放――――『蹂躙する暴虐の嵐』」

 

 

 解き放つのは最奥に眠る神秘――――

 

 彼の周辺の空気は渦巻き、うねりを打ち大蛇と化す。

 結界内の大気が呼応し流動を始め、主の命を待ち吹き付ける。

 吹き荒れる旋風は、土壌を巻き上げ竜巻を引き起こす。

 

 此処に風を司る王が君臨する。

 

     ――――暴虐の嵐が一帯を蹂躙した。

 

 

 リアスたちが放った魔力は、圧倒的な質量を持つ嵐の前に為す術もなく、術者諸共呑み込まれた。

 

「後は貴方たちだけだ、イッセーに小猫」

 

「ラウル……お前……」

 

 朱乃は毬球の如く何度も弾かれ、暗がりへと身を消した。

 リアスは残った魔力を掛け集め直撃を免れたものの、身体を強く打ち付け呻き声を上げていた。

 そして、残ったグレモリー眷属は小猫と一誠だけになった。

 

「いつまで貴方は少女の陰に隠れていれば、気が済むのかな?」

 

「俺は……」

 

 ラウルは腑抜けと成り下がっていた一誠を見咎める。

 暴君と化した幼馴染みを前に無力な少年は顔を俯かせた。

 

「小猫……イッセーを連れて逃げて……」

 

「………………」

 

「……小猫?」

 

 地に伏せるリアスは声を振り絞り、生き残った下僕だけでも逃がそうと言葉を紡ぐ。

 しかし、小猫は主の命に応えない。

 敵であるラウルを見据えたまま動こうとしなかったのだった。

 

「ラウル先輩……」

 

「なにかな……小猫?」

 

 ジト目で見つめる小猫にラウルは怯む。

 ただ、臆面には出さず危機感を募らせていた。

 

「先輩はいったい何を考えてっ!?」

 

「小猫っ!?」

 

 小猫の瞳が騎士を打倒した場所を向いたことに気付いたラウルは言葉を紡がせない。

 小柄な肉体に特大の風塊をぶつけて吹き飛ばした。

 

「もう、やめて…………わたしが間違っていたから……わたしが代わりになるから……だから……もう……」

 

「……いいだろう。貴方の首を以って、私に敵対したことは不問にしよう」

 

 懇願するリアスの願いを対価を以って聞き届ける。

 虚空より一振りの長剣を取り出す。

 長剣の収まっている鞘からは、既に光が漏れだしていた。

 抜き放たれたその姿は洗練され、悪魔の処刑に相応しいものであった。

 

「最後に何か言い残すことはないかな?」

 

「あなたのことはお兄様がきっと……地の果てまでも追って、裁くことになるわ。覚悟しておきなさい、悪魔祓い」

 

「それは、それは……また、恐ろしきことだ」

 

 ラウルはニヒルな笑みを浮かべる。

 瞳は笑っており、来るべき未来が楽しみだと物語っていた。

 

「では――――」

 

 

 光の剣を掲げ、紅の姫の首目掛け振り下ろそうとする。

 

 

「待ちやがれ!!」

 

 

 肩に衝撃が奔り、ラウルはその腕を止めた。

 

 

「邪魔をしないでくれないか……イッセー」

 

 ラウルは処刑を邪魔した下手人に鋭い声を浴びせ掛ける。

 肩を掴むのは誰でもない、悪魔に転生させられた一誠であった。

 

「悪魔とか、悪魔祓いとか、正直分かんねえよ」

 

 俯いた顔を上げる一誠。

 その瞳には、決して揺るがぬ意思が宿っていたのだった。

 

「でもな――――」

 

 

 

「――――泣いてる女の子を甚振る様な輩を黙って見てるわけには、いかねえんだよぉぉぉォォォ!!!!」

 

『Dragon booster!!』

 

 

 

 一誠の左腕より光が立ち昇る。

 光が晴れた後、姿を見せたのは赤き籠手。

 肘から手首に掛け、前膊を覆いつくす籠手の先、手の甲に輝くは翠の宝玉。

 表面には封印呪と思われる紋章が浮かび上がっていた。

 

 一誠の変貌にラウルは目を見開いた。

 心を震わす勇ましい叫び声に胸が高まる。

 白雪の肌は赤く染まり熱を持ち、歓喜の涙が碧玉より溢れ出す。

 

 

 これこそが、待ち望んだ赤龍帝の目覚め――――否、煩悩から目覚めた勇者の帰還であった。

 

 

 




 色々やってしまいました。
 ラウル君暴れすぎです。
 若干後悔。

 こういうのを原作ブレイクなどというのでしょうか?
 それとも、誤差の範疇?

 ちなみの一誠の覚醒度は、原作の教会レベル。
 何度か、『Boost!!』できます。


 今回出てきた用語。
 これはオリジナル設定。
 (走り書きの状態なので以後変更があるかもしれない)

 『起源』と『神秘』について


 『起源』

武具の場合――込められた意思・概念、また死者の怨念などがその起源を変質させることもある。

 意思――龍を殺す、三度栄光をもたらすなど。
    死者の怨念で変質することもしばしば。

 概念――風を司る、重力を制御するなど。
    特定の血を以って変質することがある。
    龍殺し、神殺しなど。


生物の場合――本人の持ちうる素質や可能性など。
      血筋や肉体、核となる魂に大きく影響される。

 例――リアス・グレモリーの滅びの力、小猫の仙術、朱乃の雷光など。 
   曹操やジャンヌ、ジークなどにも言える。


 『神秘』

 秘匿された現象や力、普通の認識や理論を超えたもの。
 悪魔の力から生まれた魔法ではなく、神の御業から生まれた魔術においてしばしば語られる。
 ラウルの振るった剣の場合、内包する起源をさらけ出すことで神秘が姿を現す。
 また、その過程で別の神秘も内包することになった。


 小猫はいったい何に気付いてしまったのか?
 ラウルVS一誠の勝負は如何に!?

 次回をお楽しみに。

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