勝負の行方は如何に!?
「ぉぉぉぉぉぉォォォォオオオオ!!!!」
『Boost!!』
激高した幼馴染の拳がラウルの顔面目掛け放たれる。
覚醒を果たした一誠の姿に見とれており、一瞬対応が遅れるが剣の柄を以って受け流す。
その際に千切れた銀髪が数本、風に攫われ、それを見たラウルは顔を曇らせる。
陰鬱となる気分とは裏腹に、澱みない動作で一誠から距離を取った。
「酷いな、顔を狙うなんて……」
「うっせぇ!! がたがた抜かしてねえで、おとなしく殴られやがれっ!!」
乙女の様な態度を見せる麗人を無視して、一誠は拳を握る。
拳を握る無粋な幼馴染に心を痛めたが、ラウルは首を振り気分を入れ替えた。
光を纏う長剣を虚空へ納めると、頬を拭い後退を始める。
人知れず頬を伝った月の滴は夜露へと儚く消え去ったのだった。
「生憎、被虐趣味は持ち合わせていないのでね」
「そんなこと聞いてねえよ! いいから、一発殴らせろ!!」
『Boost!!』
赤き龍と銀の妖精は月夜の園庭で舞い踊る。
片や怒りに任せ粗暴な動作で追い縋る。
片や風の如く奔放に舞い、白鳥の如く優雅に踊る。
ちぐはぐな筈の二人は、ラウルが導くことで見事な円舞を繰り広げる。
彼は絶妙な距離を取り続け、時が経つに連れ力を増す一誠にも対応して見せた。
「これでっ!!」
『Explosion!!』
赤龍帝の籠手から流れる五度目の声を合図に彼らの共演は終わりを迎える。
増幅された力が安定し、一誠が獲物に狙いを定めたのだ。
だが、ラウルは不敵な笑みを浮かべ一誠を欺く。
「しつこい男は嫌われるぞ」
「なっ!?」
片眼を閉じ、可愛らしく唇に人差し指を添えるラウル。
一誠が迫ると霧が晴れるが如く、姿が喪失した。
「小猫起きてくれ、事態の収拾がつかない。針は抜いたから起き――ぐぇ!?」
そして、現れたのは小猫の傍ら。
空気の塊をぶつけた時に仕込んだ魔針を解除する。
自体を把握しているであろう小猫を抱き起すと、和解の為に助力を乞う。
しかし、帰ってきたのは容赦ない右腕の一撃であった。
「待った、待った。人の身は思った以上に繊細なん――だっ!?」
「……さっきのはわたしの分……これは佑斗先輩の分」
崩れ落ちるラウルに対して、小猫は般若の顔をして逆襲を始める。
突如として始まった怒涛の展開に外野である一誠とリアスは開いた口が塞げなかった。
「割と冗談にならない。これ以上は御茶請けで代替しないか?」
「買収ですか……思考がまるっきり悪役ですね」
戦車の腕力を以って、数発殴られたラウルは生命の危機を感じ、代替案を提示する。
仁王立ちの小猫は白い目で下手人を見下ろす。
「和菓子の盛り合わせ一週間でどうだ?」
「一年で」
「……手作り菓子一ヶ月」
「手作りを一ヶ月……その他銘菓も含め半年で手を打ちます」
「……悪魔め」
鼻を鳴らす少女に対して、ラウルは毒突くのであった。
* * *
「結局、あなたは何がしたかったのかしら?」
小猫の尽力によって事態を把握したリアスは額に青筋を浮かべる。
深々と切り裂かれたはずの佑斗には、切り結んだ際に負った細々とした刀傷を除けば、大事に至る傷一つなく、激しく身を打ち付けた筈の朱乃は打ち身一つもありはしなかった。
被害と言えば、佑斗と小猫の制服ぐらいの物。
リアスが自我喪失寸前まで追いやられた惨状は、すべて幻術によるものであった。
「イッセーの左腕にあるその籠手のことと一緒に明日お話ししよう。夜更かしは肌に毒だからな」
立腹な姫の視線を受け止めたラウルは、一誠の神器を見て軽やかに笑みを浮かべる。
「良いわよ。その代わり、あなたのことも含めてきっちり話してもらうわよ」
「話せる範囲で良ければ、話そう。しかし、今日のことは内密に……貴方のお兄様は存分に恐ろしいからな」
リアスは明日の放課後に会合の約束を取り付ける。
身振り手振りを交え、ラウルは了承する。
さり気なく、事態を大きくしないでほしいとも示唆した。
悪びれもしないラウルの態度に、リアスは自身の兄に密告しようかと真剣に考える。
「小猫、明日は何を御所望する?」
「……ショートケーキをお願いします」
「米国式か? それとも仏国式か?」
「普通に日本式のイチゴのショートケーキで構いません」
「了解、朝早く起きて腕を振るうことにしよう」
小猫は莫大な甘味の候補に思いを巡らせ、無難な答えを導き出す。
要求に応え存分に腕を振るうとラウルが約束すると、小猫の目が輝いた。
彼女の背後に髪質に似た毛並みの尻尾が揺れたのは幻視であったか。
その微笑ましい光景を見ると、とてもではないが先程まで殺し合いを演じていた仲には見えなかった。
「それでは皆様、夕暮れの校舎でお会いしましょう。良い夢心地を」
ラウルは口上を述べるとともに優雅な一礼をする。
腰を折り曲げた体制のまま、瞬時に転移の魔法陣を展開する。
彼の姿が光に消えると、周囲に張られていた結界が解除された。
「地雷処理に行って、地雷を踏みぬいた気分ですわ」
「……言い得て妙ね、それは」
「ラウル君……君はいったい……」
ラウルが去ったことを確認したリアスたちは、溜めこんでいたものを思い思いに吐き出した。
グレモリー眷属を片手であしらうが如き異常な実力。
一誠の神器についても意味深な言葉を残して去っていた事を考えると、彼の正体は謎が深まっていくばかりであった。
「なんか色々あり過ぎてわけ分かんねえや」
「……大丈夫です、兵藤先輩。失ったものは有りませんが、色々得るものがありました」
「小猫ちゃん……」
小猫は両手を握って小さく、胸の前で力こぶを作った。
今日一日で世界が大きく動いた一誠にとって、小猫の行動はどこか感慨に来るものであった。
* * *
「悪い、遅くなった」
「おかえり、魔方陣で帰ってくるなんて……何かあったみたいね」
軽音を響かせ、元気よく駆け寄る人影。
魔法陣を通して帰宅したラウルの前にエプロン姿の一人の少女が扉を開け現れる。
ぷっくらと膨らみ持った唇、紅玉の瞳は家主の風貌を忙しく探り、一纏めにされた流水のように清らかで麗しい蒼み掛かった銀髪は子犬の尾の如く盛んに振るわれる。
スリーブレスのタンクトップに股下を僅かに隠すホットパンツは活発さを感じさせ、その垣間見よりすらりと伸びた手足は引き締まり、それでいて女性特有の丸みを忘れることはない。
されど、張りのある肌に浮かぶ、病弱な青白さは、彼女の活発な雰囲気に儚さを宿らせる。
活発さの中に宿る儚さが少女の魅力をより押し上げていた。
「ああ、最重要案件の一つが、漸く動き始めた」
「赤龍帝を宿した幼馴染君だったよね」
ラウルが脱いだ上着を渡すと、彼女は半歩下がり歩き始めた。
立ち位置に上下関係がありながら、並んだその姿は仲の良い姉妹にも見えなくなかった。
「そういえば……ユウは元気だった?」
成り行きでグレモリー眷属と戦闘になったことを伝えると、少女は上目遣いで一人の少年の安否を気遣う。
「襲いかかってくるぐらいにはな。ただ……」
「ただ?」
対して、ラウルは息災であったと答えた。
その後、不自然に途切れた言葉に違和感を持った少女は続けるよう促す。
――それが後悔することになるとは知らずに。
「雑な剣だった……竹刀で撃ちあっている時以上にな」
「ラウの評価は厳しいからね……」
「振るう剣には幾つもの雑念が乗り、得物の形状を間違えていた。あれでは、十二分に性能を発揮できまい。おそらく、師匠が西洋剣の使い手ではなく、東洋の刀使いなのだろうよ。速さで誤魔化してはいたが、動きがちぐはぐなところが、時偶垣間見えていた」
「辛いです、無茶苦茶辛いです」
ラウルを悪魔祓いと勘違いしていた時に発した憎悪。
切り結んだ時に振るったのは、叩き切る剣ではなく、断ち切る剣。
ならば、肉厚の西洋剣ではなく、脆さを宿した日本刀を創造すべきであると。
次々とラウルの口から溢れ出す酷評の数々に、少女はげんなりとした表情を送る。
しかし、一度口を開いたラウルが止まるはずもなく、批評は続く。
「特に神器の扱いが気になったが」
「もういいです、お腹一杯」
「魔剣・聖剣などの創造系の神器によって創り出した刀剣は、精魂込めて打たれた一振りに比べ脆いことは明白だ。なのに、壊された時の対応が、まるでできていなかったな。あれは非常にまずいと思うぞ、最低でも自身の創り出した得物の強度を知っておかないと。もしや……佑斗のあのお気楽な所は、姉分であった貴方に似たのではないか?」
「にゃぁぁ、まさかの私に飛び火!? 嘘でしょう!?」
神器の取り回しの拙さを語る件から、一転その矛先は少女へと向かう。
不意打ちを浴びた少女は猫のような叫び声をあげた。
「悪いが、事実であろう。貴方は一人米の騎士になるまで何百本の剣を折ってきたのだったか?」
「む、昔のことは掘り返さないで! ここ、一年は十本以下に抑えているんだからね!」
蒼髪の少女は酷い謂われ様に抗議の声を上げる。
今でこそ、立派に騎士としての拝命を受けた少女であったが、修練時代は酷いものであった。
三日に一本消費するのは当たり前。華奢な手足から振るわれる苛烈な剣技を前に、一般的な鉄剣ではその身を損耗され、見る間に寿命を迎えるのだった。
その甲斐もあって、歴代最短で騎士を拝命できたのだが。
ラウルは歳並みの膨らみを持った胸を張る少女を見て、眉を顰める。
「此処には折って良い様な剣を置いてはいないぞ」
「え゛!?」
「“え゛”ではない……また、折ったのだな」
「うぅぅぅ……」
少女らしからぬ濁った声を上げた様子を見て、ラウルは額に手を当て宙を仰ぐ。
「何番だ? 何番の剣を折ったのかな?」
「五番の“
少女が消耗した剣の目録を上げる。
量産品の五番が大半であったことに、ラウルは胸を撫で下ろす。
これで、襲名祝いに少女へ渡した七番の聖剣を折られていたりでもしたら、目も当てられない事態に陥っていただろう。
「最近、倉庫で姿を見ないと思ったら、そういうことか。錬金で直すから隠すのは止めなさい」
「……怒らないの?」
「折角、打った一物なのだから大切にしてもらいたい、と言う感情がなくはないのだが……事情が事情だからな。倉庫の剣を使ったら、執務室の私の机にでも立てらかして置いてくれ」
ラウルは少女の頭を撫で言い聞かす。
使用するのは構わないが、放置しないでほしいと。
後で整備をするので、届けておいてほしいと。
「ん……でも、なんか悪いよ」
「無理して、体調でも崩されたら大事だ。いいから、甘えておけ」
歯切れの悪い返事をする少女であったが、ラウルの一言に態度を一転させた。
「じゃあ、じゃあ、私が作った料理、温め直すから食べさせ相子しようよ!」
「今日は何かな? 貴方の作る料理は幅が広いからな」
「ふふ、なんでしょう? 食べるまでのお楽しみだよ」
「……匂いで分かると思うが」
「そこ! 無粋なことを言わない!!」
他愛無い会話を交えながら、彼らは扉の向こうへと姿を消した。
こうして、魔導師の一日は終わりを迎える。
運命の悪戯によって交わった、紅の悪魔と銀の魔導師。
赤龍帝の目覚めを得た世界は緩やかに激動の時代へと歯車を回す。
A.余りの実力差に相手にされず、あしらわれて終わる。
でした。
見え透いた展開だったかもしれません。
赤龍帝の籠手を手にしたところで、未熟な一誠君では扱いきれませんでした。
当然の帰結かも知れませんね。
また、ラウル君に負わされた傷は幻術だったこと。
賛否両論に別れそうですね。
補足として、戦闘不能になった理由。
佑斗――すれ違い様に首を打たれて気絶。
朱乃――風に紛れ込んでいた、氣と魔力によって練られた魔針たるものを撃たれ、身体の自由を奪われる。
無防備な体を叩きつけないように、ラウルは風を操作して遠くへ運んだ。
小猫――朱乃と同様。ただし、風塊を叩きつけられたのは事実。
リアス――幻術なし、手加減なしの所業。
ラウル君は一誠君を悪魔に転生させたことを根に持っていたりいなかったり……。
最後に新キャラ登場!
三日に一本、使い潰すとかどうやっているのでしょうか?
現段階では謎としておきます。
近々、活躍の場面を作るつもりなので、その時でも。
彼女がどんな剣技を使うかは、お楽しみに。
ちなみに、彼女に折られた剣たち。
八幡邸の地下にある訓練場で、魔導ゴーレム相手に使い潰しました。
折った本数は一年で六本です。
彼女にしては進歩したと言いたいのでしょうが、一般的な鉄剣百二十二本と聖剣、魔剣と銘が付く剣六本。
何とも言えない状況です。
ラウル君は実に頭が痛いです。
それでは、次回の更新はできれば明日。
七割がた出来上がっているので、設定した期限までにもう一話投稿できるかもしれません。
――お知らせ――
アンケート終了まで、後二日を切りました。
このままいくと、ラウル君は学園内で女装化決定!!
異議のある方は活動報告で回答を!
私としては別にいいんですけど、描写が多くなるだけですから……。