今回は俗にいう説明回。
なのに、一万字に迫るとは如何に。
「……や。リアス・グレモリー先輩の使いできたんだ」
放課後、ラウルたちの教室に佑斗がぴりぴりした空気を纏いながら現れる。
付添としてきた小猫はもちろん、周りの生徒たちも不穏な空気を感じ取っていた。
そんな彼にラウルは手を上げ応え、半眼と睨み返そうとした一誠は息を呑むのだった。
「……ラウル先輩、早く来てください」
「慌てるな、直に行く」
鞄に荷物を詰めるラウル。
彼はこれから行われるであろう、会談に思いを巡らせる。
辺りにいた女子生徒たちが沸き立つことも知らずに。
「こ、これが修羅場……本物を見ることになるなんて……」
「いったいどんな三角関係が……」
「木場くん×ラウルくんの鉄板が……まさかの木場くん×ラウルくん×小猫ちゃんに!」
「きっと、ラウルくんが浮気をしたんだわ。ラウルくんも男の娘だもの。それを知った木場くんが……」
「それとも、小猫ちゃんが誘惑を。自慢のロリロリボディーで、二人を誘惑して修羅場に――」
「違うわ! 二人は木場くんの奴隷にされていたのよ。毎日行われる酷い扱いに耐えれなくなった二人は、自然と引き合い禁断の恋に! でも、そんな勝手を主たる木場くんは認めないのよ」
「何が真実でも、小猫ちゃんという新たなるファクターが加わって、薄くない本が更に厚くなるわね」
「今年の夏コミュはこれを題材に売り上げを独走して見せるわ!!」
腐女子たちは黄色い声を上げて、討論を繰り広げる。
題材にされた小猫は瞬時に正気度を削られ、目を虚ろに彷徨わせていた。
「お~い、小猫大丈夫か?」
「はっ! わたしはなにを……」
ラウルに肩を叩かれ、目に光を取り戻す小猫であった。
「先輩行きましょう……私では耐えられそうにありません」
「イッセー、貴方も逝かないのか?」
「行くけど、逝かないぞ!」
小猫は教室に充満する空気に耐えきれなくなり、ラウルの袖を引っ張り急かす。
急かされるラウルは、一誠を呼び込む。
呼ばれて立ち上がる一誠であったが、それを阻むものが現れた。
「イッセー! 貴様は学園の小さなアイドル小猫ちゃんと何処に……いや、三大お姉様の一角、我がクラスメイトのラウルまで連れて何処に行こうとしているのだ!!」
「ついに紳士から覚醒したと言うのか!?」
「んなわけねえだろ!! 呼び出しだよ、呼び出し」
彼の目の前に立つ少年たちは、難癖を付け一誠に掴み掛る。
邪推を以って、一方的な言い草をする彼らに一誠は声を荒げた。
声を荒げる一誠に、掴み掛った片割れである元浜が、肩を強く掴み真剣な表情で口を開いた。
「気を付けろよ、イッセー」
「も、元浜?」
「俺……この間、女の子に体育館裏へ呼ばれたんだ……」
元浜は眼鏡の奥で瞳を潤ませ、涙ながらに語る。
「生まれて初めてのかつあげされたよ……それも女の子に!」
「それは……ご愁傷様で」
涙誘う実話に、一誠は同情を浮かべる。
だが、慰めることもできず、お悔やみの言葉を送るのだった。
「少し待っていてくれ」
不安の表情を浮かべる小猫を一撫ですると、終わりそうにない変態三人組の会話に割って入る。
「松田、元浜。悪いがイッセーを借りていくぞ」
「そんじゃ、そういう訳で! また明日」
一誠を回収することに成功したラウルは小猫たちの元へ戻る。
その際、教室に悲鳴が上がったが、いつものことなので彼は平然と受け流すのだった。
「……行きますよ……変態」
「おう……小猫ちゃんが辛辣」
散々待たされた小猫は、一誠に罵倒を浴びせかける。
胸を抑える一誠を余所にラウルは、剣呑な空気を纏う佑斗の腕を取った。
「佑斗よ、昨夜のことを根に持っているのか?」
身体を寄せ、昨夜何度を撃蹴を放った佑斗の腹を優しく撫でる。
その手には仄かな光が宿り、癒しの力をもたらす。
「そうじゃないよ……根に持っていないと言ったら嘘になるけどね。それ以上に、君は……君が持っていた剣は……」
佑斗の瞳に宿る昏き炎は、剣の話題を口にした途端、更に燃え上がる。
問われたラウルは佑斗ただ一人に、聞こえるよう花唇を寄せ囁く。
「秘密かな。それに私は貴方が背負っていることを知っているつもりだ」
「君はっ!」
憤りを吐き出そうとする佑斗を見詰めていたラウルの瞳が妖しく光る。
「しかし、いまはその時ではない。だから……」
ラウルは違和感を感じさせない動作で顔を近づける。
「今はこれで許せ」
そして、頬にそっと唇をおとした。
「ら、ラウルくん……こういうことは男同士ですることじゃ……」
佑斗は麗人の突然の奇行に狼狽える。
奇抜な振る舞いを見せたラウルはすでに離れ、佑斗に背を向けていた。
廊下は廊下で大喝采を巻き起こしていた。
「愛いな、愛いな、佑斗は。だが、これ以上やると、イッセーが嫉妬しそうなので勘弁……な」
「誰が嫉妬するかよ! 誰が!」
「ラウルくん……」
ラウルは踵を返し、花開く様な笑顔を浮かべる。
普段は知的な表情を見せる彼の不意打ちじみた満身の笑顔。
魅せられた佑斗は心のわだかまりを忘れ、惚けた顔を見せた。
その様子に廊下では割れんばかりに悲鳴が再び響き渡る。
「変態ばっか……」
良識ある小猫は一人、廊下で咲き誇る黄色の花に僻々するのだった。
* * *
「部長、連れてきました」
「……ええ、入ってちょうだい」
佑斗が扉を叩き、訪問を知らせる。
返事を確認して彼が扉が開くと、中から緊迫した空気が漏れだす。
涼しい顔をして入っていくラウルは、部屋の主の前に立ち優雅に一礼する。
「グレモリー嬢、今日はお招きありがとうございます」
「空世辞は必要ないわ。誠意が籠っていないもの」
「……そちらの居城まで出向いたのだから、文句を言わないでもらいたい」
無愛想で、刺々しいリアスの態度に嘆息する。
肩を落としたラウルはゆったりとした動作で、手前のソファーに腰を降ろす。
「イッセー、あなたはこっちよ」
リアスが一誠を手招きし、ラウルの対面に座る。
向かい合うように座るラウルの隣には小猫が腰を下ろす。
リアスの左後ろには佑斗が位置し、朱乃は給仕の為、席を立っていた。
殺伐した空気の中、ラウルが口を開いた。
「ふむ。イッセーならこの部屋を見て、騒ぎ立てると思ったのだが」
「確かにびっくりしたけど、そこまで子供じゃないぜ」
「……昨夜、充分騒いでましたが」
「小猫ちゃん、少しは格好つけさせて……」
ラウルは丁度良いと、だしに一誠を使う。
期待通りの活躍を見せた一誠が、部屋の空気を穏やかなものに変える。
「なるほど、すでに説き明かしていたか」
「ええ、一通りわね。だから、今日はあなたのことを話してちょうだい」
「心得た。だが、暫し待たれよ。お茶の準備が済んでないのでな」
掴みを得た彼であったが、同意を求めたリアスに今日の対話の核心である所まで切り込まれる。
対話を楽しまない彼女の態度を無粋だと思うが、会話を一度止めることで、険呑な雰囲気を纏い始めた彼女たちを鎮める。
同時にお茶会の準備を促し、自身は虚空より今朝焼いてきたケーキを取り出す。
それは、雪原のように白く滑らかなホイップクリームで固められ、瑞々しいイチゴで彩られた、純白のショートケーキであった。
ホールであったそれは、同じく虚空から出された、低温で冷やされたナイフにより綺麗に切り分けられる。
切り分けるラウルの動作には迷いがなく、何処か年季を感じさせるものであった。
「うめぇ、超うめぇ!」
「……美味です」
白いクリームは程よい甘さを感じさせ雪の如く溶けて消え、赤い果実は独特の甘さと僅かに感じる酸味を口内に広げる、重さを感じさせないスポンジは口当たりの軽さを感じさせ、上品な味わいを醸し出した。
口の中に広がる甘味の素晴らしさに、小猫と一誠は舌鼓を打つ。
彼らの様子を見て、作り手であるラウル上機嫌で笑みを浮かべる。
作る側も口にする側も笑顔になる、この瞬間がラウルは好きであった。
「佑斗はともかく、姫島さんも座ったら如何かな?」
「……はぁ、警戒して損した気分ですわ」
ラウルは騎士としての役目を果たす佑斗を一瞥すると、手持ち無沙汰になっていた朱乃に自信作を進める。
自身の行為が馬鹿馬鹿しくなった朱乃は息を吐くと、ラウルの隣に腰を掛けた。
「両手に蜂かな」
「華ではなくて?」
「警戒心を緩めてくれたら華なのだがな」
座っても警戒心を解かない朱乃に皮肉を言って見せた。
花ではなく、蜜に集まる蜂。
態度に毒が残っていると暗に示していた。
朱乃は皮肉ににこやか笑みを返すと、目の前の甘味に手を出した。
「っ!? これはっ!?」
「満足して頂けたかな?」
「……ええ、小猫ちゃんが押すのも頷けますわ」
笑っていなかった目が驚きに彩られ見開かれる。
彼女の様子を見てご満悦のラウルは、朱乃の淹れたお茶に口を付けた。
「貴方が淹れたお茶も……なんだ、独特だと思うぞ」
ラウルは口の中に広がる異物の感覚に眉を顰める。
反面、これも仕方ないと思い悪意を享受する。
舌先より流し、喉の奥で呑み込んだ。
もちろん、毒舌は健在ではあるが。
「もう少し、肩の力を抜いてもいいのじゃないかな」
「淹れ直してきますわ」
朱乃は大変申し訳ないと顔に出すと、カップを回収し席を立った。
その小さくなった背中を見送ると、リアスに視線を移す。
「グレモリー嬢も如何かな?」
「それは……意趣返しかしら?」
「いや、純粋にご賞味頂きたいのだが」
「……問題ありません……先輩はそんな無粋な真似はしないですから」
眼差しを向けると、リアスは顔を強張らせた。
勘ぐる彼女にラウルは味を聞いてもらいたいと返す。
事態を知らない小猫からも援護が入り、糾弾されたかと錯覚したリアスは観念してフォークに手を伸ばした。
「……何故か、色々負けた気分だわ」
「お口に適って何よりだ」
上品な味わいの白い悪魔は、リアスの心に罅を入れる。
昨日の追跡から始まり、戦闘に計略、果ては料理の腕前まで。
見せ付けられた格の差に気を落とす。
名家で育ったお嬢様には数少ない経験であった。
ラウルは膝から崩れ落ちてもおかしくないリアスを眺め、ニコニコと笑顔を浮かべていた。
「粗茶ですわ」
「ん、ありがとう」
戻ってきた朱乃から、淹れ直したであろうお茶を受け取る。
色は濁りない緑色をしており、若葉独特の香りが鼻をくすぐる。
香りを一通り楽しんだ後、ラウルは迷わずカップの縁へと口を付けた。
「玉露は玉露で良いものだ……」
「……先程のことは許して頂けますか?」
「何のことだか……私は美味しいお茶を御馳走になっただけだが?」
朱乃の心配を余所に、ラウルは恍けてみせる。
彼にとって、美味しいお茶にありつけたことの方が重要だったのだ。
「それじゃあ、貴方の素性について話してもらえるかしら?」
「駒王学園高等科二年B組、八幡ラウルです。一介の魔術師をやらせて頂いております。以後、お見知りおきを」
「……ふざけているの?」
「いや、至って真面目なのだが」
白雪のような儚い細指で、持ち手摘むティーカップを静かに置くと、ラウルはゆっくりと立ち上がった。
リアスの問いに対して、優雅に一礼をして答える。
だが、それはリアスの求めた答えに程遠いかった。
それでも、眉間に皺を寄せる彼女に、ラウルは飄々とした態度で応える。
「朱乃」
「私の出番ですわね」
艶めかしい声音と雷の奏でる空気を焼く音が部室に響く。
朱乃の掌には雷が奔り、顔には期待に満ちた表情を見せる
蚊帳の外にいた一誠などはその妖しさに恐怖を煽られ、顔を慄かせていた。
「暴力は良くないと思うのだが」
「あらあら、暴力ではありませんよ。後輩との軽いスキンシップです」
「パワーハラスメントだ」
「うふふ」
僅かに雷を宿した朱乃の双手は、ラウルの身体を撫で上げる。
大股に始まり、横腹、首筋、二の腕に指の間まで、神経の集中しているところを重点的に愛撫する。
癖に為りかねない甘い感覚を送られ続ける彼は、抗議の声を上げると大人しくソファーに腰を掛ける。
腰を掛けた後も、その愛撫は続きラウルの身体を苛む。
「古代魔術の使い手だから、あまり素性を明かすわけにはいかないのだが」
「古代魔術? なにかしら、初めて聞くわね」
「内に神秘を宿すことで力を得る、古風な魔術師一派のことだよ。もっとも、戦闘などで手の内を明かしたり、後継者を育てるうえで神秘を晒したりする以上、当たり前のように廃れていったがな」
「そう……」
目を閉じると、ラウルは仕方なしに語り始める。
古代魔術師という存在。
それは、神秘を内包し糧とする古風な魔術師。
故に、安易に素性を明かすことはできないと、ラウルは語る。
話を聞いたリアスは真偽は確かでなくとも、情報を聞き出せたことを良しとし、詳しいことは時間を掛けて探ると結論付けた。
「その古代魔術師が何故こんなところにいるにかしら?」
「異国で十年近く修行を積み、一人前に認められたため、帰ってきたといった感じかな」
次に問われるのはこの地を訪れた目的。
リアスが浮かべる疑問は当然のこと。
言葉通りであるなら貴重である筈の彼が、何故悪魔の管理地で学生をやっているのか。
その疑問に対して、ラウルは帰郷しただけだと言う。
「どうして、この地なのかしら?」
「ん~、生まれ故郷に帰って来たではダメか?」
「ダメね」
「望郷の念に駆られるのは、人情として当然だと心得るのだが?」
「……それだけではないでしょ?」
ラウルは人情として当然だとリアスに訴え掛ける。
その訴えにリアスは納得しない。
元々、正体を知れると御の字、目的は知って然るべきであったのだ。
この地の管理者として、リアスは引く気がない。
むしろ、先ほどの質問は追及しなかったのだから話なさいと、言わんばかりの視線をラウルに送る。
渋面を浮かべたラウルは、一誠に視線を投げ掛けながら口を開いた。
「……あまり本人の前では言いたくなかったのだが、こちらに残してきた幼馴染が心配でな、一目見ようとこの地に舞い戻ってきたわけだ」
「俺!?」
まさかの名前が出た一誠は驚きの声を上げた。
悪魔に転生したばかりの彼の名前が出てくるとは、口に出した本人以外予想外であった。
しかし、ラウルにとっては赤き龍帝を宿している幼馴染。
そんなことを知る由もない一誠に、ラウルは自身が溜めていた思いを吐き出した。
「そうしたらな、何処を如何間違えたか、女性の前で卑猥な会話を始めたり、更衣室を平然と除くような変態に成り下がっていたわけだ。これも、いきなり親しくしていた幼馴染二人ともが英国に渡ってしまった影響なのだろうか。昔は、その幼馴染と三人でおままごとをよくしたものだ。昼間に流れるドラマにも勝さず劣らずのドロドロした展開のおままごとではあったが、あの頃のイッセーは色んな意味で純粋であった。それがいまや、こんな風になっているとは……時の流れとは如何に残酷なのだろうか」
顔に影を差したラウルは幼馴染の現状を憂い嘆く。
あの頃の美しき思い出は何処に行ってしまったのかと。
無垢な一誠は何処に消えてしまったのかと。
自身が離れた間に一誠が変態に成り下がってしまったと。
愁色の表情を浮かべる彼は目を離せば儚く消えてしまいそうであった。
「やめて、昔のことを掘り起こさないで!! それに、お前がそんな表情で言うと色々洒落にならないから!!」
「……変態」
「ラウルくんは……女性と見間違う時があるからね」
「うふふ、イッセーくんたちの過去にそんなことがあったのですわね」
赤裸々な過去を暴露された一誠は、喚き声を上げた。
小猫は白い目で一誠を睨み、佑斗は苦笑を浮かべラウルに眼差しを送る。
そんな彼らを見詰めて、朱乃は微笑んだ。
「納得して頂けたかな?」
「……いいわ、今はそういうことにしといてあげる」
ラウルが口にしたのは本当のこと。
幼馴染が心配で英国より帰ってきたのだ。
ただ、一誠のことが心配なのは確かだが、目的はそれだけではない。
語らない目的を現段階で口にすることはない。
それが分かっているが故に、リアスは不満そうにしながらも、一応納得して見せた。
「グレモリー嬢は疑り深いな」
「グレモリー嬢は止めて、私のことは部長と呼びなさい」
部長と呼べと言われたか分からなかったラウルは一瞬顔を曇らせた。
だが、この場所が表ではオカルト研究部と名を打っていることを思い出した彼は納得する。
納得したラウルにとって入部の是非はどちらでも良かった為、差し当たりない言葉を口にした。
「私は入部する気はなかったのだが」
「この部屋に入室した時からあなたも部員の一員よ」
「……ならば、少しは歓迎してほしいものだ」
腰に手を当て、宣言する悪魔の姫君。
彼女の態度にラウルは苦い顔をして、肩を竦めるのだった。
* * *
「人払いを済ませて、次は何の話かな?」
「あなたも用があったみたいだったけど?」
「後にしてもらって構わない。それより、貴方はどうしても聞きたいことがあったのだろ?」
夜の帳が居り始めた頃、部活は一応の解散を迎えた。
悪魔に生り立ての一誠は帰宅することになり、用心の為に小猫が連れ添うことになった。
そして、蝋燭照らす部室に残ったのは、先の二人を除いた四人。
リアスは佑斗にも席を外すように促したが、本人が拒否。
会合は四人で再開を迎えたのだった。
口火を切ったのはラウルであった。
「あの時、使った剣のことよ」
「まだ、私を悪魔祓いと疑っているのか?」
心外だと言わんばかりのラウル。
疑われる要因を作ったのは彼であったが、ここまで疑り深いとは思ってもみなかった。
買収までして頑張ってもらった小猫の苦労を無駄にするのかと、暗に仄めかす。
「いえ、そのことはもういいのよ。ソーナ……生徒会長も太鼓判を押したもの」
「ふむ、彼女が?」
ティーカップを摘んだラウルの手が止まる。
返ってきたのは予想外の答えに思考を巡らせる。
ラウルにとって、生徒会長は面識のある人物であったのだ。
「その様子なら、ソーナが悪魔だと知っているようね」
「ん!? 彼女は悪魔だったのか!?」
リアスに告げられた真実にラウルは驚きを隠せなかった。
摘んでいたティーカップは受け皿に落下し音を響かせたのだった。
「……もしかして知らなかったの?」
ラウルの反応に、リアスは頬を引き攣らせた。
悪魔と知り合いということは、悪魔と知っているものだと思っていたのだろう。
だが、ラウルは生徒会長が悪魔だとは知らなかった。
何らかの事情があって、彼女は悪魔であることを隠していたのだ。
軽率な行動を取ってしまったと、リアスは後悔の色を浮かべる。
「くっ……」
そんな焦るリアスの様子を見て、ラウルは思わず噴き出した。
ソーナの名が出た時から、リアスが彼女を悪魔だと口走ると予感していたのだ。
仕込みを行おうとした矢先、暴露されたのには驚いたが、見事に即興演技に引っ掛かってくれた。
ご満悦のラウルは舌を出し陽気な顔を見せる。
「冗談だ……とっくに知っていたよ」
「あなたね……」
からかわれたと知ったリアスは肩を震わせる。
彼女の下僕たちは、怒りに身を染める主を気の毒そうに見ていた。
「彼女とは少しばかり縁があってな、お互い少しばかりは知っているという話だよ」
「あなたもソーナもだけど、知り合いなら教えなさいよ!」
「機会がなかっただけだろう。その所為で昨夜は死闘を演じることになったがな」
勇ましい剣幕で喰い掛かるリアスを諸共せず、ラウルはニヒルに笑う。
ある時は薄氷の如き儚さを、ある時は陽光の如き明るさを見せ、ある時は空虚に笑って見せる。
その姿は掴みどころのない雲のようであった。
百面相を見せる彼に、リアスの怒りが空回りし、無駄だと悟った途端げんなりした顔を見せる。
「んんっ! ソーナの件は後できっちり話し合うことにして……あなたの剣のことよ」
ラウルのペースに呑まれてしまっていたリアスは空気を入れ替え、答えをはぐらかされてしまった問いをもう一度ぶつける。
「あの風の魔剣も大概だけど、私に振るおうとしたあの剣……あれは、聖剣?」
リアスの問いに部室内の空気が一転する。
抑えきれない殺気によって、重苦しく剣呑な物へと変化する。
聖剣の一言に過剰に反応する者がいたのだ。
リアスの騎士、佑斗である。
その瞳に憎悪を宿し、魔剣を抜剣した。
「落ち着かないか、佑斗。辛抱ない男は損するだけだぞ」
殺気立つ佑斗にラウルは嘆息した。
先程、廊下で同じやり取りをしたばかりではないかと。
「それに――」
ソファーに座すラウルの姿が霧が晴れるが如く消失する。
そして、現れるのは佑斗の背後。
「――あれだけでは我慢できなかったか?」
背後に立ったラウルは、後ろを取られたと気付いていない佑斗の耳を甘噛みする。
甘噛みするだけではなく、舌先を耳裏に這わせ感覚を犯していく。
口内を使った愛撫を以って、堪え性のない少年の性感帯を刺激した。
「~~~~っ! だ、だから君は!」
「あらあら、八幡くんは大胆ですわ」
佑斗は騎士の速度を以って離脱し、離脱したその場で悶えた。
「それでは、話に戻ろう」
「え、ええ……」
理解が付いていかず、リアスは目を彷徨わせる。
そんな彼女を尻目にラウルは何事もなかったかのように席に着いた。
「光剣のことだが……あれは、厳密に言うと貴方たちの言う聖剣ではない」
「……厳密に言うと?」
「そうだ、広義で言えば聖剣になるが、狭義で言うと光を放つ魔剣だ」
「待って……いえ、待ちなさい! 光を放つ魔剣ってどういうことっ!」
ラウルは言葉遊びを始める。
聖剣、魔剣とは認識の違いであると。
彼が手にしていたのは、その境界線上を行き来する剣であると。
ただ、光を放つ魔剣とも言い換えられると。
驚愕の事実を突き付けられたリアスは詳しい事情を求める。
「あの剣について、現段階で話せるのはここまでだ」
「話なさい! さもないと――」
焦る気持ちは我を忘れさせる。
彼女は魔力を開放し、ラウルを脅しに掛かる。
ラウルは彼女の態度に嘆息すると姿を消した。
「私も一組織の人間だ。貴方も冥界に所属する悪魔なら分かるだろ」
「くっ!」
現れるのはまたしても彼女の背後。
その手に光の魔剣を手にして警告する。
これ以上探るようなら、組織の人間として動かなくてはいけなくなると。
力量の差を忘れてしまっていたリアスは歯を噛み締める。
「グレモリー眷属は情に厚いと聞いたが、主ともども些か直情過ぎないだろうか?」
「八幡くんがからかい過ぎるのがいけないのよ」
主も下僕の佑斗も、思慮が足りないのではと、歯止め役の朱乃に問い掛ける。
問われた朱乃はラウルの態度を指摘し返した。
遊びも程々にしないからこじれるのだと。
「まあ、いいさ。ゆっくり信頼関係を築いていきたいと私は思っている。そうしたなら、明かせる情報も増えてくるだろうよ」
「わたしたちは信用にならないって訳ね……」
「そう不貞腐るな。第一、お互いの食の好みすら知りえないだろうに」
頬を膨らませてそっぽを向くリアスを見て、ラウルは苦笑する。
彼女になら近い将来、秘密を明かせる日が来るだろうと。
「佑斗もな」
「……分かったよ、ラウルくん。その時が来たら、誤魔化さずちゃんと話してもらうからね」
「楽しみにしている。その時は一夜飲み明かそう」
何度問い詰めても、体良くあしらわれる未来しか見えない佑斗は大人しく時を待つことにした。
ラウル自身時が来たら話すと宣言したのだ。
人をからかいこそすれども、裏切るような人間ではない。
佑斗はラウルのことをそう考えていた。
そんな佑斗をラウルは好ましい人物だと捉えていた。
良くも悪くも一途であると。
周りが見えなくなることがあるが、高潔な志を持つ騎士の鏡のような悪魔であると。
道化のような魔術師と騎士のような悪魔。
そこにはある種の信頼が置かれていた。
「あらあら、お二人とも仲が宜しいようで」
「剣を交えたからではないか? 古来より戦いは情を育む」
「なら、私は別の手段で情を育みましょうか」
朱乃は身をすり寄せ、ラウルを誘う。
しかし、ラウルは見向きもしなかった。
「そちらの疑念は晴れたかな?」
「あなたはこれ以上答える気は無いでしょ?」
「まあな」
このあたりが妥協点。
秘密を隠すラウルも、保守のため秘密を探るリアスも、そのことが分かっていた。
「あなたも聞きたいことがあったのでしょ?」
「聞きたいことではなく話しておきたいことなのだが……」
リアスの問いに笑みを消した。
これから話すのは彼らの進退を決めかねない重要事項。
ラウルは居住まいを直し、真剣な表情で口を開いた。
「此方が話しておきたいことは一つ…………イッセーの神器、
ほとんど説明できませんでしたが、説明回でした。
難産……というよりも、文字が多過ぎました。
昨日の時点で七割完成と言って置きながら、書き終わってみると五割未満。
今日一日であくせくしながら、五千字を打ちこみました。
書きながら思いついた小ネタを一つ。
ラウルたちを勇者一向に例えて。
順路は
兵藤一誠 Lv.8 勇者
塔上小猫 Lv.28 拳闘士
木場佑斗 Lv.34 剣士
八幡ラウル Lv.94 魔法剣士
以上の四名が旅をします。
ラウル君のレベルが異常ww
敵キャラ
腐女子 Lv.???
松田 Lv.10
元浜 Lv.6
姫島朱乃 Lv.60
こんな感じでしょうか?
私は何を書いているのだか……早く投稿することにします。
アンケート終了まで後一日未満。
このままいくと女装化です!
回答は活動報告へお願いします。
次回投稿はアンケート結果発表とともに。
今から書き始めるので、明日に確約できませんが。
予告だけしておくと、一誠君の初契約。
何故か、ラウル君がはっちゃけてしまいます。