ハイスクールD×D~円卓の銀鴉~    作:Licht10

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 皆さんお待たせしました。
 先程ようやく書き上げたばかりの出来立てほやほやです。

 内容は何故こうなった、と言う感じがします。
 出だしから、ラウル君がはっちゃけます。
 一万字を優に超えましたが、どうか最後までお読みください。


七話 悪魔契約

 人気がない深閑とした森の奥地。

 静まり返った暗闇で二つの不穏な人影が蠢く。

 片や、やせ形の男。四辺形の箱型を手にし、目を怪しく輝かせる。

 片や、活き活きとした少年。口元が如何わしい笑みを作っていた。

 不審な態度を見せる男たちの前に、目的の人物がやってくる。

 

 朧月を背に銀の長髪を風に靡かせ歩み寄る少女。

 僅かに浮かび上がった輪郭は細く美しい。

 靡く銀の絹糸の間で、儚い輝きを見せるのは淡蒼の瞳。

 夜空の下で輝くそれは、星よりも綺麗であった。

 影に隠れ表情こそ見せないが、美姫であることは間違えないだろう。

 差し出される脚は膝丈まで、純白のブーツで覆われている。

 丈の短いスカートとの間に垣間見える柔肌は、ある種の造形美を思わせる。

 

 淡蒼の瞳が男たちを捉えると、細腰の剣帯に手を動かす。

 すらりと剣を抜く腕は肘上から手首まで黒い布製の手甲で覆われている。

 スリーブレスのドレスの間には、雪色のドレスよりなお白い肌が露出する。

 少女はその白雪を宿す華奢な腕で抜身の剣を携える。

 

「魔法少女ラウるん見参。悪しき堕天使たちよ、煌めく我が剣の前に平伏しなさい」

 

 月明かりを纏い、口上を述べる女装の麗人。

 不埒な願望を抱く彼らの前に、悪しきものを討ち滅ぼす正義の魔法少女が舞い降りたのだった。

 

 

* * *

 

 

 遡ること数時間前。

 

「イッセー、あなたのチラシ配りも終わりよ。よく頑張ったわね」

 

 数日に渡るチラシ配りが終わりを迎える。

 新人悪魔としての下済みを次の段階に進めることになったのだ。

 課せられるのは悪魔の生命線ともいえる契約。

 これをなくして、悪魔の繁栄はあり得ないのだった。

 

「小猫に予約以来が二件入ってしまったの。両方行くのは難しいから、片方はあなたに任せるわ」

 

「……よろしくお願いします」

 

 シュークリームを口にしていた小猫は、手にしていたものを置き立ち上がる。

 一誠に向き合うと、小さくお辞儀をした。

 今回、一誠に任されることになったのは、小猫の代役。

 重複した以来の片方を任されることになったのだ。

 

「小猫、頬にクリームが付いてる」

 

「ん」

 

 ソファーに戻ってきた小猫にラウルは手を伸ばす。

 指摘された小猫は動かず頬を差し出した。

 ラウルは頬に付いたクリームを指で掬い取ると、薄い唇に指を付け掬ったそれを舌先で舐めた。

 

「朱乃、準備はいい?」

 

「はい、部長。転送の準備が整いましたわ」

 

 部屋の中央で行われる儀式。

 転移の為のそれは朱乃の手で粛々と行われていた。

 対となる認識の為の刻印は、リアスが一誠の掌に書き込む。

 準備が完了し、朱乃は魔方陣の外で一誠を手招きする。

 招かれた一誠が魔方陣の中央に立つと、リアスが注意事項を述べ、遂に一誠に取って初の悪魔契約が始まろうとしていた。

 魔法陣が輝き、一誠が光に呑まれる。

 

 そして――――。

 

「やはりか……」

 

「……魔力不足」

 

 彼らの様子を冷ややかな目で眺めていたラウルと小猫は嘆息する。

 光が納まっても依然、そこにいたのは今日初契約を迎える新人悪魔。

 彼の魔力が人並み以下だと言うことは、誰しもが分かっていたはずだ。

 なのに期待させるような真似をしてどうするのだと、ラウルは白い目でリアスを見る。

 

「イッセー、あなたの魔力は子供以下。魔方陣が反応を示さないほど低レベルなのよ」

 

「なんじゃそりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「……無様」

 

 背中に視線を感じながらもリアスは言い切った。

 一誠は突きつけられた現実に、頭を抱え絶叫した。

 

「あらあら、困りましたわねぇ。部長、どうします?」

 

「依頼人を待たせるわけにはいかないわ。イッセー、前代未聞だけど、足で直接現場に向かってちょうだい」

 

「チャリですか! 今度はチャリでお宅訪問ですか!」

 

 まさかの自転車訪問に落ち込む一誠。

 その様子を見ていたラウルが立ち上がる。

 

「イッセー……難なら私が魔術で送ってもいいが……」

 

 ラウルは魔術で送ることを口にしたが、考え直して自ら難色を示した。

 これから幾度も一誠は契約を交わしていくことになるだろう。

 しかし、契約の度にラウルが送り迎えをしていたのでは、流石に能がない。

 悪魔より圧倒的に寿命が短い彼では、どう転がるにしろこれから一生の間、一誠に付き添うことはできないのだ。

 それならば、前代未聞の自転車召喚もありか、と納得する。

 幼馴染の未来を憂いて、背中を押すことにした。

 

「まあ、頑張れ。これも上級悪魔になるための試練だ」

 

「ちくしょぉぉぉォォォ!!」

 

 一筋の希望をちらつかされただけに、一誠の衝動は大きかった。

 幼馴染に裏切られた一誠は、咆哮を上げ扉を突き飛ばすように出て行った。

 

「なあ、部長」

 

「なにかしら?」

 

「赤龍帝の籠手で一時的に魔力を底上げすればよかったかもしれないな」

 

「……そうね」

 

 既に後の祭り。

 涙を浮かべ依頼者の下へ向かう一誠が、彼らには想像できたのだった。

 

 

* * *

 

 

「すまない、席を立たせてもらおう」

 

 リアスとチェスを打っていたが、電話が掛かってきたためラウルは断りを入れて席を立つ。

 残ったのは終盤に差し掛かったチェス盤と打ち手の片割れのリアスであった。

 リアスは盤上を仇の如き睨み付けると、策を巡らす。

 残る駒は女王こそ残っているものの戦況は押されていたのだ。

 

 兵士の進撃、僧侶が幅を利かせ、騎士は自在に飛び回る。

 自陣に残る戦車や女王は陰に隠れ隙を窺う。

 リアスにとって、麗人の戦法は嫌らしいの一言に尽きた。

 

 彼は基本受けに回る。

 受けに回るがそこから張り巡らせるのは罠であることが多く、誘い込んで逆襲まで繋げる。

 逆に警戒して攻めなければ、真綿で首を絞めるようじわじわとミスを誘発させようと圧力を掛ける。

 また、犠牲(サクリファイス)を前提とした釣り(ルアーリング)強制被動(ツクツワンク)などを平然と使う様には、リアスの琴線に触れるものがあった。

 

 勝率が低いこともその気持ちに拍車を掛ける。

 三勝十六敗とラウルの勝ち越しであったのだ。

 誇り高き令嬢としては、何としても鼻を明かしたいところであった。

 

「部長」

 

 電話を終え戻ったラウルは、チェス盤を見て思いを巡らすリアスに用件を伝える。

 

「イッセーから救援要請が来ているのだが、如何しようか?」

 

 ラウルに電話を掛けてきたのは一誠であった。

 一誠では手に負えない要求だった為に、助けを求めてきたのだ。

 しかし、幼馴染ではあるが、今の彼は目の前にいる紅の姫の下僕。

 勝手に手を出すのは無粋だと思い、指示を仰ぐことにした。

 

「そうね……あなたはどうしたいの?」

 

 返ってきた答えにラウルは目を丸くする。

 

「ふふふ、あなたでもそんな顔をするのね」

 

「私を何だと思っているのだ」

 

 上機嫌で笑声を上げるリアスを見て、ラウルは肩を竦める。

 リアスたちと違って自身はこれでも人間なのだと。

 驚きもすれば、涙を浮かべたりするのだと、リアスに異議を唱えた。

 

「てっきり、貴方が判断をするものだと思ったものでな……少し、意外だったな」

 

「何を言っているの。下僕の考えを聞き入れるのも、主としての役目よ」

 

「……人を下僕扱いするのは、貴方の趣味であったか」

 

 ラウルは何故か自身が下僕扱いされていることに気付き毒づいた。

 

「初の契約取りだから、一人でやらせたいと思っていたのだが……救援要請がきた以上、手を貸すしかあるまい」

 

 ラウルは瞼を閉じ、リアスに意見を述べる。

 

 一誠には初契約を自身の手で成功させてもらいたかった。

 契約成立を機に自信を付けて欲しいと。

 これから何度も味わうであろう、挫折や劣等感を乗り切るための糧にでもなればと。

 ラウルは幼馴染の将来のため、見守ろうと考えていた。

 

 だが、手に負いきれないと言うのであれば別であった。

 仮にここで手を貸さずに契約がご破算になれば、後々までしこりとして一誠の心に痕を残す事であろう。

 堕天使に騙され、悪魔に転生した、不安定な時期ならなおさらだ。

 見守ろうと考えていたラウルとて、そのような事態になること避けたいことであった。

 

「過保護ですわね……リアスと同じぐらいに」

 

「あ、朱乃!」

 

 いつの間にかラウルの背後に現れた朱乃は、お節介を焼く彼らをからかう。

 からかわれたリアスは抗議の声を上げる。

 それは過保護と指摘されたことではなく、朱乃にからかわれたことと、ラウルと同列に扱われたことに対してであったが。

 

 そして、ラウルはというと――――。

 

「さり気なく胸を押し付けないでもらえないか?」

 

 豊かな朱乃の胸に押しつぶされようとしていた。

 頭を抱かれ、後頭部に胸を押し付けられる。

 それは彼の級友たちが血涙を絞る、男冥利尽きる状況であった。

 

「あら、ラウルくんも似たようなことをしているのではありませんこと?」

 

「節度を守っているから問題はない。第一、同性だしな」

 

「それはそれで問題ですわ」

 

 動じることのないラウルに、朱乃は困った顔を浮かべるのだった。

 

「それでどうする部長? 私がこの胸に押し潰されない内に決めてもらいたいのだが」

 

「時間は無制限ね」

 

「私も一応男だぞ。我知らず、狼になるやもしれん」

 

「一応なのね、そこは」

 

 一応と加える彼に、リアスは諦めの境地に達しようとしていた。

 もう彼は女子でいいのではないか。

 女子制服に身を包むラウルは、リアスの心境を察し微笑み返したのだった。

 

「いいわ、朱乃離してあげてちょうだい」

 

「了解ですわ、部長」

 

 考えが纏まったリアスは解放を指示する。

 元々、朱乃が勝手に抱き着いただけではあったが。

 

「あなたにはイッセーの手助けに言ってもらうわ。その代わり、ちゃんと契約を取ってくること。良いわね!」

 

「姫君が拝命、この八幡ラウル謹んで受諾申し上げます」

 

 指を突き付けリアスは命令を下す。

 対してラウルは片膝をつき、騎士の例を以って応える。

 呆気を取られる彼女たちを見て不敵な笑みを浮かべると、光の中へと消え一誠の下へ向かったのだった。

 

 

* * *

 

 

 アパートの一室。

 一誠と依頼者である森沢が、激しい討論を繰り広げるその場所に魔法陣が浮かぶ。

 室内を満たす眩い光。

 魔法陣からは白銀の羽が空高く舞い上がり、呼び出した彼らを祝福する。

 羽根満ちる一室に、女装の魔術師が姿を現した。

 

「お呼びに授かり、八幡ラウル参上致しました。年端も往かぬ若輩者ですが、どうぞ良しなにお願い申し上げます」

 

 扇状に広がる長髪が光に照らされ銀に輝く。

 初雪の白さを宿した細指を付け、掌を額の上で見せる。

 ふわりと舞い降りるスカートの内に垣間見えたのは純白の聖域。

 邪な男たちの視線を釘付けにする。

 聖域が臙脂色の布地で覆われた後、彼らの視線が捉えるのは床に面する膝との間の絶対領域。

 見る者を惹きつけて止まない脚線美を瑞々しい肌が描く。

 姫君に取った騎士の礼のまま転移した銀髪の麗人は、頭を垂れたまま口上を述べた。

 

「て……天使……?」

 

「なんで……敬語?」

 

 ラウルは呆然とする森沢に顔を上げ微笑んでみせる。

 

「お戯れを。私が彼の補佐役をお預かり致しました者に御座います」

 

「似合っているけど似合ってない……つうか何で敬語使ってんの!」

 

「私宛のお客様でない以上、粗相をする訳にはなりません」

 

「え~と、キミ。普段通りの口調に戻ってみてよ。なんか首筋がこそばゆいしさ……普段のキミを見てみたくもあるんだ」

 

「畏まりました……これでいいかな?」

 

 依頼人の希望を以って、ラウルは普段の口調に戻る。

 

「うん、いつものラウルだ」

 

「酷いな、私だって敬語の一つや二つ使えるぞ」

 

「悪魔くん、グッジョブだよ。可愛い系の小猫ちゃんもいいけど、カッコイイ系のお姉さんもありだね!」

 

 大胆不敵な口調に戻ったラウルを見て一誠は安堵の息を漏らした。

 酷い言い草にラウルはニヒルな笑みで対応する。

 一方、依頼者はラウルの麗しい姿に気持ちを高揚させていた。

 

「さて、お客様、如何なものを御所望か?」

 

「これを着て貰おうと思ったけど……背が高いかな? まあ、それもそれでいいか」

 

 ラウルの身長は一般男子の平均並み。

 依頼主が手にする服装を着る人物と比べ、些か高くあった。

 それでも納得した森沢はラウルに制服を渡す。

 

「これを着ればいいのだな? 隣の一室を使わせてもらうが宜しいか?」

 

「うん、好きに使ってくれて構わないよ」

 

「では、着替えてくる」

 

 ラウルは許可を貰い、隣のバスルームへと向かう。

 ふと、性欲の権現がいたことを思い出した彼は振り向き注意する。

 

「覗くなよ、イッセー」

 

「誰が覗くかっ!!」

 

 上品に笑声を漏らしてラウルはバスルームへ消える。

 こうして、アパートの一室で撮影会が始まったのだった。

 

 

* * *

 

 

「う~ん、なんだかミスマッチだね」

 

 短門キユの制服を着こなすラウルを前にして、依頼主の森沢が唸り声を上げていた。

 そんな彼にラウルは目を潤ませ上目遣いで尋ねる。

 

「……何がダメ?」

 

「ぐはっ! い、いや、キミが悪いわけじゃないよ。色々こっちの要望にも応えてくれたし、こんなにも写真が撮れたからね」

 

 鼻血を吹き出した森沢は、ラウルの所為ではないと懸命に否定する。

 手にするカメラに収められていたのは、銀髪の女子高生であった。

 

 制服を着替えたラウルはあれから色々と求めに応じることになったのだ。

 始めの内はテーブルを囲んで会話を楽しんでいたのだが、ラウルの一言で彼自身が森沢の要求に応えポーズを取る事になる。

 

 次々と要求に応えるラウルに、記録を取らないともったいないと、森沢はカメラを取り出した。

 熱が入ったラウルは演技まで始め、被写体となる。

 いつものお姉様キャラに始まり、高飛車なお嬢様、クールな委員長など多岐に渡った。

 

 現在は、原点でもある無口キャラを演じていた。

 だが、此処にきて森沢が首を捻り始める。

 ミステリアスな雰囲気を持つことには違いなかったが、方向性が違ったのだ。

 美少女である短門キユが放つ電波系オーラと美女ともいえるラウルが纏う犯し難い神秘的な雰囲気。

 交わることのないそれは、心の奥底で違和感を生み続ける。 

 

「そういや、ラウル。他の服を持っていたりしないのか?」

 

「いや、悪魔くんそんなに都合よくは……」

 

「あるぞ」

 

「「ある(あん)のっ!!」」

 

「ああ、種類は多くないが手持ちに幾つか」

 

 ラウルは然もありなんとばかりに答える。

 彼にとって女装は正装でもあり、趣味と化していたのだ。

 

「どのようなものを御所望か?」

 

「そうだね……ここは王道にワンピース姿を! いや、ドレスとかはないよね?」

 

「どちらもあるが……どちらがいい?」

 

「あるんですか! あっちゃうんですか!」

 

「マジでっ!? 何で持ってんのっ!!」

 

 驚愕の事実に男たちのテンションが高まる。

 

「さあ、お客様はどちらからが御所望かな?」

 

 彼らの様子を目の当たりにしたラウルは小悪魔な笑みを浮かべ誘った。

 

 

* * *

 

 

 薄暗い石造りの回廊で、短い悲鳴が上がる。

 

「くっ! 魔王め! 私にこのようなことをして、ただで済むと思っているのか!」

 

 悲鳴の主の下に銀製のティアラが転がる。

 純白のドレスは裾口から大きく裂け、ガーターベルトを身に付けた大股が顕わになっていた。

 石張りの床に身を打ち付けた姫装束のラウルは、己に無礼を行った下手人を睨み付ける。

 

「ふぁふぁふぁふぁ。ラウラ姫よ、最早この国には我が物。貴様に何を行おうとも咎められる謂われはありはしない」

 

「馬鹿なっ!? この国が落ちたなどと……父上は! 聖合騎士団はどうなったというのだ!!」

 

 信じ難い事態を告げられた姫は、目を限界まで見開く。

 高らかに笑う魔王を目の当たりにして、虚言でないと知ると顔を伏せ胸の前で両手を握りしめた。

 

「分かり切ったことを。いずれ貴殿も後を追わしてやろう。だが、それまでは――――」

 

 顎に指を掛けられ、顔を背けることの許されないラウラ姫。

 気丈に振る舞っていた淡蒼の瞳は大きく揺れる。

 我が身に降りかかる不幸を幻視して絶望の表情を浮かべた。

 

 そして、魔王の顔がゆっくりと近づき――。

 

 

 

「はい、カット!! お疲れ様~」

 

 

 

「いや~、ラウルさんもいい仕事をするね。見ているこっちがドキドキしてくる」

 

「満足して頂けて何よりだ」

 

「やべぇ、今日眠れそうにない」

 

 目前まで迫った一誠の唇を細指で塞ぎ押し返す。

 一誠が正気に戻ったのを確認したラウルは、手を借りて立ち上がる。

 立ち上がり着衣の乱れを直し、依頼人の満足そうな顔を見ると、ラウルは手を翳し周囲に掛けた幻術を解く。

 幻術が解けた後に現れたのは、何もない広大で無機質な空間だった。

 撮影はいる際に、依頼人の一室では些か狭さを感じたラウルは、結界を張り亜空間を創造。

 その空間を幻術で上書きして、環境を整えたのだった。

 

「ラウルさんは演技派だね」

 

「そうですね……危うく襲いかけましたし」

 

 ラウルが切れ長の目で見ると、一誠は冷や汗を浮かべていた。

 無意識の内とはいえ、魔王を演じていた一誠は幼馴染の男の娘を襲おうとしていたのだ。

 性格が決して良いと言えないラウルに何を仕返しされても仕方ないだろう。

 未来を予想して恐れ慄く一誠が面白くて彼は小さく笑う。

 ラウルとて、登場人物になりきりすぎて、演技に熱が入ったのが分かっている。

 しかし、内心複雑だったため、何も声を掛けず観察することにしたのだ。

 

「さて、次は何にする」

 

「ん? これで終わりじゃないの?」

 

「もう満ち足りたのか? まだ、三着目だろ」

 

「いやいや、まだまだいけるよ。でも、大丈夫? 対価で命とか取らない?」

 

 対価を心配して尻込みし始めた森沢。

 そんな依頼主の為に、一誠は手元の機会を操作して対価を調べる。

 

「え~と、この撮影会自体で対価を取るので、時間は関係ないみたいです」

 

「だ、そうだ。次は何にする? 希望がなければやってみたいのがあるのだが」

 

「なんでもOKだよ。ラウルさんのやりたいもので」

 

 森沢の返事を聞いて、ラウルは不敵な笑みを浮かべた。

 未だに機械の操作を行っていた一誠は背中に寒いものを感じた。

 

 古今東西にて語り継がれる逸話。

 魔王――それは物語で討たれる運命にある存在であった。

 

 

* * *

 

 

 地が剥き出しになった荒野で一組の男女が向き合う。

 頭に角を生やした男は、身体の到る所に裂傷を負い、片膝を立てて乱れた呼吸を整える。

 純白の騎士服に身を包んだ女性は、天使の祝福を受けた白銀の剣を携える。

 土汚れた銀の長髪は輝きを失うことなく気高さを纏っている。

 憎しみを宿す蒼の瞳は澄み、曇ることなく怨敵を捉えていた。

 荒野で死闘を繰り広げる彼らは、嘗ての故国を滅ぼした者と滅ぼされた者であった。

 聖剣を掲げる姫騎士は忌まわしき過去を断ち切るべく告げる。

 

「魔王よ! 私を生かしておいたこと、あの世で後悔するがいい」

 

「ま、待て! 貴殿が望むならば世界の半分でもくれてやる。だから考え直そうではないか!?」

 

「世迷い事を! 皆の苦しみとくと思い知れ!!」

 

「待て! 待たぬかぁぁぁぁ!!」

 

 白光が荒野を疾走する。

 振るうは世界より託された想い。

 姫騎士は皆の希望を乗せ、絶叫する魔王を切り裂いた。

 

「父上、母上……皆の仇を取りました」

 

 怨敵を討った姫騎士は天に向け剣を掲げる。

 胸の間で柄を握りしめる両手は、亡き者たちへの想いで震える。

 閉じた眼からは、歓喜の涙が止め処なく溢れ出す。

 頬を伝う涙は、地を濡らし姫の苦行を物語る。

 彼女を照らしだす陽光は、新たなる世界の幕開けを祝福しているようだった。

 

「……はっ!」

 

 涙流すラウルの姿に見惚れていた森沢は、慌ててシャッターを切る。

 フラッシュ浴びるラウルは微動たりしない。

 頬伝う涙も枯れることなく溢れ続ける。

 

「お疲れ様。悪魔業なんて止めて、女優目指したらどうだい? いまなら、ファン一号が付いてくるよ」

 

 聖女の彫刻と化していたラウルに、森沢が労いの言葉を掛ける。

 声を掛けられたラウルはシルクの織物を取り出して、涙流れた頬を拭く。

 涙を拭く動作ですら絵になるラウルは、感極まり芝居が終わった後もスナップを利かせる森沢に微笑み返した。

 

「ふふふ、残念ながらすでに私は役者だよ」

 

「うそぉ!? 全然見たことないよ! 何処の会社のタレントさん!?」

 

「秘密だよ。ファンになるなら自分で探さないとな」

 

 ラウルは既に役者であると、片眼を閉じて伝える。

 衝撃を受けた森沢は問い質すが、語っては面白みがないとラウルは唇に指を添えた。

 

「でも…………今は貴方だけのもの」

 

「ぼ、僕だけの……」

 

「そう、貴方だけの……」

 

 ゆっくりと近づいたラウルは、森沢の頬に手を当て言葉を紡ぐ。

 されど、今だけはこの身はあなたのものだと。

 好きにしてくれて構わないと囁く。

 長いまつ毛がくすぐり、熱い吐息が触れた森沢は顔を赤くしていた。

 

「いつつ……マジで叩き切りやがったな」

 

 怪しい雰囲気を纏い始めた二人の仲を無粋な少年が切り裂く。

 

「本気で襲いかかろうとした罰だ、暫しもがいていろ」

 

「……容赦ねぇ」

 

 幻術を使い聖剣を模した木刀で叩き切ったこと。

 それはお互い本気で演技した結果だと、ラウルは意趣返しを正当化した。

 冷たくあしらわれた一誠に魔の手が伸びる。

 

「悪魔くん! キミってやつは!! キミってやつは!!」

 

「森沢さん放して……マジでヤバいから……げぷ」

 

 生殺しに終わった森沢の衝動は一誠へと向く。

 首元を掴まれ揺さぶられる一誠は吐き気を催した。

 

「その悪魔は放って置いて、そろそろ最後の撮影には入らないか?」

 

「え? ……最後?」

 

 一誠を投げ出した森沢が信じられないとばかりに、終わりを告げるラウルを茫然と見る。

 投げ出された一誠を一瞥すると、ラウルは凛とした姿で続ける。

 

「ああ、最後だ。もうじき夜も明けるしな」

 

「………………」

 

 ラウルが魅せるは胡蝶の夢。

 魅せられた者は夢と現実の境を失うのだ。

 見境を失ったものは、過ぎ去る時などに気付くことはない。

 されど、現実である限り終わりはやってくる。

 

「楽しい時間とは気付かぬうちに過ぎ去るものだ」

 

 終わりがやってくる故に最後は期待以上のものを用意する。

 フィナーレを盛大に飾るのもまた、役者であるラウルの役目であった。

 

「最後はとっておきのを見せよう」

 

 そして、冒頭に話は戻る。

 

 

* * *

 

 

「こっちに視線寄越して……うん、そう……そんな感じ」

 

 月明かりを背に、ラウルは樹木に身を預ける。

 立てた片膝から見える聖域を抱える剣が遮る。 

 憂いを帯びた表情で片目を開け、淡蒼の瞳は遠くを見据えていた。

 

「次は剣舞をお見せしよう。ゆっくり踊るので、指示をお願いできるか?」

 

「任せてよ! 絶対いい絵を取るからさ!!」

 

 満足を浮かべる森沢の顔を見ると、ラウルは立ち上がり剣舞を見せることになる。

 

 すらりと剣を抜くと、木々のない広場で足を肩幅に開く。

 右足を引き、剣先を正面に向けると深く息をする。

 仮想敵を定め、瞳に映すと踊り始めた。

 

 流れる銀髪は一刀振るうごとに跳ね、月に照らされ輝く。

 挙動を重ねるたびに丈の短いスカートの内が垣間見える。

 振るう度に男たちの声が響くが、ラウルの剣舞は澱むことがない。

 

 仮想敵と定めたのは、一誠とは違うもう一人に盟友。

 ラウルの知る限り最優の騎士。

 彼に並ぶ騎士は居れど、優れたる剣士は見たことがない。

 盟友の優男が繰り出すのは、決してぶれることのない不変の剣術。

 何処の誰が相手であろうが安定した戦いを見せる。

 

 ゆったりと踊るラウルの剣舞は一閃一閃が苛烈なものに代わっていく。

 最優の騎士の守りを崩そうと、柔軟な身体を撓らせ剣を振るう。

 しかし、その一撃が通ることはない。

 最優の騎士は涼しい顔で防ぎ、逆刃を以って逆襲する。

 麗人は剣を引き受け流すと、流れる動きで次なる一撃を放つ。

 

 交わる剣の幻想は、火花を散らして現世に剣戟を響かせる。

 すでに挙動を魅せる剣舞は、剣技を魅せる剣舞へと移ろいていた。

 

「そこで、ストップ! 体勢辛そうだけど我慢できるかい?」

 

「問題あるまい。これでも、鍛えているからな」

 

 描くは優雅な曲線美。

 身体が伸びあがる瞬間を捉えた森沢は、忙しく駆け回りシャッターを切っていた。

 

「それにしても過激な服装だね。清楚な感じだった先程とは大違いだよ」

 

「魔法少女だからな、少しはファンサービスも必要なのだよ」

 

「なるほどね……」

 

 ラウルは表情を動かすことなく語る。

 魅せるのも魔法少女の仕事だと。

 その為なら肌を晒すことも止む無いしだと。

 納得できる言い分に森沢は露出する肩甲骨をしげしげと見詰める。

 

「それにしても、魔法少女ラウるんねぇ~、どこかで聞いたような無いような」

 

「企業秘密だ。名前は変わっているが、似た服装で私が出演しているかもしれんぞ」

 

「ハハハ! 時間があったら調べてみようかな?」

 

「……見つかるといいがな」

 

 ふと重要ことを思い出したラウルは目を逸らした。

 あれは、人界では放送していなかったと。

 煽ったが故に言告げることはできそうになかった。

 

「あれ……メモリーが切れちゃったみたいだ。落としてくるから待ってね」

 

 カメラが音を上げ容量の空きがないことを知らせる。

 画像を移して容量を空にしようとする森沢を見て、ラウルは首を振った。

 

「いや、ここまでにしよう。丁度、切がよさそうだからな」

 

「……うん、そうだね。名残惜しいけど、もう、こんな時間だしね」

 

 手元の時計が示す時刻。

 元の空間に戻れば朝日が出始めている頃だ。

 

「え~と、今回の支払いになるんっスけど――――」

 

「イッセー、初回契約だ。もう少し負けれないのか?」

 

「そうっスね、これぐらいで如何でしょうか?」

 

「ハハハ! お手頃価格だね! これなら、またすぐに呼んでしまいそうだよ」

 

 上機嫌で森沢は提示された対価を払う。

 負けたこともあり子猫との契約の対価よりも断然に少なくあった。

 

「今日の契約はなかなか楽しかった。男の身である私で良ければ、いつでも呼んでくれ」

 

「……男?」

 

 森沢の表情が固まる。

 その様子を見ていたラウルは、舌を出し悪戯な表情を作る。

 

「俗に言う、男の娘って奴っス」

 

 一誠が機械を操作しながら、ぽつりと真実を漏らす。

 

「ぇぇぇぇぇえええええ!!??」

 

 真実を知った森沢が心の底から絶叫を上げる。

 それは魂の叫び声だったかもしれない。

 

「嘘だ! 嘘! こんな綺麗な娘が男であるはずない!!」

 

「ほんとっス! これで女の子であったならどれだけよかったことか……」

 

「……本当なのか、悪魔くん」

 

「はい、残念ながら……」

 

 一誠は大変遺憾そうに俯く。

 ラウルが女なればどれだけ良かったかと悔いた思いは数知れず。

 この世において彼以上の被害者はいなかった。

 

「まあ、私が男であろうとも女であろうとも関係あるまい」

 

「あるよ! 無茶苦茶あるよ!」

 

 ラウルは無い胸を張って堂々と宣言する。

 しかし、半場騙された形の森沢は食い掛かった。

 

「ならば、今宵の契約は味気なかっただろうか?」

 

「そ、そんなことはなかったけど……」

 

「私が男であるのが気に入らないのなら、女と思うがいい。見て呉れだけなら問題あるまい。これでも、少しは自信があるのだぞ」

 

 食い掛る森沢に動じることのないラウルは、澄んだ瞳を向け問う。

 純粋無垢な瞳を向けられた森沢は面を食らい狼狽える。

 反応に手ごたえを感じたラウルは流れる銀髪を掻き上げ常套句を述べる。

 

「今宵は貴方だけの役者……貴方の色に私を染め上げたではないか?」

 

「染め上げったって……それは、キミのことを男だと知らなかったから……」

 

「違うとは言わせぬぞ」

 

 女装の麗人は艶やかな笑みを浮かべて迫る。

 言い逃れしようとする彼の腕を捕らえて、逃げることを許さない。

 最早、百戦錬磨のラウルを前にして森沢は赤子同然であった。

 

「それに――」

 

 薄い花唇が形を作り、言葉を紡ぎ出した。

 

 

「貴方の為なら女にもなれるさ」

 

 

 ラウルは止めに殺し文句を言い放ったのだった。

 

「……役者だね、キミは」

 

「だろ」

 

 銀髪の麗人は軽やかに笑う。

 その笑顔には隠しきれない喜びが詰まっていた。

 

「またの契約お待ちしている。貴方と過ごした夢の一時、再び訪れる事を願おう」

 

 光に包まれ姿を消す、悪魔たち。

 こうして、一誠の初契約は成功を収めたのだった。

 

 




 以上ラウル君によるサービス(?)回でした。

 森沢さんの紳士度がアップ↑
 これにより、某吸血鬼君のフラグが正当化するのかもしれません。
 ラウル君のお蔭……いえ、ラウル君の所為で。


 ちなみに服装の描写は如何だったでしょうか?
 熟考を重ねて書き綴ったのですが。

 ……服のセンスがちぐはぐな私ではこれが限界です。

 アドバイスがあればお願いします。
 じゃんじゃん取り入れますから!



 それでは……学園内におけるラウル君の服装――――。

 え? スルーするな?
 最初に現れたのは何だ?

 すいません、勢いで書いてしまいました。
 原作四巻まで登場しない予定だったのですが。

 勢いって怖いですね。
 ラウル君もきっと勢いであの衣装を着たのでしょう。

 それでも、突っ走り過ぎですあなたは!
 公園での戦闘も当初なかったのに、私の頭の中で散々暴れまわって書くことに。
 キャラが自然に動くのはいいことなんですが。

 ここまで来たらぶっちゃけてしまいましょう。
 皆さんのご想像の通り、ラウル君……某魔王少女の関係者です。
 エピソードの構想もすでに幾つか。
 本編に関係のない小ネタ好きの作者です。
 そのうち書くことがあると思いますのでその時は、魔法少女ならぬ、魔剣装女ラウるんをどうかよろしくお願いします。



 改めまして、学園内でのラウル君の服装です。


 ――女装化決定です!!


 女装の回答ばかりもらいましたので、今後は本格的に女装化させたいと思っております。

 また、改造制服と言うご意見を頂いたのですが、如何いたしましょう。
 本格的にそういうことに疎い私。
 
 故に今回はナチュラルな感じで描写させて頂きました。

 アドバイス頂けたのなら幸いです。
 これは……アンケートになるのかな?
 一応、活動報告の方で欄を作らせて頂きます。


 さて、次回の予告ですが――。
 遂に神父君登場になります。
 私が一番書きづらいキャラ――フリード君。
 あの口調をうまく再現できるかが鍵ですね。

 次話も今から書き始めるので、数日中には投稿したいと思います。
 それでは、ごきげんよう。

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