ハリー・ポッターと魔法の学校のアリス   作:聖夜竜

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大変長らくお待たせしました。

作品全体の見直しを終わらせ、ようやく執筆できる環境が整ったので更新再開していきます。


ハグリッドのお茶会

 

 『魔法薬学』の授業の後、地下室を飛び出したアリスは中庭のベンチに腰掛けて独り泣いていたところをハリーとロンに見つけられた。

 

 恐らく心配になって追い掛けて来てくれたのだろう。アリスは目元に溜まった涙を指先で拭うと、改めて二人に向き直って感謝した。……まだ表情は幾分か暗かったが。

 

「元気出せよ。フレッドもジョージもスネイプにはしょっちゅう減点されてるんだ」

 

「僕もアリスがいなかったら、きっとスネイプにもっとたくさん減点されてたと思う。それにさっき、ネビルがすごく感謝してたってアリスに伝えてほしいって言ってたよ」

 

 真ん中のアリスを挟む形でベンチに座ったハリーとロンがあの手この手で励ますにつれ、アリスも「いつまでも落ち込んでちゃいられない」という思いが身体中から湧き出してきた。

 

「……二人とも、ありがとう」

 

 いつもは泣き虫なアリスだけど、悲しく泣いてばかりでは物語の主役は務まらない。元気を取り戻したアリスは弾むようにベンチから立ち上がると、二人に振り返っていつも通りの明るく可愛らしい笑顔を見せた。

 

「ねぇ、一緒にハグリッドに会いに行きましょ! 気晴らしに美味しい紅茶をうんと飲んでいくんだから!」

 

「そうこなくっちゃ!」

 

「それでこそアリスだ!」

 

 アリスとハリーは元々授業が終わった午後にハグリッドとのお茶会を控えていた。すると話を聞いたロンが自分も一緒に行きたいと言うので、アリスは急いで現在の時刻を確認する。

 

 三時五分前……ハグリッドとの約束の時間までギリギリといったところか。アリス達は急いで校庭を横切ってハグリッドの待つ方角へと向かう。

 

 ハグリッドは『禁じられた森』の端に位置する木の小屋に住んでいるらしく、三人が歩く先に段々とその建物が見えてきた。早速ドアをノックしてみると、中から戸を引っ掻く音と同時に唸るような吠え声が数回聞こえてくる。

 

「ハグリッド、僕達だよ!」

 

 ハリーが代表して声を掛けると、少し待ってからドアが開き、隙間から見慣れた髭面の大きな顔がのそっと現れた。

 

「おう、よく来たな。ちょうどお湯が沸いたところだ。ハリーとアリスに、あー──」

 

「ロンよ。入学の時に汽車の中でお友達になったの」

 

 ハグリッドはロンの事を知らないと思い、アリスが友達だと紹介すると、ハグリッドは忽ち笑顔になって三人を招き入れた。

 

 小屋の中は大きな円形の部屋が一つあるだけだった。非常食らしきハムや干し肉が天井から幾つもぶら下がり、焚き火に掛けられた銅のヤカンにはお湯が沸いている。

 

「ここがハグリッドの……なんだかすごいわ」

 

 マグルの貴族らしく裕福な暮らしをして育ったお嬢様のアリスにハグリッドの小屋はよほど珍しく映ったのか、部屋に入ると興味津々な様子で小屋の内装を観察していた。

 

「寛いでくれや。それとこいつは番犬のファング。一緒に仕事の手伝いなんかをしてくれちょる」

 

 先程まで内側から戸を何度も引っ掻き回していた、首輪を付けた巨大な黒いボアーハウンド犬──ファングはハグリッドの手から離れると、ちょうど椅子に腰掛けたロンに向かって飛び掛かり、涎でベトベトになるまでロンの耳を執拗に舐め始めた。

 

「ウィーズリー家の子かい?」

 

 ロンが椅子に座ったまま抱き着くファングと格闘しているのを尻目に、大きなティーポットに熱々のお湯を注ぐハグリッドは言う。やはり純血の魔法使いで赤毛という外見的特徴はウィーズリー家しか当てはまらないらしい。

 

「お前さんの双子の兄貴達を森から追っ払うのに、俺は人生の半分を費やしてるようなもんだ」

 

 そう言ってどこか苦笑いすると、ハグリッドは皿に乗せたロックケーキを三人に配り終えた。いよいよお茶会の準備は整った。

 

「そんじゃあ、ハリー達の最初の1週間に乾杯といくか」

 

 ハグリッドの合図に三人も倣ってティーカップを手に乾杯すると、アリスは早速ハグリッドの淹れた“湯立った紅茶”の香りを楽しもうと唇に運ぶ。

 

「……ちょっと、これ」

 

 が、口元に近付けてすぐに顔をしかめた。……これは駄目だ。紅茶を愛する国の人間としては不合格と言わざるを得ない、とにかく酷い出来だ。その隣では既に一口飲んだらしいハリーとロンが揃って「熱ぅっ!?」と言いながら危うく手に持ったティーカップを落として割りそうになっていた。

 

「ん? どうしたアリス、ひょっとして猫舌か? そういやたしか猫を飼ってるとか前に言ってたが、飼い主も猫に似──」

 

 しかし当の本人はどこ吹く風だ。これにはアリスも我慢できないようで……

 

「ハグリッド!」

 

 アリスは憤慨した様子で立ち上がると、ハグリッドに怒鳴ってから自分が手にしたティーカップを持ち上げた。

 

 思わずその迫力に圧されてしまうハグリッド。ハリーとロンも突然の事態に呆然と固まってしまっている。

 

「これはなに!?」

 

 アリスは自分のティーカップを散々散らかったテーブルに置くと、今度はヤカンに向かって指差したではないか。

 

「な、何ってそんなもん紅茶に決まって──」

 

「紅茶!? これを紅茶と呼ぶには明らかに大事なのが欠けているわ!」

 

 そう言うとアリスはヤカンから立ち上る熱々の湯気を見ろとばかりに睨む。

 

「まず、長い時間お湯を沸かし過ぎ! ハグリッド、あたし達がここに来る前から沸騰させてたでしょ? これじゃお湯の中の空気が抜けて紅茶の葉がうまくジャンピングできないでしょ? こうなると紅茶の香気成分がなくなって、ハグリッドが淹れたような“お湯っぽい紅茶”になっちゃうの!」

 

 アリスの熱い説教を受け、ハグリッドは棍棒で頭を殴られたような衝撃を覚える。ハグリッドも独りでティータイムを嗜む趣味を持つが、大雑把な性格である為に正しく計りもしないまま紅茶を淹れていたのだ。

 

 自分では特別美味しいと思っていたが、普段より上質で高級な紅茶ばかりを飲んできたアリスからするとまだまだ未熟なところが多い。

 

「いい? 紅茶に使うお湯の最適な温度は100度よ。それにポットとカップは予めお湯を注いで温めておかなきゃ。ミルクはちゃんと入ってるようだけど茶葉とも合ってないし……ねぇ、茶葉は普段何を使ってるの? ロックケーキに合うのは──」

 

「あ、あぁ……ホグズミードで買ったのが幾つかそこの棚に──」

 

「道具を貸して。あたしが全員分ちゃんと淹れ直すから」

 

 ハグリッドは思わず放心気味に答えながら戸棚を指差すと、アリスは急いで残りの茶葉やら紅茶道具を物色し出したではないか。

 

「「………」」

 

 その一方でハリーとロンは互いに気まずい空気の中で出された熱湯のような紅茶を再び口に運ぶ。

 

 なるほど……言われてから飲んでみると確かにアリスの言う通りかもしれない。ハリーはダーズリー家にいた時に食事で紅茶を飲む機会が何度かあり、叔母のペチュニアが淹れた紅茶は確かに味も色も香りも桁違いに美味しかった気がするとハリーは内心思った。

 

 一方でイギリス人ながら紅茶にあまり興味の無いロンの方は然程違いを気にしてないのか、火傷するくらい熱くなければ飲めると言ってハグリッドの淹れた紅茶を残さずに飲んでいた。

 

 

 

 

 

「はい、お待たせ。これでやっとお茶会になるわね」

 

 ──数分後、律儀にアリスが淹れ直した紅茶が全員に行き渡る。ティーカップから立ち上る湯気は程好い香りを漂わせ、水色は先程の黒ずんだ色とは異なる見事な紅色に輝き染まる。

 

 ハリーには飲まなくてもわかる……これは絶対に美味しい紅茶だと。早速手付かずだったロックケーキと一緒にみんなで頂いてみる。

 

 ハグリッドお手製のロックケーキは噛んだ瞬間に歯が欠けるんじゃないかと三人が思うほどに固かったものの、味自体は意外にも美味しかった。少なくとも、アリスの淹れた紅茶を飲みながらであれば固さも我慢して食べれる……アリス達はそう思ったが、口には出さずに初めての学校生活についてハグリッドに話して聞かせた。

 

「あの猫だがな、ミセス・ノリスだ。いつかファングを引き合わせなくちゃな。俺が学校に行くとな、知っとるか? いつでもズーッと俺を付け回す。どうしても追い払えん。あの老い耄れのフィルチの奴がそうさせとるんだ」

 

 ハグリッドがホグワーツの管理人であるフィルチの事を“老い耄れ”と呼んだ事に心の底から喜ぶハリーとロンだが、大人しく紅茶を飲んでいたアリスはまた違うところで口を挟んできた。

 

「まあかわいそう。その猫、きっとハグリッドと一緒に遊びたいのよ。あたしもミセス・ノリスに会って構ってみたいな」

 

 すると話を聞いたロンが隣で下品に舌を出し、ゲェーッと何か吐きそうな仕草を見せたので、可愛らしくぷくっと頬を膨らませたアリスはロンの足を然り気無く踏みつけた。

 

「痛ってぇ……まったく、おめでたい人だよ君って。あんなのがいいなんて」

 

「あらそう? 猫ってとっても可愛いじゃない!」

 

 そんなアリスの猫大好き発言を聞いてハグリッドの顔色が明らかに悪い方に変わる。黙って聞いていたハリーは「あぁ、また始まった……」と言うような訳知り顔で仕方なくロックケーキに齧り付く。

 

 どうも猫の話題になると不機嫌になるハグリッドの為にも、ハリーとロンは話題を変えてスネイプの授業で起きた出来事について話した。

 

 ハリーがクラスの前で理不尽な目に遭った事、見兼ねたアリスが少しばかりスネイプに仕返ししてくれた事……しかしハグリッドが言うには、スネイプはハリーだけでなく生徒という生徒をみんな嫌っているのだという。

 

「気にするだけ無駄ってもんだ」

 

「でも僕のこと本当に憎んでるみたい」

 

「馬鹿な。なんで憎まなきゃならん?」

 

 口ではそう言いながら、ハグリッドはまともにハリーの目を見なかった。怪しい……これは明らかに何か事情を知っているという感じに見える。

 

 みんなが飲み終えた紅茶やロックケーキの皿を一人で片付けていたアリスがスネイプの話を聞きながらそのように思考を巡らせていると、テーブルの上に置かれた一枚の紙切れがアリスの視界に入った。

 

 一体何だろうか……気になったアリスがこっそり引っ張り出してみると、それは『日刊予言者新聞』の切り抜きだった。

 

 ……『日刊予言者新聞』というのはイギリスの魔法界で発行されている有名な新聞の事だ。毎日様々なニュースや広告を掲載しているのはマグルの世界の新聞と同じだが、見出し記事の写真が動いたりするのが唯一の違いである。

 

 マグル育ちのアリスも最初は魔法界の新聞があると知って驚いたものだが、いざ読んでみるとこれが意外と面白くて役立つ。

 

 手に取って新聞の日付を見ると今日になっている事から、恐らくアリスもまだ知らない最新の情報が掲載されているに違いない。

 

 テーブルの後ろでハグリッドがロンと一緒にドラゴンの話題で盛り上がっているのを尻目に、アリスは手に取った新聞の見出し記事を声に出さずにこっそり読んでみる事にした。

 

 一面に動くモノクロの写真付きで『グリンゴッツ侵入される』と大きく記載されており、7月31日にダイアゴン横丁で起きたグリンゴッツ侵入事件についての詳細がある。

 

 取材に応じたグリンゴッツの小鬼達は侵入こそされたが盗難の被害は何も無かったと主張し、犯人によって荒された金庫は実は侵入されたその日に既に空になっていたのだという。

 

(侵入してみたはいいけれど、その金庫に何も入って無かったって知らなかったのかなぁ……おかしな犯人さん)

 

 奇妙な話だとアリスは思った。グリンゴッツに眠るお金が欲しいのであれば、何も一つの金庫だけでなく他の金庫も見て回る事だって出来たはず。

 

 しかし犯人はそうしなかった。時間の余裕が無かったのか、それとも最初からその金庫に狙いを定めていたのか……どうも後者の方が可能性としては高そうだ。

 

 アリスはホグワーツに向かう汽車の中でロンが話していた事を思い出す。それはちょうど互いの家族の事を話し終え、ダイアゴン横丁の話題になった時の事。

 

『ダイアゴン横丁と言えば──グリンゴッツのこと聞いた? 誰かが特別警戒の金庫を荒そうとしたらしいよ。でも犯人は“なんでか”何も盗らなかったし捕まらなかった。おかしなニュースさ。グリンゴッツに忍び込むなんて、きっと強力な闇の魔法使いの仕業だろうって、僕のパパは言ってたけど』

 

 あの時はハリーやロンとの談笑が楽し過ぎるあまり、そんな人もいるんだ程度にしか思わなかったが。

 

 ……今になって考えると結構な事件な気がする。しかも記事によれば犯人はまだ捕まっていないとの事で、現在魔法省が逃げた犯人の行方を捜索中というコメントで記事は終わっていた。

 

「アリス、これ……」

 

 気付いた時にはハリーがすぐ隣にいた。ハリーも同じ様に『日刊予言者新聞』の切り抜きを見ており、何やら思い当たる節があるらしい。

 

「グリンゴッツ侵入があったのは僕の誕生日だ。僕達があそこにいる間に起きたのかもしれないよ」

 

 肩を寄せ合い、お互いにひそひそ声で話すアリスとハリー。まさか、とは思う。しかしもしあの時、ハグリッドが713番金庫から持ち出したという汚い小包みが犯人の狙いだったとすれば……

 

「……ねぇハリー、この事件はホグワーツが関係してると思うの。大人達じゃ目立っちゃうし、私達でもう少し慎重に調査してみましょ?」

 

「うん。だけど……大丈夫かい?」

 

「しっ。ハグリッドに怪しまれると不味いから……後日またロンも加えて話し合いましょ?」

 

 アリスには不思議と確信があった。グリンゴッツ侵入に失敗した犯人は、きっとまたハグリッドが持ち去った汚い小包みの中身を狙って来るだろうと。そして今、それはホグワーツのどこかに保管されてある可能性が極めて高い。

 

「ハグリッド! 私達そろそろ夕食の時間だから戻らなきゃ。ごめんなさい」

 

「ん? おぉっと。もうこんな時間か、すまんすまん。どうもドラゴンの話になるとついつい盛り上がっちまう」

 

 小屋の時計を確認しながらハグリッドが口を開く。玄関前でお土産に残りのロックケーキを持っていかないかと勧められ、アリス達は断り切れずに分担してロックケーキをポケットに仕舞い、楽しそうに微笑むハグリッドに別れを済ませてから城に向かって歩き出す。その道中にはロンにもこの件を伝え、すぐさま犯人探しに協力すると言ってくれた。

 

 

 

 

 

 ──夜、アリスが女子寮にある自分のベッドに潜り込む。隣のハーマイオニーは既に寝ているらしく、深紅色のカーテンは閉められている。

 

(さっきの話、起きたらハーマイオニーにも……ううん。きっと彼女は危ないから止めなさいって怒るよね)

 

 深紅のカーテンを閉めてからベッドで横になるアリスは枕元で内心呟く。別にアリスとしてはグリンゴッツ侵入の犯人探しなど、『魔法薬学』で泣かされた事からくる大人への小さな反抗心と興味半分での思い付きでしかなく、本当の目的はハリーが以前ダイアゴン横丁で話してくれた“713番金庫の中身”が何だったのか気になるというだけの話だったりする。

 

 仮にあの場でハグリッドに直接聞いてみたところで、大人がただの一般生徒にそんな情報を簡単に教えてくれる訳ないと理解していたアリス。しかもハリーの話によれば、ハグリッド曰く713番金庫の中身は“ホグワーツの大事な仕事”で校長のダンブルドアが関わっているらしいとの事。

 

 ダンブルドアと言えば……新入生歓迎会の席でアリスが組み分け帽子に名前を呼ばれた際、他の教師陣と違ってただ一人何故かとっても意外そうな顔で見つめていた気がする……

 

 あれは一体何なのだろうか……ダンブルドアは何を隠しているのだろうか……マグル出身の自分の事を知っているのだろうか……?

 

 眠たい頭の中で浮かんでは消えていく沢山の疑問に何も答えられないまま、アリスは気付かないうちに深い眠りの世界へと意識を沈めるのだった。

 

 

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