この辺りから省略できそうな原作シーンはできる限りカットしていきます。
また、この作品はアリス視点でハリポタの原作ストーリーが進む形になるので、当然アリスがハリー達と別行動している時はアリスメインのオリジナル展開が入ると思います。
「ここだ」
ハグリッドが不意に立ち止まった。後ろに隠れていたアリスとハリーも気になって覗いて見ると、そこには一軒の薄汚れたパブが。
ハグリッドの説明によれば『漏れ鍋』というロンドンの有名な店らしい。……なるほど。確かに建物は結構な年季が入っており、このパブの雰囲気には合っている様に思える。
しかし初めて『漏れ鍋』を訪れたアリスとハリーが思うに、どうも普通の人間には店そのものが見えていない様に感じた。
足早に道を歩く人々もパブの隣にある本屋から反対隣にあるレコード店へと目を移し、目立つ二店舗に挟まれたちっぽけなパブにはまったく目もくれない。
(これって……魔法使いの人にしか見えないってこと? あたしの目が急におかしくなったって訳じゃないよね……?)
疑問に思いながらアリスとハリーがパブの様子を眺めていると、二人の間に立っていたハグリッドから促されたので、二人は取り敢えず店の中に入ってみる事に。
緊張して入った店内は暗くて見窄らしく、今日が平日の朝という事もあってか、飲んでいる客も数える程しかいない。
三人が店に入ると、低いガヤガヤとした話し声がピタリと止まった。どうやらパブの客達は全員がハグリッドを知っているらしく、ハグリッドに向かって手を振ったり、笑顔で会釈したりしている。
「大将、いつものやつかい?」
とその時、バーテンダーの老人がグラスに手を伸ばしながら聞いてきた。バーテンダーの老人は禿げていて歯も何本か抜けてしまっている。
「トム、駄目なんだ。ホグワーツの仕事中でね」
そう言うと、ハグリッドは大きな手でアリスとハリーの肩を叩きながらバーテンダーの誘いを断った。
「……なんと。こちらが……いや、この方が……」
パブの中ではハグリッドが余計に大きく見えてしまい、二人の子供は目立ってなかったのだろう。そこで初めてアリスとハリーの存在に気付いたらしいバーテンダーの老人。
「ハリー・ポッター……何たる光栄……」
バーテンダーの老人はカウンターがある長テーブルから急いで出てくると、涙を浮かべてハリーの手を握った。
「お帰りなさい、ポッターさん。本当にようこそお帰りで」
そこからはちょっとした騒ぎになった。驚いた事に物静かなパブにいた客達が我先にと立ち上がり、全員がハリーと握手しようと歩み寄ってきたのだ。
更にはハリーの隣で控える様に立っていたアリスを見て、口々に「お人形のように可愛いお嬢ちゃんだ」と絶賛したりと、二人は初めて訪れたパブで注目を浴びてしまった。
中でもアリスが不思議に思ったのは、ハリーが魔法使いの人達からとても愛されていると感じた事だ。これはオックスフォードでの自分の境遇に似ていると思ったが、アリスを困惑させたのは魔法界の有名人らしいハリー自身がまるでその現状を理解してなさそうだという事。
何故自分が知らない人達からこんなにも握手を求められるのか……有名になったその理由さえ分かっていない様子。
そんな何とも言えない表情を浮かべたハリーが次から次へとパブの人々と休む間もなく握手する奇妙な光景をアリスは繁々と眺めていた。
それからハリー・ポッターの握手会は実に十分以上に渡って『漏れ鍋』で開催された。
握手会の途中ではハグリッドと同じくホグワーツで働くクィレルという若い男とも出会った。クィレルは『闇の魔術に対する防衛術』という科目の教師らしいのだが、信じられない程に神経質で臆病な人間だった。
とは言え、あれだけ若い年齢でホグワーツの教授職を執れるのだから、ハグリッドが言う様に天才には間違いないのだろう。ただアリスはクィレルの事を好きになれそうにはないと、失礼ながら正直に思ってしまったが。
アリスとハリーがそれぞれ違う事で思考を巡らす間に三人は店内を通り抜け、レンガに囲まれた小さな空間に出ていた。
一見ゴミ箱が置いてあるだけにしか見えない中庭で何をするのだろうと疑問に思うアリスとハリー。対してハグリッドは懐から取り出したピンク色の傘の先でレンガの壁を三度叩いた。
するとその時、不思議な事が起こった。アリスとハリーが目を凝らさない様に注視していると、突然レンガが生きているかの様に震え出したのだ。
二人が吃驚する間にもレンガは速い速度で回転しながら勝手に移動を始め、瞬く間にレンガで出来たアーチ型の入口へと姿を変えた。アーチもこの大きさであれば、大男のハグリッドでさえ充分に通れるだろう。
そのアーチの向こうには石畳の通りが延々と伸び続き、他所では絶対見ない様々な店で賑わいを見せている。
「ここがダイアゴン横丁だ。ハリー、アリス。俺達の世界へようこそ」
驚きを隠せないアリスとハリーが我に返ると、ハグリッドはにっこりと微笑んでいた。
鍋屋、ふくろう百貨店、箒の店、マントの店、望遠鏡の店──その全てがロンドンやオックスフォードで見掛けない、不思議な店ばかり。
買う目的ではないのに入ってみたいと思える店並びは、アリスもハリーも今までの人生で出会った事がない。不思議な世界に入り込んだ二人がこんなにもキラキラと目を輝かせるのは当たり前と言える。
「わぁ……素敵。まるで不思議の国に来たみたい」
「うん……ロンドンにこんな場所があったなんて……」
目玉が二つではとても足りないと思う程、アリスもハリーも色々な場所を満足するまでじっくり観察していたかったが、案内役のハグリッドが急かすものだから仕方無く二人は通りを進む。
「色々買わにゃならんが、まずは金を取ってこんとな」
買い物は後回し。まずは英国魔法界唯一の銀行である『グリンゴッツ』に行く事に。
(どうしよう……あたし、ここのお金なんて持ってない……)
グリンゴッツに向かう途中でアリスは大変な事に気付いた。元々リデル家は魔法界と縁がなく、三姉妹の次女アリスがホグワーツからの手紙を貰った事で初めて魔法界の存在を認知した程である。
(パパはこのお金で大丈夫って言ってたけど……ここの人達の話を聞く限り、絶対大丈夫じゃないよね……)
ハグリッドとハリーの後ろを歩きながら、時折聞こえてくるシックルやガリオンという謎の単語。更には高い、安いと言う人々の話し声を聞き逃さなかったアリス。
それらの手掛かりを結び合わせるに、魔法界では通貨そのものが人間界のものと異なるのだろう。となれば当然アリスには魔法界で使えるお金が無い。
ところが先程、オックスフォードからロンドンに向かう車内で父ヘンリーからお金が沢山入った分厚い封筒を貰っていたアリス。
『いいかい? これはアリスが通うホグワーツでの一年間の学費だ。ダンブルドアという校長先生の手紙で魔法界での金額の事を色々教えてもらったから、これでお金が足りないという事は無いはずだ』
そう言われてヘンリーから事前に預かった人間界のお金。しかし普段よりお金など持たせて貰えない貴族のお嬢様なアリスには、このお金を銀行で換金するという考えが思い浮かばないらしい。
その間にもアリス達の眼前には、ダイアゴン横丁の中でも一際高く聳える大きくて白い建物が前方に見えてきた。
「グリンゴッツだ」
アリスが一人でお金の心配をしていると、不意にハグリッドの声が耳に届く。アリスは一瞬どうするか躊躇したが、ここは勇気を出してハグリッドに相談する事にした。
「あの、ハグリッド……あたし、魔法界のお金なんて持ってなくて……」
言い辛そうに呟くアリス。その隣ではハリーが心配そうにアリスを見つめており、二人の前方を歩くハグリッドは何て事はないという顔で口を開いた。
「心配すんな。お前さんがマグルの娘だって事はダンブルドア先生から聞いちょる。あんたの親父からマグルの金を預かってなかったか?」
ハグリッドが優しく言うと、アリスは若干震える手でヘンリーから貰った分厚い封筒をハグリッドに渡す。
「よしよし。ちゃんと持ってきたな。この金をグリンゴッツで換金するんだ」
「換金……じゃあ、そうすれば魔法界のお金に変わるの?」
「そう言うこった。な? 心配するだけ損だったろう? ついでにアリスの金庫も新しく作って貰わにゃならんな」
グリンゴッツの白い石段を登りながらハグリッドがニヤリと笑って教えると、アリスは恥ずかしそうに頬を赤らめた。
その隣ではハリーが「良かったね」と言って微笑み、アリスは二人の優しさに感謝するのだった。
グリンゴッツでは小鬼と呼ばれる小さな生き物が銀行員として真面目に働いていた。ハリーは事前にハグリッドから聞いて小鬼の存在を知っていた様だが、小鬼を初めて見たアリスは人間以外の種族もいると知れて興奮し、益々魔法界に強い興味を惹かれた。
そうしている内に三人はグリンゴッツの中へ。どうやらハリーの金庫は既にあるらしく、今は他界しているハリーの両親がしっかりと遺していた様だ。
そしてアリスはと言うと、一人で換金の手続きと金庫開設を小鬼に頼む事に。本当はハグリッドに任せても良かったのだが、ハグリッドはホグワーツの仕事で何やら重要な物をグリンゴッツまで取りに来たらしく、これからハリーの金庫と一緒に向かう様だ。
それならアリスは一人でもいいかと考え、二人がロンドンの地下深くにある金庫まで行く間、先に個人的な用事を済ませてしまう事に。
そして数十分後……
(二人とも遅い……金庫まで行くのってそんなに時間掛かるのかな……?)
換金は思ったより早く終わり、アリスの新しい金庫も無事に開設された。その頃には二人もホールに戻って来るとばかり思っていたアリスだったが、予想外にも二人の方が時間掛かっている様だ。
(えっと……たしか、金貨がガリオンで、銀貨がシックル──そして銅貨がクヌートね)
大量の金貨や銀貨、銅貨を詰め込んだバッグを持ちながらホールの隅で大人しく待機している間、アリスは換金を担当してくれた小鬼に教えてもらった魔法界の通貨や価値を復習して時間を潰す。
(十七シックルが一ガリオン、一シックルが二十九クヌート……うん、ちゃんと覚えてる)
アリスだって無駄にオックスフォード大学の名門カレッジに住んでいる訳ではない。学寮長である父親のコネで何人もの優れた教授や芸術家、音楽家達とも知り合えたし、各界を代表する偉大な先生方から直接勉強や芸術を習い教えて貰っているのだ。
(……大丈夫アリス。お姉ちゃんやイーディスには絶対負けないんだから)
リデル三姉妹の中で一番の努力型であり、何をやらせても完璧にやり遂げる秀才ロリーナ。勉強はアリスより極端に苦手だが、自分の好きな事になると途端に人間離れした恐ろしい才能を発揮する天才型のイーディス……
そんな二人の“優秀な姉妹”と比べると、やはり劣ってしまうのが器用貧乏な次女アリス。それでも間違いなく優秀だった両親の遺伝子を受け継いでいると言えるし、学校には一度も通った事はないが、父親やロリーナ、更にはドジスン教授を始め様々な勉強の先生達から受けたリデル家流の英才教育が身に付いている。
これらの経験を武器にホグワーツでもしっかりと勉強していけば、ハリーを始めとする魔法使いの子供達にも実力で劣る事はないだろう。
(そうよ……また辛い思いをして独りぼっちで泣かされたくなかったら……魔法界でも頑張るの、アリス!)
“あの二人”とは違う……アリスはそれを証明する為にホグワーツで魔法の道を極めると胸に誓う。
『リデル三姉妹の関係性』
ロリーナ(長女)→ハーマイオニータイプ。努力すれば何でも完璧にできる人。ただし魔法の才能皆無。アリスにとってはコンプレックスの要因の一つ。好きか嫌いかで言えば好きだが、できれば同じ空間にいたくないお姉ちゃん。
アリス(次女)→ハリータイプ。器用貧乏な万能型。長女と三女に挟まれてかなり嫌な目に遭っているらしい。中庭でよく泣いています。可愛い。
イーディス(三女)→ネビルタイプ? 勉強は苦手だが自分の好きな事をやり出すといきなり化ける天才型。魔法の才能に満ち溢れ、アリスにとっては一番厄介な敵と言えるかもしれない。
この三人の仲は複雑です。家族で楽しくお茶会しながら互いに腹の中を探りあっているくらいには複雑です(笑)