ザ!鉄腕/fate! YARIOは世界を救えるか?   作:パトラッシュS
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クランの大工

 

 ケルト神話。

 

 この話の一つの中に出てくる有名な英雄がいる。

 

 父は太陽神ルー、そして、母はコノア王の妹デヒテラ、幼名はセタンタという。

 

 しかし、この話に出てくる英雄であるはずの彼は少し事情が変わっていた。何故ならば、彼には生まれる前の記憶がちゃんとあるからだ。

 

 

「はぁ…腹減ったなぁ」

 

 

 彼は名高いアイルランドの大英雄。

 

『クランの猛犬』と呼ばれていた筈の彼だが、このケルト神話ではもう一つのあだ名で彼はこう呼ばれていた。

 

『農家の申し子』と。

 

 そう、前世は知る人ぞ知る農家だった、いや、今もなお、その気持ちはあの頃の仲間達と会いたいという気持ちが日に日に強くなるばかりだ。

 

 セタンタ・シゲル。

 

 それが、今の彼の名前である。シゲルという名前だけは時を越え、転生しようとも彼は辛うじて覚えていた。そして、自分が何者であるのかを。

 

 彼の頭の中にあるのはただ一つだけ、失われた仲間達を集め、YARIOを結成するという使命だ。

 

 

「おー! しげちゃん今日も門番かい!」

「せやでー、北登の代わりやからね!頑張らなあかん!」

「はっはっは! 流石はクランの猛犬だ! 頼もしいね!」

 

 

 なぜ、彼が家の番犬の代わりをしているのか?

 

 それは、クランの自慢の番犬の名前を北登と名付け、セタンタは可愛がっていたのである。

 

 だがある日、北登は謎の流行り病で亡くなってしまった。

 

 そんな自慢の番犬を謎の流行り病で失い悲しむ飼い主のクランを見かねて北登の子供が立派な番犬に育つまで代わりを務めるとセタンタはクランに誓いを立てたのである。

 

 そういう経緯で、その北登の子犬が立派に育つまで、代わりにセタンタはこうして今日も今日とてクランの家を守っている。

 

 獰猛なクランの猛犬を手懐けたセタンタは村人たちから尊敬され、さらに、そんな獰猛なクランの猛犬の代わりになりクランの家を守る姿からクー・フーリンと呼ばれた。

 

 しかし、彼は敢えて皆には『リーダー』と呼べと言う謎の異論を唱えた。

 

 だが、皆の呼び名に定着したのが幼名のセタンタ・シゲルからとった『しげちゃん』という名前である。

 

 もちろん、好んでクー・フーリンと呼ぶ者もいるが、彼を良く知る者は親しみを込めて『しげちゃん』の名で彼を呼んだ。

 

 クー・フーリンの前を通過した村人は門番である彼に手を振りながら、その場を離れていく。

 

 

「あ、せや、確かそろそろ補強せなあかんとこがあったな」

 

 

 そして、クー・フーリンはポンと手を叩いた。

 

 思い出したとばかりに彼は行動をしはじめる。まずは大工道具を取り出しはじめる、これがクランの家を守る彼の仕事の一つだ。

 

 それが、木造建築の知識を活かした家の補強である。そう、番犬代わりだけではない彼はクランの家自体を守っているのだ。

 

 過去に学んだ匠の技を存分に発揮して、クランの自宅の傷んだ箇所などを手早く直していくその姿は『クランの猛犬』というよりは『クランの大工』である。

 

 たとえ、台風、嵐、大雨が来ようともビクともしない家づくりを心がけ、腕をさらに磨く事数年。

 

 セタンタ・シゲルのその技は前世よりも増して磨きがかかっているようだった。

 

 

「ふぅ…こんな感じでええかな?」

 

 

 気づけば見事な木材の補強が完了している。

 

 クランは後々こう語る。

 

 一家に一台、彼が居ればその家は安泰であると、料理はプロ並み、土の知識には詳しく、それでいて建築は匠の業。

 

 これだけのなんでもできる優秀な番犬が他にいるだろうか、クランは改めてセタンタ・シゲルという存在に大喜びした。

 

 しかし、彼とクランにも別れの時がやってくる。

 

 それはクー・フーリンが成人を迎えたその日、彼はある決意をクランに打ち明けた。

 

 

「クランのおっちゃん。僕は仲間を探しに行こうと思う」

「仲間…?」

「せや、仲間達やこの世界の何処かにきっといるであろう仲間。僕はその仲間達を見つけに旅に出ようかと思っとるんや」

「…なんと…、旅に…。いや、しげちゃんならきっとどんな困難な事でも成し遂げられると思う、今までありがとう」

「クランのおっちゃん…! おおきにな!」

 

 

 もう、北登の子供は大きくなった。

 

 ならば、もう誓いは果たされたのである。だが、2人の間には誓いというだけには大きな絆が出来上がっていた。

 

 豪商クランと抱き合い別れを惜しむクー・フーリン。クランはまるで、自分を息子のようによく可愛いがってくれた。

 

 仲間達を見つけたらクランの元にまた訪れよう、そして、彼の為に立派な納屋を建てるのだ。

 

 成人したセタンタ・シゲル、クー・フーリンは彼との別れを惜しみながら仲間達を探すための旅に出た。

 

 旅はかなりの困難を極めた。

 

 仲間達を探すといっても手掛かりがない、彼はどうしたものかと寄る村で度々畑を耕しては広大な農園を作るのを手伝い、食事を村人たちに振る舞い毎日を送っていた。

 

 そして、彼はある時、村人の1人からある助言を受けることになる。

 

 

「良く魚が釣れる疑似餌の作り方だが…こうしてだな」

「すごく…勉強になる…」

 

 

 それは、魚が良く釣れるようになる疑似餌の作り方だった。

 

 だが、本来の目的はそこではない、そう、彼は仲間達を探すために旅に出たのである。

 

 確かにこれも貴重な話で食料を確保するにはクー・フーリンには大変良い勉強になったのだが、YARIOとして仲間達を集め再び結成する為に必要な情報ではない。

 

 何処に行けば彼らに会えるのだろうか。

 

 リーダー、リーダーと呼ばれていたあの時、無人島、村を共に開拓しそして、様々な村や集落を回った事を彼は忘れてはいない。

 

「どうにかせなあかんのはわかってんのやけどどうしたら良いんやろうか」

 

 クー・フーリンは釣竿を垂らしながらそんな風な事を1人で考えていた。

 

 仲間達を探す為の手掛かりを見つける。それは思いの外、大変な事だったと改めて痛感させられた。

 

 自分1人ではやはり出来ることが限られてくる。仲間達が居た時はあんなにたくさんのものを得られていたというのに自分1人の情報網だとこのザマだ。

 

 

「ホッホッホ、釣れとるか? 旅人よ」

「おー! こんにちはやな、爺ちゃん! 見ての通りそこそこ釣れとるで! これ、さっき釣ったんやけどいる?」

「ホッホッホ! 貰っておこうかの?」

 

 

 そう言いながら近づいてきた爺ちゃんに釣った魚を手渡すクーフーリン。

 

 すると、お爺さんはクーフーリンから手渡された魚に満足した様子で釣竿を垂らす彼の隣に座るとこんな話をしはじめた。

 

 

「ワシはこう見えてドルイドでの? 魚の礼だお前さんの道を占ってしんぜよう」

「ドルイド?」

「まぁ、占い師みたいなもんじゃよ」

「ホンマか!? いやー、占いなんてするの初めてやわ! それじゃお願いしようかな?」

 

 

 そう言って、クー・フーリンはドルイドと名乗る老人から占いを受けることになった。

 

 もしかしたら、仲間達を見つけるきっかけになるかもしれないとそう思ったからである。真剣な表情で占いをはじめる老人をクー・フーリンはジッと見つめる。

 

 占いを終えた老人は真っ直ぐにクーフーリンの手を掴むと静かに頷き、こう話をしはじめた。

 

 

「今日騎士になるものはエリンに長く伝えられる英雄となるが、その生涯は短いものとなるだろう…」

「ほうか…」

「今のが予言じゃ、それで、お主はどんな道を行く?」

 

 

 そう言いながら、老人は真っ直ぐにクー・フーリンの目を見つめた。

 

 老人には確信があった。きっとクーフーリンは騎士になり、名だたる英雄となるだろうという事を…。

 

 しかし、クー・フーリンはしばらくその予言を聞いた後、うーんと首を捻りしばらく考えた後に老人にこう語りはじめる。

 

 

「騎士になったらユンボとクレーン車の資格取れるんかな?」

「…………ゆ、ユンボ? クレーン車?」

「んー、せやけど僕は仲間を探しとるからねー」

「…き、騎士団に入ればきっと英雄にはなれるぞ?」

「英雄かぁ…せやなー、よし! 決めたわ!」

「おぉ! 騎士になるのか! 若人よ!」

 

 

 老人はバシンと胡座をかいていた足を叩き立ち上がるクー・フーリンの言葉を聞いて目を輝かせる。

 英雄と呼ばれる男の誕生をこの日、目の当たりに出来る。それだけで、予言を話した老人は嬉しく感じた。

 そして、決心を固めたクー・フーリンは老人に目を輝かせたまま嬉しそうにこう語る。

 

 

「僕はアイドルになろうと思う!」

 

 

 老人はクー・フーリンの発した拍子抜けする一言に盛大にずっこけた。

 

 ここまで、騎士になる流れの話をしていたにも関わらず、アイドルという謎の言葉には全くどう反応していいかわからない。

 英雄になれるという予言を盛大に蹴り、彼はアイドルを目指すという奇行に走ろうとしている。これは、流石の予言者である老人も度肝を抜かれてしまった。

 しかし、ここで予言者である老人も折れるわけにはいかない、最後の悪あがきと言わんばかりにこうクー・フーリンに告げた。

 

 

「そ、そうか…、なら影の国に行くと良い、そこにきっとお主の力になる者がおるはずじゃ」

「ホンマか!? 仲間達に会えてしかもアイドルになれるんか!」

「…あぁ…、多分な」

 

 

 老人は目をキラキラと輝かせて顔を近づけてくるクー・フーリンにもうヤケクソ気味に顔を逸らしながらそう告げる。

 どうしてこうなったのか、全く見当もつかないがどうやら、クー・フーリンは影の国に向かうということになった。

 彼は助言をくれた謎の老人に手を振りながら上機嫌に村人から貰った自分の愛馬である道子に跨る。

 

 愛馬の由来はかつて『道草を食いながらどこまで行けるか?』という挑戦で北海道で出会った白い道産子である馬の名前から取った名前である。

 

 この馬もまた道草を食いながらクー・フーリンの旅を支えてくれている。

 

 

「そんじゃ、爺さんありがとな! 今度、寿司作って恩返しに来るから!」

「お、おう、気をつけてな、…寿司ってなんじゃ?」

 

 

 こうして、クー・フーリンはひとまず彼がいう通りYARIOを結成してアイドルになる為に影の国を目指し、道子と共に旅を開始する。

 

 旅の最中、愛馬の道子にクー・フーリンは道中立ち寄った村の農業を手伝い村人達から譲り受けたチャリオットを引っ付けたり、食料を譲り受けたりして、非常に周りの村々から感謝されていたとか。

 

 手を振る老人に満面の笑みで手を振り返すクー・フーリン、仲間達を探し出し、YARIOを目指す彼の旅はまだ始まったばかりである。

 








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