ザ!鉄腕/fate! YARIOは世界を救えるか?   作:パトラッシュS

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仲間探しへGO!!

 

 失われた仲間達を探すため違う世界へ飛ぶためにデロリアン『だん吉』を共に作り上げる事になったクー・フーリンとスカサハ。

 

 過酷な修行をこなしながらクー・フーリンはスカサハと共に顔を煤だらけにし、『だん吉』の組み立てに勤しんでいた。

 

 材料を原材料から集め、加工し、そして、組み立てる『だん吉』にはスカサハから教わったルーン魔術を組み込んである。

 

 そして、いよいよ、『だん吉』作りも大詰めに差し掛かり、クー・フーリンはいつも通り煤まみれになったまま車の下からひょっこり顔を出した。

 

 

「よっしゃ! こんなもんやろ!」

「できたのか? できたのか!?」

「はい! あとは試運転入れば完成です!」

 

 

 車の下から顔を出したクー・フーリンに目をキラキラと輝かせながら問いかけるスカサハに彼はサムズアップしてそう答えた。

 

 石油を取りに中東へ、ゴムを取りにタイまで。遠い道を遥々歩き集めた努力の結晶を集めたデロリアン『だん吉』。

 

 スカサハとクー・フーリンの2人での共同作業により、デロリアンもとい世界を越える『だん吉』のフロントガラスはキラリンと光を発していた。

 

 いよいよ、試運転の段階まで漕ぎ着けた。エンジンとタイヤにはルーン魔術が施してあり、これならば、理論的には世界を渡る事ができる。スカサハ、クー・フーリンの2人は完成した『だん吉』を誇らしげに見つめていた。

 

 そして、クー・フーリンは『だん吉』の試運転について、スカサハにこう問いかける。

 

 

「よし! 師匠! 試運転はどっちがやります?」

「!? これを動かすのか」

「せやで、でもまぁ、最初はやっぱり僕がしましょうか、運転の仕方とか教えるので助手席に座ってください」

「…お、応! こんなにワクワクするのは何年振りだろうか」

 

 

 スカサハは上に扉が開く『だん吉』の助手席に座りながら、車の乗り心地や感触を確かめつつキラキラと目を輝かせている。

 

 運転席に座るのはクー・フーリン、重機歴13年のベテランは久方ぶりに乗る車の感触を確かめながらしみじみとハンドルに手を伸ばした。

 

 懐かしい感触が蘇る。自家製自動車『だん吉』の運転をするのは感慨深いものがあった。

 

 

「よし、それじゃ…場所を決めてやな、とりあえずそれらしいところに座標合わせてみましょ」

「おぉ!? そんなところに小さなレバーが!」

「むふふ、これはだん吉の移動する世界線を調整するレバーで…って、まぁ説明すると長うなるでまた次の機会に、あ、師匠、ちゃんとシートベルトせなあかんよ?」

「ん? シートベルト?」

「これやでー」

「…っ!! 横からなにか帯のようなものが出たぞ!」

 

 

 そう言って、クー・フーリンからガチャリとシートベルトをしてもらうスカサハは目が目新しいものに感動し声を溢す。

 

 シートベルトだったり、だん吉の中にある機器だったりと長く生きてきた中で知らない物がたくさんありスカサハにはまるで新しい発見ばかりであった。

 

 しかも、これらを作るのに自分も作業に加わった分。その感動もさらに大きい、だん吉が音を立ててエンジンを鳴らしはじめたあたりでスカサハのテンションはだだ上がりであった。

 

 そして、広くひらけた場所で助走をつけるクーフーリン。いよいよ、『だん吉』が世界を越える時が来た。

 

 

「いくでー! 師匠! しっかり掴まっててな!」

「なんだかワクワクしてきたな!」

 

 

 ブォン! というアクセル音と共に温まった『だん吉』のエンジンを見計らい、アクセルを思いっきり踏み込むクー・フーリン。

 

 スピードメーターはグングンと上がっていき、バチバチと『だん吉』からは火花が散り始める。

 

 時速140kmに到達することにより、この『だん吉』はルーン魔術を施した世界転移装置の働きによって時間を飛び越える事ができる。

 

 スピードメーターが130を上回り、世界の境界線が見えてきた、2人は湧き上がる感情を抑えきれない。

 

 ついに自分たちが作り上げた『だん吉』が世界を越える。それだけで、2人にとってみればこの『だん吉』のために積み重ねた月日が報われたと感じる事ができたのである。

 

 

「跳べぇ!」

「よし行けー!!」

 

 

 テンションが上がったスカサハは嬉しそうに声を上げながら両手を上に突き出し、ハンドルを握るクー・フーリンは笑顔を浮かべて大声を上げる。

 

 そして、加速した『だん吉』は火花を散らしながらバチン! と音を立てると、閃光を放ち、地上に炎のタイヤ跡を残すと影の国からその姿を消した。

 

 

 

 ケルト神話。フィン物語群、フィニアンサイクル。

 

 吟遊詩人オイシンによって語られるその物語にはある有名な英雄が幾多も存在している。

 

 その物語で語られるのは神話上の英雄であるフィン・マックールと彼の率いるフィアナ騎士団の功績を主題とする物語が主なものだ。

 

 その中でも、フィアナ騎士団の一員でドゥンの息子。若さの神、妖精王オェングス、海神マナナン・マクリルを育ての親に持つ英雄が存在する。

 

 それがこの…。

 

 

「へい! イカお待ち!! イキの良いイカだよ! お客さん!」

「流石は大将! 早いね!」

「そっちのお客さんは? ご注文なんにしましょ?」

「カンパチの握り一つと、あー…」

「フィンさんが釣ってきたヒラメのえんがわが今日はオススメだよ!」

「おぉ!? じゃ、じゃあそれで!」

「よっしゃ! ご注文入りましたー! カンパチとえんがわの握りでございやすね!!」

 

 

 白い板前衣装に身を包んだフィアナ騎士団、寿司職人もといタオルを頭に巻いた男前大将ディルムッド・オディナ、その人である。

 

 ディルムッドは二本の槍と二本の剣を持つ、アイルランドの英雄。

 

 槍はゲイ・ジャルグ、ゲイ・ボウ。そして、二つの剣、モラルタとベガルタ。

 

 ディルムッドには魔法の黒子を妖精によって頬に付けられ美しい容姿である上に女性を虜にしてしまうという呪いがかけられており、それ故にフィアナ騎士団の英雄フィン・マックールの3番目の妻となるはずだった婚約者グラーニアは、ディルムッドと恋に落ち、ディルムッドは彼女を連れて逃避行をする不義を行う事になる。

 

 数年の放浪の後、ディルムッドは不義を許されはしたが、史実では異父弟の化身である耳と尾のない大きな魔猪に瀕死の重傷を負わされてしまい、その不義が原因でフィンの癒しの手で掬った水を飲む事が出来ずその命を落としてしまったという悲劇の英雄だ。

 

 

 

 しかし、このフィン物語群にいるディルムッド・オディナは一味も二味も違う。

 

 何故ならば、ディルムッド・オディナもまたYARIOだからである。

 

 彼の宝具。槍のゲイ・ジャルグ、ゲイ・ボウ、剣のモラルタとベガルタ。

 

 YARIOであるディルムッドは二つの槍はどっかの誰かさん同様に二本とも鍬に、モラルタとベガルタは切れ味が良いからとなんと魚を捌くための包丁に加工してしまった。

 

 ディルムッドには史実では己を死に追いやるであろう女性を虜にしてしまう魔法の黒子がある。しかし、これはディルムッドは逆に捉えていた。YARIOたるもの男女子供に人気があってこそなんぼのものであると。彼の前世も同じようなもので女性には人気があったし、さして、気にはならなかった。

 

 もちろん、彼に対して結婚の話はいくらでも舞い込んで来たが、彼はその話に対して毅然としてこう答え続けた。

 

 

『YARIOのメンバーとしてリーダーが結婚するまで俺は結婚するわけにはいかん!』

『え? YARIOって何? ちょ、ディルムッド?』

『ディルムッド、その気持ちはわかる』

『親父!?』

『流石はADフィン! やっぱりわかってくれるなんてあんたは最高のADだ!』

『ADって何!? 親父は騎士団長だぞ!』

 

 

 こうして、ガッチリと手を取り合い、互いに頷くフィンとディルムッドのやり取りにフィンの息子のアシーンは仰天させられた。

 

 この出来事をきっかけに騎士団の皆はそれ以上結婚について、ディルムッドに何も言えなくなってしまったのである。

 

 このフィニアンサイクルの主人公であるフィンもまたYARIOの一員と言っていい。彼の目的はただ一つ、YARIOの黒子役として彼らをサポートしたいという願望があった。

 

 彼はディルムッドとは異なり妻サーバとの息子アシーンがいるが、YARIOの情熱はディルムッド同様冷めてはおらず。いつか、リーダーが迎えに来ることを夢見て日々生活している。

 

 

 こうして、今日も今日とてディルムッドとADフィンの2人は共に女、子供、男性まで大人気のフィオナ騎士団という名の板前騎士団をやっている訳だ。

 

 そして、ディルムッドに感化されて騎士団ではない者でも寿司や調理の腕を磨くものや弟子入りしたがる者たちも後を絶たない。

 

 ディルムッドの調理の腕はまさに芸術と言って良かった。

 

 連日のようにフィオナ騎士団の本拠地であるアルムの砦には人々が寿司や板前料理を食べたいと訪れ賑わっている。

 

 噂を聞きつけたコーマック上王も来訪し、あまりにも美味しいディルムッドの料理に感動し涙したという話は有名である。

 

 

「ふぅ、今日も頑張ったな、みんな」

「いやー、流石はディルムッドの大将だ!」

 

 

 そう言いながら、閉店後に汗を拭うディルムッドに晴れやかな表情で告げるフィオナ騎士団の仲間の一人、ロナン。

 

 しかし、ディルムッドはどこか浮かない表情を浮かべていた。これだけ料理の腕があり皆から愛されていてもポッカリと空いた穴が塞がらない。

 

 それを見ていた団員の1人、フィンの息子であるアシーンはディルムッドにこう声をかける。

 

 

「どうしたんだ?ディルムッド?」

「あー…いや、もう何年もなるけどさ、これで良いのかなって思ってて」

「…何がだ? 料理を振る舞うお前さんは楽しそうだし、何より親父もお前さんとは仲が良いだろ?」

「まぁねぇ、けど、そうじゃないんだわ」

 

 

 長い年月が経ちディルムッドより歳を取ってしまったフィン。

 

 彼の奥さんであるサーバも鹿に変えられ、黒いドルイドに連れ去られてしまった。顔には出さないがフィンから話を聞いた人情に厚いディルムッドは彼が辛い思いをしている事を察している。

 

 長年、一緒にいた仲間だからわかる。ここでは無いがあの無人島や村での事は今でもディルムッドは鮮明に覚えていた。

 

 フィンは前のようにはいかない、自分よりも年老いてきて、これ以上、前みたいな無理はさせられ無い、それに、このままこの場所に自分がいれば彼に負担が掛かってしまう。

 

 ディルムッドはそんな事を考えていた。長い年月の間にようやく再会できた仲間の1人だが、リーダーが居ない今、彼の側に果たして自分が居てもいいのだろうか。

 

 フィンのここでの立場は騎士団長、自分は騎士団料理長(板前)に過ぎない。

 

 そろそろ、この場所から立ち去らねばならないのでは無いのか、そういう気持ちが彼の中には少しずつ芽生えていた。

 

 すると、砦の厨房の扉が開き、騎士団員の1人であるルガイドが慌てたような表情で2人にこう声をかけてきた。

 

 

「お、おい! 2人ともちょっと来い! 砦の前になんだか凄いもんが現れたぞ!」

「…んぁ? ちょっと待ってよー。俺、今からアシーンと一緒に明日の仕込みあんだってー」

「いいから来いって」

 

 

 そう言いながら、顔を見合わせるディルムッドとアシーンの2人の手を引いてを半ば強引に厨房から引っ張り出すルガイド。

 

 2人は仕方ないと互いに肩を竦めると、ルガイドに案内されて、砦の外まで案内される。

 

 するとそこには…、一台の大きな箱状のものが煙を吹き上げて置いてあった。それを見た3人は顔を見合わせる。

 

 そして、ディルムッドはしばらくしてから唖然とした表情でこう声を溢した。

 

 

「これって…、車じゃん! マジで!? 嘘でしょ!?」

「これがなんだかわかるのかお前?」

 

 

 この時代にまさか自動車を見ることになるとは思わなかったディルムッドは目をパチクリさせていた。

 

 驚いたように声を上げるディルムッドにアシーンは首を傾げて訪ねる。アシーン達からしてみればこのような鉄のようなもので出来た箱など見たこともないものだった。

 

 すると、ディルムッドは苦笑いを浮かべて頭を掻きながら彼にこう話をしはじめる。

 

 

「え? まぁ、ちょっとね? 弄った事あるからさ、いやー、懐かしいわ…でもなんで」

 

 

 そう言いながらまじまじと鉄の箱を一周して見つめるディルムッド。

 

 すると、その自動車の扉が上へと開き始め、中から人がゆっくりと降りてきた。そして、咳き込み、腰に手を当てながら出てきた彼の声を聞いた途端、ディルムッドの世界が変わった。

 

 

「あー、イタタ…、いやー中々の衝撃やったなー、師匠どないでした?」

「…最高だったな、これ、次は私に運転させてくれ!」

「OKです! ほんじゃまず…仲間を探して…」

 

 

 中から出てきたのは男女2人、しかし、ディルムッドが目を丸くしたのは男の方だ。

 

 聞き慣れた声、そして、いつも自分達をまとめてくれた彼の事を片時も忘れたことなど、なかった。

 

 いつか必ず会えると信じて待っていた。ディルムッドの目には薄っすらと涙が滲み出てきている。

 

 

「あれ? なんやねん、あんたら…」

「いや、それはこちらのセリフだ、お前らこそ…」

「リーダー!! リーダーだよな!」

 

 

 そう言いながら、板前の制服を着たディルムッドは青い作業着を着た男に近寄り手を握りしめた。

 

 長年、待ち望んだ再会、ようやく巡り出会えた彼にディルムッドは感動すら覚えていた。やはり、自分達を探しに来てくれたのだと。

 

 ディルムッドから手を掴まれた彼は目を丸くしたまま、ゆっくりと笑顔を浮かべていた。

 

 

「もしかして…」

「待ってたよ! リーダー!」

 

 

 そう言いながら、ディルムッドは感動のあまり涙を流しながら彼にハグをする。

 

 ずっと待ち望んでいた彼がやって来てくれたのだと再会を喜んでいた。薄っすらだが、ディルムッドからハグを受けた時に作業着を着た彼は確信する。

 

 懐かしいこの感覚、間違いない、彼はYARIOの1人であるという事を。

 

 

「まさか! 」

「そのまさか! マサだけに! なんちゃって!」

「バカ! それは僕の専売特許やん! 久方ぶりやんかー!」

 

 

 そう言いながら、ディルムッドのしょうもない洒落を聞いて作業着を着ている彼、クーフーリンもまた涙を流しながら仲間との再会を喜んだ。

 

 いまいち状況が掴めていないフィン騎士団のアシーンとルガイドの2人は顔を見合わせ、喜ぶ弟子の姿を見ていたスカサハは微笑ましくそれを見つめていた。

 

『だん吉』で越えた世界で再会したYARIOの仲間の1人、ディルムッド・オディナ。

 

 クーフーリンとディルムッド・オディナの2人のYARIOの再会が果たして、ケルト神話に何を与えるのか!?

 

 そして、それは! 次回の! 鉄腕/fateで!

 

 

 今日のYARIO。

 

 

 砦で板前ができるーーーー←NEW!!

 

 世界を飛び越えれるーーー←NEW!!


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