ザ!鉄腕/fate! YARIOは世界を救えるか? 作:パトラッシュS
エジプトでのピラミッド作りが始まり、それなりの月日が経過したある日のこと。
ここに来て人員不足が浮き彫りになってきた、というのも、カタッシュ村で農作業をするはずだったメイヴちゃんだが、騎乗スキル持ちという事もあり、大型トラック運転にカタッシュ村から応援に駆けつけてもらわなければならなくなったのだ。
当然、カタッシュ村の農業もこれでは滞ってしまうことに…。
これは、非常によろしくない。
「農民がいるね」
「間違いない」
カタッシュ村に一旦帰還したヴラドとディルムッドは現状に関してそう結論付ける。
ーーーここにはベテランの農民が必要。
となれば、知名度的にも農業に精通してそうな人をこの村に招かないといけない。
そういうわけで、今回、ベディ、ヴラド、ディルムッドの三人はピラミッド作りのために出払ったメンバー補充の為に動く事に。
そして、幸いにも彼らの手元にはADフィンがまとめてくれた名簿がある。
ここから、新たにカタッシュ村に来てくれる人を少しづつ招いていこうという考えだ。やはり、黒子役、年季が違う。
「じゃあ、まずどこ行く?」
「えーとね、フランスとかどうよ? フランスって言ったらやっぱフランスパン美味いじゃん」
「いいねぇ、エッフェル塔なんかあるしね」
しかし、ガヤ三人衆は観光気分でこの資料を読み漁っている。
果たしてこんな調子で大丈夫なのだろうか?
というわけで、今回の企画はこちら!
ザ! 鉄腕/fate! YARIOは0円英雄を仲間にできるのか?
「0円英雄かぁ…、というより、英雄に値段がつくの自体、俺初耳なんだけど」
「何言ってんだよー、千円札見てみなよ? これ英雄だよ?」
「確かに言われてみれば」
そう、名高い英雄となればきっとこんな風にお札になったりしているはず。
となれば、当然、英雄も現金にはうるさい人物なんかもいるかもしれない。
だからこそ、世界のどこかにいるだろう0円英雄を仲間にできればこのカタッシュ村も大きくなるはずだ。
ピラミッド作りが忙しい今、リーダー達の負担を出来るだけ減らす人材に協力を仰がなければ。
という事で三人は早速、荷物をまとめてだん吉へと乗り込む。
そうと決まれば行動は早い、目的地も決まっているし、あとは、彼らの頑張り次第だ。
1431年、フランス、ルーアン。
十七歳で故郷を発ち、奇跡とも呼べる快進撃を成し遂げるも捕縛され、異端審問にかけられ、魔女と貶められた果てに十九歳で火刑に処せられる聖女が今、まさに、その命の灯火を消さんとしていた。
「死ね! 魔女め!」
「悪魔の手先め!」
いたるところから、石や木の棒などが投げつけられ、弱々しい彼女の身体にぶつけられる。
イングランドとフランスの間で起きた百年戦争。
その戦争で素晴らしい戦果を挙げ、人々から聖処女と崇められた彼女の今の姿は痛々しく見える。
彼女を火刑に処す事を命じた異端審問官は笑みを浮かべながら、鎖に繋がれ、引き連れられている彼女を満足そうに眺めていた。
人間の狂気が満ち溢れている。
容赦なく、19歳に向けて放たれる罵倒の数々、しかし、彼女はそれでも下を向かず凛とした表情を浮かべていた。
(…これも神が与えし試練、受け入れる覚悟はできています)
石がぶつけられ額から血が流れ出てくる。そして、兵士が彼女を火刑に処す為の火刑台の前まで彼女を連れてきた。
民衆はその光景にさらに勢いを増して、石や罵声を彼女に投げかけた。
「早く燃やしてしまえ!」
「この魔女が!」
だが、そんな罵声が飛び交う中、彼女は火刑台になんの迷いもなく足を踏み入れた。
今から燃やされるというのに、まるで、祈るかのように手元に十字架を抱き、目を瞑る。
これが、フランスを勝利へと導いた聖処女と崇められた英雄、ジャンヌダルクの最後。
いよいよ、松明に火が灯され、彼女の足元に火が点火されそうになったそんな時だった。
どこからかはわからないが、大きな声がその場に響き渡る。
「えっ…! その可愛い娘! 燃やしちゃうんですかっ!?」
そして、その瞬間、ジャンヌを処刑せんとした兵士が持っていた松明の動きがピタリと止まった。
しばらくして、三人の農作業服を着た三人組が躍り出るように火刑台の前に現れる。
「勿体ないですよー、おっぱい大きいし」
「…!? な、なんだ貴様らは!」
「あ、すいません、僕ら鉄腕/fateという企画で0円英雄を探しているYARIOという者なんですけどもー」
「実はここに捨てちゃう聖人がいるという話を聞いて駆けつけた次第でして…」
躍り出た三人はにこやかな笑顔を振り撒きながら明るい表情で顔を険しくして驚いたような声を上げる兵士に告げる。
そして、兵士の1人が目をパチクリさせると、恐る恐る三人に驚いたようにこう問いかけはじめた。
「えっ!? YARIOって…あの!?」
「あ、はい、そうです」
「お、俺! 大ファンなんですよ!! まさか、この街に来るなんて!」
「いやー、うちのADがここに燃やされちゃう優秀な農民の聖人が居るからという情報を頂いた次第で」
そう言いながらにこやかな笑顔を浮かべ、彼らに話すYARIO達一同。
まさかの登場に先程までジャンヌダルクを囲んでいた市民達は顔を見合わせて、騒めいている。
そして、ベディは磔にされたジャンヌダルクに近寄ると縛られた手を解いてあげて、ジーっと上から下へと視線を落とした後、納得したように頷いた。
「まだこの娘全然やれますよ! この感じは間違いないDはあるな」
「いや、あの…貴方方は一体?」
「え? 俺らは、アイドルだよ?」
「アイ…ドル…?」
「その名乗りはちょっと無理があったね、ディル兄ィ」
あまりの出来事にポカンとしているジャンヌダルク。
そして、アイドルと名乗るディルムッドの肩をポンと叩くヴラド、そう、もう認知度的にはアイドルという枠では広まっていないのだ。
すると、ジャンヌダルクに待ったを掛けた三人を目の当たりにした異端審問官のボーヴェ司教ピエール・コーションが彼らの元にすごい剣幕でやってきた。
「おい! 貴様ら! 魔女の処刑を止めるとはどういう了見だ!」
「え? この娘魔女なの? じゃあさ、魔法とか使えたりするんですか!?」
「え…いや、私は魔法は使えませんが…」
「え? 魔法使えないの? あー、それは残念だなぁ」
「おい! 話を聞かんか!」
怒鳴り声を上げるピエール。
それはそうだろう、今から処刑するはずのジャンヌダルクの処刑が三人に止められてしまったのだ。
すると、しばらくして彼の腹心らしき人物が近寄り、恐る恐る彼の耳元でこんな話をしはじめる。
「あの…ピエール司教、…ご存知…ないのですか?」
「なんだ! 今取り込み中だ!」
「だから…彼ら、あのYARIOですよ?」
「は?」
彼の言葉にピタリと凍りつくピエール。
すると、聖書を取り出してトントンとそれを指で軽く叩いた腹心の部下は顔を引きつらせたまま、ピエールにこう話を続ける。
「はい、ですからYARIOです。後は分かりますよね?」
「え? …も、もしかして?」
「はい、察しの通りです」
そう言った腹心は満面の笑みを浮かべ、一方でその事実を聞かされたピエールは顔がだんだんと血の気が引いたように真っ青になっていく。
まぁ、腹心が遠回しにピエールに何を伝えたのかは知る由も無いのだが、まさに、その表情は蛇に睨まれたカエルのようであった。
そして、周りの民衆も彼らがYARIOだと分かると罵声を彼らに浴びせたピエールに怒りのこもった様な眼差しを向けていた。
「おい! あんた! なんて言い草だ!」
「そうよ! YARIOに対して酷いんじゃないの?」
「そうだ!そうだ!」
「彼女に物投げたやつちょっと出てこい! 全員謝れよ!」
「まぁまぁ、皆さん落ち着いて落ち着いて」
そう言って、ピエールに怒りを露わにする民衆達、そして、それをすかさず宥めるヴラド。
すると民衆達はシーンと静かに静まってしまった。しかし、その表情は皆笑顔に満ち溢れている。
そんな中、ベディは火刑に使われるはずだった火刑台を眺めながら一言。
「この火刑台も勿体無いよねぇ」
「じゃあ、皆でバーベキューしよっか? 良い木炭になるよこれ」
「お! いいねぇ! しようしよう!」
そう言って、よく燃えそうな火刑台を見つめるベディに賛同する2人。
ーーーー処刑場がバーベキュー会場に。
すると、それを聞いた民衆達は歓声を上げて口々に嬉しそうに話をしはじめる。まるで、その表情は祭りでも今から始まるかの様に晴れやかなものだった。
「おい! 聞いたか! 今からバーベキューだとよ!」
「まぁ! それじゃ家からお肉持って来なきゃ!」
「それじゃ俺は家に野菜があったからそれ持ってくるぞ!」
「あ…いや、ちょっと…あの、ジャンヌダルクの処刑…」
「そんなの中止に決まってんだろ!馬鹿司教!」
そう言って、皆は散り散りになって各自、家庭にある肉や野菜を集めに帰る。
さて、そんな彼らの姿を見たカタッシュ隊員も黙っているわけにはいかない、これは、この火刑台を立派なバーベキューセットにしなければ。
すると、ベディはしばらくして火刑台を鋸を使って切り始めた。
「おー、サクサク入るねやっぱり」
「はい、ジャンヌちゃんこれ、着替えと鋸ね」
「え? …こ、これは…」
「農民出身と聞いてたんで用意しときましたぜ」
「サイズは師匠とおんなじくらいだけど多分合うと思うよ」
そして、当然、こうなったからにはジャンヌちゃんにも協力してもらおうとディルムッドとヴラドは用意していた鋸と着替えを彼女に手渡した。
ーーーー用意周到なカタッシュ隊員。
金網も手作りで用意、大人数でのバーベキューとなり、これにはルーアンの人々も手伝ってくれた。
こうしてできた簡単なバーベキューセットに入れるための木炭を確保するため、ノコギリで切り取った木をヴラドが木炭にしていく。
「こうしてね、すごくいい木炭になるのよ」
「…すごく…。勉強になる…」
これにはピエール司教も思わず感心した様に声を溢した。
ヴラド特製の木炭、これは民衆も思わず心が躍る。
なんせ、あのイングランドのアーサー王が絶賛した串焼き公で有名なヴラド印の木炭であるのだからそれは期待も膨らむというものだ。
こうして、できたバーベキューセットに肉や野菜を乗せていく、すると辺りには香ばしい香りが広がった。
「やっぱり、人間焼くよりこっち焼いた方が絶対美味いよ」
「人間じゃ食べれないしね」
「貝とかイカとか魚とかも焼いてもいけるからこれ」
「おぉ!? ほんとですか! いやー、お酒が進みますなぁ」
そう言いながら街の人々はバーベキューをしながらワイワイとカタッシュ隊員達に感謝の言葉を述べつつ食事を楽しむ。
先程まで、物騒な雰囲気だった街が嘘の様な変わり様だった。
そんな中、1人の少女が農作業服を身につけているジャンヌに近寄ると満面の笑みを浮かべて彼女にこう告げ始める。
「聖女さま! バーベキューセット作ってくれてありがとう!」
「い、いえ、私は成り行きで…、美味しいですか?」
「うん!」
「それは良かったです、久々に頑張った甲斐がありました」
そう言って、ジャンヌは笑顔を見せる少女の頭を優しく撫でてあげた。
ーーー久々に農家の血が騒いだ気がする。
やはり、生粋の農家の血筋だけあってジャンヌの作業の腕は確かなものであった。これはカタッシュ村開拓にも期待が持てそうだ。
こうして、我らがカタッシュ隊員達は1人目の0円英雄を仲間に入れることに成功した。
これで、エジプトの開拓に人員を割いてもある程度どうにでもなりそうである。
「あ、ジル達も連れてって良いですか?」
「「どうぞどうぞ!」」
それに、ジャンヌの協力のおかげでピラミッドの建設要員も図らずも増員。
半年かかる予定だったピラミッド建造もこれで多少なりと短縮出来そうである。
こうして、フランスから農業のベテラン、ジャンヌ隊員達を引き連れてルーアンでバーベキューを楽しんだ一同は帰路につくのだった。
今日のYARIO。
1、0円英雄、ジャンヌちゃんを回収。
2、ルーアンの火刑をバーベキューパーティーに変える
3、火刑台をバーベキューセットにする。
4、どこの市民にも愛されるアイドル。