ザ!鉄腕/fate! YARIOは世界を救えるか?   作:パトラッシュS

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裏番外編 医龍 team medical Dragon

 

 

 

 ここはカタッシュ村病院。

 

 現在、この病院で心臓に病気を抱えたある少女が居た。

 

 ロンドンからジャック達と共にストリートチルドレンになっていたところをベディから連れて来られた子供である。

 

 お金もなく、貧しい生活を送っていた彼女は心臓に大きな病気があり、現在はカタッシュ村の病院の病室で療養を強いられていた。

 

 

「…拡張型心筋症か」

「知っているのですか? 朝田先生」

「まあな、このヴァンのカルテを見てわかったが…これはまた厄介な症状だ」

 

 

 朝田はそう言って、ナイチンゲールにカルテをすっと差し出す。

 

 拡張型心筋症とは、心筋の細胞の性質が変わって、とくに心室の壁が薄く伸び、心臓内部の空間が大きくなる病気。

 

 その結果、左心室の壁が伸びて血液をうまく送り出せなくなり、うっ血性心不全を起こす。

 

 左心室の血液を送り出す力は、心臓の壁が薄く伸びるほど弱まるので、心筋の伸びの程度で重症度が決まっている。拡張型心筋症の5年までの生存率は76%だが、突然死の発生もまれではない。

 

 今回のケースは。

 

 

「…劣悪な環境下、それも、ロンドンでのストリートチルドレンなら、なおさら不健康な生活を強いられていた筈だ。体の負担を考えれば体力的にも長期の手術は厳しいだろうな」

「…ッ! …では、あの娘を助けるには…」

「相応のリスクがある」

 

 

 朝田はまっすぐにカルテを見つめたままナイチンゲールに言い切った。

 

 このままでは、さらに病状が悪化する一方なのは間違いない、それに、ストリートチルドレンで過ごした彼女の身体を考えれば本来より短い期間で危険な状態になり得る。

 

 そんな中、カタッシュ村病院の窓から中庭を覗く朝田。

 

 そこに居たのは、そんな心臓に爆弾を抱えた少女に寄り添うように白衣を着て車椅子に座る彼女の隣に腰掛けて座るジャックの姿だった。

 

 彼女の仲間であり、そして、同じように捨てられたストリートチルドレンの一人。

 

 ジャックは彼女を含めた子供達を大事にしており、自分の身体の一部だと彼らに話をしていた。

 

 

「ねぇ…、やっぱり痛む?」

「…うん、ちょっとだけね?」

 

 

 そう言って、作り笑いを浮かべる少女。

 

 苦しそうな事はジャックにも理解できていた。

 

 自分達をあのロンドンからこのカタッシュ村に連れてきてくれたカタッシュ隊員達のおかげでこうしてようやく自分達が安心して過ごせる安息の地を得たというのにこれではあまりに救われない。

 

 

「ねぇ、ジャックちゃんも先生なの?」

「うん、私も一応外科手術できるから」

「えー! 私と同じくらいなのに! 凄いね!」

「そんな事ないよ、解体は得意だけど」

「かいたい?」

「うん! 解体っていうのはね…えーと」

 

 

 そう言って、解体の説明について考えるジャック。

 

 正直、この娘に人を殺して人間の身体を解体するのが得意なんて事は言い切る事は得策ではない。

 

 外科的な考えなら、ここは患者を考えてとりあえず、ジャックは幼いながら考えた答えを語り始める。

 

 

「おっきなお魚とか! あと家とか!」

「へぇ! そうなんだ! すごーい!」

 

 

 朝田先生とナイチンゲールから念を押して悪影響にならない事を言わないようにと告げられているのでジャックはとりあえずカタッシュ隊員を思い出しながら、目の前の娘にそう告げた。

 

 そうして、他愛の無い話をしながら二人はロンドンでの出来事などを思い出しつつ互いに語り合い笑い合う。

 

 それを窓から見ていた朝田はふと笑みが溢れでていた。

 

 あの娘の置かれていた環境下も知っているし、壮絶な生い立ちも把握している。

 

 だから、なおのこと、心臓のバチスタ手術は無理だと突っぱねる事は到底彼には考えることはできなかった。

 

 

「婦長、確かに今回の手術はかなり高難易度の心臓手術だ。俺一人では難しい」

「…そう…ですか」

「だが」

 

 

 そう言って、言葉を区切る朝田龍太郎。

 

 彼の頭には患者を諦めるなどという言葉は存在しない。確かにバチスタ手術を施すのは一人では難しいだろう。

 

 だが、仲間がいれば。

 

 

「俺たちなら、TeamMedicalDragonなら必ず成功できる」

「!? それじゃ…!」

「明後日、彼女のバチスタ手術は…俺が執刀する」

 

 

 その目には覚悟があった。

 

 たとえ、金がなくとも、困難な手術であろうとも助けられる幼い命が目の前にある。ならば、朝田が執刀しない理由など存在しなかった。

 

 パラケルススは医療品の開発をしながらその話をナイチンゲールと朝田から聞いた。

 

 

「そうか、朝田が執刀するのか…」

「えぇ、明日は私が第1助手に。ジャックが第2助手を務めるわ」

「それで…麻酔医は」

「お前に頼めないか? パラケルスス、お前の力が必要だ。頼む」

 

 

 そう言って、医薬品開発に取り組んでいるパラケルススに真剣な眼差しで告げる朝田。

 

 優秀な麻酔医がいなければ、この手術の成功はいくら朝田が優秀な外科医でも困難だ。だからこそ、こうしてパラケルススの協力を仰ぐ必要があった。

 

 しかし、パラケルススは医薬品開発を進めている。これを滞らせるのは彼にも医薬品を待ちわびてる人にも申し訳がない。

 

 

「team Dragonにはお前の力が必要不可欠だ」

「…朝田」

「目の前にある幼い命が無くなるかもしれない。それを俺は見過ごすことはできない」

「…しかし」

 

 

 正直、バチスタ手術はこの時代でははじめての試み。

 

 もしかしたら失敗する可能性だってある。チームを組んだばかりでいくら英雄たちが組んだバチスタチームであってもこれはハードルが高い手術になるのは明白だ。

 

 

「オペが怖いのはお前だけじゃない。命を前に怯えのない奴はいない。だけど俺達はチームなんだ、一人では無理でもお前の後ろには仲間がいる。お前は一人じゃない」

「…………」

「だから…」

「いや、もう大丈夫だ。わかった、明日は私も立ち会おう」

「!?…ありがとう助かる」

 

 

 そう言って、頭を下げてお礼を述べる朝田。

 

 こうして、チームドラゴンのメンバーは揃った。まだ四人だが、明日はこの四人で彼女を執刀する事に。

 

 優秀な麻酔医がいるだけで、手術の質はガラリと変わる。

 

 

 ーーーー不安が募る夜。

 

 

 静けさが漂うカタッシュ村の病院。その病院の屋上で朝田は一人、パラケルススの診断したカルテを見ながら明日の手術の予習を行なっていた。

 

 少女を救いたい気持ちは皆が同じ。

 

 上を脱ぎ、肌を露出させた朝田の上半身からは湯気が立ち上る。そして、背中には昇り龍のような火傷があった。

 

 手術前夜に、白衣を着たジャックは執刀する彼女の部屋を訪れた。

 

 彼女の手は震えていた。明日、執刀し身体を割いて心臓を手術するわけだが、怖いのは当たり前。

 

 特にこの地でははじめてのバチスタ手術ということもあり、一人で病室にいる幼い彼女には耐えがたい孤独との戦いであった。

 

 

「…眠れない?」

「うん…。みんなお見舞いに来てくれたけどやっぱり明日が不安で」

「…そっか、でも安心して、明日は一人で戦うわけじゃない」

 

 

 そう言って、ジャックは彼女の手にそっと自身の手を添えてにこやかな笑顔を浮かべて告げる。

 

 執刀にはジャックも立ち会う、だからこそ、彼女は一人で戦うわけじゃない。

 

 ジャックは優しく彼女の頭を抱きしめて撫でながらこう告げた。

 

 

「貴女には私達がついてる。だから、安心して」

「…ッ! うん!」

 

 

 そう言って、力強く頷く少女。

 

 ジャックの心強い後押しに彼女からも生きたいと言う意思が感じられる。

 

 それから翌日、いよいよバチスタ手術の執刀の時。

 

 

「それじゃ行くぞ」

 

 

 白衣を着た四人の医師たちが患者が待つ手術室へ向かい歩み始める。

 

 古代のブリテンの地でTeam Medical Dragonが始動する。

 

 果たして、ブリテンでのバチスタ手術は成功させることはできるのだろうか?

 

 小さな少女の命は彼らの手に委ねられた。

 

 

「よくて、手術ができる時間は2時間。その間に終わらさなくてはいけない、朝田、どんな手術をするつもりなんだ?」

 

 

 照らし出される少女の身体を見つめ、問いかけるパラケルスス。

 

 しかし、朝田の目には既に彼女を救う手立て、光明が見えていた。

 

 そして、その手立てとは。

 

 

「オーバーラッピング方式を使う」

「オーバーラッピングだとッ! バカな! それだと2時間ではとても終わらせられんぞ!」

「それじゃこの娘の心臓が…」

 

 

 そう言って、朝田が提案する手術のやり方について異議を唱えるナイチンゲールとパラケルススの二人。

 

 とてもじゃないが、設備が揃い切っていると言い難いこの状況下でオーバーラッピングは流石に無茶が過ぎる。

 

 オーバーラッピング方式は心臓の左室を回転楕円体に近い形態に保つように工夫された術式である。

 

 左室切開部自由壁外側と、心室中隔の健常部と梗塞部の境界を直接縫合閉鎖するが、その際に楕円形サイザーを用いて心室を楕円形化しつつ縫着する。

 

 本術式はパッチを用いずに心室の形態が楕円になるように直接閉鎖するため、人工物を使用しない

 

 朝田は変わらぬ眼差しで彼らにこう告げ始めた。

 

 

「俺なら40分で終わらせれる」

「40分…っ!? 馬鹿な!」

「しっかりついてこい、メス」

 

 

 こうして朝田主導の手術が幕を開けた。

 

 その技はまさに神業、あっという間に切開を済ませると切除、接合などの作業を最短で最速に終わらせていく。

 

 その手には迷いなどはなく、彼女の命を救う為に極限にまで研ぎ澄まされた集中力が如何なく発揮されていた。

 

 御仏がいるとするなら、この手腕の事を言うのだろう。

 

 

「は…早い! まだ10分程度で…っ!」

 

 

 そうしているうちに更に朝田の手術スピードはテンポアップする。

 

 早い手捌きに目を丸くするパラケルススにナイチンゲール。

 

 そうこうしているうちに手術はあっという間に完了してしまった。まさに早業、本来なら数倍以上時間を有する手術をこの男は40分足らずで終わらせてしまったのである。

 

 

「手術、完了」

「ありえない…」

 

 

 後に、この手術の噂はカタッシュ村を越え、ブリテン国内に留まらずローマ、ギリシャ、フランスなどの諸国から注目されるようになる。

 

 これが、朝田龍太郎と呼ばれる男とブリテンが誇る最新鋭の医療バチスタチームteam medical Dragonを知らしめるきっかけとなるのだった。

 

 

 そして…。

 

 

「朝田先生! 急患です! 呼吸困難に陥った女性患者が!」

「今手術が終わったばかりだぞ!」

「わかった、行こう」

 

 

 彼らは手術が終了して間もないというのに、担ぎ込まれた、桜色掛かった色彩の髪をした急患の対応に彼らはすぐに追われる事になった。

 

 なんと、これが新撰組の沖田総司という衝撃の真実を彼らが知る事になるのはまた別の話である。

 

 そして、沖田さんはそこから1ヶ月ほどカタッシュ村病院に入院する事になるのだった。

 

 


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