ザ!鉄腕/fate! YARIOは世界を救えるか? 作:パトラッシュS
前回、始まったウルトマンカタッシュ主催、第一回、ギリシャ箱根駅伝。
第1走者のカルナは順調なペースで足を動かし、次走のヴラドにたすきを渡すため駆ける。
レースは序盤からアタランテが大幅にリード、だが、これはまだ序盤、これからの展開次第ではまだ巻き返しは効くだろう。
そして、5 km地点。そこではヴラドがたすきを受け取る構えを取り、カルナの姿を見つけると足を動かし始めた。
「がんばれ! もうちょいだよ! 兄ィ!」
「はぁー…はぁー…た、頼んだ!」
「任された!」
バシっとしっかりたすきを受け取ったヴラドは前を向いて、リードを広げているアタランテに向かい駆けはじめる。
だが、最初よりもリードが多少なり縮まっていた。これはカルナの頑張りのおかげだろう。
脇に立っている観客からは完走したカルナに対して大きな拍手が送られた。カルナはモーさんとニトクリスの二人に肩を貸してもらいコースから出る、その足は当然、痙攣していた。
実況のエミヤはこれについて。
「いや、見事な走りだったな、前半から飛ばしていたアタランテとのリードを最期、スパートをかけて縮めてきましたね」
「そうだね、足が痙攣しているところを見ると相当きている」
「英雄だけあってやはり持久力は高い! これはまだわからないわ! !」
そして、淡々とレースを分析して解説するマーリン師匠と同じアイドルとして完走したカルナに賞賛を送るマリー。
ヴラドも負けじと、第2走者としてアタランテを追走する。
以前は身体が弱く、カタッシュ隊員として村や島などの活動を自重せざる得なかったヴラド。
できることは炭作りや土器、そして、司会業、料理に畑の開拓などには携わっていたものの何でもできる他のメンバーと比べるとどうしても見劣りしてしまう。
そして何より、本人には自覚があった。多分、自分は他のメンバーよりもそういった嫌なイメージが強い。
だが、この身体になりメンバーと離れ離れになったヴラドは領主になり、その領民達に対して、自分が学んだ事や出来ることを精一杯やってきた。
10kmという長い区間を走る事を自ら進んで志望したのもそれが理由である。
知らぬ間に離れ離れになってしまったメンバー。
もしかしたら、このまま解散してしまうかもしれないという不安は他のメンバーの中にもあった。
だが、それを纏めてくれたのはやはり、自分達のリーダーである彼だった。
だから英雄になって身体が少しだけ丈夫になった彼は彼なりにできる事を進んでやろうとしているのである。
だが、残り700m地点、アタランテの後ろ姿が縮まりかけたその時だった。
「痛っ…!」
ヴラドが太ももを抑えて失速しはじめたのである。
そして、右足を庇うように走り始めるヴラドに傍にいる観客達から悲鳴が上がる。
長丁場になる距離、10kmで少しでも距離を縮めようとした無理が祟ったのだろうか。
違和感に気がついたエミヤがガタリッと実況席から立ち上がると声を張り上げる。
「おーと! アタランテ選手と差を詰めかけていたヴラド選手に異変! 故障発生か!」
「割とオーバーペースで走っていたようだからね」
「…でも、彼、走るのをやめる気はなさそうだけれど…」
肉離れか、それとも別の何かか。
しかし、ヴラドに起こっている足の異変はただごとではない事は間違いない。
すぐさまナイチンゲール婦長が駆け寄ろうとするが、それを制止したのは…。
「何をするつもりだ?」
「…ッ! 足を故障したのでしょう? ならば競走を中止させて治療する必要が」
「だめだ、それは監督役を務めるこの我が許さぬ」
そう、ギルガメッシュ師匠である。
彼は毅然とした態度で、ナイチンゲールを見据えたまま一歩も退く事なくそう告げた。確かにナイチンゲールが言う通り、故障が発生したのは確かだ。
しかし、ギルガメッシュ師匠がナイチンゲール婦長を止めたのにはもう一つ理由があった。
「奴は走る意思を見せている。仲間の為にな…。たすきを繋げ、託す、それが駅伝であろう」
「しかし! このままでは悪化して最悪歩けなくなるかも…」
「ならばっ! 貴様はあやつの意思を捻じ曲げてでもやめさせるというのか? 」
「それが私の仕事です」
そう告げるナイチンゲールもまた英雄王と名高いギルガメッシュ相手に一歩も退く気配を見せない。
だが、ギルガメッシュは退こうとしないナイチンゲールに対し、ため息を吐くとこう語り始めた
「確かにそうだろう。だがな、それは奴の意思で決める。リタイアを宣言するまでは足を止める事は我が許さん。それがルールだ」
「何を勝手な!」
「二度は言わんぞ? 奴らから監督役を引き受けたこの我が走るのを止めるなと言ったのだ。我が管轄するこの駅伝を第三者が勝手に止める事は我が許さん」
「…くっ…!」
そう告げるギルガメッシュはまっすぐにナイチンゲールを見据えていた。
確かにルールはルールだ。医療チームとして何より看護婦として見過ごせないというナイチンゲールの気持ちはわからないでもない。
しかし、ヴラドは汗だくになりながらも長い距離を走り、足を引きずりながらも仲間にたすきをつなげようと足掻いている。
それに呼応するように傍道にいる観客達も後押しするように声を上げて、彼を応援していた。
「…はぁ…はぁ…ディルが…見えた…」
たすきを外し、懸命に足を引きずりながら10km地点に向かってくるヴラド。
彼がよく喧嘩をするのはディルムッドだった。だが、同時にグループで活動して、いろんな企画を力を合わせて乗り越えてきた仲間だ。
いつしか、二人の間にあったわだかまりもそれは固い絆へと変わっていた。めでたい事なら祝ってくれる信頼できる仲間に。
だから、ヴラドは足を懸命に庇うように走りながら倒れる寸前までたすきをしっかり握りしめてディルムッドにちゃんと託した。
「よく頑張った! ヴラド! あとは俺に任せろ!」
「…ごめん…っ! 差が…ついちゃって…!」
「馬鹿野郎! 気にすんな! 俺がちゃんと挽回すっからさ!」
仲違いをよくしていた二人。
だからこそ、それぞれの良さが長年一緒に活動する事になってよくわかった。
ヴラドが故障した為、開いた差をカバーするディルムッド。彼らが繋ぐたすきは確かに絆でできていた。
「ヴラド! あんた大丈夫なの!?」
「はぁー…はぁー…。やっぱり俺、足引っ張っちゃったなぁ」
そう言って走り終えたヴラドに駆け寄ってきたエリちゃんは心配そうにに毛布を彼の肩に掛けてあげた。
彼の顔を見ると、そこには悔しさからか目頭に涙を浮かべているヴラドの姿があった。
完走はできたものの、結局、自分の故障のせいで差を開いてしまった。
だが、エリちゃんはそんなヴラドの肩を叩いて満面の笑みを浮かべてこう告げる。
「馬鹿ね! …かっこよかったわよ、ヴラド」
「…あーだめ、そんな優しい言葉かけられたらほんとに泣いちゃうから!」
そう言って目頭を抑えて溢れそうになる涙を堪えるヴラド。
見事に完走した彼の姿に駅伝を見にきていた他の人達も惜しみなく拍手を送ってあげた。
そして、たすきを受け取ったディルムッドは駆ける。それも、ハイペースでだ。
流れ板のディルムッド。その名は伊達じゃない。
「いけー! ディル兄ィ! 気合いが違うんじゃー! 気合いが!」
「モーさん、めっちゃ声デカイ」
「今回参加できなかったもんね」
猛追するディルムッドに声援を送るモーさんに苦笑いを浮かべるカルナにそう告げるヴラド。
それからはアタランテとの耐久戦だった。序盤から飛ばしていたアタランテ、流石に長距離レースともなるとここで足の負担もやってくる。
先程よりもやはり、ペースは落ちていた。
「くそっ…はぁはぁ、悪あがきを…!」
「はぁ…はぁ…背中遠いぃー…!」
そして、ディルムッドも負けじと粘る。仲間が繋いでくれたたすき、ここでこれ以上、引き離されてはおそらくアタランテには勝てない。
そして、次走に控えているのは末っ子ベディ。
たすきをディルムッドから受け取り、第4走者が駆け出す。
「頼んだー!」
「うおおおおお! やるぞー!」
「第四走者ベディ選手に今たすきが渡されました! 走る走るー!」
「やっぱり一番若いだけあってパワーあるね彼」
第1回、ギリシャ箱根駅伝もいよいよ終盤。
リードは相変わらずアタランテだが、その差はメンバー達の頑張りもあり確実に縮まっていた。
残りはベディを含め3区間。これなら、挽回できる可能性がある。
そこからは怒涛の追い上げ! という美味い話はなく、やはり、アタランテも意地があるのかペースを上げ突き放しにかかりはじめた。
「はぁ…、はぁ…、なんなのあの人! 変態だよ! 変態!」
そのスピードアップが変態じみていたので思わずそう声を上げてしまうベディ。
ーーーー変態じみて足が速い狩人。
だが、体力自慢なら負けてはいない、必死で食らいつき、離されまいと足掻く。
そして、第五走者。
我らがスカサハ大先生が仁王立ちでベディが来るのを待ち構えていた。
とはいえ、平仮名で「すかさは」と書かれた体操着とブルマ姿がいろんな意味で威厳やらなんやら台無しにしている。
だが、最速なら負けないと言わんばかりにスカサハは意気込んでいた。
そして、横をアタランテが通過するのを目視で確認し、続いてやってくるベディからたすきを受け取る直前でスカサハは反転し、クラウチングスタートを取る。
「よこせ!」
「はい! 師匠!」
そこからは、スカサハ劇場の始まりだった。
クラウチングスタートから勢いよく飛び出した彼女の信じられないスピードに会場からは思わず歓声が上がる。
「はっや! 師匠早すぎ!」
「信じられないスタートダッシュ! 怒涛の追い上げだー! あっという間にアタランテに並んだー!」
体操着のスカサハの素早さに度肝を抜く一同。
体力が有り余ってるのか、スカサハはさらにそこからスピードアップ、アタランテを一気にぶち抜いてしまった。
フルマラソンのアタランテとは違い、駅伝ルールなスカサハとは温存していた体力量が違う。
最初からアタランテが飛ばしていたので当然といえば当然、抜かれてしまうのも無理はない。
「くそっ…!」
「はっはっはっはっ! 何故だか私は貴様には負けたくないのでな! キャラ的に、若干被ってる感があるし!」
「なんだその理由は!?」
「ではお先!」
笑い声を上げて余裕でアタランテをぶち抜いていくスカサハはそのままのスピードを保ちつつ、最後の走者我らがリーダーの元へ。
ーーーー負けられない戦いがある。
そんなスカサハの意地を彼らは目の当たりにしたような気がした。
そして、ラスト走者のリーダーは怒涛の勢いでこちらに向かってくるスカサハの姿を見てすぐにたすきを受け取る構えを取る。
「しげちゃん!」
「よっしゃ! 任されたっ…! へぶ!」
だが、勢いあまって転倒、それを見た一同は思わず頭を抱える。
顔面からいったヘッドスライディング、しかし、すぐに立ち上がるとクーフーリンはかけはじめた。
「…さぁ、ラスト走者ですが、大丈夫でしょうか」
「幸先が不安だね」
これには実況席からも苦笑い。
年末年始から転ぶとはなんと縁起が悪いことか、だが、立ち上がって走りはじめるクーフーリンに観客からは声援が送られる。
だが、転んだ事によるロスは取り戻すのはなかなか難しい、当然ながら、アタランテが追撃をしてくるわけで。
気づけば間がどんどんと縮まっていく、これは不味い。
いよいよ、最後の直線に入る。
ラストスパートで全力疾走をはじめるアタランテとクーフーリンの二人、すぐ後ろまで迫るアタランテ、逃げ切れるのかクーフーリン。
「デットヒート! これは熱くなってきました!」
「二人とも頑張れー!」
思わずマリーちゃんも身を乗り出して二人を応援する。
勢いよくゴールに向かい駆ける彼らの姿に思わず観客達のボルテージも上がり、熱気に包まれる。
粘り込みをはかるクーフーリン、後ろから爆走し追撃するアタランテ。
そして、最後の直線で最終的に勝ったのは…。
「…今!ゴールイン! 勝ったのはYARIOの皆さんです!」
そして、ゴールを切ったのはクーフーリンだった、その差はなんと僅か30センチ。ギリギリの勝利であった。
こちらは駅伝ルールに比べてフルマラソンで走ったアタランテのこの激走に思わず、観客から惜しみない拍手が送られる。
「あの人、世界最速の人より早いんじゃない!?」
「もうなんであの人狩人してんのか不思議だよね」
ごもっともである。彼らはその気になればアタランテは足だけで普通に食べていけれるような気がした。
しかしながら、本業が狩人なので仕方がない、彼らが農家なんて言われてるので皆からしてみればどっちもどっちである。
なんにしろ、こうして第一回、ギリシャ箱根駅伝はYARIO達の勝利で幕を締めたのであった。
今日のYARIO。
1.アタランテさん変態じみて足が速い。
2.スカサハ師匠も足が速い。
3.そんなアタランテにリレーで勝てるアイドル。
4.やはり歳には敵わないアイドル。