ザ!鉄腕/fate! YARIOは世界を救えるか? 作:パトラッシュS
蛇釣りを始めて数時間あまり。
釣竿には一向に蛇が掛かる気配がない、そんな中、暇を持て余したこの人は我らがリーダーの頭の上に豊満なそれを乗せたままこんな風な愚痴をこぼしていた。
「なぁ…しげちゃん…いつになったら釣れるんだー? なぁー」
「スカサハ師匠、重い、おっぱいが重いんやけど」
「暇だー暇だー暇だー」
そう、退屈そうにスカサハ師匠が豊満なそれがリーダーの頭の上に乗っかっているのである。主に胸部だが。
暇だーと叫びながらリーダーの頭の上で大きなものが上下に動きながら何度も頭部を直撃していた。
「んー…中々釣れないねー」
「やっぱり餌があかんのかねぇ…イカじゃ釣れないじゃないか! ってことかいな」
「…リーダーなんか言った?」
「ごめん、なんでもあらへん」
リーダーの寒いギャグも寒さを増し、思わず扱いもメンバーからの扱いも雑になる。
まぁ、リーダーの扱いが雑なのはもともとなのだが、数時間も蛇が釣れなければそうなるのも致し方ない。
そんな中、カルナは釣竿を見上げながらこんなことを呟きはじめる。
「そういやさ、俺たちって今までブリテンでそうめん飛ばしたり農業したり霊草でラーメン作りはじめたり聖剣じゃなくて聖刀とか作ったりしたけどさ…」
「兄ィ、そこら辺、言い挙げたらきりないよー」
「いや、そうなんだけど。正直、楽器持ってるより安心感あったんだよね、今もだけど」
「それはもう病気の類だと思うよ、俺もだけど」
ーーーーもはや手遅れです。
医者も匙を投げるレベルである。カタッシュ村病院にいる朝田先生でも治せそうに無いので間違いない。
蛇は釣れてないが、妙な安心感のようなものを彼らは感じていた。
これを手に持っていた方が落ち着く、何故だかわからないがそんな想いは皆同じであった。
「やっぱり釣りは良いな、我はこんな風に他愛の話をするのが面白い」
「余も同じ気持ちだ」
「アウトドアの醍醐味ですよね」
「しかし待つのは退屈ではないか、私は面白くないぞ」
そう言って、プクーと頬を膨らませるスカサハ師匠。
たしかに女性にはこんな風にひたすら待つ釣りをしたりという事は退屈に感じてしまうのかもしれない。
素潜りの方が早いというあたり、スカサハは行動派なので尚更だろう。
とキリが良いところで、ここで彼らの元にある人物が二人、宅配便だん吉に乗ってやってきた。
もちろんドライバーには我らがスーパーケルトアイドルであり、物流に特化した物流女王ことメイヴちゃん。
そして、あと二人ほど弁当を届けにやってきた、その二人というのは…?
「はーい! 皆! お昼ご飯を持ってきたわよー!」
「カルナ様ー! 久方ぶりですね! 会いたかったです! いえ…ここは旦那様と…ぶっ!」
「何、勝手な事言ってんだこのうさ耳ファラオ! おーい兄ィ! 弁当持って来たぜー!」
「うわぁ…なんか増えたよ…」
「なんか増えたね、水吸った干しワカメみたい」
ーーー美女達を干からびたワカメに例える。
めんどくさそうに呟くヴラドに同意するかのように頷くカルナ、またまた騒がしいメンバーが加わってしまった。確かに味噌汁などに使う際はかなり増える。使う分量を間違えたら味噌汁がワカメだらけになるのは経験済みだ。
そう、その二人というのはニトクリスとモーさんである。
気安くカルナに弁当を届けようとするニトクリスを押しのけているモーさん、せっかく静かに釣りができると思っていたらこれである。
そして、メイヴちゃんもツカツカと釣竿を垂らしているスカサハとリーダーの元へやってくると満面の笑みを浮かべながらこう訊ねる。
「どう? クーちゃん釣れてる?」
「うーん、全く釣れへんねぇ、蛇とか釣った事あらへんしなぁ…」
「そっかぁ! あ、なら、私もそれに付き合ってもいいかしら?」
「ん? ええよ! ええよ! 掛かるのはもうちょい先やろうしな!」
「んなっ…!!」
そう言って、嬉しそうにリーダーの隣に腰掛けるメイヴ。それを見ていたスカサハは軽くショックを受けたのか固まってしまった。
そんなスカサハの姿が目に入ったメイヴはしてやったりと言わんばかりに彼女に勝ち誇ったような表情を浮かべる。
流石は女王メイヴ、したたかである。清楚で固められたあざとさが滲み出ているようだった。
とここで、ディルムッドは運ばれた弁当を見て皆にこんな提案を持ちかける。
「おーい、とりあえずメシにしようぜ! メシ! せっかく弁当あるしさ」
「おっ! いいねー!」
「ちょっとオカズ足んないね、俺、作るわ」
そう言って、流れ板のディルムッドは昼食に入る事にしたカタッシュ隊員達に料理を振る舞う事に。
今日のメニューはこちら、北欧という事で天然の鮭を使った料理を作る。
まずは、鮭の切り身を軽く炙り、焼きサーモンにしていく。火がないので火力を調整したカルナの目からビームがここで役に立つ。
ほんのりと生焼けてきたら、次に取り出したのはイクラとウニ、これを上に乗せ、彩りよく盛り付ける。
サーモンとの間に大根をおろしたものを乗せるのを忘れてはいけない。
「おぉ! これは! …なんと素晴らしい!」
「これがジャパニーズサーモンですよ」
「これが…ジャパニーズサーモン!? 何という鮮やかさだ!」
ーーー便利な言葉、ジャパニーズ(日本製)。
ちなみに産地は北欧のサーモンなのだが、ツッコミは野暮である。
これが世界に通ずる流れ板ディルムッドの料理の腕前、これには一流の職人も思わず太鼓判を押すこと間違いなし。
伊達に長年、YARIOの料理番を張っていない、これが、ディルムッドの腕前だ。
「…久々か、ディルムッドの料理は」
「ディル兄ィ絶対将来良いお嫁さんになるよ!」
「俺、男だけどな! がははははは」
ベディのボケにそう笑い飛ばすように告げるディルムッド、リーダーが結婚するまで独身を貫くと誓った男はやはり器もデカかった。
自分よりも他人を大事にし、そして、自然に感謝する彼らの常に何事にも挑戦する姿勢は人から好かれ好感を得てきた。
雷神・農耕神と知られているトールもまた例外ではなかった。それは、このサーモン料理を出される前から彼らから感じ取っていた事。
彼らの為ならどんな事でも協力してあげたい、そう思わせる何かが男女、神、英雄問わず彼らにはあった。
「こいつは美味いな! 本当にびっくりだ…」
「醤油や調味料かけるとまた違いますよ」
「うむ、やはりディルムッドは我が見込んだ通りの弟子だ。褒めてやる! 誇らしい限りだぞ! わはははは!」
「余も黄金のと同意見だ、貴様の料理は食べても温かみがある身体に染みる味だな」
トールだけでなく、それは、英雄王であっても太陽王であっても同様だ。
ディルムッドは嬉しそうに彼らの言葉を聞いて満足げに微笑んでいた。
幼き頃から包丁を握っていた甲斐があったというもの、料理を作って数年の腕には年季が入った宝具に勝ると劣らない歴史があった。
「お粗末様でした」
「その腕惜しいな…、どうだ? 貴殿さえ良ければブリュンヒルデという素晴らしいワルキューレがおってな…」
「へぇ、そうなんですかー、そのプッチンプリンさんってどんな方なんですか?」
「ブリュンヒルデさんっ! 一文字もあってねーよ!」
ーーーワルキューレプッチンプリンさん。
聞いただけでプリン状のスライムみたいな人物を想像してしまいそうだ。
しかしながら、ブリュンヒルデさんである、ディルムッドは一文字も掠ってはいなかった。
これには失礼だとヴラドも思わず激しい突っ込みを入れざる得ない、当たり前である。
「だって言いにくいんだもん!」
「だもん! って…」
「確かにブリュンヒルデって噛みそうになるよね、気持ちわかるよ」
「いや、わからんやろ」
ーーー気持ちはわかる。
共感のカルナの一言に思わず突っ込みを入れるリーダー、確かに、それは人によりけりだろうがそれは、ブリュンヒルデという名前の捉え方次第だろう。
トールさんが言うには依存的で何というか癖が強い女性であると言う話であった。早い話がブッチギリでイカレたイカした女という話であった。
ブリュンヒルデはワルキューレの一人で、古エッダではフン族、ブズリの娘でアトリ王の妹とされている。
主神ヴォータンと知の女神エルダの娘とされる。ニーベルングの指環では愛馬を持ち、愛馬はグラーネまたはヴィングスコルニルという。
だが、ブリュンヒルデはヒャームグンナル王とアウザブロージル王の戦いにおいてオーディンに逆らった為、神性を剥奪されたとされている。
ブリュンヒルデをトールから紹介されたメンバーはというと。
「大丈夫、もう既にブッチギリでヤバい女の子達で周りにベルリンの壁出来てるからさ俺ら」
「見てよ、あんな全身タイツ着てるどう見てもヤバい人が俺たちの師匠なんだよ?」
「…それもそうだな」
ーーー雷神トールも納得してしまう面子。
一方、ヤバい女認定されてる師匠は相変わらずメイヴと釣竿を呑気に垂らすリーダーを挟んで牽制しあっている。
あれを見てれば大体のことは把握できてしまうだろう。そうでなくても来て早々、素潜りでヨルムンガンドをぶっ刺してくるなんて事は普通の女の子言わない。ガンダムのモビルスーツみたいなフルセットを着てるモーさんしかり、珍妙なメジェド様衣装を着たりしてるニトクリスしかりである。
という訳で?
「こいつがブリュンヒルデだ…」
「…どうぞ…よろしく…」
トールさんにそのブリュンヒルデさんを連れてきてもらった。
白い長髪に幸薄そうな佇まい、さらに槍を持っている彼女の姿を目視で確認した一同は顔を見合わせる。
そして、しばらくして、彼女の隣にスッと何も言わずにスカサハ師匠を並べてみた。
「…あれ? 師匠、随分、雰囲気、幸薄くなりましたね?」
「あれだな、全身タイツじゃない方の師匠だ」
「こっちの方がいいな!」
「よーし! お前たち! そこに全員正座しろ!」
「あの…えっと…」
スカサハの隣に並べられ、あたふたしているワルキューレのブリュンヒルデ。
最近、スカサハの扱いが師匠なのに雑になりつつあるカタッシュメンバー、それだけ愛されているという事だろうが果たして影の国の女王にこんな扱いをして良いものだろうか?
しかし、物腰というか雰囲気が似ている、特に槍持っているとことか声質とか。
「一人二役大変っすね」
「コラ、メタい話ししないの」
そう言って、笑いをこぼしながらベディに突っ込みを入れるヴラド。そこは触れてはいけないところである。
そして、話を戻すが本題に、そう何故、この場にブリュンヒルデさんがやって来たのかだ。
「それで…、そのブリュンヒルデさんはどうしてトールさんから連れてこられたの?」
「私は何やらお見合いだと、言われましたけれど」
「そういうことだディルムッド、お前の嫁にどうだ?」
「え? そういう流れだったっけ? 今?」
どうやらトールさん、ディルムッドの板前の腕前を大変お気に入りの様子。
どうにかして彼らとのしがらみを作っておきたいという思いからこういった提案に思い至った訳である。
するとここで馴染みある我らがADが仲裁に入った。
「すいませんーちょっとそう言った話はウチの事務所を通してもらわないとですねー」
「あ、ADフィンじゃん」
「そうだねー怖いもんねー週刊誌砲」
そう言って苦笑いを浮かべるカルナ。
ADフィンの仲裁に目を丸くするトールさん、流石は人気アイドルYARIOのAD、年季が違う。
ーーー国民的アイドルにだって怖いものはある。
という訳で今回のトールさんが持ちかけてくれたお話はお流れに、というよりいつのまに現れたのかADフィン、気を取り直して。
「とりあえずブリュンヒルデさん、はい」
「これは…?」
「釣竿ですね」
とりあえず釣竿をブリュンヒルデさんに手渡しておく。これでヨルムンガンドが釣れる確率も上がるはずだ。
そう、ヨルムンガンド捕獲のため協力できる人間は出来るだけ多い方が助かる。
という訳でブリュンヒルデさんも含めて、メンバー全員の釣竿がずらりと並ぶ、これならヨルムンガンドが釣れるのも時間の問題だろう。
彼らの挑戦は続く!
「ちなみにウィディングドレス着るのはディル兄ィの予定だったらしいよ」
「え! 俺が着んのっ!?」
今日のYARIO。
1.蛇釣り用の釣竿が追加される。
2.トールさん日本食に目覚める。
3.楽器より農具が落ち着くアイドル。