ザ!鉄腕/fate! YARIOは世界を救えるか? 作:パトラッシュS
いよいよ出航。
遂にこの日がやってきた。このブリテンの地に長い間滞在し、カタッシュ村を作り、そして様々な出来事があった。
最初は無理な企画だと思われていた王様作り。
モーさんを迎え彼女の成長を暖かく見守りながら、時には困難にぶつかり、メンバーともぶつかり合った。
そんな思い出がこのブリテンの地にはたくさんあった。
時代を越え、様々な人達に支えられたカタッシュ隊員達。
そして、この日新たな門出が始まる。
そう、新たな出会いが彼らにあることだろう。だが、新たな出会いがあればそこには当然ながら別れもある。
「それじゃ、行こっか」
「やっぱり名残惜しいなぁ…長かったもんなここに居たの」
清々しい表情を浮かべ、振り返ってみるディルムッドの一言に一同はにこやかな笑顔を浮かべていた。
そう、別れがある。この地を離れ日本のカタッシュ島を目指すYARIOだが、当然、この村にはしばらくは帰ってこれない。
そして、モーさんはこの村の領主でありブリテンを治める事になった後継者だ。当然、この地を離れるという事は出来ない。
そう、モーさんとはここで暫しの別れになるという事。
「………あの…俺……」
「うん、わかってる」
そう言って、カルナは視線をモーさんに真っ直ぐに合わせ、ポンッと頭に手を置いて満面の笑みを浮かべていた。
モーさんの目には涙が浮かんでいた、彼らとの別れはやはりいつかは来るとは思っていたし覚悟もしていたつもりだ。
兄貴分として、一番、モーさんを可愛がっていたカルナは優しい眼差しを彼女に向けていた。
かつて、自信がなかった自分の後輩達と同じように男所帯で育った兄貴分として、彼女の成長は何より嬉しかった。
「モーさんは良くやったよ、俺たちの自慢の妹だ!! なっ! だからさ…泣くなよ、なっ?」
「…っ! だっ…だって…俺…まだ…」
「王様になれるし、お前がみんなから愛される努力をしてきたのはみんな知ってるんだから」
「けど…っ! やっぱり…」
ーーー離れるのは辛い。
それは、憧れからの感情か、彼らとの別れがやはり嫌なのか。いや、それよりも彼女自身が抱いている恋慕からなのか…。
彼女を認めてくれたのはまさしく彼らが初めてだった。
真摯に向き合って受け止めて、さらに困難に共に立ち向かったかけがえの無い仲間達。
「心配すんなって、だん吉もあるんだし。ほれ、こいつもやる」
「…これ…」
「モーさんの作業着だ。…手が足りない時はまた助けて貰うよ」
「兄ィ…っ !?」
モーさんはそう言うとカルナに抱きついた。
勢いよく突っ込んできたカルナはよろけながらも優しく笑みを浮かべてモーさんを受け止めてあげる。
身内と言っても遜色ない程、彼らといた時間はモーさんにとってかけがえのない時間であった。
「まあ、これで一生のお別れって訳じゃないから」
「村にはまた戻ってくることもあるだろうしね」
「まあ、カルナ様の事についてはこの偉大なファラオであるこのニトクリスにお任せしてもらえればなんの心配もございませんので♪」
「そーそー……。……ん?」
そう言って、船の上からカルナに抱きついているモーさんに対して話をしていたディルムッドとヴラドの二人はピタリと動きを止める。
我々はピコンと跳ねる兎耳に見覚えがあるだろう、そう、以前YARIOのメンバーが彼女のピラミッドを作ってあげた事がある女性。
ファラオ・ニトクリス、その人である。
ーーーいつの間にか居た。
「ニトちゃんいつの間に乗ってたの?」
「てかいつ来たし! 俺ら全然気づかなかったわ!」
「ふふーん♪ 変装してましたからね! こうして」
「それは逆に目立つんじゃないの?」
メジェド様に変装したとドヤ顔を見せるニトクリスに冷静にツッコミを入れるヴラド。
明らかに変装の方が目立っているような気がしてならない、あんなシュールな格好をしていれば嫌でも目につくはずだ。
するとそれを見たモーさんは目を丸くしながらニトクリスを指差し声を上げた。
「あー!! テメェ! 何乗ってんだこら!」
「ふふふ羨ましいですか? 羨ましいでしょうねぇ、いえ、羨ましいはずです」
「なんの三段活用なの?」
「まあ、ご心配なく! 私が一人いれば十分ですしね! ささ! カルナ様! 行きましょう!」
「お、やる気満々だねぇニトちゃん」
そう言って、船から降りカルナの元に駆け寄るニトクリスはグイグイと満面の笑みでカルナの腕を引っ張る。
しかし、それを目の当たりにしていたモーさんは面白くない。
彼女は青筋を額に浮かべながら、思わずニトクリスを指差し張り合うようにしてこう告げはじめた。
「だぁれがお前なんかに兄ィを渡すかバーカ! 兄ィ! ダメだ! 俺もやっぱついてく!」
「いや、ついてくってカタッシュ村どうすんのよ!」
「父上にお願いする! な! な! 連れてってくれよ〜」
そう言って、モーさんはカルナの腕にしがみつきながら涙目でお願いする。
妹分のこんな風なお願いには流石のカルナもたじたじである。可愛い妹分のお願い、男所帯で兄貴分として引っ張って来た彼にとってはこの初めて男以外の妹分のモーさんのお願いはかなり効果的であった。
女の子に涙を見せられてはアイドルとしての男気が廃るというもの、カルナはパン! とモーさんの背中を力強く叩くとにこやかな笑みを浮かべこう話しをし始めた。
「…ったくしゃあねぇな! 兄ちゃんがなんとかしちゃる! 支度せい! 支度!」
「もー…ほんとモーさんに甘いんだから、ぐっさんは」
「しゃあねぇから俺からも頼んでやるよー、刺身振る舞えば王様も許可してくれるっしょ」
「そうやってアルトリアちゃんを食事で買収するのはやめてあげて!」
そう言って、刺身や板前料理を駆使してブリテンの王様を懐柔しようと企てるディルムッドに突っ込むヴラド。
どこの世界に食事で国の王様を買収しようとする英雄がいるというのか、しかし、何故だか説得力を感じるのは不思議である。
だが、その話を聞いていた同じくキッチンに立つ鉄人英雄エミヤは納得した表情を浮かべ静かに頷くとこう話をし始める。
「…その手法はたしかに効果的だ。経験者の俺が言うんだから間違いない」
「まさかの経験者だったんっすか!?」
ーーー衝撃の真実。
まさかの経験者エミヤさん的には間違いなく懐柔できると太鼓判が出た。これにはヴラドも驚きを隠せない。
平行世界の話らしいが、彼も遠い昔にブリテンの王様に同じような手を使ったことがあるとか。
腹ペコな王様にはたしかに美味しい食事が効果的。たくさん食べるので胸もあの大きさになったのだ、そうに違いない。
「そもそもなんで無人島に渡るんだっけ? 俺たち」
「そりゃお前、ラーメン作るためだろ」
「ラーメン作るために無人島に行って魚釣って出汁とる為に開拓するって事やん」
「誰だこんな企画通したやつ」
そう言って、今更抗議をし始めるヴラド。
とはいえ、ここまで来たら行くとこまで行くしかない。
だいたいそんなノリでこれまでもかなり遠回りをして来たような気がするが、それも過ぎたことである。
というわけで、お別れ予定だったモーさんも無人島に同行することに。
ひとまず、アルトリアちゃんに話を通すため、エミヤさんと共同で料理を作りそれを彼女に見せ、モーさんを連れて行く許可を貰いに行った。
その結果…?
「セーフです」
「よっしゃ! さっすがアルトリアちゃん!」
なんとあっさりと許可をもらう事に成功。
これには一同も安心して、モーさんも嬉しそうにメンバーとハイタッチを交わしていた。目の前に出された渾身のエミヤとディルムッドの料理がやはり効いたのだろうか?
すると、ここでアルトリアはゆっくりと口を開くと何故、あっさりと許可を出したのか、彼らにこんな話をし始める。
「まあ、可愛い子には旅をさせろといいますし。それにそのカタッシュ島は別名アヴァロンという島でしょう?」
「何言ってんですか、瀬戸内海に浮かぶ島ですよ」
「そう、別名アヴァロンとか呼ばれてます」
「適当な事言ってんじゃないよっ! 聞いたこと無いよっ! そんな設定!」
そう言って、適当な事を言い始めるディルムッドとカルナの二人に声を上げて突っ込むヴラド。
ーーー俺たちのアヴァロン。
あらがち間違ってはいないが、イギリスから遠く離れたところにある無人島で理想郷というか開拓地である。
まあ、そこは彼ら自身がアヴァロンにすると言い始めればそれまでなのだが、モーさんアヴァロンに修行しに連れてくという大変こじつけもいいところの適当な理由作りが成り立ってしまったわけである。
以後、日本地図では一部の無人島が英語名表記されるようになるのだが、それはまた別の話である。
「まごう事なく日本のアヴァロンだろ」
「あんなに漂流物流れてくる無人島なんだぜ? アヴァロンだろ」
「何をもってお二人はそんなに強気なんですかね」
目指すは日本のアヴァロン、カタッシュ島。
遥か遠く日本までの旅路は長いが、皆が力を合わせれば超えられない海はない、今までに無いすごい一体感を感じる。
「ふん! まあ、無人島じゃ火に困るでしょうし、私がついてってあげましょう! 感謝しなさい!」
「へー! ジャンヌオルタちゃんついて来てくれるんだ!」
「まあ、この娘にも人生経験が必要かと思いまして」
ジャンヌはにこやかな笑みを浮かべ、ジャンヌオルタの同行についてベディにそう語る。
確かに火は貴重。その気になればカルナの目からビームはあるのだがいかんせん火力調整が難しい事もあり、このジャンヌからジャンヌオルタの推薦は彼らには大変助かる部分があった。
うまくいけば、バーベキューの火にも役立つ事間違いなし。一家に一台、ジャンヌオルタちゃん。画面の向こうにいる貴方にもいかがだろうか?
とりあえず航海に向かうメンバーはリーダーをはじめ、無人島に渡る五人にスカサハや既存のメンバーから何人か選び、残りはカタッシュ村に待機してもらう事にした。
とはいえ、開拓し、道もそれなりに整備できればカタッシュ村から島までだん吉で移動できるようになるだろう。
なので、村との行き来も将来的には解決することは出来そうである。それは彼ら次第だが、彼らならばきっとやり遂げてしまうに違いない。
支度を終えて航海の無事を祈るため、一同は男爵ディーノの前で手を合わせ黙祷。
安全を祈り、奇妙な艦首を拝む。
さて、彼らは無事にカタッシュ島に辿り着けるのだろうか?
この続きは! 次回! 鉄腕/fateで!
今日のYARIO。
1.ブリテンの王様を食事で買収するアイドル。
2.カタッシュ村から男爵ディーノ出航。
3.ひっついて来たメジェド様。
4.瀬戸内海に浮かぶアヴァロン。