ザ!鉄腕/fate! YARIOは世界を救えるか?   作:パトラッシュS

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インドの文明開化

 

 

 さて、前回、ADフィンを見事若返らせてADに復帰させたYARIO一行。

 

 盛大な宴から一夜明け、これから本格的な仲間探しと伝説のラーメン作りに着手していかねばならない。

 

 まずは、豚骨ラーメンに必要な魔猪を狩るか、それとも仲間をまずは集めるかを決めなくてはいけないだろう。

 

 そこで、皆はアルムの砦にある一室を借りて作戦会議を開いていた。

 

 

「まぁ、魔猪を狩る算段はある程度明確にはしとるんやけどやっぱり人員が足りへんよね」

「うーん、だよねー、やっぱり大掛かりなもの作るとなると兄ィが居なきゃ、やっぱし始まんないしね」

「兄ィ? …お前達の仲間か?」

「そうなんですよ、建築するならあの人がいてくれた方が頼もしいんですよね」

 

 

 そう言って、首を傾げ訪ねてくるスカサハに力強く頷くディルムッド。

 

 仲間の中でもより建築に特化し、いわば、YARIOが誇る大工の親方。魔猪を狩るにはまずは大掛かりな仕掛けを作らないといけないがそれには彼の力が必要であった。

 

 そうなると、まずは魔猪を狩るのはこの際、置いておいて、このフィニアンサイクルに彼を連れて来なければいけないだろう。

 

 最優先事項は、まずは、我らがYARIOが誇る一流の大工のスペシャリストを招集する事が1番だ。

 

 そうと決まればどうするのかは、自ずと決まっている。まずは『だん吉』に乗って世界を越えなければならない。

 

 

「とりあえず私は残っておきましょうか、また戻ってくるんでしょう? 下準備だけしときますよ」

「おー、せやね、ADはじゃあ留守番になってもらって…、兄ィを迎えに行くか」

「あの人の事だからまた納屋でも建ててそうだけどなー」

「それじゃ、決まりだな、まずは仲間を探しに行くとこからか」

 

 

 そして、話が纏まったところで一同は席から立ち上がると仲間を探しに行く為にクー・フーリンとスカサハが乗ってきた『だん吉』の元へと足を運ぶ。

 

『だん吉』の扉を開き、運転席へと座るスカサハ、そして、助手席にはクー・フーリン、後部座席にはディルムッドが座る。

 

『だん吉』のハンドルを握ったスカサハは人生初めての車の運転に挑戦する事になる。

 

 

「おぉ…これが運転席というものか…」

「右がアクセル、左がブレーキですよ、師匠。車運転したい言うてたですもんね」

 

 

『だん吉』の助手席に乗るクー・フーリンはにこやかな笑顔を浮かべてスカサハにそう告げる。

 

 以前、デロリアン『だん吉』に乗った際、スカサハは車を運転してみたいと言っていたので今回は彼女に『だん吉』の運転をクー・フーリンは任せる事にした。

 

 アクセル、ブレーキは一通り教え、後はスカサハに運転を任せる。140kmを超えれば『だん吉』は世界を越えるのだ、まっすぐ走らせるだけで初めて運転するスカサハにもこれくらいなら軽くこなせる筈。

 

 案の定、運転方法をクー・フーリンから隣で教わったスカサハはすぐに『だん吉』の運転の仕方を把握した。

 

 スカサハが操縦する『だん吉』は勢いよくバックするとある程度整備された道へと出る。

 

 

「なるほどな、ある程度はコツは掴んだ」

「さっすが師匠! 飲み込み早いですね!」

「それじゃ後は飛ばすだけだな、二人とも覚悟はいいな?」

「え? ちょっ…! そんなに勢いよくアクセル踏んだら!?」

 

 

 ノリノリになってきたスカサハを制止するように背後から身を乗り出して声をかけるディルムッドだが、既に時は遅かった。

 

 アクセルを全開に踏み込んだ『だん吉』は勢いよく、ニトログリセリンが爆発したかのように加速したかと思うと火花を散らし始める。

 

 このロケットスタートには車に乗っていたクー・フーリンとディルムッドの二人もびっくり仰天だ。

 

 急加速した『だん吉』はバチバチと火花を散らし、そして…。

 

 

「あっはっはっはっ! これは凄い! あっははははっ!速いぞー!!楽しいなぁ!」

「ひゃあああ!?」

「ぶべっ…!」

 

 

 助手席に座るクー・フーリンはすかさず、シートベルトと上にある取手を掴み、身を乗り出していたディルムッドは車の急な加速の勢いで背後に頭を打ち付けた。

 

 しかし、アクセルを全開に踏み込むスカサハはガンガンスピードが出る『だん吉』に上機嫌である。

 

 そして、『だん吉』はいつものように140kmに到達すると、火花を散らしながらバチン! と音を立て、眩い閃光と落雷のような音を放ち、地上に炎のタイヤ跡を残してフィニアンサイクルの世界から姿を消した。

 

 

 

 インドの叙事詩『マハーバーラタ』。

 

 その叙事詩に登場する不死身の英雄がいる。太陽神スーリヤが父、ヤドゥ族の王シューラの娘のクンティーを母にして産まれたインドの英雄。

 

 史実では優れた弓の使い手であり、大英雄アルジュナを宿敵とする悲運の英雄として後世にまでその名は語り継がれている。

 

 生まれたばかりのまま身体を箱に入れられ川に流してしまい、御者アディラタに拾われ、ラーダーという養母に育てられ、その身体には黄金に輝く鎧を着ており。彼は黄金の鎧と耳輪を身に着けた姿で生まれてきた。

 

 そして、そんなインドの大英雄である彼は今…。

 

 

「よっしゃ! これでまた綺麗な洋式トイレが出来上がったぜ!」

 

 

 インドのトイレ事情と一人で戦っていた。

 

 金槌を片手に汗を拭いながら、完成した洋式トイレを満足に見つめる。彼の名はその英雄であるカルナ、その人である。

 

 そう、クー・フーリン、ディルムッドと同じくしてYARIOの宿命を背負いしカタッシュ隊員である。

 

 そして、その大工の腕はまさに棟梁の域に達しており、まさに、YARIOが誇る建築の真髄こそは彼であると言っても過言ではないだろう。

 

 こうして、彼はまた綺麗に用を足せる洋式トイレを一つ作り上げ、今日も一つ目の仕事を完了させる。

 

 

「おーい! 棟梁! 現場でなんか苦戦してるみたいですぜ!」

「うぉい! またかよ! しゃあないねーどこの家?」

「こっちです!」

 

 

 そして、そんな凄い建築能力を持つカルナは周りから頼られる兄貴分のような存在で知られていた。

 

 大工の棟梁であり、さらに、いろんな農業や産業に詳しい彼の手により、彼がいる村は今、異様な発展を遂げている。

 

 特に驚くべきは、インドの村に書院造りの家や古民家の家が立ち並んでいるこの異様な光景だろう。

 

 これらはなんと、カルナが家の建て方を村人たちに教え、さらに、その中の数軒は協力は多少なりとあれどカルナがほぼ一人で建てた。

 

 その事から、カルナはこの地域で神として崇められるほどの建築業者として名を馳せている。

 

 カルナが受ける案件の中には王族の宮廷の補修にも携わっており、その腕前はインド中を駆け巡っていた。

 

 

「んー、そりゃ無理にそうすればズレちゃうよ、一回この箇所、外さねーとな」

「しかし、親方、これを外すってなると」

「大丈夫大丈夫、みんなでやれば明日にはできるから、な?」

「は、はい!」

 

 

 そう言って、にこやかな笑顔を浮かべ従業員の背中を軽く叩いてやるカルナ。

 

 ミスは誰にでもある。要はミスをした時に周りがいかに上手く助けてあげるかが大切な事だ。それが、自信にも繋がることをカルナはよく知っている。

 

 それから、カルナは従業員と共に協力して家の改修をはじめた。力作業ならば、無人島でも村でも行なってきた、これくらいの改修を済ませるのは容易い。

 

 3時間ほどで苦戦していた箇所の改修も済み、片手に握っていた金槌を降ろすカルナ、晴れやかな表情を浮かべる彼は汗を拭いながら皆と笑っていた。

 

 

「こんなところに居たのか、カルナ」

「ん? おー! アルちゃんじゃん! どったの?」

 

 

 すると、笑顔を溢すカルナの元に一人の男性が声をかけながら現れた。体格がよく、大変に美男子である彼は汗を布で拭うカルナに近寄ると彼もまた親しく笑みを浮かべていた。

 

 彼の名はアルジュナ、任意の神を父親とした子を産むマントラにより、神の王であるインドラによってカルナと同じくクンティーの腹より生まれた英雄である。

 

 本来史実ならばカルナと宿敵として立ち塞がる筈のアルジュナ、しかし、その様子を見る限りでは何故だか彼らは親しく接している。

 

 それは、カルナがYARIOとしての使命に目覚めているのが原因であるのはもはや言うまでもないだろう。

 

 アルジュナは勤勉な事で知られている。そんな彼はインド中に建築で名を轟かすカルナにある事を教わっていた。それは…。

 

 

「いや、お前に今日も建築学を教わろうと思ってな…、この後、少し時間あるか?」

「あーいいよいいよ! じゃあ、今から屋敷で緑茶でも飲みながら話そうか」

「!!…緑茶か…、味わい深いあれは、ほんとに思考が済んだように冴え渡るんだ。是非頂きたい」

「んじゃ行こう行こう!」

 

 

 そう言って、アルジュナを村にある自分が建てた屋敷に招待するカルナ。

 

 立派な書院造りの屋敷に足を踏み入れたカルナはあいも変わらず文化的なその光景を前にして思わず感心する。

 

 座敷、そして、襖、これらが全てカルナが皆に伝え形にしたものだ。長い月日で様々な職人から教わった事をカルナはこの世界に間違いなく伝えようと尽力していた。

 

 

「…うむ、このお茶はやはり…美味い」

「よかったら風呂も入って行くだろ? 檜風呂だけど」

「おぉ、ありがたい! 正直な話、宮廷よりも私はここが断然住みやすいな…何というか、その…知が感じられる」

「まぁ、宮廷があんなトイレじゃ、そりゃ嫌にもなるよ」

 

 

 カルナは座敷で向かい合うアルジュナに肩を竦めて苦笑いを浮かべながらそう告げた。

 

 まず、カルナが驚かされたのはインドのトイレ事情である。当然ながら、不潔な環境下が我慢ならないカルナが行なったのは清掃活動からだった。

 

 汚いものを取り除く、近場に水場があるにもかかわらずそれを使わないのは愚の骨頂だと、カルナはすぐさまその水場の水を引いてきて辺りを綺麗にする事から取り組んだ。

 

 インドのトイレでは便器から豚が飛び出したりするのが日常茶飯事、そんな事がカルナからしては許しがたい事であったのである。

 

 そこからは彼の目標はただ一つに絞られた。インドのトイレを全て洋式の水で流れる清潔なものにしようと、そこからはもう戦いの日々だった。

 

 

「今じゃ、建築会社みたいな感じであいつらも居てくれるからなんとかやっていけてるけど、正直な話、俺はもうこの国から出て行きたい」

「…それは困る! 私が勉強できなくなるではないか!」

「いや…、アルちゃん勤勉なのはいいんだけどさー」

 

 

 そう言って、食い下がるアルジュナに困った様に苦笑いを浮かべるカルナ。

 

 正直な話、YARIOとして彼は仲間達を探しに行き、また、再結成する事を強く望んでいる。だが、こうアルジュナから言われてしまうとどうにも断りづらい。

 

 致し方ないとため息を吐いたカルナはアルジュナにこう話をしはじめる。

 

 

「まぁ、とりあえず建築についてはちゃんと教えるからさ、そんじゃまずは…」

「すごく…勉強になる…」

 

 

 カルナによる建築講座を聞きながらアルジュナは一言一句違える事なく聞き逃すまいとカルナが提供してくれた筆と紙で彼の建築についての知識を連ねて書いていく。

 

 こうした毎日を日々、カルナは送っていた。村々の家の補修や時には王宮から補修のお願いをされたりと毎日大忙しだが、それでも充実した毎日である事には変わりなかった。

 

 時々、脱げない金色の鎧が鬱陶しくて仕方ないと思うくらいである。

 

 さて、そんなこんなで、今日も一日中現場に出て、アルジュナに建築学の指導を終えたカルナはゆっくりとできる夜に屋敷の縁側に腰をかけて月を眺めていた。

 

 失われた仲間達、YARIOとして彼らを迎えに行きたいが今の自分は毎日、インドのトイレと戦う事で手が一杯一杯だ。

 

 できる事ならば、後のことは彼らに任せて自分は早く仲間達を探しにインドから出て行きたい。

 

 武術の師匠であるドローナやパラシュラーマに色々と教えてもらったが、なんやかんやでやはり自分はこの道が好きだとカルナは改めてそう感じていた。

 

 今日はまた色々あって疲れた。カルナはそう思い縁側から立ち上がるとそろそろ寝ようその場から踵を返す。

 

 だが、次の瞬間、彼の背後に凄い轟音と稲妻が走ったかと思うと、目の前に勢いよく鉄の塊が出現した。

 

 

「どぉうわぁ!?」

 

 

 咄嗟に縁側に突っ込んでくる鉄の塊から回避行動を取り、避けるカルナ。

 

 その車は屋敷を勢いよく走ると襖やらなんやらをめちゃくちゃにしながら屋敷を突っ切り、色々と突き抜けて屋敷の中を滅茶滅茶にした。

 

 そして、突き抜けた鉄の塊はプシューッと煙をあげるとピタリとその動作を止める。

 

 

「ゲホ…! ゲホ…!」

「快感だったな! これは癖になりそうだ…!」

「…そ、それはようござんした…」

 

 

 その煙をあげる鉄の塊の中から現れたのは、まるで、死人の様に車から這い出てくる二人とキラキラした様に嬉しがる一人の女性。

 

 カルナはその三人と、屋敷を突き抜けていった鉄の塊を凝視する。あれは、まさか…。

 

 

「え? …車?」

 

 

 そう声を溢したカルナは現れたそれに思わず目を丸くした。間違いない、あの形からしてそうであると確信できる。

 

 ならば、あの車から現れたのは一体どこの誰なのか、当然、屋敷の中をめちゃめちゃにされたカルナは顔を引きつらせたままその車に近づいていく。

 

 そして、そこに居たのは…。

 

 

「!? その声は、リーダー達か!?」

 

 

 思わず驚いた様に声を上げるカルナは目をパチクリさせていた。

 

 この人間は間違いなくそうであるという事がカルナには聞き覚えのある声と雰囲気、そして直感で理解できた。

 

 屋敷を突き抜けた車に乗っていた人物、それは間違いなくYARIOのリーダー、クー・フーリン、その人の姿があった。

 

 そのカルナの声に反応し、振り返る三人。

 

 そこに居たのは、金色の鎧を着た我らYARIOの仲間であるカルナと…。

 

 

「あ! もしや! 兄ィ…って後ろ後ろ!」

「…え?」

 

 

 倒壊するカルナが建てた屋敷の光景があった。

 

 慌てた様にすぐさま倒壊する建物から脱兎のごとく逃げ出す四人、まさに、爆破されたかのごとく倒壊する屋敷は綺麗に根元から盛大な音を立てて崩れた。

 

 それを呆然と見つめる四人。

 

 まさか、異世界に来て早々、建物を倒壊させることになるとは夢にも思わなかった。

 

 

「…師匠、しばらく運転は代わろっか…」

「何故だ! あんなに華麗な運転だったではないか!」

「いや、今、家一軒潰しましたよね!? ね!?」

 

 

 そう言って、頬を膨らませるスカサハ師匠に顔を引きつらせて突っ込むディルムッド、幸いな事に怪我人が誰もいなかったのはよかった。

 

 それからしばらくして、倒壊した屋敷を見届けたカルナはため息を吐くと肩を竦めて、改めて、クー・フーリン達の方へ振り返る。

 

 

「こりゃとんでもない再会もあったもんだ」

「あはははは…あは、刺激があるやろ? しげちゃんだけに?」

 

 

 顔を引きつらせたクー・フーリンは苦笑いを浮かべたまま告げる。

 

 そんな彼の笑顔を見たカルナは仕方ないとクー・フーリンの肩を軽く叩くと嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。

 

 YARIOの大工担当、カルナ棟梁とこうして顔を合わせた三人。

 

 果たして、彼との再会がどの様な波乱を巻き起こすのか!

 

 この続きは! 次回! 鉄腕/fateで!

 

 

 今日のYARIO。

 

 

 インドに洋式トイレを作るーーーーNEW!!

 

 民家や屋敷作りを伝えられるーーーーNEW!!

 

 屋敷を車で倒壊させられるーーーーーNEW!!

 

 インドに書院造りを伝えるーーーーNEW!!

 

 インドに檜風呂を作るーーーーーーNEW!!


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