リヴェリアに弟がいるのは間違いない事実だ   作:神木 いすず

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タイトルが思いつかず、今作においてトップクラスの無難なものになってしまったorz
シキ様、誤字訂正ありがとうございました。誤字は発見次第『誤字ってんじゃねーよボケ、仕方無いから訂正してやる』と思いながらで結構ですので報告頂けるととてもありがたいですm(_ _)m


11話 怪物祭前日

「──アイズ」

 

 中央塔を囲むようにして出来ている中庭の形は円形型。周囲には複数の塔が並び日の光は入りにくいが、団員達によって手入れされ草花は良く育っている。

 所々には小さな噴水や魔石灯のポールも設けられており、とても洒落た造りになっている。

 そんな中庭に下りたリヴェリアは芝を踏んで進みながらアイズに声をかけた。

 

「リヴェリア⋯」

「相変わらず早いな、剣は振っていないようだが」

 

 アイズは木陰にある長椅子に腰かけてながらぼうっとした表情で空を眺めていた。

 付近の木の根元には本来の愛剣の代替品のレイピアが立てかけられており、大方日課の素振りをしようと外に出てきたが気分が乗らずにそのままにしてあるのだろう。

 視線をリヴェリアに合わせていた彼女はそっとその金の瞳を芝に落とした。

 

『⋯⋯⋯⋯』

 

 お互いが中々最初の一言を発せずにほんの少しだけ間が空く。

 リヴェリアはどう切り出したものかと一度迷ったが回りくどく聞いても時間の無駄だと判断して端的に尋ねる。

 

「何があった」

「──酒場であった、ミノタウロスの話⋯。私はリヴェルークと、男の子⋯冒険者を助けたんだけど⋯」

 

 自身の問いに対してアイズは小さく視線を彷徨わせて僅かに葛藤した後にポツポツと話し出す。語られていく内容に耳を傾けていたリヴェリアは、話が進むにつれ納得を得てその美しい表情を曇らせていった。

 ──まさか、笑い種にされていた冒険者当人があの酒場にいたとは。

 二日前の光景と照らし合わせることであの時あの場にて何が起きていたのかを遅ればせながらも悟り、すぐにあの場での話を止めることをしなかったことを後悔する。

 しかし、今更後悔したところで何かが変わるわけでも無い。一先ず疑問が氷解したことにリヴェリアはふうっと息を吐くが、未だにアイズの表情が暗いことに気付く。

 ダンジョンと鍛錬以外の事柄に珍しく感情を動かしているのを喜ぶべきか複雑だが、リヴェリアは落ち込んでいるアイズに再度尋ねた。

 

「お前はどうしたい?」

「⋯わからない。けど⋯謝りたい、んだと思う⋯」

「そうか⋯」

 

 そこで会話が途切れ、まるでタイミングを見計らったかのように館全体へ伝わる鐘の音が聞こえる。朝食を知らせる合図だ。

 

「自信がないのなら、まだ悩め。言ってくれれば相談にも乗ってやる」

「うん⋯」

「朝食だ、行こう」

 

 二人揃って鐘が鳴る塔を仰いだ後にリヴェリアはそう告げて踵を返す。

 その際に、回廊からロキと二人で中庭を眺めた時にリヴェルークが居た場所に目を向けるも既にそこには誰も居ない。──あのバカ弟にも話を聞かねばならないか、と心の中でひとりごちる。

 

「リヴェリア、ありがとう⋯」

 

 ポツリと呟かれた感謝の言葉に、ああと返事をしつつ中庭から塔へ向かう。

 曇っているアイズの表情はまだ晴れていないが彼女に指針を示すことは出来た。後は彼女が不器用ながらも手探りで自分のしたいことを自分で見つけてくれればいいと祈るばかり。

 こういった激励の類は不得手であったので主神の言葉──適材適所──を借りて、少女を元気付ける役割はあの娘達に任せることにした。

 

 

 

 

「むー。アイズ、まだ元気無かったよ」

 

 腕を組んでティオナは唸り、朝の食堂でレフィーヤとティオネに見つめられながらも考え込む。

 ──先ほどこの三人にアイズを加えたいつもの四人で食事を取った。話題を振ってやれば言葉少なながらも普段通りの受け答えが返ってきて、その様子は何ら変わらないものに見えた。

 しかしだ。ティオナには分かる。空元気というほど取り繕ってはいないだろうが今のアイズは本調子ではない。

 

あのバカ(ベート)に腹を立ててるだけでしょう?放っておけばいいじゃない」

「いや、多分ベートはあんまり関係無いんだよ。私が思うには、アイズはあの狼男のことは気にして無いと思うんだ」

「あんた、あれだけ酒場でベートをのしといて⋯」

 

 関係無いと断言出来るほどの自信を持ちながらも酒場にてベートをシメたティオナに対してティオネが若干引いた態度を取った。しかし、そんな姉には見向きもせずティオナは唸り続ける。

 ──ティオナは考えることが苦手だ。アイズの心を慮って気を利かせてやれないだろうし、お節介を焼きに行ってもきっと大失敗に終わる。これまでもこれからもティオナは能天気な振る舞いでアイズから笑顔を引っ張り出してやることしか出来ない。

 

「良し決めた!レフィーヤ、ティオネ。今日の予定はなんかある?」

「いえ、私は特には」

「あたしは今日も団長のお手伝いに⋯」

「じゃあ暇だね!ここで待ってて、アイズ探してくる!」

「ちょ、ちょっと!」

 

 ──だから彼女は小難しいことなど放り出して取り敢えず行動してみることにした。

 椅子を飛ばして立ち上がり、勢い良く大食堂を飛び出す。動き出したら止まらない猪のように。迷うことなく空を羽ばたく鳥のように。ティオナはホーム中を駆け回った。

 部屋、屋根裏、書庫、応接間など手当たり次第に扉を開け。回廊を行ったり来たりを繰り返し。その途中で遭遇したいけ好かないウェアウルフの青年からの情報を経て。ついにティオナは中庭にてアイズを見つけた。

 

「ア〜イズ!」

「⋯ティオナ?」

 

 いきなり現れた自分を驚いた様子で見つめてくる少女の細い両手を取り長椅子から立ち上がらせた。

 

「皆で買い物行こう!」

 

 

 

 

『──ガッッ⁉︎』

 

 振り抜かれたレイピアによる強烈な一撃の餌食となった蜻蛉型の敵──ガン・リベルラ──が真っ二つになる。

 片手剣ほどもある敵の体躯が灰へ変わっていく最中、アイズは振り向きざまに剣を一閃二閃させた。

 飛翔していたガン・リベルラ達は同時に切り裂かれ、糸を通すような正確さでことごとく魔石を破壊されていく。アイズは灰化していく敵には目もくれずにそのまま前進。舞い散る灰の霧をくぐり抜けて残る最後の敵へと肉薄する。

 

『ァァァアアアアアアアアアアアッ!』

 

 待ち構える大型級の敵──バグベアー──は雄叫びを上げてその毛むくじゃらの巨腕をアイズ目がけ振り下ろす。

 眼前に迫る大爪をアイズはあえて避けず──剣で迎撃。敵の攻撃を置き去りにする速度でレイピアを閃かしたかと思うと、次の瞬間にはバグベアーの腕は斬り飛ばされていた。

 片腕を失い硬直する敵にアイズは剣尖を見舞う。胸部付近に深々と突き刺さり背を抜けるレイピア。そこから更にダメ押しとばかりに手首を捻って容赦無くトドメをさす。

 

「おおっ、今日は一段と技が冴え渡っていますね」

「⋯ありがとう」

「それに表情も明るくなりましたね、何か良いことでもありましたか?」

「⋯うん。ティオナ達と、遊びに行ったよ」

 

 その一連の流れを後ろで見ていたリヴェルークはアイズを賞賛する。

 リヴェルークは数日前の浮かない表情よりも明るくなった様子のアイズからダンジョンに誘われたので付いて来ていた。

 現在位置はダンジョンの20階層。樹木の内部を思わせる木肌は広大な迷路の形状を作り、天井や壁に広がっている緑の苔が不規則に発光している。まるで秘境の森に迷い込んだような錯覚すらもたらす大樹状の迷宮にアイズとリヴェルークはいた。

 

「──最後の一つも回収、っと。魔石もだいぶ貯まりましたし、そろそろ帰還しましょうか」

「⋯うん、分かった」

 

 バックパックいっぱいの魔石やドロップアイテムを背負ったリヴェルークがそう提案すればアイズは素直に頷く。

 アイズがダンジョンに潜っているのはぼんやりとして無為に過ごした時間を取り戻す為。リヴェルークが付いて来たのは整備に出していた愛刀の切姫が戻ってきたので切れ味などを再度確認する為。並の冒険者であれば多少苦労する中層域への進出も彼等二人にはもはや単なる作業でしか無い。

 

「折角なら、レフィーヤなども誘えば良かったですかね?」

「⋯そうだね」

 

 そんな感じで雑談しつつ上層目指して歩を進める二人だったが彼等の視線の先から巨大なカーゴを引きずっている冒険者の一団が横穴から出てくる。

 一団の武装はとても充実したもので、一目見ただけで相当な実力者たちであることが伺える。

 

「あれは⋯ガネーシャ・ファミリアですか。ならばカーゴの中身は怪物祭(モンスターフィリア)用でしょう」

「⋯うん、多分」

 

 怪物祭とはガネーシャ・ファミリアの調教師が迷宮から連れてきた凶暴なモンスターを相手取り、倒すのでは無く手懐けるまでの一連の流れを観客達に披露するものだ。

 コレを危険視する者もいれば、荒くれた無法者と思われがちな冒険者への心証を良くする為のものだと割り切っている者もいる。

 アイズやリヴェルークもその両方の立場が分かる為に一概に善し悪しを判断出来ないと思っている。

 

「まぁ、()()()()()()()楽しませてもらうだけですね」

「⋯ちょっとだけ、楽しみかな」

 

 聞く人が聞けば『フラグだ!』と言いかねない発言を零しつつ、二人はガネーシャ・ファミリアの邪魔にならないように進路変更をして別ルートから上階へ向かった。

 

 

 

 

「⋯で?こんな時間まで何処へ行っていた?」

「ルーク、誤魔化さずにしっかりと答えて欲しい」

 

 あの後、地上に戻ったは良いもののすっかり暗くなっていたことに焦った俺達はギルドで早々と換金を済ませてホームに帰り、門番に口止めをしてこっそりと中へ入る。

 そこまでは良い。そこまでは良かったのだが──なんと、扉をそっと開けたら姉上とリューが二人揃って仁王立ちしていた。どうやら完全に待ち伏せされていたようだ。

 

「ちょっと散歩がてらダンジョンに」

「そんな軽い感じで言われても困るのだがな。何事も無いとは思うがせめて一声かけてからにしろ」

『⋯ごめんなさい』

 

 姉上からの非難を受け、返す言葉が見つからず俺とアイズは素直に謝る。

 

「だいたいお前達は──」

「──すまんなぁ、リヴェリア。お説教の前にうちから先に話してもええか〜?」

 

 そのままお説教ルート突入かと思い軽く絶望していたのだが、いつの間にか側にいたロキが強引に姉上の言葉をぶった切る。姉上は会話の主導権を取られたことに軽くイラっとしていたが相手が主神たるロキだということで直ぐに冷静になる。

 

「ロキは俺達のどちらに用事があるんですか?」

「両方や。明日のフィリア祭、心配かけた罰としてうちに付き合って欲しいんやけどええか〜?」

「罰なら仕方ありませんね。分かりました、付き合いますよ」

「⋯分かった」

 

 半端無い酒気を漂わせながらもにへらっと頬を緩めるロキ。口では『ええか〜?』なんて言ってはいるがきっと拒否権無しの命令に等しいものだから仕方無い。

 

「息抜きには丁度ええやろ、うちも元々行く予定やったし。リヴェリアやリューもどうや?」

「私は遠慮させてもらおう。あのような祭りの空気はどうも馴染めん」

「私も遠慮します。明日はリュノ()と回る予定ですから」

「そっか、残念無念やなー。まぁアイズとリヴェルーク(両手に花)だけでも十分⋯ってルークたん、そんなに睨まんといてーな!」

 

 その後なんやかんや──ロキが飲み過ぎによって吐いたり──あり姉上からのお説教は有耶無耶となった。とてもありがたいことだ。

 

「本当なら俺も一緒に行くつもりだったのですが⋯。申し訳ありませんが、明日はリュノと二人で楽しんできて下さい」

「主神からの頼みならば断れませんからね⋯本当は一緒が良かった」

 

 ──その拗ねた表情が余りにも可愛かったので、この後滅茶苦茶頭を撫でた。最後にはしつこ過ぎたせいでぶっ叩かれたけど。




フィリア祭、一体何が起こって誰が活躍するんでしょうかねー(棒)
私は基本チョロい為、どんな感想でも頂けるだけで嬉しくなるので宜しくお願いします(マッテルヨ?)

それと、もしかしたらロキ・ファミリア編から読んでいる方もいるのかなーと思ったので、ゼウス編の軽めのまとめとかした方が良いのかな?なんて思ってます。そのうち投稿するかもしれません。

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